2. 各知財庁・機関のインターネット上の発信
2.15. マレーシア知的財産公社( MyIPO )
MyIPOのインターネット上の発信は、①年報(Annual Reports)と②ニュース(News)によっ
て行われている(ただしニュースは2016~17年のみ)。言語はいずれのソースについてもマレ ー語及び英語で構成されており(ただし、ニュースについてはマレー語は2017年のみ)、掲載 されている内容は写真も含めてほぼ同様。
MyIPOのニュース記事で紹介されている海外知財庁はWIPOに関する記事が最も多い。その他
は、EPO、JPO、USPTO、SIPO、KIPO、EUIPO であるが、これらのうち、バイの取組に該当
するのはEPOとSIPOのみ。紹介されている国際連携の形態は会合と職員研修/交換のみ。
MyIPOのニュース記事(2016~17年)においてJPOに言及したものは3 件のみであり、いず
れもマルチの取組の中で触れられたものである。他方、同期間中にJPOから発信された情報の
中でMyIPOないしマレーシアに言及したものは1件のみ(2016年9月8日、MyIPO副長官の
JPO訪問)であり、両者に符合するものはない。JPOとのバイの取組は主に年報において取り 上げられていると見られる。
(1) 政策動向や情報発信方針に影響しうる背景
マレーシア知的財産公社(MyIPO: Intellectual Property Corporation of Malaysia)は特許・実用新案、
産業意匠、商標、地理的表示、集積回路配置、機密情報及び企業秘密、著作権を管轄し、知的財産 関連法の強化、知的財産保護の重要性に関する啓蒙、知的財産保護のための登録サービス、情報、
アドバイスの提供などを行う。
独自の取組として、知的財産の取引(売買、ライセンシング)を行うプラットフォームとして
の”IPR Marketplace”をホームページ上に開設している他、国内の大学・研究機関の有する知的財産
関連の技術情報の検索・入手を可能にする”Technology and Innovation Support Centers (TISC)”を設置 し、そのフォーカルポイントとして機能している。
マレーシアにおける知的財産政策は2007年に発表された国家知的財産政策(National Intellectual
Property Policy: NIPP)に基づく。NIPPは、健全かつ活発な知的財産環境の推進と、新しい成長推進
力としての知的財産の活用を目標とした、知的財産政策および指令のブループリントと位置付けら れている。NIPPに基づき、2007 年 7 月には知的財産裁判所が設立され、マレーシアはアジア初の 知的財産訴訟を審議する専門裁判所を設置した国の1つとなっている
159
。
(2) 国際連携の状況
① 主要国との連携状況 1) 日本
160
マレーシアは、シンガポールと同様に修正実体審査制度(MSE)を採用しており、JPOがその所 定特許庁となっている。日マレーシア両特許庁長官によるMSE 申請手続簡素化に係る覚書への署 名(2007 年3 月)、日・マレーシア経済連携協定(EPA)第1 回知的財産小委員会におけるMSE 制 度運用改善の確認(2008 年1 月)等、MSE の利用促進のために様々な取組が進められている。ま
た、2013 年 4 月からは、MyIPO が受理した特許協力条約 国際出願に対する国際調査・国際予備
審査をJPOが管轄している。
2014 年10 月からは、JPOとMyIPOとの間でPPHの試行プログラムを開始し、更に、2015年1
月には関係強化のための協力覚書をとり交わした。同覚書に基づき、JPOから特許審査官の派遣や、
MyIPOの訪問団をJPOに受け入れて、異議及び審判制度について意見交換を行っている。
159 Mirandah Asa ウェブサイト。https://www.mirandah.com/where-we-are/malaysia/?lang=ja.
160
特許庁『特許行政年次報告書2017年版』295頁。
152 2) EU161
欧州委員会は、ASEANに対する知財保護協力プロジェクトとしてECAP I(1993-97年)、ECAP II
(2000-2007年)を実施し、2013-17年にはECAP IIIを行った。同協力プロジェクトは「アセアン
知的財産権行動計画」に沿ったもので、ASEAN 地域における知的財産の想像、保護、管理、及び 行使の観点から、ASEAN 地域の統合を支援して制度の改善や調和を進めるものである。ECAP III は欧州連合知的財産庁(EUIPO)によって運営され、ASEAN 地域における商標、意匠、地理的表 示(GI)及びそれに関連する知的財産権の保護及び行使、能力構築活動、法的・政策的枠組みの向 上等を主要な分野として実施された。マレーシアにおいても同プロジェクトの一環として品質管理 に係る優良事例に関するコンサルテーションやブランド・プロモーションに関するワークショップ 等が実施されている。
2017年2月17日のEUとASEANの会合においては2017年から2021年までの新たな協力プロ
ジェクトについても議論が行われ、同年後半より開始されるとの見解が示された。
3) ASEAN162
ASEAN知的財産協力作業部会(AWGIPC)はASEAN諸国の知財局から構成されたASEAN域内
における知財に係る課題を担当する作業部会であり、2004年より数カ年の「ASEAN知的財産権行 動計画」を策定し、取組を実施している。2011-15年の行動計画は、ASEAN経済共同体(AEC)結 成に向けた統合の加速化を見据えて、ASEAN独自の知的財産制度の確立を目指して 5つの戦略的 目標(①バランスのとれた知的財産制度の確立、②国際知的財制度への参加、③革新・発展のため のツールとなるような知的財産の形成・意識向上・活用の体系的な推進と知識へのアクセスを促す 技術移転の支援、④国際知的財産社会への積極的な参加と対話・パートナー・関係機関との関係強 化、⑤域内知的財産庁の人材・組織能力の向上を目的とした加盟国間の関係強化と協力深化)を設 定した。
