博 士 ( 工 学 ) 上 坂 貴 洋
学 位 論文 題 名
Chirality Induction in Cyclocopolymerization of Bis(4‑vinylbenzoate)s with Styrene : Template Effect of rvIonosaccharides and Their Derivatives
( ビ ス( 4 ― ビ ニ ル ベ ン ゾ エ ート )と スチレ ンと の環 化共 重合 に お け る不 斉 誘 導 : 単 糖 お よ び そ の 誘 導 体 の テ ン プ レ ー ト 効果 )
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
高分子化合物の機能性材料への応用を拡げるために、新規な、そして高度な 機能性の付与へと研究が展開されている。その基になるのは高分子鎖の精密な 構築、すなわち立体制御および不斉制御法の確立である。分子鎖が不斉制御さ れ た光 学活 性ポリマーを合成するには不斉重合がもっとも合理的な手法であ る。しかし、適用可能な重合系はまだ限られている。
高分子鎖がキラルな構成単位を形成する最小の単位は構造単位2 個からなる 二連子である。環化重合は二連子を単位とする重合法であり、この二連子の立 体化学を制御する重合法としては最適である。キラルなねじれを有するテンプ レートから誘導したビス(4 −ビニルベンゾエート)モノマーはスチレンとの環 化共重合により、ギラルテンプレート除去後にも光学活性を示すポリマーを生 成する。すなわち、高分子鎖に新たな不斉が誘起される。この環化共重合を不 斉重合法として確立するにはキラルテンプレートの広範な探索が必要である。
そこで本研究ではキラルテンプレートとして入手が容易で安価な天然由来の 単糖およびその誘導体を用い、テンプレートの構造と不斉誘導能の関係を明ら かにすると共に、不斉誘導に効果的なテンプレートを見出すことを目的として 研究を行った。
本論文は6 章から構成されている。
第1 章は序論であり、本研究の背景および目的について述べた。
第2 章では、糖およびその誘導体をテンプレートとして用いた重合で不斉発
現が見られ、しかも高分子鎖に誘導された新たなキラリテイーがテンプレート
によるものであることを確認するために、2 ,3 ―〇−イソプロピリデンスレイトー
ル のL 体 と D 体( a およ びb ) をキ ラル テン プレートとするビス(4 −ビニルベ
ンゾエート)モノマー(1a 、1b) とスチレンとのラジカル共重合を行った。生
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成 し た コ ポ リ マ ー(2a、 2b)か ら テ ン プ レ ー ト 除 去 し た ポ リ ( メ チ ル4− ビ ニ ル ベ ン ゾ エ ー ト‑co― ス チ レ ン )(3a、3b)は 旋 光 性 を 示 し 、 不 斉 発 現 が 確 認 さ れ た 。CDス ベ ク ト ル か ら 、 環 化 ユ ニ ソ ト 由 来 の ポ リ マ ー 主 鎖 の 絶 対 配 置 は3a がS.S‑ラ セ モ 、3bが 尺 , 尺 一 ラ セ モ で あ り 、 そ れ ぞ れ に 反 対 の キ ラ リ テ イ ー が 誘 起 さ れ た 。 こ れ ら の 結 果 か ら 高 分 子 鎖 へ の 不 斉 誘 導 が テ ン プ レ ー ト に 起 因 す る こ と が 明 示 さ れ た 。
第3章 で は 、 単 糖 由 来 の メ チ ル4,6‑0− イ ソ プ 口 ピ リ デ ン ―Q―D‐ グ ル コ 、 マ ン ノ 、 お よ び ァ ル ト 口 ビ ラ ノ シ ド (c、d、e) の3種 の ジ オ ー ル を テ ン プ レ ー ト に 用 い て 、 不 斉 誘 導 に 対 す る テ ン プ レ ー ト の 構 造 因 子 を 検 討 し た 。 こ れ ら ピ ラ ノ シ ド に お け る1,2― ジ オ ー ル のC−C結 合 は 回 転 の 自 由 を 失 っ て い る 。 し た が っ て モ ノ マ ーlc、1d、 1eに お け る2個 の べ ン ゾ エ ー ト の 二 面 角 は そ れ ぞ れ +76° ヽ‑49° ヽ‑161° に 固 定 さ れ て い る 。 こ れ が 環 化 重 合 性 に 反 映 し 、lcとldは 環 化 能 が 高 い が 、1eは 低 く 、 ゲ ル 化 が 起 こ っ た 。 ま た 、 回 転 の 束 縛 は 不 斉 発 現 に は 不 利 に な り 、 い ず れ の モ ノ マ ー も 不 斉 誘 導 能 が 低 か っ た 。 こ の よ う に テ ン プ レ ー ト の 回 転 の 自 由 度 が 不 斉 誘 導 能 に 関 与 す る こ と が 確 認 さ れ た 。
