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−これからの学校教育の動きも含めて−

ドキュメント内 D.o...p_ ec5 (ページ 126-138)

 日 時:平成19年2月26日(月)15:00〜16:30  場 所:名古屋女子大学中学校高等学校

参加者:62名(中学校・高等学校教員49名、大学・

短期大学部教職員13名)

■道徳教育は「スローフード」

 皆さん、こんにちは。ご紹介いただきました永田と申 します。あこがれの鈴木文悟校長先生の学校へ参ること ができて、こんなに幸せなことはありません。それは、

先ほどの紹介の中にありましたように、以前、同じ職場 におりまして、私の方が「ああ、こんな先生になりたい」

と思い、鈴木先生の後ろを追いかけていたからです。

 しかも、この愛知県は今、日本で一番元気なところで す。名古屋に参ると東京よりも花粉症のマスクをしてい る人が急に減ったように感じるのは気のせいでしょうか。

 そしてもう一つ、ここに参る途中に電車などで懐かし い言葉をたくさん聞きました。特にお年寄りの言葉は自 分の母親と同じでした。私は静岡生まれで、隣の静岡県 の農村地帯に高校時代まで住んでいて、母は静岡弁だか らでしょうか。個人的なことですが、ずっと中日新聞を 読んでいましたし、名古屋は私の生活圏の一部だったな と思っています。

 ところで、私は農家生まれですので、田んぼの景色を よく見るのですが、この冬は特に暖冬であるため、郊外 の田んぼを見てみますと、「ひつじ田」になっていること がよくあります。秋に稲を刈り取ったあと、その切り株 からすっと芽が伸びて、田植えをしたわけでもないのに 田植えをしたように青々としていることを言います。ど うして切り株からまた芽が伸びてくるのでしょうか。そ れは、見えない地下に「命の力」があるからです。そこ に生命力がしっかりと宿っているのです。

 私たちは、見える学力、つまり、花の数や実の粒の大 きさ、粒の量、あるいは茎の太さ、葉っぱの色を見がち です。しかし本当の心の活力とも言うべき力は、間違い なく、その根っこの深さや根のはり具合の生命力の中に あります。その心の力を深くしていくのが、心の教育で あり道徳教育です。

 しかし、深さをすぐに評価することはできません。だ から、心を育てる道徳教育は「スローフード」なのです。

1年間手塩にかけて育てるような「スローフード」です。

それは、「ゆっくり」というイメージが強いかもしれませ んが、そうではなく、「じっくり」と取り組むものなので す。中身が伴っていて、じっくりと練習する。何時間も、

何回も繰り返す、それが熟成です。そのような見えない 根の深さを育てること、それが今日のテーマ「豊かさと 活力を育てる心の教育」につながります。

 この後、5ページほどのレジュメと別添の参考資料を 覗きながらお聞きください。

■50年前と今の時代を比べて

 まず、この画面をご覧ください。遠くの方には夕日に 映えてタワーが途中まで建っています。テレビ塔ではあ りません。東京タワーです。東京に路面電車も走ってい ます。この映画をご覧になったことがある方はどのぐら いいらっしゃいますか。

 何人かいらっしゃいますね。そうです。『ALWAYS・

三丁目の夕日』という映画です。昨年度は、この映画が 感動を呼び、「日本アカデミー賞」をとりました。必ずし も目立って多くの人が見たというわけではないのになぜ でしょう。

 さて、この背景は昭和何年でしょうか。おわかりにな る方はいますか…。長嶋選手が背番号3をつけて入団し た年。東京タワーの高さは333メートル。だからという わけでもないのですが、昭和33年です。今からほぼ50 年前です。この映画には、家族愛と地域愛が描かれてい ます。人々がぶつかり合いながらも成長していく。この 映画が感動をよび、「日本アカデミー賞」をとったことの ヒントが、このパンフレットの裏表紙の言葉にあります。

 「携帯もパソコンもテレビもなかったのに、どうして 平成18年度 教育講演会

豊かさと活力を育てる心の教育

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あんなに楽しかったのだろう」。

 50年前、携帯やパソコンはもちろん、テレビもなく、

ただ1つあったのがラジオでした。実際に、この映画の なかでも、やっとテレビがやってきて、堀北真希という 女優が一生懸命に修理しようとして、逆に壊してしまう 場面があります。

