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化学と生物 Vol. 53, No. 1, 2015
タンパク質研究の変化に呼応して
木村 誠
九州大学巻頭言 Top Column
Top Column
永く生きていると,生活のあらゆる分野 で無常を実感することになる.当然のこと ながら,タンパク質に関する研究分野も例 外ではない.筆者は約40年前,タンパク 質の一次構造に関する研究で,タンパク質 化学の実験手法を学んだ.当時の実験で は,まず細胞や組織からタンパク質を分離 し,各種液体カラムクロマトグラフィーに よりタンパク質を精製した.続いて,タン パク質の純度を電気泳動により評価後,タ ンパク質をプロテアーゼもしくは化学的試 薬により断片化し,各種カラムクロマトグ ラフィーによりペプチドを精製した.次 に,ペプチドを加水分解しアミノ酸組成を 分析した後,手動エドマン分解によりペプ チドのアミノ酸配列を決定した.このよう な実験操作を何回となく繰り返し,分子量 約3万のタンパク質の全アミノ酸を決定す るのに5年間を費やして農学博士の学位を 取得した.その後,自動アミノ酸配分析機 や高速液体クロマトグラフィーが開発さ れ,さらには遺伝子クローニングと塩基配 列決定技術がタンパク質研究へ導入され,
タンパク質研究を量および質ともに向上さ せた.筆者も遺伝子クローニング技術を習 得し,1回の電気泳動で約300塩基配列が 決定でき,その結果として100個のアミノ 酸配列が推定できたときには,一次構造研 究の進歩を実感したものである.
さらに,タンパク質研究に著しい変化を もたらしたのは,1990年代のモデル生物 の全ゲノム情報の解読である.まず,ゲノ ム情報に基づいて遺伝子を増幅し,大腸菌 や酵母を用いて生産後,付加タグにより容 易に組換えタンパク質を精製できるように なった.したがって,細胞からのタンパク 質の分離も必要ではなくなり,タンパク質 の精製技術もかなり簡素化されるように なった.また,ゲノム情報が既知であるこ とから,タンパク質の基礎情報としてのア ミノ酸配列の決定が不要になった.さら
に,最近の質量分析機器の技術革新も,従 来のアミノ酸配列によるタンパク質の同定 に比べ千倍程度の微量化を可能にしてい る.最近,これらの実験手法,最先端機 器,そしてゲノム情報を駆使して,生命現 象に関与するさまざまなタンパク質が同定 されている.筆者の関連分野でも,約30 年間未解明であったミトコンドリアや葉緑 体の前駆体tRNAプロセシング酵素が同定 され,同様の活性をもつリボザイムとの比 較により,リボザイムからエンザイムへの 生体触媒の分子進化が解明されようとして いる.
一方,このような最先端分析技術とゲノ ム情報は,タンパク質研究の変化にとどま らず,大学の研究教育体制にも改革を促し ているようだ.筆者が所属する地方大学の 一研究室では,最先端機器を購入すること は困難である.そこで,地方大学でも技術 革新に呼応して最先端機器を駆使したタン パク質研究を可能にするために,高度な実 験技術を習得した技術補佐員を伴った教育 研究支援センターが設置され,最先端分析 機器の集中化が試みられている.さらに,
地方大学では博士後期課程進学者が減少 し,質の高い研究を実施することが困難に なっているが,この対策として,学部と大 学院修士課程の6年間一環性カリキュラム への移行などが検討されている.
今後,次世代シークエンサーの導入に よって,ゲノム情報を含むさまざまな生物 情報がますます充実されるものと思われ る.各地の大学において知恵を絞って研究 教育組織を改革し,最先端技術とゲノム情 報を駆使した優れた研究が展開され,わが 国のタンパク質科学研究がますます発展す ることを楽しみにしている.
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化学と生物 Vol. 53, No. 1, 2015 プロフィル木 村 誠(Makoto KIMURA)
<略歴>1974年九州大学農学部農芸化学 科卒業/1979年同大学大学院農学研究科 農芸化学専攻博士課程修了/同年マックス プランク分子遺伝学研究所(ベルリン)研 究員/1988年九州大学農学部助手/1991 年同大学農学部助教授/2001年同大学大 学院農学研究院教授,現在に至る<研究 テーマと抱負>リボ核酸代謝に関連するタ ンパク質の構造と機能<趣味>スポーツ観 戦,ゴルフ