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博士(医学)松村道哉 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(医学)松村道哉 学位論文題名

内耳蝸牛における内有毛細胞感覚毛と 蓋膜との接着状態に関する研究

学位論文内容の要旨

    【目的】

  蝸牛コル チ器には内有毛細胞,外有毛細胞の2種類の感覚細胞が存在し,その細胞表 面には多数の感覚毛が配列している.さらにその上を覆うように,蓋膜という膜状の構 造物が存 在する. コルチ器 は有毛細 胞の感覚毛が屈曲することによって機械的振動の 電気変換 をおこな っている .したが って蓋膜下面と内外有毛細胞感覚毛の先端の接着 状態に関 しては感 覚毛の屈 曲様式, すなわち機械電気変換機構を考察する上で極めて 重要な部位となる.

  これまで の研究か ら,外有 毛細胞感 覚毛は蓋膜にささり込むように接着があること があきらかにされている.この接着の証明にはっ透過型電子顕微鏡で直接ささり込んで いる部位 を観察す る方法と .走査型 電子顕微鏡でささり込む外有毛細胞感覚毛の配列 と一致し て蓋膜の 裏側に残 された圧 痕を観察する方法とがある.しかし透過型電子顕 微鏡では 広範囲の 観察は難 しいため っ実際の接着状態の研究には圧痕の観察が広く用 いられている.

  一方,内有毛細胞感覚毛に関しては,多くの幼若,成熟高等動物で詳細な研究がなされ ているにも関わらず,いまだ一致した結論が得られていない.幼若なネコやマウスの蝸 牛回転の 基底回転 の限局し た部位に 圧痕の報告例が存在するが,成熟したネコやマウ スにはい まだ認められていない.成熟高等動物ではヒト1耳に圧痕が認められたとする 報告,透過型電子顕微鏡によるラットの接着の報告,ラッ卜の基底回転の圧痕の観察の 報告がある.しかし一方で,ラットも幼若期には圧痕が存在するが成長に伴い消失する とする報 告も存在 する.現 時点では 生後初期の蝸牛の形態変化の時期に内有毛細胞の 感覚毛は 蓋膜と接 着してお り,成長 の過程で蝸牛が成熟した時点で蓋膜と離れるので はないか とする説 が一般的 に受け入 れられている.しかしながら蓋膜の研究に最も用 いられているモルモットではっいまだに成長の段階に関わらず接着を認めたとする報.

告はない.蝸牛神経の950/0が内有毛細胞から発しており,この部位の接着状態について は 古 く か ら 関 心 を 持 た れ な が ら も 矛 盾 に 満 ち た 状 態 で 残 さ れ て い る .   蓋膜は標 本作製過 程で著し く変形す るため,たとえ接着していても観察が困難にな っている可能性がありっまた高等動物内での内耳構造の種差があるとは考えにくい.今 回われわ れは、内 有毛細胞 感覚毛と 蓋膜との間の接着が標本作製の過程で失われてし まうのではないかとの仮説を立て.聴覚実験に最も普遍的に用いられるモルモッ卜,マ ウスにおいて固定方法の工夫によりこの証明を試みた.

    【材料と方法】

  プライエル耳介反射正常の体重450〜800gの成熟ハー卜レイ種モルモット10匹,およ び生後12〜24週の成熟ddマウス12匹を 使用し, 両種とも に蓋膜観 察用の以 下の固定 を行った.ネンブタール腹腔内注射による麻酔後に,左心室から2.5%グルタールアルデ ヒドの全身環流を行い。可及的迅速に断頭し蝸牛を採取,正円窓および卵円窓から10/0 四酸化オスミウムを急速注入し,同固定液中に室温で10時間浸漬した,さらに20/0夕ン

(2)

ニ ン酸中に4℃で2時間,再度1%四酸化オスミウム中に20℃で2時間浸漬固定を行った.

そ の後,上昇アルコール系列で脱水し酢酸イソアミルで置換、液体炭酸ガスによる臨界 点 乾燥を行った.試料を試料台にのせ実体顕微鏡下で蝸牛骨包,膜迷路組織を除去しコ ル チ器を露 出した. 蓋膜は蝸 牛から取り 外さずに コルチ器 をくずす形で直接裏側を観 察 できる状態とし白金,バラジウムによる金属コーティングを行い。走査型電子顕微鏡 で観察した.

