FAX 0584-89-5545 (代)
写真 10. ハンドルピースを手にもった状態
2.2 ダイニチの ものづくり 技術を使った製品例
以上述べてきたように、少量生産でも高付加価値商品を生み出せば良いと考えるもので、
『人のやらないことをやる会社』になれば必ず受注は来ると信じて更なる挑戦が始まり、
深穴加工用のロングドリルが使えるガンドリルマシンの導入などを行うことで他社にはで きない独創・独自技術を開発し複合加工と微細深穴加工へと特化していった。
そののち、取引先の相乗効果で微細加工や複合加工とは無縁と思われていた分野からの 依頼も多くなり、複合加工機が活躍できる精密部品の複合加工へと広がっていった。医療 機器分野では、脳外科手術や耳鼻科手術に使われる超音波手術機、自動車関連では、自動 車の燃料性能向上につながる無段変速機(CVT)の基軸部品である金属製ベルトの連結部分 の破損実験に 0.02mm 穴あけ技術が使われた。また、コピー機やファックスのローラーゴム を作るための金型に使用するパイプで、パイプ内の穴を円筒状にすることにより紙の偏り を防ぐことができ、微細な歪みや傷で不具合が起きるため高い精度が要求されるが、深穴 加工の高度化も行っている。
ここでは、以下に示す「超音波手術器 ソルテック‑Ⅳ 」と 5 本指自在の 人間型ロボ ットハンド について説明する。
(1)
超音波手術器 ソルテック‑Ⅳ
写真9.超音波手術器 ソルテック‐Ⅳ (全体)
写真 9 は、超音波手術器 ソルテック‑Ⅳ である。この装置は、超音波振動子が、1 秒 間に 25,000 回または、34,000 回という高速な伸縮運動をハンドスピード先端のチップに伝 達し、その振動エネルギーにより、脆弱な組織は破砕・吸引される。一方、弾性に富む血 管や神経などは、共振を起こすので、破壊されずに選択的に保存されるというもの。この 製品の重要な部品となるハンドピースに、ダイニチの切削加工品が使われている。
(2)
5 本指自在の 人間型ロボットハンド
ギフハンドⅢの全長は手のひらから指先まで 270 ミリメートル。重さは 1.4 キログラム。手のひら には分布型圧力センサーシートを、指先には 6 軸力覚センサーを装着し、触覚を与えた。
指と手のひらのセンサーを除く機械部分と出力アンプが 1 セットで価格は 490 万円。
指は親指が 4 関節 4 自由度、残りの 4 本の指は 4 関節 3 自由度を有する。指を曲げたり 横に動かしたりなど、人間の指とほぼ同じ動きが可能。指先でものを押す力は 270 グラム重、
指は 1 秒間に 6 回以上動かすことができる。指の内部に小型のサーボモーターを内蔵、さ らに微細ながら高出力が出せるギアを開発し、実用に耐えうるレベルにした。指単位でユ ニット化されているため、メンテナンスも簡単としている。
用途としては遠隔操作システムの研究などを想定している。2 足歩行のロボットの開発が 各社で進んでいるが、指先が動くような手の部分の技術開発は遅れている。ロボットハン ドは大手機械メーカーなどが商品化しているが 4 本指のものが大半で、川崎教授によると 5 本指のものは世界的に見ても珍しいという。
3.ダイニチ ものづくり まとめ
以上述べてきたように、数社の親企業の下請けを行う企業から、他社の追従を許さない、
微細深穴加工技術・複合加工技術を活用して、自ら顧客を開拓し、付加価値の高い製品を 作り出すことで、景気に左右されない安定した企業作りができた。受注量が増えても工場 を拡張する必要が無いなど、小さなものづくりの利点を最大限に活かし、価格決定におい ても技術に見合った値決めが必要だと考え、発注者の言い値ではなく同社の技術・技能力 で取引を行い、その高付加価値な技術力を強みに価格競争に巻き込まれない高収益体質を 写真
11.5 本指自在の 人間型ロボットハンド
川崎晴久岐阜大学工学部教授らと共同で、5 本指を自在に動かすことができる人間型ロボッ トハンド「ギフハンドⅢ」を開発した。人間の 手に近い運動特性を示し、指でものを押し、紙 コップなど柔らかいものをつぶさずに握ること が可能。ロボットシステムの研究をしている大 学や研究機関向けに販売している。
確立した。2002 年 12 月期の売上高は、20 名の従業員で 3.2 億円の売上となっている。
このような、成功の基には、社長自らが需要があると考えた、微細深穴加工技術・複合 加工技術への特化、関連設備の積極的な購入、人材の育成、日本最高水準の技術の育成、
価値ある商品の生産・販売、ホームページその他での積極的な自己技術のアピールなどが ある。
