博 士 ( 工 学 ) 樋 口 幹 雄
学 位 論 文 題 名
Growth of Rutile and Trirutile Single Crystals by the Floating Zone lVIethod
( 浮 遊 帯 熔 融 法 に よ る ル チ ル お よ び 三 重 ル チ ル 単 結 晶 の 育 成 )
学 位 論 文内 容 の 要 旨
近 年 の 光 エ レ ク 卜 ロ ニ ク ス 技 術 の 発 展 に と も な い 、 よ り 高 品 質 の 偏 光 子 材 料 に 対 す る 需 要 が 高 ま っ て き て い る 。 例 え ぱ 、 光 通 信 に お い て 、 光 源 で あ る 半 導 体 レ ー ザ ー へ の 反 射 に よ る 戻 り 光 を 遮 断 す る た め に 用 い る 光 ア イ ソ レ ー タ ー に は 、 最 低2個 の 偏 光 子 が 必 要 で あ り 、 そ の 品 質 が レ ー ザ ー 発 振 の 安 定 性 に 大 き な 影 響 を 及 ぼ す 。 偏 光 子 材 料 と し て は 従 来 、 方 解 石 が 用 い ら れ て き た が 、 そ の 供 給 を 天 然 資 源 の み に 頼 っ て い る こ と 、 さ ら に 耐 水 性 に 乏 し い こ と な ど の 理 由 か ら 、 新 し い 偏 光 子 材 料 の 開 発 が 望 ま れ て い た 。 ル チ ル (Ti02) 単 結 晶 は 方 解 石 よ り も 大 き い 複 屈 折 を 有 し 、 耐 水 性 も 優 れ て い る こ と か ら 方 解 石 に と っ て 代 わ る 偏 光 子 材 料 と し て 有 望 で あ る 。 ま た 、 ル チ ル と 同 様 の 構 造 を と る 三 重 ル チ ル 型 複 酸 化 物 は そ の 構 造 に 起 因 し て 大 き い 複 屈 折 を 有 す る こ と が 予 想 さ れ る が 、 大 型 の 単 結 晶 が 育 成 さ れ た 例 は ナ ょ く 、 そ の 光 学 的 性 質 は ほ とん ど明 らか にな って いな い。 本研 究 では 実用 レベ ル の 偏 光 子 材 料 を 得 る こ と を 目 的 と し て 、 新 し い ル チ ル 単 結 晶 の 育 成 法 を 確 立 す る と と も に 、 大 型 の 三 重 ル チ ル 型 複 酸 化 物 を 育 成 し 、 そ の 光 学 的 性 質 を 明 ら か に し た 。 ル チ ル 単 結 晶 は 従 来 、 火 焔 熔 融 法 に よ り 育 成 さ れ て き た が 、 育 成 に 高 度 の 熟 練 を 要 す る う え に 、 製 法 上 、 結 晶 内 に 大 き な 熱 歪 み が 残 り や す い た め 品 質 に 限 界 が あ る 。 こ れ に 対 し て 浮 遊 帯 熔 融 (FZ) 法 は 結 晶 育 成 が 比 較 的 簡 便 で あ る と と も に 、 得 ら れ る 結 晶 の 品 質 も 一 般 に 火 焔 熔 融 法 の も の よ り も 優 れ て い る 。 そ こ で 本 研 究 で は 赤 外 線 集 中 加 熱 型 の イ メ ー ジ 炉 を 用 い て 、FZ法 . に よ る ル チ ル お よ び 三 重 ル チ ル 型 複 酸 化 物 の 単 結 晶 育 成 を 試 み た 。 ル チ ル は 高 温 で 還 元 さ れ や す い た め 、 ま ず 最 初 に 酸 素 気 流 中 で 育 成 を 試 み た 。 し か し な が ら 、 得 ら れ た 結 晶 中 に は 小 傾 角 粒 界 と 呼 ば れ る 欠 陥 が 多 数 存 在 し て い た 。 こ れ に 対 し て 、 比 較 的 低 い 酸 素 分 圧 (10 ‑。 以 下 ) で育 成を おこ なう と、 小傾 角粒 界の 数 は激 減し 、結 晶 周 辺 部 に わ ず か に 形 成 す る の み と な っ た 。 低 い 酸 素 分 圧 下 で 育 成 さ れ た 場 合 に は 、Ti4+
