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シクロスポリンの主な副作用は、腎障害、肝障害、胃腸障害、高血圧、多毛、歯肉腫 脹、急性型神経ベーチェット病、感染症、などがある1-4)。また稀ではあるが、急性膵 炎、溶血性貧血、ミオパチーなども起こしうる。したがって、診察時には、これらの副 作用や体調不良の有無を丁寧に問診、視診することが大切である。

腎障害は特に頻度が高い副作用で、シクロスポリンの血中濃度が高いとリスクが高ま る。シクロスポリンは吸収の個体内差、個体間差が大きい薬剤であるため、定期的に血 中シクロスポリン濃度(トラフ値)の測定を行いながら臨床的有効性や副作用に注意し て投与量を調節する2)。トラフ値とは,薬物を反復投与したときの定常状態における最 低血中薬物濃度のことで,次の内服直前の血中濃度である。実際の測定は,定期診察時 に朝の内服をしないで血液検査を行う。ベーチェット病での目標トラフ値は

100

250

ng/ml

とされるが,

150 ng/ml

以上で維持されると腎機能障害の発生頻度が高くなるとの報

告がある2)。また、シクロスポリン内服後

2

時間値(ピーク値)は、シクロスポリンの薬 効を反映すると考えられており、適宜ピーク値の測定も行う。目標とするピーク値は

800-1000ng/ml

程度とされている3)

したがって、シクロスポリン投与中は、診察時の注意深い問診、視診に加え、定期的 な血液生化学検査や血圧検査を行うことを推奨する。

参考文献

1. ネオーラル添付文書. 日本標準商品分類番号 873999. 20133月改訂(第19版)

2. ベーチェット病眼病変診療ガイドライン作成委員会:Behçet 病(ベーチェット病)眼病変診療ガイドライン.

116:394-426. 2012.

3. 望月學、後藤 浩、川島秀俊、岡田アナベルあやめ、両角國男:非感染性ぶどう膜炎におけるネオーラルの安全 使用マニュアル2013年版,pp5-26.

4. Nussenblatt RB, Palestine AG. Cyclosporine: immunology, pharmacology and therapeutic uses. Surv Ophthalmol 31: 159-169, 1986.

CQ13

シクロスポリン投与中の全身モニタリングはどうするか?

推奨

13

シクロスポリン投与中は、診察時の問診や定期的な全身検査を行うことを推 奨する。

エビデンスレベル:

6

同意度:

5.00

推奨度:

A

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CQ14

シクロスポリン導入後、他の発作抑制薬はどうするか?

推奨

14

シクロスポリン導入時には併用禁忌薬、併用注意薬に十分注意することを 推奨する。

エビデンスレベル:

4

同意度:

4.88

推奨度:

A

解説

ベーチェット病の眼発作抑制治療(寛解期治療)は、通常、コルヒチンから導入し、効 果不十分の場合、シクロスポリンの追加または変更を検討する。ただし、コルヒチンとシ クロスポリンの併用は、シクロスポリンによる腎血流低下によりコルヒチンの血中濃度が 上昇し1-4)、コルヒチンの作用の増強および副作用のミオパチー(コルヒチンミオパチー)

が起きやすくなる 1-3)。ベーチェット病におけるコルヒチンミオパチーの頻度はコルヒチ ン単独では

1.4%

、コルヒチンとシクロスポリンの併用では

6.8%

程度である1)。したがっ て、シクロスポリン導入時には、コルヒチンは中止するか、

1

日量

0.5mg

以下に減量する ことが提案されている1)。副腎皮質ステロイド薬やその他の併用薬については、症状をみ ながら可能であれば減量する。急激な副腎皮質ステロイド薬の減量はぶどう膜炎の再燃や 副腎クリーゼの危険があるため、ゆっくりと減量することが望ましい。

併用禁忌薬剤としては、タクロリムス(プログラフ®)、ピタバスタチン(リバロ®)、ロ スバスタチン(クレストール®)、 ボセンタン(トラクリア®)がある。その他にも併用注 意薬が多数あるので添付文書を参照されたい。グレープフルーツはシクロスポリンの血中 濃度を高める作用があるため避けなければならない。

したがって、シクロスポリン導入時には併用禁忌薬、併用注意薬に十分注意することを 推奨する。

参考文献

1. 高本 光子, 蕪城 俊克, 吉田 , 沼賀 二郎, 藤野 雄次郎, 川島 秀俊 コルヒチンにより血清中CK上昇を認め たベーチェット病の6. 臨床眼科 59(10):1691-1694, 2005.

