博 士 ( 農 学 ) 小 川 貴 代
学 位 論 文 題 名
土 地 利 用 型 酪 農 生 産シ ス テ ム にお け る 乳 用 雌 牛 の 育 成 に 関 する 研 究
学 位 論 文内 容 の 要 旨
わ が 国 の 畜 産 は 、 い わ ゆ る 、 加 工 型 畜 産 と 称 さ れ る よ う に 、 家 畜 の 飼 育 に 要 す る 飼 料 の 多 く を 穀 類 を 中 心 と す る 輸 入 飼 料 に 依 存 し て い る 。 最 近 の 酪 農 も 、 経 営 規 模 の 拡 大 や 乳 牛 の 個 体 当 た り の 乳 生 産 のI句 , 卜を 意鬩 して 、輸 入穀 類 を 多 用 す る よ う に な っ て き て お り 、 こ れ に と も な っ て 、 牛 乳 生 産 費 の 上 昇 や 乳 牛 の 疾 病 の 増 加 、 糞 尿 処 理 と 関 連 し て 環 境 汚 染 等 の 問 題 が 生 じ て い る 。 乳 用 蝋 子 牛 の 育 成 も 、 同 様 に 、 濃 厚 飼 料 に 依 存 す る 飼 育 方 式 が 多 く な っ て き て い る 。 反 芻 動 物 で あ る 乳 牛 を 用 い る 酪 農 に お い て 倣 、 そ の 基 本 飼 料 で あ る 粗 飼 料 の 生 産 を 基 盤 と す る 生 産 シ ス テ ム が 本 来 の 姿 で あ り ゛ 、 こ れ に よ っ て 、 上 述 の 各 種 問 題 を 軽 減 す る こ と が 可 能 と な る 。 し か し 、 わ が 国 に お い て は 、 子 牛 の 育 成 を 、 離 乳 時 よ り 初 産 時 に 到 る 長 期 間 に 亘 り 継 続 し て 、 粗 飼 料 の み の 飼 料 給 与 に よ り 試 験 し た 研 究 は ほ と ん ど な い 。
そ こ で 本 研 究 で は 、 積 雪 寒 冷 地 に お い て 、 粗 飼 料 生 産 を 基 盤 と し た 土 地 利 用 型 酪 農 生 産 シ ス テ ム の 一 環 と し て 、 放 牧 を 取 り 入 れ た 乳 用 雌 牛 の 育 成 方 式 の 確 立 を 目 的 に 、 本 学 附 属 農 場 で 生 産 さ れ た ホ ル ス タ イ ン 種 雌 予 牛115頭 を 用 い 、 離 乳 後 の40月 齢 か ら 初 産 次 乳 期 終 了 時 ま で の 育 成 ・ 泌 乳 試 験 を 実 施 し 、 体 の 量 的 成 長 な ら び に 機 能 の 発 達 度 合 の 評 価 に 基 づ き 、 以 下 の 検 討 を 行 っ た 。 1. 放 牧 を 取 り 入 れ た 粗 飼 料 主 体 育 成 が 乳 用 雌 牛 の 発 育 、 繁 殖 、 乳 生 産 に 及 ば す 影 響
2. 各 育 成 期 に お け る 給 与 飼 料 が 飼 料 利 用 と 発 育 に 及 ぼ す 影 響 3. 放 牧 を 取 り 入 れ た 粗 飼 料 利 用 に よ る 乳 用 雌 子 牛 の 育 成 方 式 モ デ ル の 提 示
‑ 870 ‑
な お 放牧 に は本 学 附 属農 場 の平 坦 な 集約 草地と 本学附属 牧場の傾斜 ・蹄耕法 造成 草地を用 いた。ま た育成期は 、育成前 期(4 ‑100月齢 、性成熟前)、育成 中 期 (11‑160月齢 、性成熟 〜繁殖供 用期)、 育成後期 (170月齢一 分娩、妊娠 期)に分けて検討を行った。
研究の成果は以下のように要約される。
1)40月齢 か ら分 娩 ま での 全 育成 期 間 を、 舎 飼 いで 濃 厚飼 料 を 補絵 し た慣行 育 成 方式 と 、濃 厚 飼 料を 削 減ま た な 無給 与にし た粗飼料 主体の育成 方式によ る 発 育を 比 較し た 。 粗飼 料 主体 育 成 方式 斌さら に育成前 期・後期放 牧の方式