よ り も イ オ ン 半 径 の 大 き いTi3゛ が 大 量 に 生 成 し 、 こ れ が 転 位 の 周 囲の 歪み を 緩和 する こと に よ り 、 そ の 移 動 を ピ ン 止 め し 、 小 傾 角 粒 界 の 形 成 を 抑 制 す る も の と 推 諭 し た 。 そ こ で 、 Tis゛ と 同 様 にTi4゛ よ り も 大 き い イ オ ン 半 径 を 有 す る2r4゛ をZrozとし て少 量 添加 した とこ ろ 、 酸 素 中 の 育 成 で も 小 傾 角 粒 界 の 形 成 を 抑 制 す る こ と が 可 能 と な っ た 。 と く に 、 成 長 方 位 をc軸 に 対 し て 大 き く 傾 け て 育 成 を お こ な う と 、 酸 素 分 圧 の 制 御 だ け で は 小 傾 角 粒 界 の 生 成 は 抑 制 で き な か っ た が 、 2r02の 添 加 は こ の 場 合 も 効 果 的 で あ っ た 。 少 量 のZrozの 添 加 に よ り 、 酸 素 中 で も ル チ ル 単 結 晶 の 育 成 が 可 能 と な っ た が 、 そ れ で も な お 育 成 直 後 の 結 晶 は 濃 青 色 に 着 色 し て い た 。 こ の よ う に 着 色 し た ル チ ル 単 結 晶 を 、 本 来 の 色 調 で あ る 淡 黄 色 透 明 の 状 態 に す る に は 、20日 前 後 に わ た る 長 時 間 の 酸 化 熱 処 理 が 必 要
で あ っ た 。し か し 、SC203 、Al203 、 Mg0 な どの よ う に3 価 あ る いは 2 価 の 陽イ オ ン を含 む酸化物 を添加す ることに より、育 成直後でも着色のないルチル単結晶を得ることに成功 した。と くに、Al203 を 添加した 場合には 、 Zroz の場合 と同様に小 傾角粒界の形成を抑制 する効果 もあった 。Al203 を添加 した結晶 の電気伝 導度を測定 したところ、交流電場では 無添加の ものより も600 −900 ℃に おいて一桁程大きいのに対して、直流電場では両者の間 にほ と んど差 はみられ なかった 。このこと から、3 価 あるいは 2 価の陽イ オンを添 加した ルチル結 晶中では 、電荷補 償のため に酸素空格子点が形成され、それを介した酸素イオン の拡散が 無添加の 結晶中よ りも速く なり、育成終了から室温までのわずか30 分程度の冷却 時間でも脱色が完了するものと考察した。
っぎに、 ルチル単 結晶の大 □径化の 可能性を検討するために、結晶成長中の固液界面形 状を調べ た。結晶 径が10mm の場 合には界面の凸度(半径に対する高さの比)は回転数の増 大にとも なって大 きく低下 する現象 が観察された。これに対して結晶径が13mm の場合には 回転数を 最大60rpm とし ても凸度 はあまり 低下しな かった。こ のことが、結晶径を大きく した場合 に結晶と 原料棒と の接触が 頻繁になり、熔融帯を不安定化させる原因となってい ると推察した。
FZ 法に より育成 したルチ ル単結晶 の偏光子材 料として の品質を 評価する ために、 消光 比の測定 を行った 。低酸素 分圧下で 育成された無添加結晶からグランートムソンプリズム を、2r02 およ びAl203 添加結 晶からピ ームスプ リッタ― となる平行 平板をそれぞれ試作し たと こ ろ、い ずれの偏 光子も55dB 以 上の消光比 を示した 。このこ とから、 FZ 法により 育 成 し た ル チ ル 単 結 晶 は 、 実 用 化 可 能 な 品 質 を 有 し て い る こ と が 明 ら か と な っ た 。 