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2. 各知財庁・機関のインターネット上の発信

2.18. ブラジル産業財産庁( INPI )

 INPIのインターネット上の発信は、①年報(Relatório de atividades)、②ニュース(Notícias)に よって行われている。

 INPIウェブサイトでは、トップページのみ多言語対応として、英語の他、スペイン語のサイト もあるが、その他は全て現地語(ポルトガル語)となっている。実質的にすべての記事がポル トガル語でしか対外発信されていない。

 ニュースでは、日本(JPO)との取組を紹介する記事が最も多く、登場する知財庁のうち、日 本(JPO)の記事は12件である一方、米国(USPTO)は8件、中国(SIPO)が 7件となって いる。また、マルチの国際的取組に関する記事では、WIPOの他、BRICsやイベロアメリカ知 的財産プログラム(IBEPI)、PROSUR諸国など、地域名やプログラム名が多く登場している。

 INPI ウェブサイトにおいて、INPIとJPOのバイの取組のうち、実際に行われた会合について

紹介した記事は、調査対象期間中12件であった 。他方、JPOウェブサイトでは、INPIとJPO のバイの取組のうち、実際に行われた会合について紹介した記事は、調査対象期間中7件であ り、JPO以上の頻度で、INPIが日本との取組を取り上げていることが分かる。

(1) 政策動向や情報発信方針に影響しうる背景

① 近年重視されている政策トピックや背景

ブラジルでは、「イノベーション強化」が国家戦略の主要なテーマの 1 つとして掲げられ、ブラ ジルの経団連に該当する「Confederação Nacional da Indústria(国家産業連盟)(以下「CNI」とする。)」 では、”Iniciativa da Mobilização Empresarial pela Inovação (イノベーションに向けたビジネス動員イ ニシアティブ)(以下、「MEI」とする)”と称する戦略イニシアティブを推進している。

“イノベーションに向けたビジネス動員イニシアティブ(MEI)”では、イノベーションの促進に 向けた6 つの戦略計画を示しているが、その中の1 点目が知的財産に関連するもので、「産業財産 規制の枠組みの強化」が掲げられている

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。 – イノベーションと産業財産規制の枠組みの強化 – イノベーションのための政府組織の強化 – イノベーションのための資金調達 – イノベーションによるグローバル化 – イノベーションのための人材育成 – イノベーションができる中小企業の促進

また、国際・外交的な観点から昨今のブラジルの政策動向を見ると、ブラジルは国連改革やWTO、 気候変動の他、G20(金融サミット)など地球規模課題のグローバルな取組に積極的に関与してい る他、地域統合の進展、BRICSを通じた新興国外交、そして、中南米諸国やアフリカとの積極外交 を活発に進めている。

この背景としては、2003年に就任した前ルーラ政権下で掲げられた外交戦略「新しい国際社会の ルール作りへのコミットメント」

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が挙げられる。ブラジルを含む新興国や途上国の声を反映した 新しい国際秩序体制の構築を重視し、ブラジルとして、率先して国際的な取組に関与していくこと が国益の増進につながるという考えの下、中南米諸国とアフリカ諸国との外交や協力関係を重視し てきた。中でも、アフリカ諸国と中南米諸国との外交を重視し、貿易関係の拡大、経済・技術協力、

貧困など社会問題への取組、バイオ燃料の生産・開発にかかわる連携等を推進している。また、地 域統合の深化も活発に進めており、創設に関わった中南米地域の地域経済共同体メルコスール(人 口約3億人、GDP約2.8兆ドル(2015年、世銀))では、現在EUとの自由貿易協定の交渉を図って いる。

また、日本とは、1895年の外交関係樹立以降、1908年からブラジル移住が開始され、2008年に は移住100周年として「日本ブラジル交流年」が国家的に祝賀された他、2015年は日ブラジル外交

177 “Iniciativa da Mobilização Empresarial pela Inovaçã”ウェブサイト

http://www.portaldaindustria.com.br/cni/canais/mobilizacao-empresarial-pela-inovacao/

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子安昭子「ルラ外交と世界で高まるブラジルのプレゼンス」『日本貿易会』No.68420109月、27頁。

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関係樹立120周年を迎えるなど、歴史的に長い友好関係にある。また、ブラジルは海外で最大の日 系社会(約 190 万人)を抱え、活発な要人往来もあり、伝統的に強固な友好関係が築かれている。

このような世界最大の日系社会の存在や伝統的な友好関係を踏まえ、日本政府の開発援助では、日 本とブラジルの両国の経済関係強化に資する協力が重点分野として掲げられている

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。また、両国 が協力して第三国を支援していくことにより、両国の良好な関係の成熟と効果的な支援を図ること を狙いに、ブラジルと日本は 2000 年に開発協力のパートナーシップ・プログラム(Japan-Brazil

Partnership Programme:JBPP)を締結し、同枠組みを通し、中南米諸国やアフリカ諸国に対し三角

協力を展開している。

② 知財分野の概況や課題

ブラジルにおける知的財産分野の主管官庁は、ブラジル商工サービス省傘下のブラジル産業財産 庁(INPI: Instituto Nacional da Propriedade Industrial)

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であり、1970年に設立され、リオデジャネイ ロに拠点を置いている。

同庁の下部組織として、2007年、INPI知的財産アカデミー(Acadêmico de Propriedade Intelectual, Inovação e Desenvolvimento)