2. ネオーラル添付文書. 日本標準商品分類番号 873999. 20178月改訂(第21版)

3. Ben-Chetrit E, Scherrmann JM, Zylber-Katz E, Levy M. Colchicine disposition in patients with familial Mediterranean fever with renal impairment. J Rheumatol. 1994;21(4):710-3.

4. コルヒチン添付文書. 日本標準商品分類番号 873941. 20169月改訂(第12版)

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CQ15

副腎皮質ステロイド薬全身投与は眼発作予防に有効か?

推奨

15

副腎皮質ステロイド薬全身投与の眼発作予防に対する効果は限定的であ り、他の治療法が困難な場合にのみ投与を提案する。

エビデンスレベル:

4

同意度:

4.19

推奨度:

C1

解説

副腎皮質ステロイド薬は、高容量を全身投与することにより、現在活動性の網膜ぶど う膜炎の消炎効果を期待できる。しなしながら、炎症消退後に眼発作抑制として投与す る場合、高容量を維持投与することは困難であるため、その減量中に眼発作を誘発され ることが知られている。したがって、副腎皮質ステロイド薬の全身投与は、現実的に は、単独での眼発作抑制は困難である1, 2)

ベーチェット病の眼発作を抑制する治療として、

Step1

でコルヒチン、

Step2A

でシク ロスポリンを用いるのが一般的である。それでも眼発作が抑制できない場合に通常生物 学的製剤(

TNF

阻害薬)の導入を検討するが、導入が難しい場合には副腎皮質ステロイ ド薬であるプレドニゾロン内服を併用することがある3, 4)。その場合には

10-20mg/

日程 度から開始し、

3

か月につき

5mg

以下の速度で緩徐に減量する。その後は低用量(

5-10mg/

日)のプレドニゾロンを継続投与することが望ましい5), 6), 7)。他病変の治療のため

にプレドニゾロンの内服が行われることもあるが、その場合も減量をゆっくり行う必要 がある。中止は

2.5-5mg/

日を継続した後に慎重におこなう。

このように、副腎皮質ステロイド薬の全身投与は高容量の維持投与が困難であり、現 在活動性のある炎症発作を消退させる目的で短期間投与することはあるが、眼発作抑制 を目的として維持投与することは効果および副作用の面から困難である。全身状態など により、

TNF

阻害薬の導入が困難な時に、併用薬として追加導入される限定的な使用を 提案する。

参考文献

1. Hayasaka, S et al: Visual prognosis in patients with Behçet’s disease receiving colchicine, systemic corticosteroid or cyclosporin. Ophthalmologica 208: 210-213, 1994

2. 松浦岳司ほか: 眼ベーチェット病治療におけるステロイド薬全身投与の再評価. 臨眼52: 670-674, 1998 3. 藤野雄次郎ほか: ベーチェット病− Treatment of Behçet disease. 眼科 41: 1401-1408, 1999

4. 川野庸一ほか: ベーチェット病眼病変に対するステロイド薬長期間継続併用投与. 眼科42: 421-428, 2000 5. 湯浅武之助ほか: ベーチェット病の眼病変に対するステロイドの長期持続投与法. 厚生省特定疾患ベーチェッ

ト病調査研究班平成6年度研究業績, 165-167, 1995

6. 藤野雄次郎ほか: ベーチェット病− Treatment of Behçet disease. 眼科 41: 1401-1408, 1999

7. 川野庸一ほか: ベーチェット病眼病変に対するステロイド薬長期間継続併用投与. 眼科42: 421-428, 2000

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