三 重 ルチ ル に つい て は、 融 液 成長 が 可能 な 物 質と し てMgTa206 およ び NiTa206 を選ん だ。両者 とも焼結 体を直接 、原料棒 として用いると、熔融帯に気泡が取り込まれやすく育 成が困難 であった が、いっ たんゾー ンパスを施した原料を用いることにより、安定した育 成をおこ なうこと ができた 。偏光顕 微鏡のコノスコープ観察により、得られた結晶はいず れも光学 的歪みが ほとんど 無いこと がわかっ た。ldgTa206 および NiTa206 の複屈折はそれ ぞれ0 . 11 と0 .15 であり、ルチルの 0 .29 には及ぱないものの他の一軸性結晶のそれ(例えば 水晶の0 . 01 )と比較 すると非 常に大きいものであった。NiTa208 は可視および近赤外領域 に強い吸 収帯をも っている ため、光 学素子としての使用はある特定の波長範囲に限られる が、 MgTa206 は可視、 近赤外領 域に吸収 帯が無いう え、吸収 端が290nm にあ り、ルチ ルよ りも短い波長範囲まで使用可能であること明らかとなった。
最 後 に本研究 のまとめ をおこな い、FZ 法によ り育成さ れたルチ ル単結晶 は偏光子 材料
として実 用化する において 十分な光 学的品質を有すること、および三重ルチル型構造を有
する複酸 化物は予 想どおり 大きい複 屈折を有し、新しい偏光子材料として利用可能である
ことを結諭づけた。
学位論文審査の要旨 主 査 教 授 小 平 紘 平 副 査 教 授 稲 垣 道 夫 副査 教 授 古市隆三郎 副 査 教 授 嶋 田 志 郎
学 位 論 文 題 名
Growth of Rutile and Trirutile Single Crystals by the Floating Zone Method
( 浮遊帯熔 融法によ るルチルお よび三重 ルチル単 結晶の育 成)
近年 の光 エレクト ロニクス技術の発展にとも ない、より高品質の偏光子材 料に対する需 要 が高 まっ てきてい る。ルチル(Tioz)単結晶は 大き。ヽ複屈折を有するとと もに、耐水性 に も優 れて いること から、方解石にとって代わ る偏光子材料として有望であ る。また、ル チ ルと 同様 の構造を とる三重ルチル型複酸化物 はその構造に起因して大きい 複屈折を有す る こと が予 想される が、大型の単結晶が育成さ れた例はなく、その光学的性 質はほとんど 明らかに なっていなレヽ。本研究にお いて著者は、実用レベルの偏光子材料を得ることを目 的 とし て、 新しいル チル単結晶の育成法を確立 するとともに、大型の三重ル チル型複酸化 物を育成 し、その光学的性質を明らか にしている。
著者 は、 さまざま な単結晶育成法を検討した 結果、浮遊帯熔融法が高品質 のルチル単結 晶 およ び三 重ルチル 型複酸化物の単結晶を得る ために最も適した方法である と結諭し、赤 外 線 集 中 加 熱 型 の イ メ ー ジ 炉 を 用 。 ヽ て 、 こ れ ら の 育 成 を 試 み た 。 ルチ ルは 高温で還 元されやすいため、まず最 初に酸素気流中で育成を試み たところ、得 ら れた 結晶 中には小 傾角粒界と呼ばれる欠陥が 多数存在していた。これに対 して、比較的 低い酸素 分圧(10一2以下)で育成を おこなうと、小傾角粒界の数 は激減し、結晶周辺部に わずかに 残存するのみとなった。低い 酸素分圧下で育成された場合には、Ti ゛よりもイオ ン半径の 大きO丶Ti3゛が大量に生成し 、これが転位の周囲の歪みを緩和することにより、そ の移動を ピン止めし、小傾角粒界の形 成を抑制するものと推論し ている。また、Ti3゛と同 様に、Ti4十よりも大きいイオン半径を有するZr ゛を21:02として少量添加することにより、