■規範意識が低下し、モラルが崩れる

 レジュメに「自己中心グッズ」とあります。当時は、

その「自己中心グッズ」がほとんどなかったのです。個 にこもるためのグッズです。話をするのが嫌だから親指 で会話するわけです。統計によりますと、中学生で1日 平均3時間以上そのようなグッズに触れています。中学 生の自由時間が学校以外で8時間もないはずなのに、そ の半分が個のなかに入っているのです。そうすればする ほど「プライベート空間」が増大し、公共の場、つまり 電車の中や地下鉄の中という公共の場も私的汚染が進む わけです。車中で目の置き場のないほどにお化粧をする 人、シルバーシートに座りながら携帯メールを打ってい る人には退場していただきたいですね。

 図1をご覧ください。

 今、求められる規範意識には大きく2つに分けてルー ルとマナーがあります。電車の中で言うならば、シル バーシートの場所に「お年寄りや体の不自由な人に席を 譲りましょう」とあるのはいわばルールです。マナーは、

シルバーシート以外のところでも当たり前のように席を 譲る、携帯メールなども控えめにするということです。

 そして、ルールとマナーの外側にもう1つ、モラルが 付け加えられます。それは、車中では込んでいても空い ていても物などは食べない。誰も見ていないとしても、

恥ずかしくて自分ではできないという思いです。それは 規律ではなく、いわば自律、自分を律することですね。

本当のモラルは自律であり、自分の生き方の問題です。

世間が見ていなくても「お天道さまが見ている」わけです。

隣に彼氏が座っていようものならば絶対にお化粧をしな

いのに、電車の中で衆目があっても化粧をしてしまう感 覚は私にはわかりません。

 このような新書が出ているのをご存じでしょうか。

『他人を見下す若者たち』(著:速水敏彦)です。また、

こんな本もあります。『オレ様化する子どもたち』(著:

諏訪哲二)。これは主として小・中学生の実態を描いてい ます。この2つの本の背景はつながっています。若い世 代から子どもの世代へとずっと後送りされている問題は、

この「自己中心グッズ」など、個に入るものの多いこと が引き金になっています。『ALWAYS・三丁目の夕日』

の時代にはなかった問題だと言えそうです。

■子どもの自尊感情が二極化している

 もう1つ、「自尊感情の二極化」の問題があります。ま ず、自分の居場所が不安定だと感じている子どもがいま す。自分が友だちのなかに受け入れられているかどうか わからない。いわば自尊感情が低く、それをもちにくい 子どもです。

 しかし一方で、その自尊感情が高すぎる子どもの問題 もあります。そのため「自尊感情の二極化」が起こります。

最近、いわゆる「誇大自己」、または「自己誇大傾向」の 子どもが増えていると言われます。『誇大自己症候群』と いうタイトルの本を京都医療少年院の岡田尊司先生が書 かれています。自己が肥大化してしまうのはなぜか。そ れは、ハイテク環境の中で思い通りになる空間が広がっ ているからだと言います。

 それを表すと、次の図のようになりそうです。

 例えば、小学校時代にテレビゲームなどを1日1時間 くらいやって育ってきている子どもを追跡すると、そう なる傾向が強い。なぜならば、テレビゲームのような世 界ではおおかた関門をクリアできるからです。世の中で は、いくら一生懸命にやっても、9割はうまくいかない のです。しかし、ゲームの世界では詰まるところ9割が うまくいくのです。だから、幼い頃から過度な万能感が 育ってしまって誇大自己になっていくわけです。

 『下流社会・新たな階層集団の出現』という本を書いた

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三浦展(あつし)先生は、そのような環境を「ファスト 風土」と表します。最初に「スローフード」と申しまし たが、「フード」ではなく「風土」という文字を使います。

思わず頷いてしまいますね。思い通りにならないと嫌だ という風土が、まさに「まず自分」という感覚を助長し ているのです。

 今、問題となっているいじめの構造は、自尊感情が強 すぎる子どもから不十分な子どもに向かって起こりがち です。例えば、中学生、高校生のいじめの起因を追跡し たところ、半分以上が携帯電話やパソコンなどと絡んで いるというデータさえあります。例えば、突然ある子ど もにメールが届かなくなる。逆に、ある子どもに一気に 何らかのメールが届く。しかも、そのコミュニケーショ ンが地下にもぐってしまっているわけです。今までは家 庭で受話器を持って話していて、「じゃあ、切るよ」とま で聞こえていたのが、全部メールでやりとりしているか ら、わからなくなってしまったのですね。今の中・高校 生は、最初からそういう時代を生きているわけです。情 報通信グッズに免疫がないまま、このようなコミュニ ケーションの方が心地がよいと思ってしまうところにも 怖さがあります。ちなみに、人間関係にもまれてきた私 たち大人は、免疫があるから大丈夫なのです。

