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黄麹菌 のタンパク質分解酵素 - J-Stage

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(1)

黄 麹 菌 の ゲ ノ ム 解 析 の 結 果,130種 の タンパク質分解酵素遺伝子が存在することが明らかとなって きた.この数は,同時期に発表された 属のなか では最大の数であった.麹菌タンパク質分解酵素の産業的重 要性が高いことを考え,これらの酵素の酵素化学的性質を明 らかにすることを試みている.これまでの結果からは,今ま でに麹菌では見つかっていなかった性質をもつ酵素がいくつ も存在することがわかってきた.また,菌株による基質特異 性の違いも示されてきた.これらの新しい酵素が産業的に利 用されることを願って,麹菌タンパク質分解酵素の概要を解 説する

黄麹菌 のタンパク質分解酵素

麹菌は,古くからわが国で醸造や醗酵に用いられてき た有用な糸状菌である(1).醸造や醗酵に用いられてきた のは,さまざまな有用酵素の生産能に優れているからで ある.この酵素の生産能を利用して,麹菌をタンパク質 の生産用ホストとして用いる試みがさまざまに行われて

いる(2〜4).麹菌と一口に言っても黄麹菌,醤油麹菌,黒

麹菌,白麹菌などさまざまな種類があるが,これら麹菌 を日本醸造学会は,わが国の伝統的醸造・醗酵食品生産 やユネスコ無形文化遺産にも認められた「和食文化の形 成」を担い,今後ますます産業的に重要な役割を果たす 重要な菌であることから「国菌」と認定した(5)

黄麹菌は,有性生殖世代が見いだされていない不完全 菌であり,遺伝学的解析や育種に関する知見がほとんど なかったが,2001年に国内の研究者,民間企業,独立行 政法人研究機関などが共同して,EST解析を行った(6). EST解析の後,多くの麹菌研究者がゲノム解析の必要 性を痛切に感じ,2005年には,黄麹菌   RIB40株の全ゲノムDNAの配列を報告するに至った(7). このゲノム解析により黄麹菌には,約12,000の遺伝子が 存在することが明らかにされた.

ゲノム解析の結果,黄麹菌には,134種類のタンパク 質分解酵素遺伝子が存在することが明らかとなった(8). ゲノム解析が行われる前に,よく知られていたタンパク 質分解酵素の数は僅か20種程度であった(表1

タンパク質分解酵素は,国際酵素委員会によって,タ ンパク質やペプチド内部のペプチド結合を加水分解する エンドペプチダーゼとタンパク質やペプチドの末端に存

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

【解説】

Proteolytic Enzymes of 

Youhei YAMAGATA, 東京農工大学大学院農学研究院

黄麹菌 のタンパク質分解酵素

山形洋平

(2)

在するペプチド結合を加水分解し,アミノ酸やジペプチ ド,トリペプチドなどを遊離するエキソペプチダーゼに 分類されている(9).エンドペプチダーゼは,さらに活性 中心のタイプによって分類されており,セリン,システ イン,アスパルティック,金属,スレオニン,未分類の 6つに,エキソ型ペプチダーゼはN-末端,C-末端のどち らから作用するかという作用様式で分類されている.最 近では,構造に基づくタンパク質分解酵素の分類体系で あ るMEROPSデ ー タ ベ ー ス に よ るaspartic, cysteine,  glutamic, metallo, asparagine, mixed, serine, threonine,  unknownの9つの分類が構造研究においてはよく用い られる(10).しかし,この分類では,エンド型とエキソ 型の酵素が混在しているため,産業分野においては国際

酵素委員会による分類が便利である.

これまでに,麹菌の酵素については,著名な先生方に よる総説がいくつもあるが(11〜13),ゲノム解析終了後に 明らかになってきた黄麹菌のプロテアーゼについて酵素 学的性質を中心に紹介したい.

ゲノム解析によって明らかとなった黄麹菌(  

RIB40株)のタンパク質分解酵素遺伝子の数を表2にま とめた.ゲノム解析修了後,われわれは,タンパク質分 解酵素遺伝子のcDNA配列の再検討と酵素活性の解析 を大規模に行い,スプライシング異常などにより機能を もつタンパク質として翻訳されていないことが明らかに なったものなどを除外して,現在では,エキソ型ペプチ ダーゼが69種,エンド型ペプチダーゼが64種の計126 種のタンパク質分解酵素が存在すると推定している.

