博 士 ( 工 学 ) 川 口 貴 之
学 位 論 文 題 名
粘 性 土 の 弾 性 係 数 の 測 定 お よ び 評 価 方 法 に 関 す る 研 究 学 位 論 文 内 容 の 要 旨
近 年, 土質 力学 およ ぴ 地盤 工学 の分 野に おい て課 題と なっ てい るも ののーっに,
長大 橋梁 の基 礎, 高層 ピ ル, 大規 模・ 大深 度掘 削・ トン ネル 掘削 等や 都市部での近 接施 工時 にお ける 地盤 ・ 構造 物系 の変 位問 題が ある .実 際に ,こ のよ うな地盤掘削 や 構 造 物 の 荷 重 によ る地 盤内 のひ ずみ は1% 程度 以下 ,硬 質地 盤の 場合 には 更に 小 さ い こ と (0.1%程 度以 下) が報 告さ れ てお り, 許容 変位 は従 来の 構造 物の もの に 比べ て小 さく ,必 要と さ れる 地盤 のパ ネ定 数は 対象 とな る地 盤材 料の 微小〜小ひず み 域 に お け る ヤ ン グ 率 あ る い は せ ん 断 弾 性 係 数 に 相 当 す る ・ こ のよ うな 背景 によ り ,研 究レ ベル にお いて も地 盤材 料の 微小 〜小 ひずみ領域に おけ る変 形特 性に 関す る 研究 が精 力的 に行 われ 始め ,20世紀 後半 の情 報・コンピュ ー 夕 技 術 の 急 速 な 発 展 に 伴 い , 高 々10cm程 度の 土供 試体 要素 の微 小な 変形 を高 精 度に 測定 ある いは 制御 す るこ とが 可能 とな って きた .
し かし なが ら, この 種 の研 究に おい て対 象と なっ てい る地 盤材 料を 比較すると,
粘性 土に 関す るも のが 最 も少 なぃ .こ れは ,大 規模 ・重 要構 造物 は硬 質地盤材料の 上に 建設 され るこ ・とが多く,このような小ひず みレベルでの変形特性の把握が不可 欠で ある 事例 が決 して 多 くは ない こと もあ るが ,以 下に 挙げ る粘 性土 に特有の試験 方法 およ び試 験結 果の解釈に関する困難さによる 部分も大きいと考えられる.まず,
粘性 土は 他の 地盤 材料 に 比べ て剛 性が 低く ,弾 性的 な挙 動示 す領 域が 極めて小さい こと .次 に, 他の 地盤 材 料に 比べ て変 形挙 動に おけ るひ ずみ 速度 ,ク リープなどの 粘性 に起 因す る要 因や 載 荷開 始前 の応 力・ ひず み・ 時間 履歴 の影 響な どが顕著であ るこ と. さら に, 粘性 土 は他 の地 盤材 料に 比べ て透 水係 数が 小さ いた めに,試験が 長期 化す るこ とで ある .
そ こで 本研 究で は, 対 象と する 地盤 材料 を粘 性土 に限 定し ,主 に室 内三軸試験に よ っ て 以 下 の3つの 事項 を目 的と し, こ れら を明 らか にし た. 第1に は, 上記 の3つ の問 題点 をク リア し, 粘 性土 のヤ ング 率や せん 断弾 性係 数と いっ た弾 性係数を正確 に 測 定 す る た め の試 験装 置・ 方法 の開 発で ある .第2には ,各 種弾 性係 数( 排水 ・ 非排 水ヤ ング 率, せん 断 弾性 係数 )の 増減 を支 配す る要 因の 把握 やこ れらの定式化 と い っ た 評 価 方 法の 確立 であ る. 第3に は, 弾性 係数 をそ の後 の変 形挙 動を 支配 す る重 要な 物性 値( ベン チ マー ク的 存在 )の ーっ と考 え, 他の カ学 的性 質との関連な どを 把握 する こと により,弾性係数を工学的に応 用することについての検討である.