第4章 で は 、3種 類 の へ キ シ ト ー ル か ら 誘 導 し た1,2:5,6ー ジ − 〇 ― イ ソ プロ ピリ デ ン −D− マ ン ニ ト ー ル 、D− グ ル シ ト ー ル 、 お よ びD― イ ジ ト ー ル (f、g、h) を テ ン プ レ ー ト に 用 い て 、 不 斉 誘 導 に 対 す る1,2− ジ オ ー ル のC―C結 合 回 転 の 自 由 度 お よ び テ ン プ レ ー ト の 嵩 高 さ の 影 響 に つ い て 検 討 し た 。 モ ノ マ ーlf‑hは モ ノ マ ーla‑eよ り も 大 き な 不 斉 誘 導 能 を 有 し て い た 。 テ ン プ レ ー トf、g、hで は1,2− ジ オ ー ル のC― C結 合 が 回 転 し 、 分 子 内 環 化 に 有 利 な 立 体 配 置 を 取 り 得 た 。 ま た 、 ラ セ モ ニ 連 子 の 形 成 に 求 め ら れ る 分 子 内 環 化 で の カ ル ボ ニ ル 基 の 逆 平 行 配 置 が テ ン プ レ ー ト の 嵩 高 い 置 換 基 に よ っ て 容 易 に な っ た 。 こ の よ う に 結 合 の 自 由 度 と 嵩 高 さ に よ り 不 斉 誘 導 能 が 向 上 す る こ と を 明 ら か に し た 。
第5章 で は 、1,2− ジ オ ー ル の テ ン プ レ ー トfに 加 え 、1,3− お よ び1,4ー ジ オ ー ルとし て1,2:4,6ーおよび1,2:4,5―ジ一〇−イソプ口ピリデン―Dーマ―ンニトール(iお よ びj) を 用 い て さ ら に 構 造 因 子 に つ い て 検 討 し た 。 モ ノ マ ー の 不 斉 誘 導 能 は liが 最 も 高 く 、 次 い でlf、1jの 川 頁 で あ っ た 。1,4― ジ オ ー ル テ ン プ レ ー ト は 回 転 の 自 由 度 が 大 き 過 ぎ て 、 配 座 分 布 が 広 く な り 、 分 子 内 環 化 に 不 利 に な っ た 。1,3― ジ オ ー ル テ ン プ レ ー ト は1.2― ジ オ ー ル 型 よ り も さ ら に 有 効 な 分 子 内 環 化 の 配 座 を 形 成 し た 。 ま た 、 テ ン プ レ ー ト の 嵩 高 い 置 換 基 は1,2− お よ び1,4− ジ オ ー ル 型 で は 効 果 的 に 作 用 し た が 、1.3ー ジ オ ー ル 型 に は 不 利 益 に な っ た 。 こ の よ う に テ ン プ レ ー ト と し て は1.3一 ジ オ ー ル 型 が 優 れ て い る が 、 置 換 基 の 嵩 高 さ は テ ン プ レート により異なる効果が生じる ことを見出した。
第6章 で は 、 こ れ ら 単 糖 お よ び そ の 誘 導 体 を テ ン プ レ ー ト と し て 用 い た 環 化 共 重 合 で 発 現 す る 不 斉 誘 導 つ い て 、 テ ン プ レ ー ト の 構 造 因 子 に 関 す る 知 見 を ま と め た 。
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学 位 論 文 審 査の 要 旨
主 査 教 授 横 田 和 明 副 査 教 授 市 川 恒 樹 副 査 教 授 徳 田 昌 生
副 査 助 教 授 覚 知 豊 次 ( 地 球 環 境 科 学 研 究 科)
学位論文題名
Chirality. Induction in Cyclocopolymerization of Bis(4‑vinylbenzoate)s with Styrene : Template Effect of lx/Ionosaccharides and Their Derivatives
(ビ ス ( 4 −ビ ニ ル ベン ゾ エ ート ) とス チ レ ンと の 環化 共 重 合に お け る 不 斉 誘 導 : 単 糖 お よ び その 誘 導 体の テ ン プレ ー ト効 果 )
高分子化合物の機能性材料への応用を拡げるために、新規な、そして高度な機 能性の付与へと研究が展開されている。その基になるのは高分子鎖の精密な構築、
すなわち立体制御法および不斉制御法の確立である。分子鎖が不斉制御された光 学活性ポリマーを合成するには不斉重合がもっとも合理的な手法である。しかし、
適用可能な重合系はまだ限られている。
本論文は、キラルテンプレートを用いた不斉環化共重合による光学活性ポリマ ーの合成において、テンプレートとして入手が容易で安価な天然由来の単糖およ びその誘導体を用い、テンプレートの構造と不斉誘導能の関係を明らかにするこ とを目的として行った研究の結果をまとめたものである。その主要な成果は、次 の点に要約される。
