博 士 ( 医 学 ) 佐 々 木 宣 哉 学 位 論 文 題 名
High‑throughput PCR システムの開発とその性能評価に関する研究
学位論文内容の要旨
現 在 , ゲ ノ ム 研 究 に お け る マ ッ ピ ン グ , 塩 基 配 列 決 定 等 に 膨 大 な 数 のPolymerase Cham Rea面on(PCR) の 反 応 数 が 必 要 と さ れ て い る . ま た , そ の 需 要は ゲ ノム 計画 のみ なら ず, 様々 な 領 域 で 益 々 増 加 す る こ と が 予 想 さ れ る . こ の 様 に , よ り 多 く の 検 体 を よ り 短 時 間 で 処 理 す る こ と が 要 求 さ れ る こ と を 鑑 み , 試 薬 や 検 体 の 分 注 か ら 反 応 ま で を オ ー ト メ ー シ ョ ン 化 す る こ と に よ り , 労 働 量 と 人 為 的 ミ ス を 減 少 さ せ る こ と , さ ら に ,コ ス トノ ヾフ オー マン スを 上げ る た め に , 試 薬 の 消 費 量 を 減 ら す こ と な ど が 益 々 重 要 と な っ てき て いる .し かし ,現 在ま で,
大 量 生 産 を 目 的 と し たPCR反 応 装 置 に 関 す る 研 究 は ほ と ん ど 報 告 さ れ て い な い . 本 研 究 で は こ れ ら の 要 求 に 対 す る 解 決 策 と し て ,PCRの オ ー ト メ ー シ ョ ン 化 と 反 応 体 積 の 縮 小 化 に 焦 点 を絞り装置の研究開発を試みた.
PCRに お い て 迅 速 で 正 確 な 温 度 変 化 に よ っ て 鋳 型 と プ ラ イ マ ー の 非 特 異 的 な 会 合 が 抑 制 さ れ , さ ら に 酵 素 の 失 活 を 防 ぐ こ と に よ っ て , 反 応 の 特 異 性 と 増 幅 効 率 を 向 上 さ せ る こ と が 可 能 で あ る . よ っ て , 本 装 置 を デ ザ イ ン す る に あ た っ て , 熱 源 で あ る ぺ ル テ イ エ 素 子 か ら 検 体 へ の 熱 伝 導 率 を 高 め る た め に , 種 々 の 検 討 を 行 な っ た . 一 般 の 市 販 機 で は プ ラ ス チ ッ ク チ ュ ー プ に 密 封 し た 反 応 液 を 熟 伝 導 ブ ロ ッ ク に 乗 せ , そ の ブ ロ ッ ク の 温 度 を 上 昇 下 降 さ せ る こ と で 反 応 を 進 行 さ せ て い る . 熱 源 か ら サ ン プ ル ヘ の 熱 伝 導 ブ ロ ッ ク に は 熱 伝 導 率 の 高 い ア ル ミ ニウ ム(2.38X10→3J/m.s.K,O℃)が用いられている.本装置では アルミニウムブロックに384 個 の ウ ェ ル を 設 け , 蹴 ` . 酵 素 等 の 非 特 異 的 吸 着 を 防 ぐ た め にテ フ ロン コー テイ ング を施 し,
直 接 , 反 応 容 器 と し て 用 い る こ と を 試 み た . こ の 条 件 に お い て プ ラ ス チ ッ ク 製 チ ュ ー ブ を 用 い た 時 に 生 じ る 熱 伝 導 率 の 低 下 が な く , よ り 迅 速 な 温 度 変 化 が 可 能 と な っ た . ま た , 市 販 機 で は 熱 伝 導 ブ ロ ッ ク と ぺ ル テ イ エ 素 子 の 間 に シ リ コ ン ラ バ ー 等 の 熱 伝 導 素 材 を 挾 む こ と に よ っ て 密 着 性 と 熱 伝 導 率 を 高 め て い る . 本 装 置 で は , さ ら に 熱 伝 導 性 の よ ぃ カ , ボ ン グ ラ フ ァ イトシート(15.5X1013J/(珊.s.K,O℃ )を使用することによって迅速な温度変化と各ウェルにお け る 温 度 の 均 一 性 が も た ら さ れ た . . さ ら に , 加 熱 時 に お け るサ ン プル の蒸 発を 制御 する ため に , 上 部 温 度 コ ン ト ロ ー ラ ー を 設 け た . 