アミノペプチダーゼ

アミノペプチダーゼは,N-末端からアミノ酸を順次遊 離する酵素である.現在は21種のアミノペプチダーゼ 遺伝子が黄麹菌ゲノム中に存在するものと考えている.

このなかでわれわれは,3種の菌体外ロイシンアミノペ プチダーゼを見いだしている.このうち2つは,

で 報 告 さ れ て い る 酵 素(14)の オ ル ソ ロ グ で あ る LapA(15)とLapAのアミノ酸配列と56%のidentityを示 すLapBで あ る. や は,LapAの オ ル ソログしかもっておらず, ,  , 

などは,LapBのオルソログしかもっていない.

近縁種のなかでは だけがLapAとLapBの両方 を有していた.LapAを麹菌で高発現させたところ,その 分子質量は33  kDaとなり,既報の  ATCC20386 株由来のロイシンアミノペプチダーゼI〜IV(16〜19)のい ずれの分子質量(26.5, 61.0, 56.0, 130 kDa)とも異なっ ていた.至適pHをpH 8.5付近にもち,LeuやPheなど の疎水性アミノ酸や塩基性アミノ酸をN-末端から遊離 する活性を示した.一方,Aspのような酸性のアミノ酸 はN-末端から遊離できなかった.さらに,ジペプチド からのアミノ酸の遊離が見られなかったことから基質と なるペプチドには3アミノ酸残基以上の長さが必要で あ る と 推 定 さ れ た.も う 一 つ のLapBは,  

ATCC20386から見いだされた発色性基質Xaa- -nitroan- ilide(pNA)のうちLeu-pNAを最もよく加水分解する が非常に特異性が低いaminopeptidase II(20)と推定アミ ノ酸配列が同じ酵素である.この酵素は,Leu-pNA,  Lys-pNA, Ala-pNA, Glu-pNAなどからアミノ酸を遊離 することができ,Val-pNA, Pro-pNA, Ile-pNAなどに弱

日本農芸化学会

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表1ゲノム解析以前に知られていた主な黄麹菌タンパク質分 解酵素

Types Enzyme names

Serine endopeptidases Oryzin(52)

Aorsin (Sedolisin family)(57) Kexin(38)

Cystein endopeptidase PalB(61) Metallo endopeptidase NPI(45)

Deuterolysin (NPII)(50) Aspartic endopeptidase Aspergillopepsin I(62) Aminopeptidases Leu aminopeptidase I‒IV(16‒19)

Aminopeptidase(20) Dipeptydyl peptidases Dipeptidyl peptidase IV(26) Serine carboxypeptidases Carboxypeptidase O,(32) O1, O2(34)

Acid carboxypeptidase I‒IV(63‒66)

表2ゲノム解析によって推定された黄麹菌タンパク質分解酵素 EC number Number of 

genes

Exopeptidase 69

Aminopeptidases 3.4.11.̲ 21

Dipeptidases 3.4.13.̲ 3

Dipeptidyl-peptidases and tripepti-

dyl-peptidases 3.4.14.̲ 8

Peptidyl-dipeptidases 3.4.15.̲ 0 Serine-type carboxypeptidases 3.4.16.̲ 12 Metallo carboxypeptidases 3.4.17.̲ 12

Unknown 13

Subtotal 69

Endopeptidase 64

Serine endopeptidases 3.4.21.̲ 11 Cysteine endopeptidases 3.4.22.̲ 12 Aspartic endopeptidases 3.4.23.̲ 14 Metallo endopeptidases 3.4.24.̲ 17 Threonine endopeptidases 3.4.25.1 7

Unknown 3

Subtotal 64

Total 126

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い活性をもつことがBlinkovskyらによって示されてお り,至適pHを9.5〜10にもつ.

細胞内にも多種類のアミノペプチダーゼが存在した.