(秋冬生まれ子牛)と育成中期放牧による方式(春憂生まれ子牛)に分けられる。
全 育 成 期 間 の 日 増 体 量 は 、 慣 行、 前 ・後 期 放 牧お よ び中 期 放 牧各 方 式で 、 0. 65,0.63,0.58 kgであり、現行の発育標準値とほぼ同程度で、放牧を取り入 れ た 粗飼 料 主体 育 成 方式 に おい て も 十分 な発育 が得られ た。レかし 、粗飼料 主体 育成方式 では、舎 飼い時(貯 蔵粗飼料 給与)の 日増体量が慣行育成方式に 比 べ 低い の に対 し 、 放牧 時 では 逆 に 高く 、育成 方式によ って各育成 期の増体 は 大 きく 異 なっ た 。 また 舎 飼い 時 の 日増 体量と その後の 放牧時の日 増体量と の 間 に負 の 相関 が 認 めら れ 、舎 飼 い 時の 発育の 遅れを、 その後の放 牧時に取 戻 す こと が 認め ら れ た。 ま た育 成 方 式の 違いは 骨格の発 育には影響 を及ぼさ なかった。
2) 受 胎 率、 受 胎ま で に 要す る 授精 回 数 など 繁 殖成 績 に は、 育 成 方式 間に差 は認 められな かったが 、育成前期 および中 期の日増 体量がO.5kg以下の場合、
受 胎 まで に 要す る 授 精回 数 が増 加 す る傾 向が認 められた 。分娩後、 初産次乳 期 を 粗飼 料 多給 で 飼 養し た 場合 、 そ の乳 生産成 績にも育 成方式間に は差は認 めら れなかっ た。しか し、育成方 式とは男IJに、育成 後期の日増体量が高く、
分娩時体重が大きいほど泌乳初期の乳量が高くなった。
3) 試 験 期間 中 に実 施 し た延72回 の 消 化試 験 の 結果 よ り、 供 試 した 子 牛の全 飼 育 期間 に おい て 、 粗飼 料 の消 化 機 能は ほぼ成 畜と同程 度であるこ とを明ら かに した。各育成期毎の給与飼料構成と飼料利用および発育の関連をみる、と、
育成 前期では 濃厚飼料 無給与でサ イレージ 、乾草な ど貯蔵粗飼料のみの場合、
体 重 当た り の乾 物 摂 取量 で は、 他 の 紿与 飼料構 成の場合 と差ななか った。し か し 、育 成 前期のと くに体重200kg以下の場 合、貯蔵 粗飼料の み給与では 乾物 摂 取 量が 低 下し た 。 また 、 育成 前 期 、貯 蔵粗飼 料のみで は、消化串 、日増体 ‑ 871ー
量の低下が認められ.、濃厚飼料を補給する必要性が示唆された。一方、育成 前期に併紿飼料なしで傾斜草地に昼夜放牧をした場合、乾物摂取量は十分で あったが、日増体量は低下した。これに対し、乾草を併給した時間制限放牧 の 場 合 は 、 慣 行 育 成 と 同 程 度 か そ れ 以 上 の 日 増 体 量 が 得 ら れ た 。
育成中期・後期では、サイレージ、乾草など貯蔵粗飼料のみの場合でも、
品質が良好であれば乾物摂取量、消化率、日増体量とも濃厚飼料補給の慣行 育成と差はなく、貯蔵粗飼料のみの育成は可能と考えられた。また放牧期の 昼夜放牧のみ、あるいは時間制限放牧で乾草併給のいずれの場合でも、慣行 育成と同程度かそれ以上の日増体量が得られ、放牧でも十分育成倣可能であ った。
4
)以上の結果に基づき、繁殖、乳生産成績からみて必要な乳用雌牛の発育 範囲とそれを可能とする給与粗飼料構成を検討し、放牧を活用した乳用雌予 牛の育成方式モデルを、子牛の出生季節を考慮して策定した。すなわち、秋 冬生まれの牛は、育成前・後期に2
シーズン放牧を取り入れ、中期は貯蔵粗飼 料のみを給与することにより、4カ月齢から分娩まで濃厚飼料を全く給与せず 育成することが可能である。春夏生まれの牛は、育成前期には貯蔵粗飼料の 品質により濃厚飼料の補給が必要であるが、中期に1
