136
図5-25 歌声サロン:サービス価値共創モデル
137
が楽しくなったこと」「歌の知識がわかったこと」などが、参加の継続につながっていた。
歌声サロンでは、まずこのような環境にするため、活動環境の改善が必要であった。
アクションにより、スライドを用いて活動環境の改善を加えたことで、多くの参加者がモ チベーション・自己実現能力(スキル)を向上させる活性化スパイラルを回すことにつなげ られた。「難しい話が苦手」「反応・意見がない」活動であっても、高齢者の「聴力」など の問題を見出し、解決をはかることで、自己実現に向けた能力取得意欲につながることが見 出せた。
またスライドによる意見交換が起こったことで、活動の場が活気づき、グループ内の環境、
モチベーションにも良い影響があった。
ゲスト指導によって、グループの「音楽の和」もできたことで、グループ能力の向上とな った。グループの良いまとまりは、活動の継続と、他の社会活動にも参加意欲を促し、個人 の自己実現(生きがい)を築いていた。
[活動成果の発表]
活動には、目的意識が必要である。「同じ曲に練習を重ね」「発表が楽しい」ことで、よ ほどの用事が入らない限り、参加しようという意欲がある。
「参加した記念として大事にするプログラムの作成に関わる」こと、「2 声部や、ドイツ 語に挑戦する」こと、少し難しい「アンサンブルとの共創」をゲスト指導と共に行うこと、
これらは、アクションの効果であった。
歌を提供する同世代の聴衆からは、手拍子や拍手による反応が得られ「嬉しさ」を感じさ せる。前に立って歌う緊張もリラックスさせる効果がある。コンサートの緊張感は、自由記 述からも多いことが明らかになったが、それが「楽しさ」につながり、活性化した活動とな っていく様子がわかった。
5.6.2 サービス視点からの考察
歌声サロンの提供するサービスは、自分たちの居住する地域包括ケアの拠点である特養ホ ームに対して行われる。他ブロックからの参加者もいるが、メディエーターのように、地域 に長く暮らしている者は、かつて見知っていた顔を、会場の聴衆の中に見つけることもある。
3 回のコンサートの観察においては、そのような聴衆に対し、終了後に声を掛け合う様子も 見られた。
「自分が健康でいられる事の感謝を伝えたい」「御恩返し」「地域へのお礼」という意見
138
もあった。これは自分の住む身近な地域へ対する、高齢者ならでは、のサービス視点と言え る。
また、活動で良いと思うことに「懐かしい歌に親しめる」ことが多く、「聴衆には知って いる歌が良いと感じる」とあったように、参加者は、聴衆に対しても「懐かしい歌を提供し て、喜んでもらいたい」という気持ちがある。そして、手拍子を打ったり、生き生きとして 聴いてくれる聴衆の様子は、参加者の満足感となる。喜んでくれることが、はりあいとなり、
また次の発表に向け、発声などに気をつけて活動を続けるモチベーションとなっていた。
5.6.3 リーダー・メディエーターの役割
歌声サロンは、地域に顔が広いメディエーターが発起人となり、指導者に声をかけて実現 した活動である。このため、メディエーターは「参加者の要望」を得ると、すぐに指導者に 伝えるという、活性化した活動づくりに向けた理想的な連携がはかられていた。高齢者の活 動には、カリスマ性のあるリーダーも必要であるが、連携しつつも参加者側の希望を聞き、
参加者としての声も上げるメディエーターの役割が重要である。
しかし、第九を歌う練習では、難易度をさらに上げたい意向を持つグループと、現状維持 を望むグループがいた。指導者の数が、ゲスト指導含めて一時的に3 名となり、メディエー ター1 名の声が届きにくく感じた。この際は補助的に間に入り、メディエーターの意見を取 り入れることを提案、他の参加者にも、協力を促した。この経緯から、指導者とメディエー ターは同数が望ましいことがわかった。