    【結果】

  両 種ともに 各蝸牛の 基底回転 から頂回転 までの蓋 膜裏面を観察した.モルモットの 蝸 牛は全部で4回転存在した.基底回転から3回転目中央までっっまり蝸牛全体の下方約 3分の2に お いて , 蓋 膜の 裏 側 中央 に帯状に 観察され るへンゼ ン条の外 側縁に内 有毛 細 胞の感覚 毛の配列 と一致し て一列に並 んだ圧痕 が観察さ れた.また一部の内有毛細 胞 感覚毛が ちぎれて 蓋膜側に 残存してお り,その 感覚毛の 先端がしっかりと蓋膜に刺 さ り込んでいる像も観察された,ひとつの内有毛細胞あたりの接着個数は。基底回転下 方 で11か ら14個 ,2回 転 目 下 方 で9か ら12個 ,3回 転 目 下 方 で2か ら8個 と , 頂 回 転 側 に い く ほ ど 少 な く な っ て い く 傾 向 が あ っ た , 圧 痕 の 大 き さ は,2 50か ら350 nmで ほぼ内有 毛細胞感 覚毛の径 と一致し回 転別に差 は無かった,配列は基底回転では 直線的で,2回転目以上ではじぐざぐであった.深さは基底回転で深く,頂回転側にいく にしたがって浅くなっていく傾向があった,

  マ ウスの蝸牛は全部で1回転半存在した.このうち,基底回転1回転までの蝸牛の下方 約3分 の2に おい て 。 ヘン ゼ ン 条の 外側緑に 内有毛細 胞の感覚 毛の配列 と一致し てへ ン ゼン条の外側に隆起が存在し、その隆起上に極めて浅くまばらに圧痕が観察された.

マ ウスの圧 痕はモル モッ卜と 異なり極め て浅く不 明瞭であ った.深さはモルモットと 同 様 の 傾向 で 下方 で は 比較 的 深く , 上 方で は 浅 くな っ てい た .大 きさは300か ら45 0 nmと,モルモットに比較してやや大きめで,部位による差は認めなかった,またマウス に おいても 内有毛細 胞感覚毛 の先端が蓋 膜に刺さ り込んで いる部分が観察されたが、

残 存してい る感覚毛 は一定の 傾向をもた ずにまば らに存在 し部位別の差はなかった.

    ・【考察】

  従 来の聴覚機構は,蓋膜と外有毛細胞感覚毛との接着はあり,内有毛細胞とは接着が ないことが前提となって構築されてきた.そのため,内有毛細胞感覚毛の屈曲は,音が入 カ した際に おこる基 底板振動 に伴う内リ ンパ液の 還流によ って引き起こされるとされ て きた.このような定説に固まりつっある一方。コウモりなどの下等動物で接着が存在 す る報告や 人工内リ ンバ液を 用いた生の 蝸牛の観 察におい てっモルモットの蓋膜と内 有 毛細胞感 覚毛は極 めて密接 な位置関係 であるこ とを示唆 する報告もある.今回われ わ れは固定 法を工夫 すること によってこ の接着の 観察が可 能になるのではないかと考 え ,聴覚生理学実験,内耳形態研究において最も広く使用されている成熟モルモットお よびマウスにおいて検討した,

  今回接着の証明に成功したのは,モルモット,マウスともに蝸牛の下方2/3までである.

配 列してい る圧痕の 形状や蓋 膜側に残存 した内有 毛細胞感 覚毛の形態および対応する 部 位の感覚 毛の配列 様式から 、感覚毛の最外側の1列だけが接着しているものと思われ る .これら の圧痕の 深さが上 方の回転に いくに従 って浅く なり数が減少していく傾向 が あるのは 、接着状 態が基底 回転側でよ り強く上 方の回転 にいくほど弱くなっている た めで,上 方の回転 ではより 丈の長いも のだけが 緩やかに 接着しているものと考えら れる.頂回転側の1/3の接着に関レては現在証明できなかったが,さらなる固定方法の工 夫 によって今後接着を証明できる可能性が残されている.しかし、少なくとも蝸牛の下 方2/3の範囲において成熟モルモッ卜,マウスで圧痕の存在が初めて証明されたことは,

こ れまで認 められな かった主 たる原因が アーチフ ァク卜の ためであり、高等動物種問 の 種差の存 在や成長 過程での 一時的な接 着という これまで の定説を否定することがで き る十分な 材料にな ると考え る.すなわち本研究により少なくとも蝸牛の下方2/3の中 高 音域の音受容機構において.内有毛細胞感覚毛の屈曲は内リンノヾの環流によらず直 接蓋膜によって行われるということが証明された.