4.ダイニチ下村社長より、官学への希望
最後に下村社長に、官学への希望をお聞きした。下村社長は「外国との取引において、
外国の情報入手・受注交渉・取引の契約・その他、我々中小企業独力では限界がある。そ れら外国での取引拡大のための積極的な援助をお願いしたい」とのことであった。
5.その他
ダイニチを今日まで発展させた、下村社長のお考えについて、いくつかの雑誌に掲載さ れている。今回、ダイニチをより理解するために以下の 2 つを取り上げて載せた。
〔1〕「俺んところへ来い」と、社員が息子に言える会社を目指したい[3]
高価な「複合加工機」を購入し苦境に立つ
同社の前身「大日鉄工所」は、昭和 23 年創業の、織物機械などの専用機の設計から製作 までを行う会社でした。
今から 15 年前、創業者の父親から事業を引き継いだ下村尚之社長は当時 41 歳。それま では大手電気会社で化学関係の研究員を務めるサラリーマンでした。
経営を任された下村社長が最初に考えたのは、事業の受注形態の不安定さを解消するこ とでした。専用機の製造は、受注時期のばらつきや、資金の回収まで時間がかかり過ぎる など、経営の安定性に欠ける面が多かったといいます。
そのため、新分野進出への模索が始まりました。
方向が定まらず悶々とすごす下村社長の目に、産業の中心の重厚長大から軽簿短小へ移 りつつある時代が移っていました。そこで、「とにかく精密な小物部品にシフトしようと決 めました」その時出会ったのが 1 台の複合加工機でした。自動車や家電メーカーなど大手 企業は導入していたものの、相当高価な機械に違いありません。それを下村社長は「仕事 の当てもないまま(笑)」ポンと 1 台購入してしまいました。いくつもの工程を 1 台の機械 で行える複合機は、中小企業の小ロットの仕事にも対応できるはず、と考えたのです。
ところが、必死の営業にもかかわらず、2 年間ほとんど受注のない日々が続きました。
そんな中で出会ったのが『小径の深穴加工』という技術でした。しかもヒントは、購入 した複合機の設計図にありました。
「設計者が図面を描いても、小径の深穴のため加工ができず困っていると書いてあったん です」
下村社長は直ちに行動を開始しました。東京に深穴加工機の専門メーカーがあることを 知ると、「人がやらないことをやってみたい、という夢や思いの丈を話に出かけていきまし た」そうして早速、深穴加工機を導入。これが事業を好転させるきっかけとなりました。
「機械が営業マン」と積極的に設備投資
深穴加工機は、『ガンドリルマシン』と呼ばれ、元来銃身の穴あけ加工用に開発された機 械です。
これを発展させた、もっと小径の深穴加工技術が、実は産業界のさまざまな分野に潜在 需要のあることが「仕事をしてみてはじめてわかってきた」のです。以来 12 年、同社では 試行錯誤を繰り返しながら、この分野で独自のノウハウを蓄積してきました。その間、さ らに小径深穴の研磨加工が、同社のオリジナル技術として新しく加わりました。
こうした特殊な技術が核になることで、精密部品の複合加工の受注仕事も増え、眠って いた複合加工機が活躍出来るようになりました。
実際に同社の取引先は、工作機械のほか、医療機器、航空機、原子力、バイオ関連、ロ ボットなどあらゆる分野に広がっています。それも毎月 3〜5 社のペースで増加しており、
現在は 400 社以上になっているといいます。
この経験から、下村社長は「機械が営業マン」と、不況の中でも毎年積極的な設備投資 を行ってきました。その結果、機械の加工の 便利や なんでも屋 として、さらに仕 事が集まってくるという好循環が起こっているそうです。
ただし、ここには下村社長独自の経営戦略があることも指摘しておかなければなりませ ん。
「大企業の協力会社(下請け)が、『やりたくない』と音を上げるような難しい仕事こそが 我が社の領分と思っています。大手は試作品など複雑で少量の加工品は効率が悪いので外 注してきます。機械を導入することで受注でき、しかも難しい技術的なノウハウがその都 度財産として蓄積されるのです」
さらに、仕事を小物に絞り込むことで材料費があまりかからないため、受注量が少なく ても多めに製造しておき、顧客の急な必要にも応じられることです。これは、「仕事は多い ほど良い」という常識から「少ないから良い」という逆転の発想につながります。こうし てニッチな受注を獲得する中で、価格競争とは無縁に顧客を確保し続けることができるの です。
ただし、小物、少量ということは、けっして軽微なことを意味しません。現実にマッチ