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が新設された。同アカデミーは専任教員8名、INPI派遣講師20名程 度

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で構成される知的財産分野の養成機関であり、ブラジルの知財政策において評価・改善すべき テーマに焦点を当て、知的財産システムを議論する公開セミナー(セミナータイトル「21世紀の知 的財産の課題」)を実施する他、知的財産分野の修士課程プログラムを提供し、知的財産人材の養 成を推進している。

ブラジルにおける特許出願件数(年間)は例年約3万件で推移しており、インド及びASEAN諸 国と比較すると下図のとおりインドに次ぐ出願件数となっている。

図表 187 特許出願件数の推移

出所:WIPO statistics database. Last updated: February 2017のデータを基に作成

179 外務省『平成29年度国別援助方針(ブラジル)

180 INPIウェブサイトは以下のとおり。

http://www.inpi.gov.br/portal/ .

181 INPI知的財産アカデミーのウェブサイトは以下のとおり。

http://www.inpi.gov.br/sobre/estrutura/enapid-2017/enapid-2017 http://www.inpi.gov.br/portal/.

182 INPI知的財産アカデミー(Acadêmico de Propriedade Intelectual, Inovação e Desenvolvimento)のウェブサイト より(http://www.inpi.gov.br/sobre/estrutura/enapid-2017/enapid-2017

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ブラジルでは、特許出願に対する最初の審査結果が出るまで平均で10年を要するとされ

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、特 許審査における「バックログ(滞貨)問題」が喫緊の課題として指摘されている。国内のブラジル では、毎年約3万件の特許出願がなされているが(2015年の特許出願数は約33,043件)、特許出願 審査の平均時間は2016年時点でも10.9年

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とされ、審査待ちの件数は21万件に達しているとさ れる。

さらに、特許だけでなく、意匠権についても審査におけるバックログが深刻化しており、2016 年のオリンピック開催を機にバックログ問題の改善と模倣品対策を強化するため、同年「意匠出願 の優先審査制度

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」(決議第167/2016)が制定されている。また、特許・意匠のバックログ問題の

解決のため、2016年から、INPI内でタスクフォースが新設され、審査や登録の実態調査および改善 に向けた議論が進められている

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前述したバックログ問題については、審査機関の組織的な構造が背景にあるとされ、INPIと国家 衛生監督庁(ANVISA)の両機関が医薬品分野の特許出願に対する特許審査を重複して実施してい ることが、特許審査遅延の原因の1つと指摘されている。そのため、2017年4月、INPI長官とANVISA 長官は、重複審査問題を解決することを目的とした規則の署名を行い、同規則により今後、ANVISA は薬害のリスクなど公衆衛生の観点からのみ審査を行い、特許要件についてはINPIが単独で審査す ることとなった。重複審査が解消されることから、医薬品関連特許出願の審査の迅速化が期待され ている

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また、もう1点の課題としては、INPI内の人材不足(審査官不足)が挙げられる。INPIには約1,800 名の職員が従事しているが、実際に在任されているのは924名とされ、更に、実際に審査をしてい る審査官は約 190人(2016年情報)とされている

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。深刻なバックログ問題の早期の解決のため にも、審査官の増強が課題となっていることから、2012年から2016年までの間、特許及び商標の 審査官をそれぞれ約 3 倍に増員するなど、組織体制の強化を推進してきた。昨今では、2016 年 6 月に、70人の特許審査官が就任し、従前までの審査官193名体制から263名体制に(36%増)に増 員された。また、商標についても、2010年~2015年の5年間で審査官を約3倍に増員されている

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③ 重点分野・戦略

前述した国家戦略「イノベーションのためのビジネス動員」(MEI)では、INPI の業務改善が、

ブラジルにおけるイノベーション強化に資するとして、2017年7月8日にCMI本部で開催された MEI指導者委員会の会議においても主要課題として取り上げられた。

また、2016年、INPI長官は、ブラジル産業財産法(1996年に制定)20周年を記念したCNIイン タビューにて、INPIにおける主な重点取組課題として、以下の4点を言及している。

(1)過去の採用試験に合格した審査官の雇用を通じた人員拡充

(2)知的財産権の出願審査における最適化と自動化

(3)INPIの経済的自律性の改善

(4)審査品質の向上、審査官の研修、および、知財に関する意識向上に向けた国内・

国際的な協力

183 ジェトロ「日本との特許審査ハイウエーを4月から試行」201743日、

https://www.jetro.go.jp/biznews/2017/04/1823e3cc4c77f31d.html

184 Carapeto Roberto“ブラジル知財情報”ウェブサイト https://brazilchizai.wordpress.com/

185同制度は、意匠権の早期審査を請求する要件として、①意匠出願・登録はスポーツ品に関する医療出願・登録、2016 616日までに行われた出願について、を明示した。

186 Carapeto Roberto“ブラジル知財情報” ウェブサイト https://brazilchizai.wordpress.com/

187 ジェトロ「医薬品関連の特許出願に対する重複審査が解消-中南米の制度改定動向-」2017517日、

https://www.jetro.go.jp/biznews/2017/04/1823e3cc4c77f31d.html

188 Carapeto Roberto“ブラジル知財情報”ウェブサイト https://brazilchizai.wordpress.com/

189 Carapeto Roberto“ブラジル知財情報”ウェブサイト https://brazilchizai.wordpress.com/