酸 素 中 の 育 成 で も 小 傾 角 粒 界 の 形 成 を 抑 制 し 得 る こ と を 明 ら か に し て い る 。 少量 の2r02の添加 により、酸素中でも良質な ルチル単結晶の育成が可能と なったが、そ れ でも なお 育成直後 の結晶は酸素欠損のために 濃青色に着色しており、本来 の色調である 淡 黄色 透明 の状態に するには、20目前後にわた る長時間の酸化熱処理が必要 であった。こ れ に対 して 、Al203、Mg0な どの よ うに 低原 子価 の 陽イ オン を含む酸化物を 添加すること に より 、育 成直後で も着色のないルチル単結晶 を得ることに成功している。 電気伝導度の 測 定結 果か ら、低原 子価の陽イオンを添加した ルチル結晶中では、電荷補償 のために酸素 空 格子 点が 形成され 、それを介した酸素イオン の拡散が無添加の結晶中より も速くなるこ
とを明らかにしている。
っ ぎに 、ル チ ル単結晶の大口径化 の可能性を検討するために 、結晶成長中の固液界面形 状を 調べ た。 結 晶径が10mmの場合に は界面の凸度(半径に対す る高さの比)は回転数の増 大に とも なっ て 大きく低下するのに 対して、結晶径が13I:Hの場 合には回転数を最大60rpm としても凸度はあまり低 下しないとレヽう現象が見 いだされた。これによって、結晶径の増 大に とも ない 、 結晶と原料棒との接 触が頻繁になり、浮遊帯熔 融法によるルチル単結晶の 大口径化が困難になるも のと推論している。
浮 遊帯 熔融 法 によ り育 成し た ルチ ル単 結晶 の偏 光 子材 料と して の品質を評価するため に、 グラ ン― 卜 ムソンプリズムおよ びビームスプリッターとな る平行平板を試作し、その 消光比を測定した。。ヽ ずれの素子も55dB以上の消 光比を示し、浮遊帯熔融法により育成し たル チル 単結 晶 は、 十分 に実 用 化可 能な 品質 を有 し てい るこ とが 明らかになっている。
三重ルチルにっレヽて は、NlgTaz06およびNiTaz06を選び、浮遊帯熔融法によ る単結晶育 成を試み、、その光学的 性質を検討した。いったん 熔融固化を施した原料棒を用いることに より 安定 した 育 成を おこ なう こ とが でき 、大 型のMgTaz06、NiTa206単結晶を得ることに に成 功し てい る 。偏光顕微鏡のコノ スコ―プ観察により、いず れの結晶も光学的歪みがほ とんどなレヽことがわかった。l/lgTa206およびNiTa206の複屈折はそれぞれ0.11と0.15であ り、 ルチ ルに は 及ば ない もの の 、他 の一 軸性 結晶 の それ と比 べる と非常に大きいもので あ っ た 。NiTa206は 司 視 ・ 近赤 外 領域 に強 い吸 収帯 を もっ てい るが 、 峨206はそ れ らの 領域に吸収帯がないうえ 、吸収端が290舳にあり、ル チルよりも短。ヽ波長領域 まで使用可 能であること明らにして いる。
最 後に 本研 究 のま とめ をお こ ない 、FZ法に より 育 成さ れた ルチ ル単結晶は偏光子材料 とし て実 用化 す る上で十分な光学的 品質を有すること、および 三重ルチル型構造を有する 複酸化物は予想どおり大 きい複屈折を有すると結諭 している。
こ れを 要す る に、 著者 はル チ ル名 よび 三重 ルチ ル 単結 晶の 育成 に浮遊帯熔融法を適用 し、 偏光 子材 料 として実用レベルの ルチル単結晶を得るととも に、これまで未知であった 三重 ルチ ル型 複 酸化 物、MgTa206およ びNiTa206の 光 学的 性質 につ いて新しい知見を得て お り 、 光 エ レ ク 卜 ロ ニ ク ス 技 術 の 発 展 に 対 し て 貢 献 す る と こ ろ 大 で あ る 。 よ って 著者 は 、北 海道 大学 博 士( 工学 )の 学位 を 授与 され る資 格あるものと認める。
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