DapAは,Watanabeらによって大腸菌で(21),また,楠 本らにより麹菌(22)を宿主とした組換え酵素として発現 された.Family M18に属するこの酵素は,Xaa-pNAを 基質とした際に,いずれの場合もAsp-pNAを最も良い 基質とし,次いでGlu-pNAを好む.それ以外のアミノ 酸では,ほとんど活性が見られない.麹菌で発現させた DapAでアンジオテンシンIIを処理すると末端のAspが 遊離し,アンジオテンシンIIIに変換されるが,それ以 上の分解が見られず,この酵素がペプチド基質に対して も酸性アミノ酸を好む高い基質特性をもつことが明らか となった.

細胞内には,基質特異性の高いアミノペプチダーゼが ほかにも存在する.AspAとAspBは,いずれもリシル アミノペプチダーゼであった(23).2つの酵素のアミノ酸 配列は,42%の同一性を示し,Xaa-pNAを基質とする といずれもLys-pNAを最も良い基質とし,次いでArg- pNA, Ala-pNA, Leu-pNA, Met-pNAの順に強い活性を 示した.これ以外のXaa-pNA基質はほとんど分解でき ない点まで共通していた.しかし,ペプチドを基質とす ると,2つの酵素の特異性の違いが明確に示された.

AspAは,ほとんどN末端のLysしか遊離できないのに 対して,AspBは,Lys-Glu-Thr-Tyr-Ser-Lysに反応させ た際,同ペプチドのN末端から順次アミノ酸を遊離し,

最後のSer‒Lys間のペプチド結合も加水分解することが できた.

基質特性が広いアミノペプチダーゼでも,N-末端から アミノ酸を順次遊離させていくうちに末端にPro残基が 出現すると,そこから先の分解ができなくなってしま う.PamAは,Pro残基がN-末端に存在する際,その Pro残基を認識して遊離するプロリルアミノペプチダー ゼであった(24).この酵素はヒドロキシプロリンに対し ても同様の活性を示し,Pro残基が連続して(Pro-Pro-)

 N-末端に存在してもPro残基を遊離することができる酵 素であった.

細胞内には,アミノ酸の立体異性体を認識することが できる酵素も存在した.GdaAである(25).この酵素は,

N-末端にGlyあるいはD-Alaが存在するとそれらを遊離 する酵素で,活性中心にSerをもつfamily S12に属す る.Gly-pNAを最もよく分解し,次いでD-Ala-pNAに 対して高い活性を示す.L-Ala-pNAを加水分解すること もできるが,D-Ala-pNAの13%程度にしか過ぎず,こ の酵素がグリシンD-アラニンアミノペプチダーゼである

と結論した.

ジペプチジルペプチダーゼ

ジペプチジルペプチダーゼは,タンパク質やペプチド のN-末端からジペプチドを遊離する酵素であり,哺乳 類で多数見いだされている.Tachiら(26)は,  

RIB915からこの酵素を見いだしている.この酵素は,

Pro残基がN-末端から2番目に存在する(Xaa-Pro-)と そのアミノ末端からジペプチドを遊離する酵素である.

われわれは,  RIB 40株のこの酵素(DppB)

について検討した(27).RIB40株のDppBは,

で報告されているDPP IV(28)に比べて厳密な特異性を示 し,ProがN-末端から2番目にない基質からのジペプチ ドの遊離は困難であった.また,N-末端のアミノ酸に は,側鎖があることが好ましいという条件もあった.

ゲノム中には,さらに2種類の細胞外ジペプ チジルペプチダーゼ遺伝子( ,  )が存在した.

これらは, には一つしかないAfDPP V(29)の オルソログをコードする遺伝子であった.これらをそれ ぞれ を宿主として発現させたところ(27), DppFは,AfDPPVによく似ており,N-末端から2番目 にAlaのような小さなアミノ酸残基が存在する場合にジ ペプチドの遊離を示した.これに対して,DppEは,N- 末端から2番目にPhe残基が存在する基質からジペプチ ドを遊離する能力が高く,これまでに知られている AfDPPVとは異なる基質特異性をもつことが明らかと なった.

