5.東北地方各地の方雷集・方言辞典におけるマキ・マケの意味記述
第3節であげた福島北部方書のマケ,それに第4節であげた山形梁1;抽地方 の鼠落のマキや岩手漿江束艶方の方需のマケに限らず,一般に東北1也方各地の 方書では,マキ・マヶという蔭言は,血筋。血統,または遺伝的・生得的な素 質という標準語でほぼ置きかえることが可能な意味をもっている。東北地方各 地の方欝の方言集・鎌継辞典は,これまで相当数のものが刊行されている。こ れらの方言集・方需辞典を見ると,マキ・マケを見出し項欝として採録してい ないものもかなりある。しかし,マキ・マケを見娼し,項溶として採録してある
ものをみると,おもしろいことに,マキ・マケという曲言に三族・罵族団,ま たは,本家扁分家の家連含といったような社会学的な定義を与えていないもの はかなりあるが,血筋・血統という標準語訳を与えていないものは雰常に少な いのである。
国立国語研究所の図書館に所蔵されている東北地方の方馬蝉・方醤辞典の中 からマキ・マケを見即し項目として採録してある主なものをぬき出して,マキ
・マケの項についての意妹記述の部分だけを源文どおりそのままに抜き書きし てみた。いまそれを県別に俳列してみると,次のようになる。
寒露県
ユ 『津軽のことば(第10巻)』 鳴海助一重事 昭和36年 まぎ 名詞。まぎ。「ぎ」は朝恩濁音。
これは全国的な民族学上の重要な意味をもつ藷である。大家族,一族一 .門,遺伝,親族,親類等に縮着する。津軽地方では大たいのところ②おやぐ まき,②きリョまぎ,③はえべおまぎ(波肺病マギ), ④どしまぎ,その 他,その部落内の代表的な姓の名を冠して,⑤斉藤まぎ・福士まぎ・宇野ま ぎなどという。
「まき・まぎ」の語源は不明。以前は単なる「群」の意味であったろうと いわれる。入問の世にはそれが,血筋の対立,すなわち先祖を岡じくすると 否とによって,自他を分かち,単位を意識するようになる。そうしてそれが 重要な社会組織の根幹であった証跡は,今なお残存している。全国各塘方の
一33一
「まき」に関する過去の歴吏と現在の状況等,詳細な研究・報魯となって盛 んに発表されているが,ここではそれらのウケ売りは一切遠慮することにす る。ただ身近に見聞きすることがらだけ少々記しておくにとどめる。
① おやぐまき
「おやぐ」は既出(第2巻106頁)のように,広くかつ複雑な意隊をもつ
「親子・おやこjが語源かと思う。里親・里子・奉公人・分家・別家それに 血族・親類縁者等を含めて,これを「おやぐまき」といったものらしい。現 今では,血族と姻戚(子・父・組父の血統と嫁・母・祖母の里方)を大たい
「おやぐまき」というようだ。友人知人はいまでもFけやぐ仲間」などとい う。仕事仲ま(同僚)や「呑みけやぐ」などとも。父母・祖父母等の葬式の 際通知を差し出す範囲が大たいその家の現在の「おやぐまき」の範囲に相当 するらしい。遠くのおやぐより近くの他入,ともいうから,実際貝常交際す
る入となると,大ぶん様相が変わってくる。
※ アンマリ サダデ おやぐまき,エッパエ タダシテ アサェテシタ デァ。あまり困ってさ,昔からの親戚縁者を残らず,勘定に入れて歩 いています。(保険の外交員)
② きリョまぎ
なるほど血統は争えぬもので,そこの親戚には男女共にすぐれた器量人や 頭脳の優秀な入たちが揃っている場合はたしかにあるようだ。「あこの 粘 やぐア,みな きリョまぎでさね。」 などとよくいう。他県にも「瀬野ま.
き」などという地方もあるようだ。
③④ 結核・癩病のまぎ
これは遺伝に関係する。結核はざらにあり,医学の進歩によって不治の病 の名も薄れてきたようだが,遺伝かどうか詳しいことは分かりかねる。癩患.
者を津軽では昔から「どし」といった。 (既鵬 第8巻85頁)
※ ソゴノ エァ まぎア ドンダガサネシ…………。 (問い)
ソノ まぎダバ ナンデモ ヘンデサネ…………。 (答え)
○そのいい娘さんがいるという,そこのうちで,血統はどうでしょうかね。
(問い) はいはい。その血統でしたら,少しも心配ご無用です。レッキ
一34一
とした血筋の娘さんですよ。 (答え)
右の「まぎ」は?という揚合,ほとんどr癩」のことを指しているよう だ。しかし現在は,だんだんその詮索はしなくなった。遠い昔ならいざ知ら ず,今はどの家庭でもそれこそ全く心配は無用なのではなかろうか。
⑤斉藤まき・福士まきなどについて
これは現今といえども,時には隠然たるカを現出するようだ。遠い昔の親 分・乾分(子分),主従関係,一門郎党,義兄弟,結い等々の関係で同姓を 名乗ったもの,と老えられるだろう。何か大きな事のある揚合には,大たい 岡姓を名乗る者たちが中心となって,他と対立するようなまき意識が社会の 一部にはまだはっきりと残っているのではないか。
2 『青森県南部方書考』 寺井義弘氏(八戸市立根城中学校長)著 昭和37 年 血統(一族) マギ 「あの家ア バガァまギだ」
3 r教育適用南部回雪集認 簗瀬栄氏(青森県三戸郡八戸尋常高等小学講 導)著 明治39年
ちすじ け
まき 血統のことにて,族の誰。
4 r青森県方言集』 青森累師範学校編 昭秘0年 マギmagr名詞共(注4)血統。
=岩手県
1 r岩手方言の語彙』 小松代融一氏著 昭和34年 掴南部領
マキ 血統,血族,一家親類,悪い血統の隠語。
演伊達領 マキ 血筋。
マケ・マゲ・マゲー 血筋。一二。
2 il岩手県釜石晦方言集露 八重樫真氏編 昭私7年 マギ ω血族。②悪血統の隠語。
3 『御国通辞』(注5) 服部武喬著寛政2年
注4)共,青森漿では,マギという便書が血統の意味で,漏津軽藩の地域とiHma部 藩の地域に共通して,つまり青森県全域で使用されているという意蛛。