 道徳教育、心の教育は、「子どものせいにしない教育」

「共に変わる教育」なのです。子どもたちが、心の問題、

心の不安定さを生み出していたら、それは大人の問題だ と考えなければいけません。ほとんどの問題が大人が 作った環境のなかで生まれてきているからです。大人が 子どもと共に変わろうとすることが大切です。

 この「規範意識」と「自尊感情」の2つの言葉は、今 回の学習指導要領の改訂の重要なキーワードになってい ます。

■心の問題に伴う子どもたちの学力不安、体力の低下  自尊感情の二極化とともに、子どもの学力も二極化し てきているといわれます。

 1年程前に、文部科学省が新しい学習指導要領の方向 性を「審議経過報告」というかたちで出しました。その なかに、「学力の状況と心と体の実態」が示されています。

そこにも、学力の状況について、日本全体に分散化の傾 向が強まっていることが指摘されています。 国立教育 政策研究所で調査したものを処理してみても、特に中学 校の数学などはその傾向が強くなっています。例えば、

分布曲線は少し歪んでも、このような正規分布になるわ けです。しかし今、真ん中の子どもが崩れて、低い方に 落ちています。これは皆さんもご存じだと思いますが、

PISA調査で出てきた傾向と同じです。5の子どもは変

わらない。3の子どもが2、2の子どもが1になって分 極化の傾向が強まっているのです。

 OECD・PISA(学習到達度調査)調査は、高校 1年生の6月に実施していますが、2000年度から実施し ている調査内容に「落書き」に関する問題があります。そ れには、2つの文が書かれていて、上の文はヘルガさん の「落書きは芸術を台無しにする」という意見です。下 の文のソフィアさんは、「落書きだって、その人の生き方、

人生さまざま」ということでやや一貫せずに書いている わけです。この2つの意見文を比べさせる問題が置かれ ます。例えば、問2は「ソフィアさんが広告を引き合い に出している理由を述べなさい」、問3は「自分なりの言 葉を使ってあなたの答えを説明しなさい」、問4は「あな たの意見ではどちらがよいと思いますか。片方、あるい は両方の手紙の書き方にふれながら、あなたの答えを述 べなさい」とあります。

 PISA型読解力はそこまで求めているのです。あな たが何と考えるか。相手の立場になって自分の考えを表 明しなさいというわけです。これは3年ごとに実施して いますが、2003年度の調査では急激に白紙答案が増えま した。4割ぐらいの生徒が白紙のままとする問題もある など、世界で一番書き込んでいないといってよいのです。

面倒なことは避けるというハイテク環境だからこうなっ てしまうのでしょうか。その結果、読解力が世界のトッ プクラスから一気に平均値程度まで落ちました。「読解 力向上プログラムの全体像」にありますように、「学校で の取組」として、特に「自分の意見を述べたり書いたり する機会の充実」を挙げています。自分の意見を筋道立 てて発信する力が読解力の要であるということです。受 信することだけではないわけです。

 実はある学校が体験的な活動を様々に進めていますが、

その学校では、この落書きの問題をしてもらったところ 実によく書き込んでいたと言います。つまり、実感的な 体験や真剣に考える機会などがあれば書くことができ、

書きたくなるのです。体を動かしたり、活動したりしな がら心を動かすことも大切です。

 この学力不安がそのまま体力の二極化にもつながって いるといえます。実際には、部活動をやっている子ども と運動に疎遠な子どもとの二分極化もありますが。

 データによれば、20年前の昭和63年ぐらいの小学校 高学年の男子の体力と、今の高学年の女子の体力がほぼ 同じになってきています。20年間で、今の女子が20年 前の男子を抜こうとしているわけです。それほどに落ち てきています。体力全体の傾向も、例えば、昭和30年あ たりからずっと伸びてきて、昭和40年代も伸びていった のですが、昭和50年代は横ばい、そして、平成になった

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