シーズン放牧、後期には 貯蔵粗飼料のみ給与することで、4
カ月齢から分娩までの濃厚飼料使用量を慣 行育成の4分の1に削減して、育成が可能である。以上のように、本研究は土地を基盤にした酪農生産システムにおける乳用 雌牛の育成について、離乳後の4カ月齢から初産次乳期終了までの発育、繁殖、
乳生産成績を総合的に検討し、放牧を活用した粗飼料主体で育成が可能なこ とを明かにした。また、これらをもとに子牛の出生季節を考慮した育成方式 をモデル化して提示した。
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査
教授 教授 助教授
朝日 田 上山 大久 保
学 位 論 文 題 名
康司 英一 正彦
土地利用型酪農生産システムにおける 乳用雌牛の育成に関する研究
本 論 文 は 、 表31、 図12、 引 用 文 献78を 含 む 総 ペ ー ジ112の 和 文 諭 文 で あ り 、5 章 に 分 け て 論 述 さ れ て い る 。
わ が 国 の 畜 産 は 、 い わ ゆ る 、 加 工 型 畜 産 と 称 さ れ る よ う に 、 家 畜 の 飼 育 に 要 す る 飼 料 の 多 く を 穀 類 を 中 心 と す る 輸 入 飼 料 に 依 存 し て い る 。 最 近 の 酪 農 も 、 経 営 規 模 の 拡 大 や 乳 牛 の 個 体 当 た り の 乳 生 産 の 向 上 を 意 図 し て 、 輸 入 穀 類 を 多 用 す る よ う に な っ て き て お り 、 こ れ に と も な っ て 、 牛 乳 生 産 費 の 上 昇 や 乳 牛 の 疾 病 の 増 加 、 糞 尿 処 理 と 関 連 し て 環 境 汚 染 等 の 問 題 が 生 じ て い る 。 乳 用 蟻 子 牛 の 育 成 も 、 同 様 に 、 濃 厚 飼 料 に 依 存 す る 飼 育 方 式 が 多 く な っ て き て い る 。 反 芻 動 物 で あ る 乳 牛 を 用 い る 酪 農 に お い て は 、 そ の 基 本 飼 料 で あ る 粗 飼 料 の 生 産 を 基 盤 と す る 生 産 シ ス テ ム が 本 来 の 姿 で あ り 、 こ れ に よ っ て 、 上 述 の 各 種 問 題 を 軽 減 す る こ と が 可 能 と な る 。 し か し 、 わ が 国 に お い て は 、 子 牛 の 育 成 を 、 離 乳 時 よ り 初 産 時 に 至IJる 長 期 間に 亘 り 継 続し て 、 粗飼 料 の み の 飼 料 給 与 に よ り 試 験 し た 研 究 は ほ と ん ど な い 。
そ こ で 本 研 究 で は 、 積 雪 寒 冷 地 に お い て 、 粗 飼 料 生 産 を 基 盤 と し た 土 地 利 用 型 酪 農 生 産 シ ス テ ム の 一 環 と レ て 、 放 牧 を 取 り 入 れ た 乳 用 雌 牛 の 育 成 方 式 の 確 立 を 目 的 に 、 本 学 附 属 農 場 で 生 産 さ れ た ホ ル ス タ イ ン 種 雌 子 牛115頭 を 用 い 、 離 乳 後 の40月 齢 か ら 初 産 次 乳 期 終 了 時 ま で の 育 成 ・ 泌 乳 試 験 を 実 施 レ 、 体 の 量 的 成 長 な ら び に 機 能 の 発 達 度 合 の 評価 に 基 づき 、 以 下 の検 討 を 行っ た 。 1. 放 牧 を 取 り 入 れ た 粗 飼 料 主 体 育 成 が 乳 用 雌 牛 の 発 育 、 繁 殖 、 乳 生 産 に
及ぼす影響
2. 各 育 成 期 に お け る 給 与 飼 料 が 飼 料 利 用 と 発 育 に 及 ぼ す 影 響 3. 放牧 を取 り入 れた 粗飼 料利用 によ る乳 用雌 子牛 の育 成方 式モ デル の提 示