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本 論 文 は7章 か ら 構 成 さ れ , 各 章 の 概 要 は 以 下 の 通 り と な っ て い る . 第1章は序論とし,本研究の背景・目的について記載するとともに,本研究に深 く 関 連 す る 文 献 を ま と め , 本 研 究 の 位 置 づ け を 行 っ て い る ・ 第2章は高精度三軸試験装置・方法の開発とし,高精度の軸変位の載荷・測定を 可能にしたデジタルサーポモ一夕ーについてなど,本研究のために開発した試験シ ステムのメカニカルな部分の特徴を詳述するとともに,より高精度な試験結果を得 られるための試験方法上の工夫点および性能を生かした幾っかの試験例を示すこと により,本試験システムの多面的な性能を評価している・
第3章はべンダーエレメント試験によるせん断弾性係数の評価とし,送・受信波 時刻歴の自動記録を目的として開発したせん断弾性波速度測定システムの詳細を述 ぺた上で,送信波の波形・周波数,伝達距離,ベンダーエレメントの初動の向きな どに着目して実施された数多くの試験結果より,せん断弾性波の見極めを困難にす るnear field‑effectを 考 慮 し た 伝 播 時 間 同 定 法 の 提 案 を 試 み て い る ・ 第4章は非排水条件下におけるヤング率の定式化とし,粘性土の弾性係数に影響 を及ぼす諸要因について検討した結果,圧密履歴に伴う間隙比と弾性係数の相互関 係が粘性土特有の¢〜 logP′関係と強い相関があることを見出し,この関係を用い て,諸要因の影響を考慮し得る定式化を試みている.さらに,物性の異なる試料に よる試験結果との比較や定式化に用いたパラメータに関する検討,更には他の研究 成 果 と の 比 較 な ど か ら , 定 式 化 結 果 の 汎 用 性 に つ い て も 議 論 し て い る . 第5章は弾性係数の相関とし,クリープの影響に着目して排水条件下における弾 性係数の評価方法について検討した上で,ベンダーエレメント試験より得られたせ ん断弾性係数,前章で議論した非排水条件下でのヤング率を含めて3っの弾性係数 の応カレベル依存性や等方弾性体の仮定の是非,更にはポアソン比などについて議 論している・
第6章は弾性係 数の工学的な応用とし,第4章より明らかになった圧密・膨張履 歴に伴う間隙比と弾性係数の相互関係と,粘性土の代表的な特性であるP〜 logP′ 関係との強い相関を応用し,弾性係数を非排水せん断強度の推定や圧密降伏応カの 特定およぴ過圧密比の算定に適用すること,更には実地盤の年代効果の程度を表現 する指標として用いる方法についても検討している.
第7章は結諭とし,2〜6章において得られた知見について,簡単にまとめた上で,
今後の展望と課題を述べている.
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学位論文審査の要旨
主査 副査 副査 副査
教授 教授 教授 助教授
三田地 石島 三浦 澁谷
学 位 論 文 題 名
利之 洋二 清一 啓
粘 性土の 弾性係数 の測定 および評価方法に関する研究
一 般 に 地 盤 材 料 は 剛 性 が 低 く , 弾 性 的 な 挙 動 を 示 すひ ず み が極 め て 小さ い こ とか ら , こ れ ま で 弾 性 係 数 の 正 確 な 測 定 と 評 価 が 困 難 で , 実 務 的に は 塑 性ひ ず み も含 ん だ いわ ゆ る 変 形 係 数 を 設 計 に 用 い た り , ひ ず み レ ベ ル に 応 じ て その 領 域 の平 均 的 な弾 性 係 数を 用 い る と い っ た 便 法 が 講 じ ら れ て き た . し か し 近 年 , 高 層ビ ル や 長大 橋 梁 の基 礎 な どの 大 深 度 掘 削 に お い て 生 じ る 地 盤 内 の ひ ず み の 評 価 , あ る いは 都 市 部で の 近 接施 工 時 にお け る地 盤 ・ 構造 物 系 の変 位 問 題等 に お いて , 0.1% 程 度以 下 のひずみ レベル における 地盤の 変形 挙 動 の把 握 が 重要 と な って き た .