上 部 温 度 コ ン ト ロ ー ラ ー の 裏 に 耐 熱 性 シ リ コ ン ラ バ ー を 接 着 す る こ と に よ っ て , 上 部 温 度 コ ン ト ロ ニ ラ ー を セ ッ ト す る だ け で 気 密 性 を 保 つ こ と が 可 能 と な っ た . 上 部 温 度 コ ン ト ロ ー ラ ー を105℃ に 設 定 し ,96℃ ‐10秒 ,60℃ −10秒 ,72℃
‐2分 の サ イ ク ル を 行 っ た と こ ろ , 上 部 温 度 コ ン ト ロ ー ラ ー の 熱 に よ り ,PCR反 応 液 の 温 度 下 降 が 阻 害 さ れ た . こ の 条 件 に お い て 反 応 液 の 大 部 分 が 蒸 発 し , 上 部 温 度 コ ン ト ロ ー ラ ー 裏 面 に 凝 結 し た . 一 方 , 上 部 温 度 コ ン ト ロ ー ラ ー をPCR反 応 液 の 温 度 変 化 と 同 調 し て , 常 に2ー 5℃ 高 く 設 定 し た 場 合 , 反 応 液 に 接 す る 気 相 内 の 飽 和 蒸 気 圧 が 常 に 低 く 保 た れ , 検 体 の 蒸 発 を 最 小 に す る こ と が 可 能 と な っ た . さ ら に , 前 者 と 比 較 し て 正 確 か つ 迅 速 な 温 度 変 化 が 可 能 と な っ た . こ の 条 件 に お い て1メ1の 反 応 ボ リ ュ ー ム に お い て も 蒸 発 を 抑 制 す る こ と が 可 能
と なっ た. 以上 の要 素技術により,熱伝導性の向上や反応体積の縮小化がもたらされた.ま た ,PCR プレ ート がロ ボッ トア ーム によ って 着脱 可能であることに加えて,上部温度コント ローラーを自動開閉するように調整したことから,多数のモジュール(反応装置,解析装置,
分注ロボット,フリーザー等)の集合体であるワークステーション内で,モジュール間の輸送 が可能となりPCR の完全自動化が可能となった・
本装置を用い実際の反応における感度,増幅効率,再現性について種々の検討を行なった.
マ ウス
reeler. cDNA,lpg(2Xl06 コ ピー )を 鋳型
DNAと して ,384 ウェ ル全 てを 用いてPCR を 行 った とこ ろ, 各ウ ェルにおける増幅率の差は認められず,温度が正確かつ均一に制御され て いる こと が示 唆さ れた .さら に, マウ スreelerc 聊qA ,2X107 から2X101 コピーを鋳型とし て
PCRを 行っ たと ころ ,2X102 コ ピー まで 増幅 が可 能で あり ,極 めて 高い 検出 感度が示され た . さ ら に ,
reekrcDNAを
5( ) 矧 ル
Iの 濃 度 で 含 むPCR 反応 液を
50plから
1メ1 まで 様々 な 反応 ボリ ュー ムに 調整し,増幅率の検討を行ったところ,単位体積あたりの増幅率にほと ん ど差 が認 めら れず ,上部温度コントローラーの至適化によって,微量な体積においても蒸 発 が抑 制さ れ, 十分 な増幅が得られることが示された.また,固有の長さと配列をもつ複数 の 鋳 型
DNAに 対し て , こ の 装 置 を 用 い て
PCRに お け る 反応 成功 率に つい て検 討を 行っ た.
マ ウス 胚盤 胞cDNA ラ イブ ラリー よル コロ ニー ピッ カーを用い,無作為にlo .752 クローンを 選 別し ,大 腸菌 培養 液よ り直接
PCRによ って 増幅 を行った.電気泳動にて増幅の有無,増幅 率,サイズについて確認したところ,高い反応成功率(92 %)が得られ,そのうち426 クロー ンを無作為に選び,サイズを測定したところ,255 〜4372b (平均1167b )の間に分布していた.
