本章で提案する誤差評価手法の妥当性を,2.6節で用いたシミュレーションモデルを用い て検証する.同定加振力の分散を推定するためには,アクセレランスの分散・共分散を推 定する必要があるため,初めに5.5.1項でアクセレランスの分散・共分散推定手法の妥当性 を検証する.そして5.5.2項では,同定加振力の分散推定結果を示す.実稼動応答の分散自 体は前章で推定したものと同じであるが,逆行列法においても同様に誤差の推定が可能で あることを示すために本節でも結果を示す.
使用するモデルは2.6節で用いた系とし,全体系の m9からm16における実稼動加速度を 用いて入力を同定する.そしてアクセレランス推定に用いる加振力・加速度スペクトルの みにノイズを混入する.
5.5.1 アクセレランスの分散推定結果
本節では,4 入力8 応答のアクセレランスを用いて入力同定を行なうため,32点のアク セレランスを用いるが,これら全ての分散・共分散推定結果を示すのは現実的ではない.
そこでm13#pにおける駆動点アクセレランスの分散と,同様に駆動点アクセレランスとm14#p 入力・m13#p応答の相互アクセレランスとの共分散を示す.
図 5.1 に推定された分散と,標本分散を比較する.標本分散は,アクセレランス推定を 100回繰り返すことで得られる.また,図5.2には共分散の推定値と標本値を示す.共分散 は複素数であり,本来は位相を有するがここでは絶対値のみ示している.いずれも推定値 と標本分散は概ね一致しており,分散推定手法の妥当性を示した.
図5.1 アクセレランスの分散推定結果
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
10-10 10-8 10-6 10-4 10-2 100
Frequency [Hz]
Variance [((m/s2 )/N)2 ]
Sample variance Estimated
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
10-10 10-8 10-6 10-4 10-2 100
Frequency [Hz]
Co-variance [((m/s2 )/N)2 ]
Sample variance Estimated
図5.2 アクセレランスの共分散推定結果
5.5.2 同定加振力の分散推定結果
次に動質量の推定誤差に起因した同定加振力の分散推定結果を図5.3 に示す.本項では,
Path1における分散推定結果を示す.ここでも標本分散と推定値は概ね一致しており,推定
手法の妥当性を示した.
ここでは式(5.5)に基づき,アクセレランスの分散と共分散を用いて同定加振力の分散を推 定した.しかし本シミュレーションにおいて入力点間の誤差は無相関であるため,アクセ レランスの共分散は無視して分散のみを用いて,同定加振力の分散を推定できると考えら れる.式(5.5)においてアクセレランスの分散のみを考慮すると次式になる.
(5.21)
∑ ∑
( )= =
⎟ ⎠
⎜ ⎞
⎝
=
n⎛
l
m
k
k l H l i k k l
f
G
iA G
i 1 1
2 , , ,
* , 2
ˆ
σ
σ
そして,式(5.21)で推定される同定加振力の分散推定結果と式(5.5)で推定される分散推定 結果の比較を図5.4に示す.アクセレランスの共分散を無視しても,式(5.5)に基づいて推定 された分散と同等の結果を得ることがわかる.よって,多点同時加振時におけるアクセレ ランスの共分散を無視しても良いといえる.
図5.3 アクセレランスの推定誤差に起因する同定加振力の分散推定結果
10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
10-6 10-5 10-4 10-3 10-2 10-1 100 101
Variance [N2 ]
Frequency [Hz]
Sample variance Estimated
図5.4 共分散を考慮した場合と分散のみを用いた場合の比較
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
10-6 10-5 10-4 10-3 10-2 10-1 100 101
Frequency [Hz]
Variance [N2 ]
Using variance and co-variance Using variance only
次に,実稼動応答の計測誤差に起因する同定加振力の分散推定結果を図5.5に示す.ここ でも第 4章と同様に,実稼動時に作用する独立な入力は 1 点だけであるため,実稼動応答 のスペクトル行列の第 2 主成分以降をノイズ成分とみなして,実稼動応答の分散・共分散 行列Caを推定している.そして図から,逆行列法の場合においても,実稼動応答の計測誤 差に起因した同定加振力の分散を推定可能であることが分かる.
10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
10-6 10-4 10-2 100 102
Variance [N2 ]
Frequency [Hz]
Sample variance Estimated
5.5.3 同定加振力の信頼係数
図5.6には,推定された同定加振力の分散を用いて得られる信頼係数を,図5.7にはPath1 における同定加振力の,真値に対する相対誤差を示す.相対誤差は式(4.37)で得られる.こ れらの図を比較すると,同定誤差の大きい周波数において信頼係数が低下していることか ら,信頼係数を用いて逆行列法による加振力の同定精度を評価できることがわかる.
図5.6 Path1における同定加振力の信頼係数
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
Reliability coefficient [-]
Frequency [Hz]
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
10-6 10-4 10-2 100 102 104
Frequency [Hz]
Relative error [-]
図5.7 Path1における同定加振力と真値の相対誤差
最後に,逆行列法と動質量法で同定された力の信頼係数を比較することで,動質量法の 有効性を検討する.ただし同定精度の差異が顕著に表われるようにするために,ここでは 全体系のm13からm16における実稼動加速度を用いて入力を同定している.図5.8に信頼係
数の比較を示す.ほとんどの周波数において,動質量法の方が信頼係数が高い値をとって おり,動質量法の有効性が示された.
なお図5.8において,逆行列法による同定加振力の信頼係数の値がほぼ0になっている周 波数が存在する.これらの周波数はPassive partの固有振動数に相当し,コヒーレンスは比 較的高い値を示している.しかし固有振動数のため式(5.14)に示す加速度の二乗和 Wyyが増 加するため,加速度の分散σy
2が大きくなり,信頼係数が著しく低下している.
図5.8 逆行列法と動質量法の信頼係数比較
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
Frequency [Hz]
Reliability coefficient [-]
Matrix inversion Apparent mass