博 士 ( 医 学 ) 佐 々 木 基
学 位 論文 題名
Tyrosine phosphorylation asaconvergent pathway of heterotrimericGprotein‑ and ケ 協 〇protein ‐ mediated Ca2 十 sensitization of smooth muscle of rabbit mesenteric artery
(ウサギ腸間膜動脈平滑筋における三量体G 蛋白およびrho 蛋白を介した Ca2+ 感受性増強機構におけるチロシンキナーゼの役割に関する研究)
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
血 管 平 滑 筋の 収 縮 機構 に お いて 、myosin light chain (MLC)の り ン 酸化 は 中 心的 役 割 を果 た し て い る 。Ca2゛/calmodulin依 存 性MLC kinaseに よ りMLCは り ン 酸 化 さ れ 、actomyosm ATPaseを 活 性 化 さ せ る こ と に よ り 収 縮 が 生 じ 、 ま たMLCphosphataSeの 活 性 化 に よ り 脱 リ ン 酸 化 さ れ 弛 緩す る 。 細胞 内Ca2゛ の 上 昇がMI£kinase/phosphatase活 性 比の 増 加 を介 し て 収 縮 性 に 重 要 な 働 き を し て い る が 、 ア ゴ ニ スト に よ る血 管 収 縮の 程 度 は細 胞 内Ca2゛ レベ ル の 変 化と は 必 ずし も 平 行 せず 、 血 管平 滑 筋 のの ゜゛ 感受性 を調節す る機構が 考えら れている 。 アゴニストによるCa2゛感受性増強効果はguanosine5 ‐〇Iく2‐thiodiphosphate)(GDPBS)によって 抑 制 さ れ 、 ま た、guanoine5 −triphosphate(GTP)あ る い はそ の 非 水 解性 類 似 物質 で あ る guanosine5 ‐〇_(3−thiotriphosphate)(GTP,S)によってもアゴニストと同様なCa2゛感受性増強効 果 が 認 め ら れ る 。 こ の こ と か ら 、 ア ゴ ニ ス トに よ る 収縮 蛋 白 のCa2゛感 受 性 増強 に は 、そ れ そ れ の 受 容 体 に 結 合 し て い る 三 量 体G蛋 白 の 活 性 化 が 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る と 考 え ら れ て い る が 、G蛋 白 以 下 の 細 胞 内 情 報 伝 達 系 に 関 し て は 充 分 な 検 討 び な さ れ て い な い 。 本 研 究 で はG蛋 白 の の ゜ ゛ 感 受 性 増 強 効果 に お ける 細 胞 内情 報 伝 達系 に 関 して 、 ウ サギ 上 腸 間 膜 動 脈 平 滑 筋 の ス キ ン ド フ ん イ バ ー を 用 い て 薬 理 学 的 手 法 に よ り 検 討 し た 。 方 法 は 、 ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド 白 色 ウ サ ギ を ぺ ン ト バ ル ビ タ ー ル 麻 酔後 、 上 腸間 膜 動 脈を 摘 出 し 、長 さ1.5−2.0mm、 幅0.4‐0.5mmの 筋 線維束 をp‐escin(50い齣で30分 間処理 するこ と に よ ル ス キ ン ド フ ァ イ バ ー 標 本 を 作 成 し た 。 標 本 の 一 端 を 張 カ ト ラン ス ジ ュー サ ー に結 合 し 、 種 々 の 濃 度 のCa2゛ 溶 液 や 薬 物 を 作用 さ せ て、 等 尺 性収 縮 に よる 張 カ を測 定 し た。 ま た 、Cf〇5fr泌fH朋 めf f加HMC3酵 素 のADPリポ シ ル 化反 応 を 検討 す る ため 、 ス キ ンド フ ァ イ バ ー 標 本 に 対 しC3酵 素 (1いg/m1) 存 在 下 あ る い は 非 存 在 下 にNAD(10いM) を30分間 、 続 い て P−NADを30分 間 反応 さ せ た 。そ の 後 、電 気 泳 動を 行 い 、オ ー ト ラジ オ グ ラフ イ ー を 施 行 し た 。 ま た 、 抗 崩 DA抗 体 に よ る ウ エ ス タ ン ブ 口 ッ ト 法 も あ わ せ て 行 っ た 。 ス キ ン ド フ ァ イ バ ー 標 本 をC3酵 素 と P‐NADで 処 理 する と 、 約23kDaに 相 当 する 部 位