こ の よ う な背 景 に より ,0.001‑v0.1% 程 度 のひ ずみ 領 域 に お け る 地 盤 材 料 の 変 形 特 性 に 関 す る 研 究 が 精 力 的に 行 わ れ始 め , 情報 ・ コ ンピ ュ ー 夕 技 術 の 急 速 な 発 展 と と も に , 小 さ な 土 供 試 体 を 用 いる 室 内 試験 分 野 の計 測 ・ 制御 技 術 も 大 き く 進 歩 し た . し か し な が ら , 粘 性 土 に 関 す る この 種 の 研究 例 は 極め て 少 ない の が 現 状 で あ る . こ れ は , 大 規 模 ・ 重 要 構 造 物 は 硬 質 地 盤材 料 の 上に 建 設 され る こ とが 多 く , 微 小 ひ ず み レ ベ ル で の 変 形 特 性 の 把 握 を 不 可 欠 と する 事 例 が必 ず し も多 く な いこ と も あ る が , 粘 性 土 に 特 有 の 試 験 の 実 施 お よ び 結 果 の 解 釈に 関 す る困 難 さ によ る 部 分も 大 き い . す な わ ち , 粘 性 土 で は 変 形 挙 動 に 及 ぼ す ひ ず み 速度 , ク リー プ な どの 粘 性 に起 因 す る 要 因 や 載 荷 開 始 前 の 応 力 ・ ひ ず み ・ 時 間 履 歴 の 影 響な ど が 顕著 で あ る. さ ら に, 他 の 地 盤 材 料 に 比 ぺ て 透 水 係 数 が 小 さ い た め に , 試 験 が 長 期 化 す る 傾 向 が あ る . 以 上 の よ う な 背 景 の も と , 本 研 究 は , 粘 性 土 の 弾 性係 数 を 正確 に 測 定す る た めの 試 験 装 置 ・ 方 法 を 開 発 し , 弾 性 係 数 の 評 価 方 法 を 確 立 す る とと も に ,他 の カ 学的 性 質 との 関
連を把握 すること により,工 学的な応 用に関す る提案を 行ったも ので,7章 からなる.
第1章では ,研究の 背景とその目的を明らかにするとともに,関連する既往の研究を要 約し,本研究の位置づけを行っている・
第2章では ,本研究 のために開 発した高 精度三軸 試験装置 およぴ試 験システ ムの特徴 を詳述す るととも に,より高 い精度の 結果を得 るための試験方法上の工夫点およぴ性能 を生かし た幾っか の試験例を 示して, 本試験シ ステムの多面的な性能を評価している・
第3章では ,各種室 内力学試験 装置に装 着したべ ンダーエ レメント に対する 任意な電 圧波形の送信と得られた送・受信波時刻歴の自動記録を目的として,新たに開発したせん 断弾性波速度測定システムの詳細を述べた上で,送信波の波形・周波数,伝達距離などに 着目して実施した数多くの試験結果より,送信波の伝播時間同定法の提案を行っている・
第4章では ,粘性土 の非排水条 件下にお ける弾性 係数に影 響を及ぼ す諸要因 について 検討し,圧密履歴に伴う間隙比ピと弾性係数Eの関係が粘性土特有のピ〜 logp′関係と強い 相関があることを見出し,圧密履歴の影響を考慮した定式化を行っている.さらに,物性 の異なる試料による試験結果との比較や定式化に用いたバラメータに関する検討,既往の 研 究 成 果 と の ょ : じ 較 を 通 じ て , 定 式 化 結 果 の 汎 用 性 に つ い て 論 じ て い る ・ 第5章では ,クリー プの影響に着目して排水条件下における弾性係数の評価方法につい て検討した上で,ベンダーエレメント試験より得られたせん断弾性係数,前章で議論した 非排水条 件下での ヤング率を含めて3つの弾性係数の応カレベル依存性や等方弾性体の仮 定 の 是 非 , さ ら に は ポ ア ソ ン 比 の 評 価 毅 ど に つ い て 論 じ て い る . 、 第6章では ,第4章で 明らかにな ったe〜logE関 係とe〜logp′関係の強い相関を応用す ることによって,弾性係数を非排水せん断強度の推定や圧密降伏応カの特定およぴ過圧密 比の算定に適用すること,さらには実地盤の年代効果の程度を表現する指標として用いる 方法についても検討している・
第7章は本 研究の結 論であり,得られた知見を総括し今後の展望と課題を述べている.
これを要するに著者は,軟弱な粘性土の微小なひずみ領域での変形を正確に測定するユ ニークな実験手法を開発した上で,弾性係数の評価方法を確立するとともに,粘性土特有 の工学的 諸性質の 推定方法に 関する有 用な提案 を行っており,地盤工学の発展に寄与す るところ大なるものがある.
よって著 者は,北 海道大学博 士(工学 )の学位 を授与される資格あるものと認める.