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化学と生物 Vol. 55, No. 11, 2017
本 研 究 は,日 本 農 芸 化 学 会2017年 度 大 会(開 催 地:京 都 女 子大)の「ジュニア農芸化学会」で発表されたものである.
新潟県では林業を活性化させる政策の一つとして,県産杉の ブランド化が試みられており,さらなる高付加価値化を目指 した「越後香素杉」が開発されている.この特徴の一つであ る香りに着目し,木材中に含まれる精油を抽出し成分を分析 することで,一般杉材と比較したときの優位性を明らかにし た.
本研究の目的,方法および結果
【目的】
日本は国土の約7割が森林に覆われている森林大国で ある.さらに,戦後国策として進められた造林は利用可 能な段階に入り伐採の時期にきているが,安価な外国産 材への依存や林業の担い手不足のため森林の適切な管理 ができず,土砂の流出や環境悪化が懸念されている.そ こで,農林水産省は平成21年に「森林・林業再生プラ ン〜コンクリート社会から木の社会へ」を策定し,現在 3割程度の木材自給率を5割まで増やすことを目標に,
森林保全ならびに地域における林業・木材産業の資源創 造型産業の活性化を推進している(1).このため,木材の 需要を喚起するために日本各地で「木材のブランド化」
が進められている.
新潟県では,「越後杉」として県産杉のブランド化が 試みられており,なかでも超低温乾燥製法で生産された
「越後香素杉」(図1)は,一般的な木材乾燥温度(70〜
100 C)よりはるかに低い45 Cでゆっくりと乾燥させる ため,精油(アロマオイル)成分が豊富に残り,香りが 良いとされている高付加価値化した建材である.しかし
ながら,感覚的な評価にとどまっていたため,定量的な 評価法を確立し,本建材のブランド化を通じて地域貢献 することを目的とした.
【方法】
1. 精油の抽出
株式会社笠原建設(新潟県,糸魚川市)より供与いた だいた越後香素杉(45 C乾燥)と高温乾燥杉(70 C乾 燥)を用いて,予備試験は,鉋屑各10 gにヘキサンある いはエーテル200 mLを入れ,30分間放置後,硫酸マグ ネシウム2 g添加し,脱水処理後ろ過した.ろ液をエバ ポレーターで濃縮後,サンプル瓶に回収し重量を測定し た.本試験はヘキサンですべて抽出し,同様の操作で実 施した(図2).
2. GC-MSによる成分解析
GC-MS分析は,GCMS-QP2010(Shimadzu Corp., Kyoto, Japan)を用いて実施した.カラムはシリカキャピラ
図1■越後香素杉
日本農芸化学会
● 化学 と 生物
越後香素杉のブランド化
定量的な評価法の開発
長岡工業高等専門学校,赤澤プレラボアロマ班
吉沢舞凜,稲生穂乃香(顧問:赤澤真一,鈴木秋弘,星井進介,髙松貴子,
村上祐貴,上村健二)
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リ ー カ ラ ム を 用 い た[ZB-WAX plus, 30 m length×
0.25 mm i.d.(Phenomenex Inc., CA, USA)].分析は以 下の条件で実施した:100〜220 C,昇温10 C/min, INJ 250 C,DET 250 C,キ ャ リ ア ガ スHe(流 速1 mL/
min).
【結果と考察】
1. 精油の抽出
ヘキサンとエーテルによる抽出試験では,高温乾燥杉 の精油量を1とした場合,ヘキサンでは相対比が1.94と 高く(表1),明確な差があったことからヘキサン抽出 で以降の実験を行った.
各10サンプルについてヘキサンで精油を抽出した結 果,越後香素杉の平均収量は179.2 mg,高温乾燥杉では 123.1 mgとなり,越後香素杉のほうが1.46倍多く精油を 含んでいることがわかり,製法により精油量に有意
( <0.05)に差があることが明らかとなった(図3). 2. GC-MSによる成分解析
杉の成分としてさまざまな香気成分が報告されている が,防虫効果が報告されており,香りを特徴づけるとさ れているα-muurolene, δ-cadineneのセスキテルペンお よびセスキテルペンアルコールであるβ-eudesmolの含 有量について検討した(2〜4).
GC-MS分析の結果,α-muurolene, δ-cadineneは越後 香素杉のほうが有意に多く含まれていることが明らかと なった( <0.05)(図4).特にα-muurolene含量は高温 乾燥杉と比較し約1.5倍多く含まれていることが明らか となった.
以上より,越後香素杉は通常の製法で作製した建材と 比較して,有意に精油量および主要香気成分が多く含ま れていることが明らかとなった.今後は木による精油量 の違いを検討するとともに,α-pineneなどのモノテルペ ンや強度など新たな指標についても比較することで,定
図2■精油抽出法
表1■ヘキサンおよびエーテルを用いた精油抽出量と相対比 抽出溶媒 越後香素杉(mg) 高温乾燥杉(mg) 相対比 ヘキサン 113.5±1.4 58.5±2.1 1.94 エーテル 113.0±6.4 97.5±12 1.16
図3■越後香素杉と高温乾燥杉から抽出した精油量
ヘキサンで抽出し濃縮した重量を測定した( <0.05).エラー バーは標準偏差を示す.
図4■越後香素杉と高温乾燥杉に含まれる香気成分量の比較 白 は 越 後 香 素 杉,黒 は 高 温 乾 燥 杉 を 示 す.α-muurolene, δ-cadinene( <0.05),β-eudesmol( >0.05).エラーバーは標準 偏差を示す.
日本農芸化学会
● 化学 と 生物
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量的な評価法を確立する.
本研究は低学年研究教育を活性化させるプレラボ制度 を活用し(5),学科横断・技術職員参加型教育研究活動の 一環として実施した.
本研究の意義と展望
建造物や木材加工品に使われた杉材には,自然のぬく もり,手触りの柔らかさ,心地よい香りなど,どちらか というと感性に訴える要素を強く感じる.昨今では,そ のような品質について感覚的・主観的に評価するだけで はなく,科学的な裏づけが求められるようになってき た.今回香りに注目し,化学的な分析結果から一般杉材 との違いを明らかにしたことは,まさに感性を科学的に
とらえる一端となったものと考える.今後のさらなる研 究の発展を期待したい.
文献
1) 農林水産省: 森林・林業再生プラン〜コンクリート社会 から木の社会へ ,2009.
2) M. Yatagai, H. Makihara & K. Oba: , 48, 51 (2002).
3) 独立行政法人森林総合研究所: 木質建材から放散される 揮発性有機化合物の評価と快適性増進効果の解明 ,森林 総合研究所交付金プロジェクト研究成果集5, 2005.
4) 大平辰郎: , 4, 8 (2003).
5) 赤澤真一,田原喜宏他:長岡工業高等専門学校研究紀要,
52,78(2016).
(文責「化学と生物」編集委員)
Copyright © 2017 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.55.783
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