1 )糖およびその誘導体をテンプレートとして用いた環化共重合で見られる不斉発 現がテンプレートに由来することをまず確認するために、 2,3 ・イソプ口ピリデンス レイ トールの L 体と D 体( a お よび b )をキラルテンプレートとするピス(4‑ ピニル ベンゾェート)モノマー(la 、lb) とスチレンとのラジカル共重合を行った。生成し たコポリマー (2a 、 2b) からテンプレート除去したポリ(メチル 4 .ビニルベンゾェ ー卜―co‑ スチレン)(3a 、 3b) は旋光性を示し、ポリマーには新たな不斉が発現した。
CD スベ クトルか ら高分子鎖 の絶対配 置は3a が S.S‑ ラセモ、 3b が R,R ―ラセモであ
り、 それぞれに反対のキラリティーが誘起された。これらの結果から高分子鎖へ
の 不斉 誘 導 がテ ン プ レート に起因 すること を明ら かにした 。
2)単 糖 由 来の ヌ チ ル‑4,6―O‑イ ソプ □ピリデ ン‑a‑D‑グルコ、 マンノ 、および ァル ト ピラ ノ シ ド(c、d、e) の3種 の ジオ ールをテ ンプレ ートに用 いて、 不斉誘導 に対 す るテ ン プ レー 卜 の 構造 因 子 を 検討 し た 。こ れ ら ピラ ノ シ ドに おける1,2― ジオー ル のC‑C結 合 は 回 転 が 拘 束 さ れ 、 モ ノ マ ーlc、1d、leに お け る2個 の べ ンゾ ェ ー ト の 二 面 角は そ れ ぞれ 十76° 、149° 、 −161° に固 定 さ れて い る 。lcとldは 環 化 能 が 高 く 、こ れ ら の二 面 角 は環 化 に 適し て い る が、leは環 化 能 が低 く 、 ゲル 化 が 起 こ り 、 二面 角 は 環化 に は 大き す ぎ た。 し か し 、回 転 の 束縛 は 不 斉発 現 に は不 利 に な り 、 いず れ の モノ マ ー も不 斉 誘 導能 が 低 か った 。 こ のよ う に 不斉 誘 導 能に 対 す る テ ン プ レ ー ト の C− C結 合 の 回 転 の 関 与 を 明 ら か に し た 。
3)3種類の へキシト ールか ら誘導し た1,2:5,6‐ジ‑0‑4ソプ口ピリデン‑D―マン二卜 ー ル 、D‑グ ルシ トール、 およびD‑イジトー ル(f、g、h) をテンプ レート に用いて 、 不 斉 誘 導に 対 す る1、2− ジオ ー ル のC‑C結合 回 転 の自 由 度 およ び テン プレート の嵩 高 さ の 影 響 に つ い て 検 討 し た 。 モ ノ マ ーlfhは モ ノ マ ー1aeよ り も 大 き な 不 斉 誘 導能を 有してい た。テン プレー トf、 名、hでは1,2‐ジオールの(ニ―C結合の回転 が 可 能 で あ り 、 分 子内 環 化 に有 利 な 立体 配 置 を 取り 得 た 。ま た 、 不斉 発 現 に求 め ら れ る 分 子 内 環 化 での カ ル ボニ ル 基 の逆 平 行 配 置が テ ン プレ ー ト の嵩 高 い 置換 基 に よ っ て 容 易 に な った 。 こ のよ う に テン プ レ ー トの 結 合 の自 由 度 と嵩 高 さ によ り 不 斉誘導 能が向上 すること を明ら かにした 。
4)1,2・ジオールテンプレートfに加え、1,3‐および1,4―ジオールとして1,2:4,6―およ び1,2:4,5‐ジ‑O‑イソプ口ピリデン‑D‑マンニトール(iおよびj)を用い、さらに構造 因 子 の 検 討 を 深 め た 。 不斉 誘 導 能はliが最 も 高 く 、次 い で1f、ljの 順 に なっ た 。 jは 回 転 の 自 由 度 が 大 きく 、 配 座分 布 が 広く な り 、 分子 内 環 化に 不 利 にな っ た 。i はfよ り も さ ら に 有 効 な 分 子 内 環 化 の 配 座 を 形 成 し た。 ま た 、テ ン プ レー ト の 嵩 高 はfとjで は 効 果 的 に 作 用 し た が 、iに は 不 利 に なっ た 。 この よ う にテ ン プ レー 卜 と して は1.3‐ ジ オ ニル 型 が 優れ て い るが 、置 換基の 嵩高さの 効果は テンプレ ー トにより異なることを見出した。
こ れ を 要 す る に 、著 者 は 光学 活 性 ポリ マ ー の合 成 法 と して の 確 立を 目 指 して 、 キ ラ ル テ ン プ レ ー ト を用 い た 不斉 環 化 共重 合 の 研究 を 展 開 した も の であ り 、 高分 子 合 成 に 関 し て 有 益 な知 見 を 得て お り 、高 分 子 化学 の 進 歩 に寄 与 す ると こ ろ 大な る も の が あ る 。
よ っ て 著 者 は 、 北海 道 大 学博 士 ( 工学 ) の 学位 を 授 与 され る 資 格あ る も のと 認 め る 。