第 3 章 フロー理論に基づく学習教材・学習環境再設計支援手法
3.2. フレームワークの提案
40 第3章 フロー理論に基づく学習教材・学習環境再設計支援手法
教材・学習環境を再設計・改善するための 1 つの枠組みとして提案する.フレームワーク 全体は図 3-1 で示した通りである.本フレームワークは 4 つの異なる活動とそれらの活動 を支える 2 つのデータベースと 1 つの教材で構成されている.図 3-1 において,利用者(教 授者/教材設計者)が外側の活動のサイクル,つまり,「チェックリストによるチェック」,
「改善点の提案」,「実環境での実践」,「実践結果のフィードバック記述」,の定常的な利用 を続けることで,「実践についてのデータベース」,「フロー経験についてのデータベース」, が徐々に充実していき,さらに,フロー理論についての知識を学ぶために設けた,「フロー 理論に関する入門教材」の内容も同時に追加されていく,というエコシステムとしてフレ ームワークの提案を行った(Kato & Suzuki, 2011).「実践結果のフィードバック記述」で 記述された結果は「実践についてのデータベース」に蓄積され,「改善点の提案」を行う際 に,そのデータベースを参照し,実践結果を活用することができる.また,「フロー経験に ついてのデータベース」に蓄積された,フロー経験の実例は,「フロー理論に関する入門教 材」の中で利用され,「フロー理論に関する入門教材」の中で利用者が記入したフロー経験 の実例は,「フロー経験についてのデータベース」に蓄積される.また,図 3-1 において 大きな四角で囲われた内側の活動はポータルサイトにおけるオンラインでの活動である.
その枠外である,「実環境での実践」は本研究で提案するオンラインのポータルサイト以外 での活動,つまり,実践の場での教授活動・教材再設計活動を指す.以下,4 つの活動に ついて述べる.
(1) チェックリストによるチェック
eラーニング環境において利用が可能な,教授者・教材設計者のための,学習教 材・学習環境の改善を目的とした,フロー理論適合度チェックリストを活用するこ とで,教授者や教材設計者が自分の教授環境,学習環境がフロー理論に適合してい るかどうかの観点からチェックすることが可能となる.本活動は本フレームワーク における最も重要な活動であり,本研究の中核を構成するものである.
(2) 改善点の提案
上記のチェックリストでの活動において,チェックリストの各項目の中で,「適 合しない」チェック項目に関連した,学習環境の改善提案を行う.利用者は,随 時,実践についてのデータベースを参照しながら,自分の環境にあった改善提案 を考えることができる.
第3章 フロー理論に基づく学習教材・学習環境再設計支援手法 41
(3) 実環境での実践
本研究で提案するこの活動は,ポータルサイトでのオンラインの活動を離れた 教授者・教材設計者としての実環境での実践活動である.この活動においては,
実際の学習者に対して上記で提案した改善点を実環境に適用して実践する.実環 境において上記の改善がうまくいったか,うまくいかない点はどこであったか,
等の実践の結果を得ることができる.
図 3-1 フロー理論に基づく学習教材・学習環境再設計支援フレームワーク
((Kato & Suzuki, 2011)の Figure 1 を和訳)
(4) 実践結果のフィードバック記述
実環境での実践を終えた後,オンラインのポータルサイト上に戻り,振り返りを実 施する.どのような状況で何がうまくいって,何がうまくいかなかったかを,振り 返りながら,ポータルサイト上に記述した実践結果は実践についてのデータベース に蓄積される.フィードバックを記入した後,実環境での実践において,その場で 工夫した項目や,改善した教材,変化した状況等も合わせて,新たな学習教材・学 習環境に対する次回のチェックリストによるチェックの活動へとつなげ,よりよい
42 第3章 フロー理論に基づく学習教材・学習環境再設計支援手法
学習教材・学習環境の提供を目指す.
次に,図 3-1 の内側にある,外側の4つの活動を支えるための,2つデータベースと1 つの学習教材について述べる.
(1) 実践についてのデータベース
教授者や教材設計者が実践結果について振り返りを行い,フィードバックを記入 する際に,その結果がデータベースに蓄積される.どのような状況でどのような改 善を行ったときにどのような結果になったかの情報を他の利用者と共有すること ができる.この際,実際に成功した実践だけでなく,失敗した実践についても記入 することにより,より実用的なデータを蓄積することが可能となる.また,このデ ータベースは利用者が改善点を提案する際にも活用することができる,ある種の集 合知として再利用可能な知識を蓄積することを目指したものである.
(2) フロー経験についてのデータベース
文献調査によるフロー経験の実例,ブログ,マイクロブログ,SNS等インター ネット上でのフロー経験に関する書き込み,また,下記(3)フロー理論に関する 入門教材において利用者が記述したフロー経験の例,などをデータベースとして蓄 積し,他の利用者が参照することができる.様々なタイプのフロー経験の実例を集 積することで,利用者が,フロー経験についての理解を深めるのに役立てる.
(3) フロー理論に関する入門教材
教授者や教材設計者がフロー理論についてあまり知識がない場合に,この入門教 材を学習することで,フロー理論に関する基礎的な知識を身に付けることができる 入門教材である.この教材の中に含まれる活動の 1 つとして,自分のフロー体験・
フロー経験を記述する活動があり,この内容は上記(2)フロー経験についてのデ ータベースに蓄積され,他の利用者と共有することによりフローに関する理解を深 めることができる.つまり,利用者・利用回数が増えれば増えるにつれ,徐々に教 材の内容が充実していく教材として構築する.
次に,本フレームワークの4つの活動の中で最も重要な「チェックリストによるチェッ ク」の際に用いる,本研究において新規に提案する,フロー理論適合度チェックリストに
第3章 フロー理論に基づく学習教材・学習環境再設計支援手法 43
ついて詳細を述べる.また,その後,4つの活動を支える1つの教材と2つのデータベー スについて詳細を述べる.