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    【結語】

  有 毛細胞が 脱分極を起 こすため には感覚 毛が蓋膜 と基底板の間に生じる相対的な変 位 により感 覚毛が屈曲 する必要 がある. 外有毛細 胞感覚毛は蓋膜に刺さり込むように 接着してしゝるために,その剪断カは直接蓋膜より得られていることが知られていた.こ れ に対し、 内有毛細胞 感覚毛は 大部分の 高等動物 において接着の証拠が認められてお らず,その剪断カは周辺の内リンバの環流によって得られると推察されていた.今回,こ れ まで接着 が存在しな いとされ てきた成 熟モルモ ットおよび成熟マウスにおいて,少 な くとも蝸 牛の下方2/3に 内有毛細 胞感覚毛 の先端が 刺さり込 んでいた と考えられ る 圧 痕および 直接感覚毛 先端が刺 さり込ん で存在す ることを走査型電子顕微鏡下で明ら かにした.この観察結果は、内有毛細胞感覚毛の剪断カも直接蓋膜から得られることを 示唆している,また,これまで内有毛細胞の圧痕の証明が困難であった原因は試料作成 の際の蓋膜の変形のためでありっ蓋膜観察用の固定方法の工夫により,さらなる研究の 進展が期待される.

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学位論文審査の要旨 主 査    教授    犬山征夫 副 査    教授    阿部和厚 副 査    教授    福島菊郎

学 位 論 文 題 名

内耳蝸牛における内有毛細胞感覚毛と 蓋膜との接着状態に関する研究

  蝸 牛 コ ル チ 器 に は 内 有 毛 細 胞 、 外 有 毛 細 胞 の2種 類 の 感 覚 細 胞 が 存 在 し 、 そ の 細 胞 表 面 に は 多 数 の 感 覚 毛 が 配 列 し て い る 。 さ ら に そ の 上 を 覆 う よ う に 、 蓋 膜 と い う 膜 状 の 構 造 物 が 存 在 す る 。 こ れ ま で の 研 究 か ら 、 外 有 毛 細 胞 感 覚 毛 は 蓋 膜 に さ さ り 込 む よ う に 接 着 が あ る こ と が あ き ら か に さ れ て お り 、 こ の 接 着 の 証 明 に は 、 透 過 型 電 子 顕 微 鏡 で 直 接 さ さ り 込 ん で い る 部 位 を 観 察 す る 方 法 と 、 走 査 型 電 子 顕 微 鏡 で さ さ り 込 む 有 毛 細 胞 感 覚 毛 の 配 列 と 一 致 し て 蓋 膜 の 裏 側 に 残 さ れ た 圧 痕 を 観 察 す る 方 法 と が あ る 。 一 方 、 内 有 毛 細 胞 感 覚 毛 に 関 し て は 、 多 く の 幼 若 、 成 熟 高 等 動 物 で 詳 細 な 研 究 が な さ れ て い る に も 関 わ ら ず 、 い ま だ 一 致 し た 結 論 が 得 ら れ て い な い 。 現 時 点 で は 生 後 初 期 の 蝸 牛 の 形 態 変 化 の 時 期 に 内 有 毛 細 胞 の 感 覚 毛 は 蓋 膜 と 接 着 し て お り 、 成 長 の 過 程 で 蝸 牛 が 成 熟 し た 時 点 で 蓋 膜 と 離 れ る の で は な い か と す る 説 が 一 般 的 に 受 け 入 れ ら れ て い る が 、 蓋 膜 の 研 究 に 最 も 用 い ら れ て い る モ ル モ ッ ト で は 、 い ま だ に 成 長 の 段 階 に 関 わ ら ず 接 着 を 認 め た と す る 報 告 は な い な ど 、 こ の 接 着 状 態 の 議 論 は 矛 盾 に 満 ち た 状 態 で 残 さ れ て い る 。

