4。同族団の意味をもたないマキ・マケの事例
社会学辞典のマキ・マケと福島北部方書のマケの間には,その意味絹法の上 でかなりのくいちがいがある。このことは,わたしが前節で報告したことによ ってほぼ明らかになっただろう。しかし,奇言としてのマキ・マケの襲爵矯法 が学術用語のマキ・マケの意味用法とくいちがっているのは,なにも福島北部 方言の場合に限ったことではない。方書の申には,マキ・マケという僅書が嗣 族・同族団の意味では使われていないものさえある。つまり社会学辞典のマキ
・マケの記述とは全くくいちがっている事例すらある。
(1) 肉形梁村山地方におけるマキとカマエ
わたしは,昭和42年3月,山形県村1灘地方へ方雪調査に行って,次の事実を 知った。丸形堅の3 tl−k地方,つまり山形市・寒河江市。東根市・村山蜜・天童 市・河北町・山辺町などを含む由形盆地地方の方言では,三族・岡族懸のこと はカマエ〔kama釦またはカメー〔ka磁ε:〕といっていて,マキ・マケとはい っていない。21ページにあげた第4図の例でいえば,一つの家の本末の系譜闘 係で結ばれている大山(イ)(ロ)囚口困,佐藤(イXロ)㈲目困のそれぞれの家連合は,
「大山(ノ)カマエ」 「佐:藤(ノ)カマエ」という。大由マキ・佐藤マキ,または 大山マケ・佐藤マケとはいわないのである。
それでは,この村山地方の方書にマキ・マケという便言がないのかという と,マケはないが,マキという語形は開違いなく存在する。そしてこのマキと いう狸需は,福島北部方言のマケと岡じで,血筋・搬統という標準語でほぼ概 きかえることが可能な意昧用法だけをもっている。
福島北部方言のヤケの意味用法の記述に際して使った例,すなわちA・B両 家の開の縁談の揚台をここでも使ってみよう。A・B両家の聞に縁談がもちあ がれば,両家は互に相手の家や相手の花嫁(・花婿)候補の身上調査をする。
調査項欝は福島北部方言社会の揚合と全く岡じである。相手方の家柄・職業が よいか悪いか,、財産があるかないか,家族関係がどうなっているか,学歴 牧 入・人柄はどうか,などなどであるが,このほかにもう一つ,大事な調査項醒 がある。枳手方の家の」虹筋・」虹統にライ病・肺病・精神病など,遺伝的と見な
一29一
される悪い病気をわずらったものが居なかったか(現在居ないか)どうかとい うことである。
この襟筋・血統を調べることを,村議1地方では「マキヲ 調べル。」 という う。「マキヲ 調べテ」みて,相手方の家やその血縁のものにライ病(この地 方の芋餌でもやはりドスという)・肺病・気ちがい(この地方の方書でもやは
りシンケという)・テンカンなどをわずらった(または,わずらっている)人 が何人か居ることがわかったりしたとする。そうすると,「あそこの家は,ラ イ病(・肺病・気ちがい・テンカン)の血筋・血統だ。血筋・血統が悪い。」
という意昧で, 「アソコノ 楽式 ドスマキ(・肺病マキ・シンケマキ・テン カンマキ)ダ。マキ 悪イ。」 というのである。また,「あの人の血筋・血統 は,ライ病(・肺病・気ちがい・テンカン)の虹筋・血統だ。血筋・血統が悪 い。」 という文脈ならば,次のようになる。「アノ人ノ マキハ ドスマキ
(・肺病マキ・シンケマキ。テンカンマキ)ダ。マキ・悪イ。」血筋。血統の ものに臼痴・魯鈍のものが何人か居れば, 「アソコノ 家バ バカマキダ。」
「アノ人ノ マキハ バカマキダ。」 となる。胃ガンをわずらった人が何人か 居れば,「アソコノ 家風 胃ガンマキダ。」「アノ人ノ マキハ 胃ガンマキ
ダ。」 となる。
また,たとえば「大山の本家・分家の家連合(社会学辞典の用語でいえば,
大山のff族団とか大出マキ・マケ)は血筋・血統が悪い」, という文脈なら,
「大山カマエ(または大山ノカマエ)ハ マキ 悪イ。」 とはいうことができ る。しかし,これを「大豊〔ノ〕マキハカマエ P悪イ。」とかr大由(ノ)カマエ バカマエ 悪イ。」 とはいうことができない。つまり村山地方の方欝では,カ マXは本家瓢分家の家連合,同族団の意隊に,そうしてマキは血筋・血統の意 味にと,それぞれはっきり使いわけられているのである。
(2) 岩手県江刺地:方の方言におけるマケとエドーシ
岩手県江刺市岩谷堂G日江刺郡岩谷堂町)は,故及川宏氏の郷里である。ま た,現在この岩谷堂町の一部になってV・る闘始領増沢村は,潭川宏氏カミかつ て醐族団の砺究の上で画期的な業績と評価されている一連の調査をした所であ る。(注3)
一30一
この隔増沢村の方雷では,嗣族団のことをエドーシといっている。このこと は,及川三野の下記の論文にすでに報告されている。それでは,このi臼増沢村 を含めて,江刺市地方の方雷にマキ・マケという痴言がないのかというと,ぐ うではない。マキという語形はないが,マケという語形は確かに存在する。わ たしは,このことを昭和43年10月,この江刺市へ方言調査に行った際に確かめ ている。そして,このマケという回書は,現地に行ってよく調べてみると,厨 族団の意昧でも使うことがある。しかし,同族団の意昧ではエドーシという僅 言を使うことが最も普通であり,マケは村山地方の方言のマキと問じで,もっ ぱら標準語の血筋・血紘または遺伝的・生得的な素質ということばでほぼ麗 きかえることが可能な意味で使われている。たとえば,次のように使う。
「アソニノ 家ハ ドス(ノ)マケダ。」(あそこの家は,ライ病の血筋・血統 だ。)
「アノ人ノ マケハ 肺病(ノ)マケダ。」(あの人の血筋・血統は,肺病の血 筋・」血統だ。)
[渡辺ノエドーシハ マケ 悪イ。」(渡辺の醐族団は,血筋・血統が悪い。)
これに対して,エドーシという僅書は,村自地方の方言のカマエと同じで,
同族・同族団の意昧しかもっていない。したがって,たとえばr渡辺の同族瞬 は血筋・血統が悪い。ライ病の血筋・血統だ。」 という意味のことを「渡辺ノ エドーシハ マケ 悪イ。ドス(ノ)マケダ。」とは雷えても,これを「渡辺エド ーシハ エドーシ 悪イ。ドス(ノ)エドーシダ」,などとは雷えないのである。
土地の老入の話によると,エドーシという僅雷を「アソ=ノ エドーシバ イイ エドーシダ。」 とか「悪イ エドーシダ。」 とかいうふうに使わないこ
とはない。しかし,この場合の「イイ エドーシ」「悪イ エドーシ」という のは,決して「血筋・血統が良い・悪い」ということではない,と書うのであ る。たとえば,あるエドーシ(・同族団)の内部で,本末の系譜開係にある家 注3) rl日仙台領増沢村慣行調査報告(1)(2)〈3)1という副題のついた,及判氏の次の 三つの論文がその報告である。
「分家と耕地分与」 (r民族学年報1』 昭和13年)
「岡染組織と婚姻及び葬送の儀礼」 (『間上2』 昭湘15年)
r所講まいりのほとけの俗信について」(『岡上3』昭和16年)