鋳 型の サイ ズに おけ る反 応成功 率へ の影 響を 検定 するため,同ライブラリーの294 クローン よ ルプ ラス ミド
DNAを 抽出 し制 限酵 素に てイ ンサ ートを切り出たところ,308 〜3701b (平均
1041b) の間 に分 布し ており,両者のサイズに有意な差は認められなかった.よって約4kb ま で の鋳 型DNA につ いて は, サイ ズよ りも 特異 的な 塩基配列によって増幅が阻害されているこ と が示 唆さ れた ので ,PCR で増 幅で きな かっ たク ローンについてプラスミドを抽出し塩基配 列 を決 定し てみ たと ころ ,GC ま たは
AGに 富む 配列 を持 っク ロー ンが 多く ,こ れらの配列は 特 異な 高次 構造 をと るこ とが示 唆さ れた .GC 含量 の多 い配 列の 増幅 に関 して 様々な試みが な され てい るが ,す べてを克服できる技術はなく,増えにくい配列を増幅する技術が今後の 課 題で ある .さ らに この 装置を 用い て,
PCR産物
3510クローンを直接鋳型として,5t 末端よ り塩基配列を決定したところ,高い反応成功率(85 %)が得られた.得られたシーケンス3086 ク ロー ンに つし ゝて
BLASTXおよ びBLASTN を用
kゝ ホモロジー検索を行ったところ,1036 種に 分類され,その内,既知の遺伝子および既知遺伝子とホモロジーのあるものは713 種(68 .8 %)
であり,未知の遺伝子は323 種(31 .2 %)であった・
本 研 究 で は ,
GS384サ ーマ ルサ イクラ ーを 用い て,
1日 に10752 反 応が 可能 であ るこ とを 実 証し た. 現在
6台を ワークステーション上に設置しており,64512 反応/日が可能である.
本 装置 にお いて
PCRプ レー ト上 のウ ェル の数 を増 やす ことや ,PCR プ レー トの 熱伝導性を上
げ るこ とに より ,さ らに反応数を増やすことが今後の課題である.本研究により作製したシ
ス テム はゲ ノム プロ ジェ クトや
DNA診断 等へ の利 用が可能であり,今後このシステムを用い
る こ と に よ り , 生 物 医 学 に お い て 有 用 な 情 報を 数 多 く 提 供 す る こ と が 可 能 で あ ろ う .
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
High‑throughput PCR システムの開発とその性能評価に関する研究
ゲ ノ ム 研 究 に お け る マ ッ ピ ン グ 、 塩 基 配 列 決 定 等 に 膨 大 な 数 のPolymerase Chain Reaction (PCR) の 反 応 数 が 必 要 と さ れ て い る 。 よ り 多 く の 検 体 を よ り 短 時 間 で 処 理 す る こ と が 要 求 さ れ る こ と に 鑑 み 、 試 薬 や 検 体 の 分 注 か ら 反 応 ま で を オ ー ト メ ー シ ョ ン 化 す る こ と に よ り 、 労 働 量 と 人 為 的 ミ ス を 減 少 さ せ る こ と 、 さ ら に 、 コ ス ト を 下 げ る た め に 、 試 薬 の 消 費 量 を 減 ら す こ と な ど が 重 要 と な っ て き て い る 。 こ れ ら の 要 求 に 対 す る 解 決 策 と し て 、PCRの 迅 速 化 、 オ ← ト メ ー シ ョ ン 化 、 反 応 体 積 の 縮 小 化 に 焦 点 を 絞 り 、 種 々 の ア イ デ ィ ア を 取 り 入 れ て 装 置 の 研 究 開 発 を 試 み た 。 本 装 置 を 用 い 、 増 幅 効 率 と 再 現 性 に つ い て 種 々 の 検 討 が 行 わ れ 、PCR装 置 と し て の 性 能 は 充 分 で あ る こ と が 確 認 さ れ た 。 さ ら に 、 本 装 置 を 用 い 、 ヒ ト で は 解 析 が 困 難 で あ る32細 胞 期 の ブ ラ ス ト シ ス ト で 発 現 す る 遺 伝 子 の カ タ ロ グ 化 、 さ ら に 未 知 の 遺 伝 子 単 離 を マ ウ ス に お い て 試 み た 。 定 法 に よ りcDNAラ イ ブ ラ リ ー を 作 製 し 、 本 装 置 を 合 む オ ー 卜 メ ー シ ョ ン シ ス テ ム に よ り 、 一 日1,0752検 体 の イ ン サ ー トDNAの 増 幅 を 行 っ た 。 反 応 成 功 率 は92% で あ り 、 反 応 成 功 率 に 影 響 を 与 え る 要 因 と し て 、 特 異 な 配 列 が 影 響 を 与 え て い る こ と を 明 ら か に し た 。 