  蓋 膜 は 標 本 作 製 過 程 で 著 し く 変 形 す る た め 、 た と え 接 着 し て い て も 観 察 が 困 難 に な っ て い る 可 能 性 が あ り 、 ま た 高 等 動 物 内 で の 内 耳 構 造 の 種 差 が あ る と は 考 え に く い 。 今 回 、 内 有 毛 細 胞 感 覚 毛 と 蓋 膜 と の 間 の 接 着 が 標 本 作 製 の 過 程 で 失 わ れ て し ま う の で は な い か と の 仮 説 を 立 て 、 聴 覚 実 験 に 最 も 普 遍 的 に 用 い ら れ る モ ル モ ッ ト 、 マ ウ ス に お い て 固 定 方 法 の 工 夫 に よ り 走 査 型 電 子 顕 微 鏡 に よ る 内 有 毛 細 胞 感 覚 毛 の 圧 痕 の 証 明 を 試 み た 。   体 重450〜800gの 成 熟 ハ ー ト レ イ 種 モ ル モ ッ ト10匹 、 お よ び 生 後12〜24週 の 成 熟ddマ ウ ス12匹 を 使 用 し 、 両 種 と も に 蓋 膜 観 察 用 の 以 下 の 固 定 を 行 っ た 。 ネ ン ブ タ ー ル 腹 腔 内 注 射 に よ る 麻 酔 後 に 、 左 心 室 か ら2.5% グ ル 夕 一 ル ア ル デ ヒ ド の 全 身 環 流 を 行 い 、 可 及 的 迅 速 に 断 頭 し 蝸 牛 を 採 取 、 正 円 窓 お よ び 卵 円 窓 か ら1% 四 酸 化 オ ス ミ ウ ム を 急 速 注 入 し 、 同

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固定液中に室温で10時間浸漬した。さらに2U/o夕ンニン酸中に4℃で2時間、再度1%四酸化 オスミウム中に20℃で2時間浸漬固定を行った。その後、上昇アルコール系列で脱水し酢 酸イソアミルで置換、液体炭酸ガスによる臨界点乾燥を行った。試料を試料台にのせ実体 顕微鏡下でコルチ器を露出した。蓋膜は蝸牛から取り外さずにコルチ器をくずす形で直接 裏側を観察できる状態とし白金、バラジウムによる金属コーティングを行い、走査型電子 顕微鏡で観察した。

  結果、両種ともに蝸牛の下方約3分の2の範囲に内有毛細胞感覚毛の圧痕が存在している ことが明らかとなった。さらに蓋膜側に感覚毛の一部が付着している部分が観察され、そ の先端が蓋膜に刺さり込んでいることを示した。さらに、その圧痕の状態に回転別に違い が存在し、頂回転側にいくほど接着が緩やかになっていることが示唆された。従来その接 着が存在しないとされてきた2つの動物種において、初めて接着の証拠が呈示されたこと に よ っ て 、 す べ て の 高 等 動 物 に こ の 接 着 が 存 在 す る 可 能 性 が 示 唆 さ れ る 。   公開発表にあたり、阿部教授から接着の有無による聴覚機構への影響、圧痕の部位差の 意義、さらに圧痕の配列および数の違いの感覚毛の屈曲様式への影響についての質問があ り、次いで福島教授から、従来の固定法で見っからなかった解釈、圧痕の部位差と蓋膜を 構成する成分との関連、内有毛細胞、外有毛細胞の役割の違いに関する質問があり、さら に主査の犬山征夫教授より頂回転側の接着状況と機能との関連、研究の将来の展望につい ての質問がなされたが、申請者は概ね適切な回答をした。

  本研究は、モルモット、マウスにおいて内有毛細胞感覚毛と蓋膜との接着を初めて明ら か にしたこと で、聴覚生 理学分野、 内耳形態学 分野に大き く貢献した ものである。

  審査員一同は、これらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑽や取得単位なども 併 せ申請者が博士(医学)の学位を受けるのに充分な資格を有するものと判定した。

参照

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