な お放 牧に は本 学附 属農 場の 平坦 な集約 草地 と本 学附属牧場の傾斜・蹄耕法 造成草地を用いた。また育成期は、育成前期(4 ‑100月齢、性成熟前)、育成 中 期(11‑160月 齢、 性成熟〜繁殖供用期)、育成後期(170月齢一分娩、妊娠 期)に分けて検討を行った。
研究の成果は以下のように要約される。
1)40月齢 から 分娩 まで の全 育成期 間を 、舎 飼い で濃 厚飼 料を 補給 した 慣行 育 成方 式と 、濃 厚飼 料を 削減 また は無給 与に した 粗飼料主体の育成方式によ る 発育 を比 較し た。 粗飼 料主 体育 成方式 はさ らに 育成前期・後期放牧の方式
(秋冬生まれ子牛)と育成中期放牧による方式(春夏生まれ子牛)に分けられる。
全 育 成 期 間 の 日 増 体 量 は 、 慣 行 、 前・ 後期 放牧 およ び中 期放 牧各 方式 で、
0. 65,0.63,0.58 kgであり、現行の発育標準値とほば同程度で、放牧を取り入 れ た粗 飼料 主体 育成 方式 にお いて も、十 分な 発育 が得られた。しかし、粗飼 料主体育成方式では、舎飼い時(貯蔵粗飼料給与)の日増体量が慣行育成方式 に 比ぺ 低い のに 対し 、放 牧時 では 逆に高 く、 舎飼 い時の発育の遅れを、その 後の放牧時に取戻すことが認められた。
2) 繁 殖成 績に は育 成方 式問 の差は 認め られ なか った が、 育成 前・ 中期 の日 増体量がO,5kg以下の場合、受胎までに要する授精回数が増加する傾向が認め ら れた 。分 娩後 、初 産次 乳期 を粗 飼料多 給で 飼養 した場合、その乳生産成績 に も育 成方 式間 に差 は認 めら れな かった が、 育成 後期の増体が高く、分娩時 体重が大きいほど乳量が高くなった。
3) 各 育成 期毎 の給 与飼 料と 飼料利 用お よぴ 発育 の関 連を みる と、 育成 前期 で は濃 厚飼 料無 給与 で貯 蔵粗 飼料 のみの 場合 、あ るいは併給飼料なしで傾斜 草 地に 昼夜 放牧 した 場合 、他 の給 与飼料 構成 に比 べ飼料摂取量には差がない が 、消 化率 、日 増体 量の 低下 がみ られた 。育 成中 ・後期では昼夜放牧のみ、
あ るい は時 間制 限放 牧で 乾草 併紿 のいず れで も高 い増体が得られた。また貯 蔵 粗 飼 料 の み で も 、 そ の 品 質 が 良 好 で あ れ ば 発 育 に 問 題 は な か っ た 。 4) 以 上の 結果 に基 づき 、放 牧を活 用し た乳 用雌 牛の 育成 方式 モデ ルを 、子 ー874―
牛の出生季節を考慮して策定した。秋冬生まれの牛は、育成前・後期に2シー ズン放牧を取り入れ、中期は貯蔵粗飼料のみで飼養することにより、全期間、
濃厚飼料無給与で育成することが可能である。春夏生まれの牛は、育成前期 にのみ貯蔵粗飼料に濃厚飼料補給、中期に1シーズン放牧、後期は貯蔵粗飼料 のみで飼養することで、濃厚飼料使用量を慣行育成の
4
分のIに削減して、育 成が可能である。また、こうした方式による育成は、繁殖および乳生産に悪 影響を及ぼさないものと半|J断出来た。以上のように、本研究は土地を基盤にした酪農生産システムにおける乳用 雌牛の育成について、離乳後の40月齢から初産次乳期の乳生産成績まで総合 的に検討し、放牧を活用した粗飼料主体で育成が可能なことを明かにしてお り、学術的に高く評価される。また、これらをもとに子牛の出生季節を考慮 した育成方式をモデル化して提示しており、実用面においても貢献するとこ ろが大きい。
よって審査貝一同は最終試験の結果を合わせて、本諭文の提出者小川貴代 は 博士(農学 )の学位を 受けるのに 十分な資格 があるものと認定した。
―875 ‑