セリンタイプカルボキシペプチダーゼ

黄麹菌には,12種のセリンタイプカルボキシペプチ ダーゼをコードする遺伝子が存在することがゲノム解析 の結果明らかとなった.そのうちの9つが菌体外,一つ が液胞型,一つがゴルジ体に存在するものと考えられ た.よく研究されている菌体外セリンタイプカルボキシ ペプチダーゼの一つが  TK3株のcarboxypep- tidase Iである(30).これに相当する酵素がRIB40株の CpIであることが推定アミノ酸配列と基質特異性の一致 から明らかとなった(31).また,  IAM2640から 見いだされた固体培養特異的なcarboxypeptidase O(32) の遺伝子 を同定し(33),液体培養特異的なcarboxy- peptidase O1, O2(34)と類似した基質特性をもつ酵素とし てOcpA, CcpB(31)を見いだした.これら3種の酵素はい ずれもN-アシル化ジペプチドやN-アミノアシル化トリ

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ペプチドを基質にした際にC-末端からアミノ酸を遊離 させる能力をもち,アンジオテンシンIなどを基質とし た際も同様にC-末端からアミノ酸を遊離する活性を示 している.  TK3株のCpIは,固体培養特異的 にタンパク質が観察されたが,RIB40株での転写解析で は,液体培養でも からの転写が や と同様 に観察された.また は硝酸ナトリウムのような無 機窒素でもスキムミルクでも転写量にほとんど変化はな いが, と は,硝酸ナトリウムによって,転写量 が減少する傾向が見られ,窒素源の影響で転写に変化が 生じることが明らかとなった.

ゴルジ体に存在すると推定されたカルボキシペプチ ダーゼは,酵母  Kex1p(35)のオ ルソログであった.本酵素KexAは,酵母と同様にセリ ンエンドペプチダーゼの1種であるkexinとともにゴル ジ体で働いて機能性ペプチドなどの成熟化に関与してい る(36)のではないかと推定していたが,同酵素の膜貫通 ドメインから下流を削除したタンパク質を

で発現させ精製し,その性質を調べたところ,酵母 Kex1pはLysやArgといった塩基性アミノ酸を遊離す るという特異性を示すのに対して,黄麹菌KexAはLys やArgのみならず,Leuを遊離する活性を強く示した(37). また,KexA欠損株を作製するとコロニーの形成が遅く なり,菌糸の分岐が少なくなった直線的な菌糸を形成し た.また,分生子形成能が低下していた.酵母におい て,Kex1pと共同して働いていると考えられるkexinの 黄麹菌でオルソログKexBの欠損株は,菌糸の分岐が増 加し,短い菌糸しかできなくなる(38)などKexA欠損株 とは逆の表現型を示し,黄麹菌においては,KexAと KexBは,細胞壁の形成に関して,それぞれ独立して働 いている可能性が示された.

アスパルティックエンドペプチダーゼ

黄麹菌には,11種のアスパルティックエンドペプチ ダーゼ(APase)遺伝子が存在すると推定された.

や が7種のAPase遺伝子しかもっ

ていないことを考えると,1.6倍もの酵素をもっている ことになる.ホモロジーからAPaseは,菌体外型,膜 結合型,液胞型の3つに分類される.菌体外型は5つ存 在し(AOENA003, AOENA005, AOENA010, AOENA011,  AOENA012),このうち,AOENA003がよく知られて いるPepOである(39).これらのAPaseを を 宿主とした発現系で発現させたところ,AOENA003,  AOENA005, AOENA011の精製に成功した.PepOであ るAOENA003とAOENA005はさまざまなタンパク質 に作用させるとカゼイン,ヘモグロビン,ミオグロビ ン,クルペインなどにほぼ同様の活性を示し,広い基質 特異性を示した(40).一方,AOENA011は,これらのタ ンパク質に対して,ほとんど活性を示さなかったが,唯 一ミオグロビンに対してSDS-PAGEで確認できる限定 的な分解を示した.これら3つの酵素は,系統樹上では 同一のブランチに存在する(図2.なかでも,AOENA003 とAOENA011は系統樹上最も近い位置に存在するパラ ログであり,AOENA005は,これら2つをコードする 遺伝子が出現する以前に別れた遺伝子にコードされてい るものと考えられた.遺伝子の配列,イントロンの位置 などからこれら3つの遺伝子は,遺伝子重複によって増 加したものであると考えられた.これらの結果,AOE- NA011は,このグループのなかで新たに出現した基質 特性の異なる酵素であると考えられた.