これらの戦略目標の下で設けられた重要プロジェクト・取組については、加盟各国が主管国とし て指定されているが、マレーシアは「特許管理」分野の主管国を担当している。前述のTISC 設立 は、その一環として行われたものである。
(3) 調査項目に基づく調査結果
① 「調査対象の知財庁・機関による発信情報を掲載したソースの調査」
DGIP のウェブサイトにおいて、情報発信は以下の方法によって実施されている。ウェブサイト はマレー語と英語によって構成されており、いずれのソースにおいても国際的取組に関する情報が 含まれている。
161 ジェトロ「欧州連合(EU)とアセアン(ASEAN)、知的財産権に係る協力プロジェクトを総括」2017年2月21日、
「欧州委員会のアセアン知財保護協力プロジェクトが年次作業計画を承認」2014年3月6日。
162 ジェトロバンコク事務所知的財産部「ASEAN知的財産権行動計画2016-2025」『特許ニュース』2017年4月18日、
ジェトロ「2011年-2015年ASEAN知的財産権行動計画」2014年1月。
153
図表 163 ウェブサイトにおけるソース(マレー語・英語)
マレー語 英語
①年報
(Annual Report)
2004年から2015年までの年報を閲覧
/ダ ウン ロー ド 可能。 WIPO、ASEAN、 日本、韓国、中国、台湾等、バイ及びマ ルチの国際的取組の情報を掲載してい る。
同左。なお、年報はマレー語と英語 の併記形式。
②ニュース
( News releases / Press releases)
2016~17 年 の ニ ュ ー ス が 、 “Foto Galeri”に 、 各 記 事 と も 複 数 の 写 真 と と もにアーカイブされている。
2016~17年のニュースが、“Photo Gallery”に、各記事とも複数の写真と ともにアーカイブされている。
③その他 ・”IP Academy (AKADEMI HARTA INTELEK)”のページの”2017
Courcse/Training Calendar “(現在は2018 Course/Training Calendar)では年 間の研修コースの予定が記載されており、その中にJPOと共催プログラムが 含まれている(記載はマレー語)。
② 「国際的な取組に関する情報(文章等)の調査」
1) 年報
年報はMyIPOの二国間および多国間の国際的取組(表敬訪問、会合、PPH、職員研修・交換等)
について記載している。2016 年の年報は技術的理由からか閲覧/ダウンロードができないため、
2013~15年の年報に記載されている主な取組をあげると以下のとおりである。
また、年報は、国名や知財庁名を章や節等の見出しにする構成となっていない。
a) 2015年
MyIPOはTISCの設立に当ってWIPOとの協力関係を強化、このためWIPOと協力協定を締結し
た。この他、ASEAN、EUや日本、イタリア、インドネシア、韓国、台湾、中国、豪州、シンガポ ールとのマルチ/バイの協力/パートナーシップ活動を実施。
b) 2014年
JPOと共に PPH を開始。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)、東アジア地域包括的経済連携
(RCEP)及びマレーシアEU FTA(MEFTA)交渉に参加。
c) 2013年
WIPO、ASEAN、APEC、USPTO、EPO、JPO、SIPO主催のセミナー/ワークショップに参加。
2) ニュース
2016年から2017年11月1日までの国際的取組に関連する記事は、マレー語6件、英語13件の 計19件であった。2017年においてはマレー語と英語の記事数はほぼ同じで、同じ内容を扱ってい る。しかし2016年においては英語の記事のみであった。
図表 164 国際交流に関する記事件数
マレー語 英語
2017年(~11/1) 6 7
2016年 0 6
2年間合計 6 13
出所:MyIPOウェブサイトより作成
バイの国際的取組に関する記事に登場する国・機関は以下のとおりである。
欧州:EPO、EUIPO
154
北米:米国
アジア:日本、中国、韓国
オセアニア:ソロモン諸島
マルチの国際的取組に関する記事に登場する機関は、WIPO、ASEAN、EUである。
図表 165 記事の単語数に関する情報
英語
最大文字数 193
最小文字数 84
中央値 148
出所:MyIPOウェブサイトより作成
③ 「調査対象の知財庁・機関からみた海外知財庁・機関等の位置づけの比較調査」
MyIPOのニュース記事においてはWIPOに関して言及した記事が8 件と最も多く、EPOが4件、
JPOとUSPTOが各3件、SIPOとKIPOが各2件、EUIPOが1件である。記事内容はいずれも、上
述のとおり会合やセミナー/ワークショップに関するものである。
参考までに、年報(2013~15年)における各国知財庁・機関の言及回数みると、JPOが59回と 最も多く、SIPO・25回、EPO・23回、IP Australia・14回、USPTO・10回等となっている。
④ 「調査対象の知財庁・機関からみた海外知財庁・機関等の位置づけの推移調査」
ニュース記事は2016~17年の2カ年のみであり、また、2017年はマレー語と英語でほぼ同様の 記事を掲載したため2016年に比べて記事数がほぼ倍増していることから、この2カ年での「推移」
から位置付けの変化を見出すことは難しい。
なお、年報における年度別の各国知財庁・機関の言及回数を示すと下図のとおりである。SIPO についての言及回数が年を追って増えている傾向が指摘できる。
図表 166年報における年度別・各国知財庁・機関の言及回数
出所:MyIPO Annual Report (2013, 2014, 2015各年版)より作成
5 6 12
1
3
3
4 8 13
30
18
4
2
1
14
16
0 10 20 30 40 50 60 70
EPO USPTO IP Australia
IPOS KIPO SIPO JPO
2015 2014 2013