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断し継続的な診療を行っている小児例について厚労省基準を用いて検討すると、完全型
2%
、不全型58%
(うち10%
は特殊型)、疑い40%
となり、感度が60%
と低いことがわかる(図
1
)。それ以外の基準においても同様の傾向があり、感度はそれぞれISG
基準で 約50%
、ICBD
基準で 約70%
にとどまる。その要因として、小児例では皮膚症状、外陰部潰 瘍、眼症状といった主症状あるいは診断項目として用いられる症状の頻度が低いことが関 連していると推測される。海外においても同様に、小児例では診断基準の感度が低い(ISG
基準で約70%
)点が指摘されていた。そのため、Kone-Paut
らは小児例に特化した基準を 作成する目的でコホート研究を実施しPEDBD
分類基準(以下PEDBD
基準)を作成した。しかし、
PEDBD
基準を欧州の小児例に用いた場合でも感度は77%
(特異度88%
)にとどまり、診断基準を満たさないという理由のみで小児ではベーチェット病を否定し難い状況 は変わらなかった5)。
(6)
治療小児例においても、病変部位を清潔に保つことや口腔ケアは重要である。薬物治療は症 状と重症度に合わせて選択する。本邦の小児例での使用頻度は以下の結果であった。コル ヒチン(約
60%
)、ステロイド(約60%
)、非ステロイド性抗炎症薬(約40%
)、サラゾス ルファピリジン(約10%
)、生物学的製剤(約15%
)、アザチオプリン(約5%
)、シクロホ スファミド(約5%
)。少数例では、メトトレキサート、ミゾリビン、シクロスポリン、免 疫グロブリン製剤などが用いられており、外科手術は約8%
の症例で実施されていた。(7)
長期予後死亡例は約
2%
であった。完全寛解(治療を終了し症状を認めない)を約4%
の症例が達 成し、完解(治療を継続しているが症状は認めない)は約30%
の症例で認められたが、そ れ以外の症例では何らかの症状が遷延しており治療が継続されていた。小児例でも、ベー チェット病は長期間にわたる通院加療が必要なことが確認された。(8)
今後の課題小児例に関するいくつかの課題が明らかになった。
第一に、小児例ではいずれの診断基準を用いても感度が十分に高くないため、「基準を 満たさない」という理由のみで診断を否定した場合に、必要な治療を提供できない可能性 がある。厚労省基準を満たした例(完全型
or
不完全型)約60%
と満たしていない例(疑 い例)約40%
に関して治療および長期予後を比較したところ、両者に大きな違いは存在し なかった。今後は、日本小児リウマチ学会が主導して全国規模の症例登録を行い、疑い例 に該当する小児例が成人年齢に達した場合に、成人例と類似の経過を辿るか否かを確認す る必要がある。第二に、小児例の治療に関して十分なエビデンスに基づいた指針は存在せず、成人例で の知見を小児例に応用している場合が多い。その一方で、治療薬の一部は小児例に投与し た際の安全性が十分に検討されていないという理由で、適応を有していないものがある。
難治例に関する治療経験の集積が重要となる。
第三に、小児例のベーチェット病治療は成人同様に長期に及ぶことが確認された。その ため、移行医療の整備が重要であることが確認された。
参考文献
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1. Ozen S. Chapter 40 - Behçet Disease. Textbook of Pediatric Rheumatology, Seventh Edition (Elsevier). 2016: 526-532.e2.
2. 山口賢一, 他. 小児Behçet病. 別冊日本臨床. 2015; 34: 867-873.
3. 藤川敏. 小児期発症ベーチェット病. 日本小児科学会雑誌. 2004; 108: 359-367.
4. 難病情報センターHP ベーチェット病(平成27年5月10日改訂版)http://www.nanbyou.or.jp/entry/187.
5. Kone-Paut I, et al. Consensus classification criteria for paediatric Behçet’s disease from a prospective observational cohort:
PEDBD. Ann Rheum Dis. 2016; 75: 958-964.
(山口賢一)