に32Pの 集 積 が 認 め ら れ た 。 抗thoA抗 体 に よ る ウ エ ス タ ン ブ 口 ッ ト 法 に て も 同 部 位 に バ ン ド が 認 め ら れ た こ と か ら 、C3酵 素 は 主 にrhoをADPリ ボ シ ル 化 さ せ る も の と 考 え ら れ た 。 そ し てNAD存 在 下 にC3酵 素 で 前 処 置 す る こ と に よ り 、C3酵 素 に よ る 【 P]‑ADPリ ボ シ ル 化 反 応 は ほ ぼ 消 失 し た こ と か ら 、 こ の 条 件 下 で はC3酵 素 は ほ ぼ 全 て のrhoをADPリ ポ シ ル化するものと考え られた。
GTPいSは0.3いMCa2゛ 溶 液 に お け る 収 縮 を 濃 度 依 存 性 に 増 強 さ せ 、10いMに て 最 大 効 果 を 示 した 。ま た、 張力̲[Ca2゛] 反応 曲線 を有 意に 左方 ヘ移 動さ せた (pCaso:対照;6.14土0.03, GTP,S(100いM); 6.50土0.05.Pく0.001)。 こ れ ら の 効 果 はGDPpS(1mM)に よ り 可 逆 性 に 完 全 に 抑 制 さ れ た 。NAD存 在 下 にC3酵 素 で30分 間 前 処 置 す る と 、0.3いMCa2゛ 溶 液 に お け る 収 縮 に は ほ と ん ど 影 響 を 及 ぼ さ な か っ た が 、GTPYSの 収 縮 増 強 効 果 は 有 意 に 抑 制 さ れ た 。 特 にGTPッS10いMま で は ほ ぼ 完 全 に 抑 制 さ れ た が 、 高 濃 度(30 ‑ 100叫 ゆ に お い て は 完 全 に は抑制されなかった 。
Phenylephrine,histamineもGTP (10いr¥/D存在下で、0.3いMCa2゛溶液における収縮を濃度依 存 性 に 増 強 さ せ た が 、 こ れ ら のCa2゛ 感 受 性 増 強 効 果 はC3酵 素 前 処 置 に て も ほ と ん ど 影 響 を受けなかった。
プ ロ テ イ ン キ ナ ー ゼC (PKC)の 選 択 的 阻 害 薬 で あ るcalphostinC(1いIvDお よ び staurosporine (20 nM)は、0.3いMの ゜゛ 溶 液に おけ る収 縮に は影 響を 及ぼ さず にPKC活性 化薬 であるphorbol ester 12,13‑dibutyrate (PDBu) (100 nM)のCa゜゛感受性増強効果を完全に抑制し た 。 しか し、GTPyS,phenylephrineお よびhistamineによ るCa2゛ 感受 性 増強 効果 には ほと んど 影響を及ぼさなかっ た。
Tyrosine kinase阻害薬であるgenistein (100いM),tyrphostin 25 (100いM)は0.3いMCa2゛溶液 で の 収 縮 反 応 やPDBuのCa゜ ゛ 感 受 性 増 強 効 果 に は ほ と ん ど 影 響 を 及 ぼ さ ず にGTPヤS(100 いM),phenylephrine(1いrvDおよびhistamine (10いrvDのCa2十感受性増強効果を完全に抑制した。
Genisteinの 不 活 性 化 体 で あ るdaidzein (100いrvDはGTPySのCa2゛感 受 性増 強効 果に 対し ほと んど影響を及ぼさな かった。
以 上 の 結 果 か ら 、GTPySの の ゛ 感 受 性 増 強 効 果 に は 主 に 低 分 子 量G蛋 白 で あ る 崩 〇 の 活 性 化 が 関 与 し て い る の に 対 し 、 三 量 体G蛋 白 を 介 し た ア ゴ ニ ス ト のCa2゛ 感 受 性 増 強 効 果 に は 崩 〇 の 活 性 化 は 関 与 し て お ら ず 、 そ れ そ れ の の ゛ 感 受 性増 強効 果 は異 なる 情報 伝達 系を 介 し て い る も の と 考 え ら れ る 。 