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化学と生物 Vol. 56, No. 3, 2018
ガードナー賞受賞に寄せて
竹島 浩
京都大学大学院薬学研究科教授 遠藤先生の2017年ガードナー賞の受賞,心よりお祝
い申し上げます.顕著な国際的な科学賞の受賞歴は既に 絢爛を極めている感がありますが,このたびの受賞は
「化学と生物」特別号の企画も伴い喜ばしい限りです.
僭越ながら,遠藤研究室の門下生であった35年程前の 記憶をたどりながら,今,綴っております.
三共より農工大に遠藤先生が異動されて約3年が経過 した1982年に,小生は農芸化学科4年生になっておりま した.学部卒研生として発酵学研究室に入門し,修士課 程も含めて計3年間にわたり遠藤先生には御世話になり ました.学部時代に一通りの遊びを覚えて座学劣等生に 転落したために(遊興実学優等生?),修士課程の夏季 入試では不合格をいただき,年度末の二次募集にて辛う じて拾っていただきました.当時は想像することもな かったのですが,この時期はスタチンの医薬品開発にお ける最終段階に当たり,遠藤先生にはどのような情報や 用務が集中し,どのような胸中にて研究室の指揮を執っ ておられたのかと興味が尽きません.いずれにせよ民間 企業における偉業の実績があり,ほかの学内教官とは異 なる雰囲気の遠藤先生が着座した研究室セミナーには張 り詰めた空気が流れ,教室員一同は緊張の面持ちで参画 していたことを思い出します.
研究室では土壌試料よりカビを単離し,その培養濾液 から生理活性物質を探索する作業が日常的に行われてい ました.この工程における試験管内コレステロールまた は脂肪酸の生合成系を用いた阻害化合物の探索実験に小 生は参入しておりました.国民全体的に勤勉であった当 時は,ほぼ手作業の上記工程を所属学生は日々黙々とこ なしたのですが,何故か研究室が牧歌的または情熱的な 空気に支配されることもしばしばありました.カビ単離 用の寒天培地作りではジャガイモを大量に煮出したもの ですが,ガーゼ濾過した残渣に野菜と塩コショー・マヨ ネーズを加えて,卒業生から届いた御中元のビールや日 本酒を低温室よりもち出せば,研究室が瞬時にコンパ会 場になりました.例年開催されていた研究室対抗のソフ トボール大会などの折には,遂行中の実験を総て一端中
断して,研究室員全員で試合に集中したものでした(写 真1).また,論文抄読セミナー終了後には,教官の面 前で躊躇して質問できなかった学生とセミナー担当者の 質疑応答が始まり,大学院生や企業研究生が参入して手 掛けている研究課題での討論に進展し,さらにはアル コールも加わり研究室運営などに関する深夜に至る議論 に発展することもたびたびありました.このような情景 は当時普遍的に散見されたのですが,現在の大学環境か らかなり消失しているものと実感しており,ノスタル ジックな回想は尽きません.しかしながら,ここは学会 誌ですので中断させていただき,記憶の中から学術にも 通ずる2件のエピソードを以下に紹介いたします.
遠藤先生の別荘へ招待していただける夏季旅行では,
比較的のんびりと車にて移動したものですが,学内では 拝見できない遠藤先生の意外な一面に触れられる機会で もありました.気が向くままに数カ所に立ち寄り土壌採 取したのですが,その折には地表からだけでなく,少し 深部まで掘り起こしサンプリングせよと指示されまし た.至極当然なことながら,微細環境の変化により菌叢 が変容することに配慮せよとの趣旨です.また,放線菌 からは多数の抗生物質が見いだされていますが,カビを 検索ソースとする事例は極めて少ないので,遠藤研究室 では放線菌には手を出さずに,カビ培養液のみを検索す
写真1■農工大農芸化学科1984年発酵学研究室メンバー 遠藤先生(前列左から2番目),蓮見先生(後列のバット,現,応 用生物科学科・発酵学研究室教授),小生(後列の緑シャツ).
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るとの方針も伺いました.半ば遊戯として作業していた 小生は,宝探しとも思える有用化合物の検索において も,継続的かつ緻密にオリジナルな実験系を整備・改善 することで偶発的なチャンスを逃さないことが重要であ るとともに,遠藤先生によるスタチン薬物第一号のコン パクチンの発見にもかなりの必然的要因があらかじめ張 り巡らされていたことも気づかされました.
コンパクチン原末の入ったバイアル瓶と小さなビニー ル袋3つを手渡され,正確に分包するようにと遠藤先生 より実験室内で指示されたこともありました.秤量して 分包した試料を持参しますと,アメリカの○○大学の△
△教授(残念ながら失念しています)からリクエストが あったので送付する試料であるとの説明を受けました.
当時発表され始めていた欧米グループからの研究論文に は,ブラウン・ゴールドシュタインによるコレステロー ル代謝研究(1985年ノーベル生理学・医学賞)への貢 献に代表されるように,リクエストに応じて遠藤先生が 分与したコンパクチンにより医学・生物学が発展した事 実が記録されています.たとえば,コレステロール合成 律速酵素HMG-CoAレダクターゼは,合成と分解により 発現量がダイナミックに調節される小胞体膜貫通タンパ ク質であることが既に判明していますが,当時は精製法 に依存して細胞質分画に酵素活性が回収されるため,そ
のタンパク化学的性質も不明瞭な状況でした.培養細胞 を徐々に高濃度のコンパクチンに馴化させると,HMG- CoAレダクターゼを大過剰に発現するコンパクチン耐 性株が樹立されます.この耐性株によりHMG-CoAレダ クターゼの構造が究明されるとともに,その分解メカニ ズムの研究が発芽して,現在のSCAP/SREBPによる転 写調節の研究に開花しています.まずは世界中からリク エストされるような独創的な有用化合物を発見すること が前提ですが,理不尽とも思える大量リクエストにも大 らかに対応された遠藤先生の度量の深さが印象的でした し,その尽力により大発展した学術領域を驚愕しながら 現在見つめている次第です.
白衣を脱ぎたくないとの想いで大学教官に転身したの だと当時伺ったこともあるですが,現在でも学会講演な どを担当する遠藤先生の一貫した科学者としての姿勢に は頭が下がります.2017年末にも生化学会・分子生物 学会合周年会のプレナリーレクチャー「スタチンの発見 と開発」の講演を担当され,近年の疫学解析により解明 された広範囲なスタチンの健康増進効果に関する最新知 見に至るまで丁寧に御発表いただきました.今後もご自 愛いただきながら,学生や若手研究者に勇気を与え続け るご活躍を祈念しております.
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プロフィール
竹 島 浩(Hiroshi TAKESHIMA)
<略歴>1983年東京農工大農学部卒業/
1989年京都大学大学院博士課程修了/京都 大学医学部助手,東京大学医学部助教授,
久留米大学生命科学研究所教授などを経て 2006年より現職<研究テーマと抱負>細 胞内Ca2+シグナルの形成機序と生理機能
<趣味>飲食店・居酒屋の探訪
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