第 2 章 フロー理論に関する研究の動向
2.9. まとめ
様々なフロー体験の評価手法が提案されているが,本章での先行研究の調査により,当 面簡単に利用でき,eラーニングにも比較的容易に実装可能な方法は,従来の質問紙法で あると考えられる.eラーニングではアクセスログ・学習ログの取得も比較的容易なので,
質問紙法と組み合わせて利用することも可能である.
フロー経験,フロー体験,フロー理論等は.チクセントミハイによって提唱されたが,
その後の研究の広がりにより,概念やモデルも少しずつ変遷している.フロー理論はもと もとポジティブ心理学の一側面としてとらえられ,発展してきたので,負の側面の研究は あまり行われてきていないため,今後の研究動向に注意を向けておく必要がある.例えば,
フロー理論の概要を学ぶための入門教材においては,フローと依存症の違いをわかりやす く説明し,誤解を生まないような説明を実施する必要があると考える.
学習者の視点でのフローの研究だけではなく,量的にはまだ少ないが,教師のフローに ついての研究も少しずつ出始めている.フロー状態を意識して,フロー理論に基づいて,
授業を設計して実施し,教師自身が教授活動においてフローを体験する比率を上げること ができれば,生徒のフロー体験を促進できる可能性がある.教師のフローが生徒のフロー を促進する要因となり得るのであれば,これをeラーニングの教材設計・教材作成等にも 適用し,「教材設計者・教材作成者がフロー状態で作成した教材で学習すると,学習者はフ ロー状態になりやすい.」という仮説が考えられるが,これを直接的に実証するのは非常に 困難ではあると考えられる.しかし,少なくとも,フロー状態が最適経験時の心的状態で あるならば,「教材設計者・教材作成者がフロー状態で作成した教材はその教材設計者・教 材作成者がフロー以外の状態で作成した教材に比べて教材の評価が高い」という仮説であ れば,実証できる可能性があると考える.その際,教授者と同様に,教材設計者・教材作 成者の教材作成時のゴールとして,学習者の理解度や興味関心の度合い増す事等を常に念 頭においておく必要がある.ただ単に目的もなく,教材作成を実施しているだけでは質の 高い教材は生み出されない.適切な目標を常に持ち,意識しながら教材作成・改善を実施 する必要がある.
フロー状態に至る先行条件やフロー状態を構成する要素や因子分析の研究は多く見られ るが,フロー状態の結果をどう活かして次の活動に繋げていくかの力動論モデルを発展さ せる研究はまだ限定的である.静的なフロー状態のモデルよりは,フロー状態への遷移モ デルやゲームによる経験学習モデルのような,時間変化を伴う動的モデルをベースに,先
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行研究の成果を踏まえて,新たな,フロー理論を活用したフレームワークを次章で提案す る.第 3 章において,Kolb(1984)の経験学習モデルと Kiili(2005)のゲームによる経験学 習モデルをベースとした,フロー理論を活用した学習環境・学習教材の再設計支援フレー ムワークの提案を行う.
フロー体験は個人の主観的体験であるので,狭い意味では,グループ・フローは個人フ ローの一形態としてとらえることも可能である.個人フローにおいても,自分が置かれて いる環境を無視しているわけではないので,環境のインタラクティブな変化に対応して生 じるフローをグループ・フローとしてとらえることもできなくはない.しかし,学習との 対比として,独学における個人フロー,グループ学習におけるグループ・フローと定義す ることで,よりわかりやすく,明確になるので,教授者,教材設計者の視点からは 2 つを 違う視点を持つフローとして学習環境を考えることとしたい.本研究では,独習型のeラ ーニング教材に対して提案するフレームワークの適用性を検証するため,個人フローのみ を研究の対象とする.