高 濃 度GTPヤSのCa2゛ 感 受 性 増 強 効 果 はC3酵 素 で 完 全 に は 抑 制 さ れ な か っ た こ と か ら 、 高 濃 度 の と き の み 三 量 体G蛋 白 を 介 し た 経 路 も 活 性 化 さ せ る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。GTPySお よ び ア ゴ ニ ス ト に よ るCa2゛ 感 受 性 増 強 効 果 は 、 い ず れ も PKC阻 害 薬 で は 抑 制 さ れ ず にtyrosine kinase阻 害 薬 で 抑 制 さ れ る こ と か ら 、 両 者 は 低 分 子 量G蛋 白rhoと 三 量 体G蛋 白 と い う 異 な る 情 報 伝 達 系 を 介 す る も の の 、 最 終 的 に はtyroslne kinaseの活性化に収 束するものと結論される。
学位論文審査の要旨
学位論文題名
Tyrosine phosphorylation asaconvergent pathway of heterotrimericGprotein‑ and 〆カo protein‑mediated Ca2+sensitization of smooth muscle of rabbit mesenteric artery
( ウ サ ギ 腸 間 膜 動 脈 平 滑 筋 に お け る 三 量体G蛋 白 お よ びrho蛋 白 を介 した Ca2゛ 感 受 性 増 強 機 構 に お け る チ ロ シ ン キ ナー ゼ の 役 割 に 関 す る 研 究 )
血管平滑筋の収縮機構において、myosin light chain (MLC)のりン酸化は中心的役割を果 たし てい る。Ca2゛/calmodulin依 存性MLC kinaseによりMLCはりン酸化され、actomyosin ATPaseを 活性 化させ るこ とに より 収縮 が生 じ、またMLC phosphataseの活性化により脱リ ン酸化され弛緩する。細胞内くニa2゛の上昇がMLC kinase/phosphatase活性比の増加を介して 収縮性に重要な働きをしているが、アゴニストによる血管収縮の程度は細胞内くニa ゛レベル の変化とは必ずしも平行せず、血管平滑筋の(ニa ゛感受性を調節する機構が考えられている。
アゴニストによるくニa ゛感受性増強効果はそれそれの受容体に結合している三量体G蛋白の 活性 化が 重要 な役割 を果 たし てい ると 考え られているが、G蛋白以下の細胞内情報伝達系 に関 して は充 分な検 討が なさ れて いな い。 本研 究で はウ サギ 腸間 膜動 脈平滑筋を用い、
GTPySおよぴアゴニストによるG蛋白を介したくニa ゛感受性増強効果に関与する細胞内情 報伝 達系 につ いて、 小分 子量G蛋 白rho プ ロテ イン キナ ーゼC(PKC), チロシンキナーゼ の関 わり にっ いて薬 理学 的に 検討 した 。方 法はウサギ腸間膜動脈を摘出し、長さ1.5mmヽ 幅0.4mmの 筋線 維束 をt3‑escinで 処理 する ことによルスキンドフんイバー標本を作成し、
等尺 性収 縮に よる張 カを 測定 した 。ま た、Clostridium bott伽HmC3酵素のADPリポシル化 反応 を検 討す るため、スキンドフんイバー標本に対しC3酵素と P‐NADを反応させ、電 気泳動を行い、オートラジオグラフイーを施行した。また、抗崩〇A抗体によるウエスタン ブ口ヅト法もあわせて行った。
ス キン ドフ んイバ ー標 本をC3酵 素と P‐NADで処理すると、約23kDaに相当する部位 に Pの集積を認め、抗崩〇A抗体によるウエスタンブ口ット法にても同部位にバンドが認 め ら れ たこ と か ら、C3酵 素は 主に崩 〇をADPリボ シル 化さ せるも のと 考え られ た。GTRS
男 顕
夫
哲
盛
田 畠
野
上 北
菅
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
は0.3いMく ニa ゛ 溶 液 に お け る 収 縮 を 増 強 さ せ 、こ の効 果はGDPpSに よ り可 逆性 に完 全に 抑 制 さ れ た 。C3酵 素 前 処 置 に よ りGTP,Sの ( ニa ゛ 感 受 性 増 強 効 果 は 有 意 に 抑 制 さ れ た 。 Phenylephrine,histamineの アゴ ニス トも またGTP存 在下 でCa2゛ 感受 性増 強効 果 を示 したが、