膜結合型のAPaseはGPI-アンカー型の酵素であると 考えられた(40).このうちの一つ はcDNAの塩基配

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図1NpIの過ギ酸酸化インスリンに対する基質特異性

1)   RIB40(7)株由来NpI, 2)  (47)由来NpI, 3)   3,042株(48)由来NpI C*は,システイン酸を示す.

図2各黄麹菌  RIB 40株の細胞外アスパルティック

エンドペプチダーゼのアミノ酸配列による系統樹

(5)

列を調べると,予想とは異なる位置でスプライシングが 生じていた.APaseの活性中心は2つのAspで構成され ているが,この活性中心を形成する2つ目のAspが現れ る前に終止コドンが出現することから,偽遺伝子ではな いかと考えられた.残る2つの と は,正しく 翻訳されGPI-anchor型の酸性プロテアーゼとして酵母 yapsin(41,42)と同様な働きをしているものと推測された.

グルタミンエンドペプチダーゼ

黄麹菌には,酸性側で働くグルタミンエンドペプチ ダーゼが3種( ,  ,  )存在することがゲノム 解析の結果から推定された.この酵素は,グルタミン酸 とグルタミンを活性中心として用いている(43).これら の酵素をコードする遺伝子のうち は,発現解析の 結果,イントロンのスプライシングが生じないため,終 止コドンが現れてしまい,活性のあるタンパク質として は発現しないものと考えられた.これ以外の2つの酵素 は菌体外型で, を宿主として高発現させ,酵素の 精製を行ったところ,PipAは,カゼインを分解できな いもののヘモグロビンやミオグロビンを分解する活性が 見られた.一方,PipCのタンパク質分解活性は,カゼ インなどを基質とした活性測定では,活性が検出できな かったものの,BSAを基質とするとSDS-PAGEで分解 断片が検出されることから,限定的なタンパク質分解を 行う高い基質特異性をもつ酵素であると考えられ(44), 詳細を検討している.

金属エンドペプチダーゼ

黄麹菌ゲノム中には,5つの細胞外金属エンドペプチ ダーゼをコードすると推定された遺伝子が見いだされ た.そのうちの2つはサーモリシン型であり,残りの3 つはデューテロリシン型であった.サーモリシン型の金 属プロテアーゼは,NpI(45),NpIII(46)である.特に,NpI はこれまでに非常によく研究され,ブタ・過ギ酸酸化イ ンスリンB鎖に作用させると1Phe-↓-2Val, 5His-↓-6Leu, 

10His-↓-11Leu, 14Ala-↓-15Leu, 16Tyr-↓-17Leu, 17Leu-

↓-18Val, 23Gly-↓-24Phe, 24Phe-↓-25Phe, 25Phe-↓-26Tyrの9 カ所の加水分解を触媒する(47)と報告されていた.Keら は  3.042株のNpIを で発現させ,同様 の 実 験 を 行 っ た 結 果,3Asn-↓-4Gln, 6Leu-↓-7Cys*,

9Ser-↓-10His, 10His-↓-11Leu, 11Leu-↓-12Val, 17Leu-

↓-18Val, 19Cys*-↓-20Gly, 24Phe-↓-25Pheの8カ 所 を 加 水 分解すると報告した(48).これら2つの結果で一致するの

は,10His-↓-11Leu, 17Leu-↓-18Val, 24Phe-↓-25Phe の 3 カ 所だけであった.そこで,われわれは,  RIB  40株のNp1を を宿主として発現,精製し,

同様に過ギ酸酸化インスリンに対する基質特異性の検討 を 行 っ た と こ ろ,10His-↓-11Leu, 14Ala-↓-15Leu, 16Tyr-

↓-17Leu, 23Gly-↓-24Phe, 24Phe-↓-25Pheの5カ所のみの切 断が確認された.この結果は,Moruharaのレヴューに 示された結果に近いものとなったが,  RIB40 株のNpIは,これまで考えられていたよりずっと特異性 が高く,P1′-P2′に2つの連続した疎水性アミノ酸が存在 するときのみペプチド結合を加水分解できる酵素である ことが示された.同じ であっても3株それぞ れの菌株が生産するNp1の基質特異性が大きく異なっ ていることが明らかとなった.