メディエーターは、地域に顔が広く、実際には、活動の場以外でも、参加者に対する配慮 を多く行っている。他の事例と同じく、前方で指導し、目立った働きかけとなるリーダーと 異なり、地域内での個々人に対する尽力が多い。小玉ら(2009)の述べるように、参加者に対 するネットワークの結節点となっている。高齢者のコミュニティ活動においては、こうした メディエーターの存在が活性化の大きな要因であると言える。
5.6.4 アクションリサーチのまとめ
S 地域は、もともと老人クラブも地域の商店など、自治会経験者が主体であり、きっかけ がないと、活動を知ることさえない。マンション住まいが大半を占め、特に企業経験者は定 年後の余暇をどう過ごすかが、課題である。
参与観察中、第1 回のコンサートを行うまでは、全員が発言もなく、「どちらが良いか、
139
手を挙げて」と促しても、誰一人として挙手すら行わない中でのスタートであった。数名は 熱心な参加者も見られたが、とてもグループモチベーションの形成は難しいと思われ、活動 の存続も疑問に思われた。
参加者は、目的がないと、「より簡単なもの」の方に流される。「この年になって難しい ことはわからない」「お話が長い、ただたくさん歌いたい」という発言も、サロンの開始時 には多く耳にしていた。だんだん聴力も衰える。これには、個人差もある。聞こえなければ、
能力の向上や、生きがい形成以前に「つまらない」のだ、ということもわかった。これが、
スライド利用を導入するきっかけになった。実際に開始直後に来なくなった参加者もいたが、
活性化した活動になってからは、遠ざかった参加者を再び引き寄せることもあった。
観察中に、長期入院していた者が「やっと参加できた」と復帰した例も少なからず見られ た。活性化したコミュニティ活動は、このような参加者に「帰れる場所」も築く。
インタビューからわかったように、歌声サロンでは参加者全員が健康というわけではなく、
高齢による体の不調や、多様な悩みを抱えながら、「自分でもできること」を探して、サロ ンに辿り着いている。このような参加者たちが、生きがいを形成し、QOL向上となる活性化 した活動を行うためには、(B)「自己実現に向けた能力(スキル)取得の場」を築き、(D)「グ ループ能力を高め、環境の場を良好に」することで、(C)「自己実現(生きがい)の場」が形 成されて(A)「能力取得に向けた個人のモチベーション」が続くようにすることである。この 実現に向けては、アクションが功を奏した。そして、(E) リーダー・メディエーターが、こ の活性化スパイラルを支える。(F) 成果発表ともなるコンサートは、同世代・同地域の聴衆 に向けたサービス提供となる。良い反応は、参加者の満足と、活動の活性化となっていた。
サービス視点を取り入れたコミュニティ活動は、高齢者に非常に親和性があることもわか った。「今どきの歌はわからない、今日は懐かしく知っている歌ばかりで、楽しかった」と いう聴衆の意見があったように、ボランティア活動・慰問の提供は、必ずしも望まれている ものばかりではない。高齢者は、サービス提供を行いながら、どのような「もてなし」をし たら喜ばれるのか、考える。知人が聴衆にいることもある。「楽しかった、有難う。」と言 ってくれることが、大きな満足になる。サロン参加者は、聴衆に「より良い歌を聴いてもら おう」とするが、「知っている曲」が良いことを、聴衆の反応から見出していた。「自分が 特養に入った時に、こういう企画があったら嬉しい」と考える参加者もいた。サービスとし ての「おもてなし価値」の提供のため、相手のニーズをつかんでいることになる(中村ら2013)。
緊張しても、聴いてくれる聴衆のおかげで、楽しい記憶となる。また、次のコンサートまで
140
1 年、頑張って健康でいようとする。聴衆からも「これが聞けたから頑張って長生きしない と」という感想があった。
これが、アクションリサーチを行ったことで、検証できた、サービス価値共創である。