こ の 効 果 はGTPSと は 対 照 的 にC3酵 素 前 処 置 に て も ほ と ん ど 影 響 を 受 け な か っ た 。PKC の 選 択 的 阻 害 薬 で あ るcalphostinC, お よ びstaurosporineは 、PKC活 性 化 薬 で あ るphorbol ester12,13.dibutyrate(PDBu)のくニa2゛感受性増強効果を完全に抑制したが、GTP,Sおよぴアゴ ニ ス ト に よ るQ゜ ゛ 感 受 性 増 強 効 果 に は ほ と ん ど 影 響 を 及 ぼ さ な か っ た 。 チ ロシ ンキ ナー ゼ 阻 害 薬 で あ るgenlstelお よ びtyrphostin25は0.3いMCa2゛ 溶 液 で の 収 縮 反 応やPDBuのCa2+ 感 受 性 増 強 効 果 に は ほ と ん ど 影 響 を 及 ぼ さ ず にGTPYSお よ び ア ゴ ニ ス ト のCa2゛ 感 受 性 増 強 効 果 を 完 全 に 抑 制 し た 。Genisteinの 不 活 性 化 体 で あ るdaidZeinはGTPYSのCa2゛ 感受 性増 強 効 果 に 対 し ほ と ん ど 影 響 を 及 ぼ さ な か っ た 。 以 上 の 結 果 か ら 、GTPYSのQ ゛ 感 受 性 増 強 効 果 に は 主 に 低 分 子 量G蛋 白 で あ るr轟 〇 の 活 性 化 が 関 与 し て い る の に 対 し 、 三 量 体G蛋 白 を 介し たア ゴニ スト のく ニa゜ ゛感 受性 増強 効果 には 崩 〇の 活性化は関与 しておらず、それそれの Ca2゛ 感 受 性 増 強 効 果 は 異 な る 情 報 伝 達 系 を 介 し て い る も の と 考 え ら れ る 。GTP,Sお よび ア ゴニ スト によ るく ニa゜ ゛感 受性 増強 効果 は、 いず れ もPKC阻 害薬 では 抑制 され ず にチ ロシンキ ナ ー ゼ 阻 害 薬 で 抑 制 さ れ る こ と か ら 、 両 者 は 低 分 子 量G蛋 白 崩Dと 三 量 体G蛋 白 と い う 異 な る 情 報 伝 達 系 を 介 す る も の の 、 最 終 的 に は チ 口 シ ン キ ナ ー ゼ の 活 性 化 に 収 束 す る も の と 結論される。
学 位 論 文 の 公 開 発 表 に 際 し て 、 副 査 の 北 畠 教 授 か ら 心 筋 と 平 滑 筋 に お け るCa2゛感 受性 の 機序 の違 いに つい て、 血 管平 滑筋 のく ニa ゛ 感受 性 増強 効果における 生理的および病的状態に お け る 役 割 に つ い て 、PKCの 役 割 に お け る 他 の 文 献 と の 結 果 の 相 違 の 理 由 に つ い て の 質 問 が あ っ た 。 次 い で 副 査 の 菅 野 教 授 か ら は 、 本 研 究 の 結 果 は す べ て の 血 管 に 普 遍 的 な も の か ど う か 、 チ ロ シ ン キ ナ ー ゼ 阻 害 剤 の 臨 床 応 用 の 可 能 性 に つ い て の 質 問 が あ っ た 。 主 査 の 上 田 教 授 か ら は 、 ア ゴ ニ ス ト に よ り 実 際 に チ ロ シ ン キ ナ ー ゼ の 活 性 化 が 生 じ て い る の か 、 ま た チ 口 シ ン キ ナ ー ゼ の 標 的 部 位 に つ い て 質 問 が あ っ た が 、 申 請 者 は 実 験 結 果 に 基 づ い て 、 また文献的考察を駆使して誠実かつ概ね 適切に回答し得た。
血 管 平 滑 筋Ca2゛ 感 受 性 の 情 報 伝 達 系 を 詳 細 に 検 討 し た 本 研 究 は 、 冠 攣 縮 性狭 心症 、高 血 圧 な ど のCa2゛ 感 受 性 の 亢 進 し て い る と い わ れ て い る 病 態 の 解 明 、 治 療 な ど 、臨 床応 用に 向 けての展開に重要な寄与をしうるものと 評価される。
審 査 員 一 同 は 、 申 請 者 の 豊 富 な 学 識 に 併 せ て 、 こ の 研 究 が 関 連 領 域 研 究 の 進 展 に 与 え る 成 果 を 評 価 し 、 申 請 者 が 博 士 ( 医 学 ) を 受 け る に 充 分 な 資 格 を 有 す る も の と 判 定 し た 。