一方,RIB40株には,デューテロリシン型の酵素を コードする遺伝子が3種存在することが推定された.

を宿主として発現させたところ,一つは推定どお りのスプライシングがされておらず,活性の発現に必要 なアミノ酸がすべて翻訳される前に終止コドンが出現し てしまうため偽遺伝子であると考えられた.残りの2つ

(NpIIaおよびNpIIb)について,それぞれ発現,精製を 行った(49).いずれの酵素もサルミン,クルペインなど の塩基性アミノ酸を良い基質とし,それ以外のタンパク 質に対してはほとんど作用できなかった.RIB40株の NpIIaは,Tatsumiらが報告した  ATCC20386株 のNpIIのアミノ酸配列とは,2つのアミノ酸が異なって いた.このNpIIaはTatsumiらの報告(50)と同様,耐熱 性が高く90 Cで処理しても80%,100 Cで処理した後で も85%の残存活性を示した.この高い耐熱性に関して は,土居らの報告でそのメカニズムが明らかにされてい る(51).一方,NpIIbは,NpIIaとアミノ酸配列で62%の identityを示すが,NpIIaほど耐熱性が高くなく,80 Cで 処理するとほぼ活性を失うが,100 Cでは10%程度の残 存活性を示した.

セリンエンドペプチダーゼ

 RIB40株には3つのセリンエンドペプチ ダーゼ遺伝子が存在する.一つは,菌体外プロテアーゼ oryzinである.この酵素も古くから研究されており,基 質特異性に関する報告も数多い(52, 53).ほかの2つは,液 胞に存在すると推定される酵母PrbI(54)のオルソログと ゴルジ体のkexin(38)である.酵母kexinは,ペプチドホ ルモンである

α

-ファクターやキラートキシン,さまざま なタンパク質などの成熟化に関与している(55).黄麹菌

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では,その基質となるタンパク質やペプチドは明らかに できていないが,酵母と同様,黄麹菌のkexinは塩基性 アミノ酸が2残基並んだ配列を認識した.KexAの項で も記載したが,この酵素の欠損は,細胞壁に深刻なダ メージを与え,縮れて小さくなったコロニーしか形成で きなくなり,菌糸は多分岐となり,分生子の形成が減少 する.細胞壁を構成する多糖の合成にかかわる酵素に対 するプロセッシング不全がこれらの原因ではないかと考 えている.

セドリシンタイプセリンエンドペプチダーゼ セリン,グルタミン酸,アスパラギン酸が活性中心を 形成しているこの酵素(56)は,黄麹菌では,Leeらによっ てaorsinと名づけられた酵素が報告されている(57).ゲ ノム中の検索から,もう一つの遺伝子が存在することが 明らかとなった.これら2つを区別するためLeeらが見 いだしていた酵素をaorsin A,新たに見いだされたもの をaorsin Bとした(58).Leeらは,aorsin Aは,固体培養 でのみ発現し,液体培養では見られないことを報告して いる.その基質特異性は,Arg残基のC-末端側のペプ チド結合を切断するという,clostripain様の活性を示 し,わずかではあるがリジン残基やフェニルアラニン残 基をも認識する.一方,aorsin Bは,aorsin Aとは異な り,AspやPheを主に認識し,僅かにArg残基などを認 識する基質特異性の異なる酵素であったが,leupeptin で阻害されることや至適pHをpH 4付近にもつことは共 通していた.

おわりに

黄麹菌のタンパク質分解酵素は,古くから醸造産業で 利用されていたが,黄麹菌が分泌している約20種程度 のタンパク質分解酵素の性質などが明らかになるのに,

約半世紀以上かかった.ゲノム解析の結果,これまで半 世紀以上かかって明らかになった酵素の数倍のタンパク 質分解酵素遺伝子が黄麹菌ゲノムに存在することが明ら かになった.私たちは,生化学の立場から,まずはこれ らの酵素がどんな酵素なのか,酵素化学的な性質を知り たいと考え,東京農工大学(竹内,山形),食品総合研 究所(楠本),天野エンザイム(小出,天野),月桂冠

(石田)のチームで協力して多数の酵素の性質を明らか にしてきた.その結果,黄麹菌には,これまで知られて いない基質特異性や酵素化学的をもつタンパク質分解酵 素遺伝子が存在することが明らかとなってきた.また,