増 幅 で き な か っ た8% に つ い て は 遺 伝 子 の 大 部 分 を 明 ら か に す る 目 的 上 、 問 題 で あ り 反 応 成 功 率 を あ げ る こ と 今 後 の 課 題 で あ る 。 さ ら に 、 約4000ク ロ ー ン を 無 作 為 に 抽 出 し 、 塩 基 配 列 を 決 定 す れ ば 、 任 意 の 細 胞 で 発 現 す るrareな 遺 伝 子 以 外 は 大 体 ( 約500ー1000種 類 ) 提 示 で き る と い う 作 業 仮 説 の 基 に シ ー ク エ ン ス を 決 定 し た 。 ホ モ ロ ジ ー 検 索 の 結 果 、 ミ ト コ ン ド リ ア の 転 写 産 物 や 繰 り 返 し 配 列 な どuninfonnative cloneを 除 い た3860タ ロ ー ン は945種 に 分 類 さ れ 、 既 知 の 遣 伝 子 お よ ぴ 既 知 遣 伝 子 と ホ モ ロ ジ ー の あ る も の は461種 で あ り 、 未 知 の 遺 伝 子 は 484種 類 あ っ た 。 こ の こ と に よ り 発 生 初 期 で は 数 多 く の 末 知 遣 伝 子 が 機 能 し て い る こ と が 示 唆 さ れ た 。 さ ら に 、 ブ ラ ス ト シ ス ト は 他 の 組 織 に 比 べ 細 胞 分 裂 関 連 遺 伝 子 や 蛋 白 の 発 現 に 関 与 す る 遺 伝 子 群 が 豊 富 で あ り 、 一 方 で 、 細 胞 問 の 相 互 作 用 や 免 疫 系 関 連 遺 伝 子 の 発 現 は 相 対 的 に 低 い 傾 向 に あ る こ と が 明 ら か と な っ た 。 こ の よ う に 本 装 置 を 用 い て 短 期 間 で 新 規 遺 伝 子 発 見 と 細 胞 ・ 組 織 を キ ャ ラ ク タ ラ イ ズ す る こ と が 可 能 で あ っ た 。 さ ら に 、 現 在7
也 三
男
澄
哲 信
眞
内
川
守 西
細
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
万反応/日が可能であるシステムを構築した。これに対応するシークエンサーが開発され れ ば 、 生 物 医 学 に お い て 有 用 な 情 報 を 数 多 く 提 供 す る こ と が 可 能 と な る 。
公開発表はおよそ
13名の聴衆の前で行われ、西教授より、あらゆるメーカーの
PCR機 を試してだめで、自分で作製しのか、
1万検体のPCR 産物を解析できるシークエンサーの 開発を進めているのか、およびゲノムプロジェクトはいつ終了予定なのか等について質問 があった。次いで細川教授より、この装置全体が既に完成しているのか、他の装置も考 案したか、だれでも使えるシステムになるのか等の質問があった。最後に、守内教授より、
ヒト
mRNAの全ては 今世紀中に 登録される か、
DNA診断に応用可能か、およびコンピュ ーター上でのハイブリダイゼイションの概念について質問があった。これらの質問に対し て申請者は、解析システムの構築に関する試行錯誤の経験、および現在進行中のゲノム解 析に関する豊富な知識に基づぃて明解に解答した。さらに、申請者は、あらゆる組織で発 現している遺伝子をシークエンスする一方で、ゲノムも大まかにシークエンスし、コンピ ユータ上でホモロジー解析を行うことによって、転写地図を作製する。さらに、マウス疾 患遺伝子のゲノム上の位置を連鎖解析等で明らかにして、標的遺伝子座に存在する候補遺 伝子をりストアップし、シークエンス法だけで原因遺伝子を同定することを考えていると 解答した。さらに、分化、増殖など細胞の変化と原因遺伝子を結ぴっけることは非常に困 難であるが、このシステムを用いて、どの様なことができうるかという質問に対して、申 請者は
1細胞で発現しているmRNA の分子数は数10 万であり、できるだけ転写産物の量比 のバイアスのないライプラリーを作製し、数10 万シークエンスすると全種類がりストア ップできることになり、変化前、変化後の発現プロフんイルを比較し候補遺伝子を絞るこ とが可能であると考えていると解答した。
審 査 委 員 は 、 装 置 開 発 に は 細 部 に わ たり 様 々な 工 夫 や試 行 錯誤 が あり 、 困難 をーつーつ 解決してい ったこと、 技術を開発 しデータ生 産の効率化 をはかる、ある いは、いま まで不可能 であったこ とを実現す るような研 究スタイル は生物学では非 常にまれであることを評価した。.
さらに、このシステムを用いることにより、特定細胞内で発現している遺伝子の多くの 種類のカタ ログ化、任意の表現形質とその原因遺伝子を結ぴっけるために必要な転写
〆
地図の作製 等、生物医 学にとって 有用な情報 を数多く提 供すること が期待される。