私たちの解析とこれまでの黄麹菌のタンパク質分解酵素 研究の結果とを比較して見ると,NpIのように同じNpI であり,アミノ酸配列もほんの僅かしか異ならない酵素 の特異性が全く異なっている例もあり,たいへん興味深 かった.麹菌によりアスパルティックエンドペプチダー ゼの生産量が高いとか,アミノペプチダーゼの活性が高 いなど,生産される酵素の種類や量が異なることは,こ れまでも指摘されていた.しかし,菌株により同じ酵素 でも基質特異性が大きく異なる可能性があることは,酵 素を利用する産業界においては,酵素の種類だけでなく 菌株にも十分な注意を払わなければならないことを示唆 している.現在酵素メーカー各社がもつ麹菌の酵素剤で それぞれの効果が異なるのは,含有している酵素の種類 の違いだけでなく,このような基質特異性の異なる酵素 が含まれていることによるのかもしれない.酵素化学的 には,このような基質特異性の違いがどのような構造の 違いによっているのかと考えるとたいへん興味深い.

黄麹菌のタンパク質分解酵素遺伝子数は,同時期にゲ ノム解析された (59)の90種, (60) の99種と比較して,126種と最大の遺伝子数を誇る.こ の種類の多さが醸造や醗酵に適しているのかもしれな い.しかし,なぜ黄麹菌だけこのようにたくさんのタン パク質分解酵素遺伝子を有しているのかは明らかではな い.アスパルティックエンドペプチダーゼで示されたよ うにアミノ酸配列の相同性は高いにもかかわらず,基質 特異性は相同性が低い隣のブランチに存在する酵素と同 様であるというような例が存在することから黄麹菌はあ る時期から機能が異なる酵素を積極的に増やして,これ らを使い分けているかのようである.この変化の意味や 使い分けについては,今後の研究課題である.いくつか の酵素において培地の栄養源によって転写が変化するこ とがその解決の緒になるのかもしれない.

黄麹菌は,長年の食経験によって安全な微生物として 認知されており,米国FDAのGRASにも認定されてい るためその酵素の利用は,ほかの微生物の酵素を利用す ることに比べ安全性の確認や食品用酵素としての登録に おける審査の点で大きなメリットがある.基質特異性の 異なる麹菌のタンパク質分解酵素をたくさん集めておく ことは,さまざまなタンパク質という布地に対するいろ いろなハサミを用意しておくようなものである.さまざ まな生物のゲノムの解析結果が開示されているが,ゲノ ム情報から得られるタンパク質の配列に対して使えるハ サミ(タンパク質分解酵素)の組み合わせで,思いのま まにペプチド加工や呈味性の付与が可能になるのではな いかと考えており,今後もハサミの収集を継続したいと

日本農芸化学会

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考えている.

謝辞:本研究は,生物系特定産業技術研究支援センター(生研センター)

基盤研究推進事業の一環として行われたものである.

文献

  1)  K. Kitamoto:  , 51, 129 (2002).

  2)  J.  Yoon,  J.  Maruyama  &  K.  Kitamoto: 

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  4)  M.  Tanaka,  M.  Tokuoka,  T.  Shintani  &  K.  Gomi: 

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  5)  日本醸造協会:麴菌をわが国の「国菌」に認定する,

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プロフィール

山形 洋平(Youhei YAMAGATA)

<略歴>1985年東京農工大学農学部農芸 化学科卒業/1987年同大学大学院農学研 究科修士課程修了/1990年東北大学大学 院農学研究科博士課程後期修了/同年同大 学農学部助手/2002年改組により同大学 大学院助手/2009年改組により同大学大 学院助教/同年東京農工大学共生科学研究 院准教授/2010年改組により同大学大学 院農学研究院准教授/2015年同教授<研 究テーマと抱負>麹菌はどうやって窒素代 謝を制御しているのか,タンパク質分解酵 素研究を通じて明らかにしたい.また,酵 素の研究を通して社会に貢献したい<趣 味>スキー,川遊び,日曜大工,家庭菜 園,深夜に映画を見ながらちびちびやるこ と

Copyright © 2016 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.54.109

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参照

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