博士(医学)小畑慶子 学位論文題名
滑膜肉腫原因キメラ癌遺伝子SY T ・Ssxi 産物との 結合分子の解析
学位論文内容の要旨
[背景]
滑膜肉 腫は若年成人の四肢、関節近傍に好発する腫瘍で、腫瘍 細胞には特徴的な18番染色体と X染色体の相互転座t(X;18)(p11.2;q11.2)が認められ、その結果18番染色体上のsynovial sarcoma translocation (SY7)遺伝子とX染色体上のsynovial sarcomaXbreakpo血(駆め遺伝子が融合した.鉗F卿 遺伝子が形成される。現在.Sほ5顕遺伝子は滑膜肉腫の診断マーカーとして広く用しゝられている。
SYTは 分子 量約57虹 涵の 蛋白 で、 多く の臓 器 で発 現し ている。SYTのN末54アミノ酸は多くの 種で保存された領域であることからSYTN「−tnnina】bomology(Sトm)領域、また中央部の約200アミノ 酸はグルタミン(Q、プロリン(め、グリシン(G)、チロシン(りに富む配列を有しておりQI研領域と 称されているが、明らかな機能は判明していない。
また、SSX遺伝子にはh償nolog眦である駆鮒からヮまでカ嘩浸告されており、このうちキメラ遺伝 子 が形 成されるのは主に嚠|と駆惣遺伝 子である。SSXは分子量約30kI涵の蛋白で、正常組織で は精巣に 発現している。また一部の腫瘍細胞でも発現が認められるが、正常滑膜では発現していな い 。SSXのN末端には転写抑制因子と相同 性のあるめ孵ロ盤恥丑ltedbox(KRAB)領域が存在し、
C末端の33アミノ酸からなるSSXq)|骼80rd叩lam(SS)m)領域は転写抑制能を有することが、人工 的な転写活性化系において示されている。
SYr−SSX|甜闘胞の転写を活陸化し、癌汀匕を誘導することカ撒されているが、野生型SYT及びSSX の機能カゝネ明であることから、癌化のメカニズムも不明な点カ渉い。
[目的]
現在 まで にSYT分子 に結 合す る転 写調 節因 子 カ濺 っか 報告されて いる。その中のhBRMを含む ク ロマ チン リモ デ リン グSWI/SNF複 合体 は約2M随 であ り、 またpooも巨大複合体を形成するこ とが知ら れている。本研究ではまず初めに、滑膜肉腫細胞においてSYT‐ssXとこれらの蛋白が巨大 複合体として存在するか否かを検討した。
SSXは既知のDN A結合配列をもたないため、何らかの蛋白と結合し、転写を制御していると考え られてい る。最近、SSXと共に精製さ れると報告されたコアヒストンは2個の田2ハ比狃)2量体が
(H3暑1)2量体と結合している8量体で、H2AにはH2A.X、H2AZ、macIOH2A、H2A.Bbdなどのv甜iant があるこ とが知られている。SSXはコ アヒストンのうちのいずれかに直接結合することで転写抑制 機能の役 割を果たすという仮説を立て、SYrーSSX1およびSSX1とヒストンとの結合解析を行った。
[方法]
滑膜 肉腫細胞株やSYT―SSX1安定発現細胞株を用いてゲルろ過クロ マトグラフイー解析を行い SYT‐SSX1とこれに結合する蛋白との複合体の分子量の検討を行った。
SYISSX1、SSX1とヒストンサプュニ ットとの結合解析は、大腸菌から精製したGs1、―SSX1と各 ヒストン の29釘細胞での−1邑性発現系の細胞抽出液を用いGSTpml−d弸m謎sayを行った。さらに、
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SYT‑SSX1また はSSX1と 各ヒ スト ンを293T細胞に一過性に共発現 させて結合解析を行い、得られ た結 果からGST融合SSX1欠失変異体を作製し、SSX1におけるヒス トンとの結合領域の同定を行っ た。
鰍]
ゲ ルろ過解析の結果、S Y‑SSX1は 分子量67 kDaの蛋白であるが、分子量約450 kDaまでの複合 体、 さらに一部はSWI/SNF複合体の分子量である2MDa丶あるいは それ以上の大きさの複合体を形 成し て存 在し てい るこ とが 観察 された。bBRMが発現していない 細胞株SW13ではこの巨大複合体 はみられなかった。
GST pull‑down assayを行 ったと ころ、ヒストンH2AとvariantであるH2A.XとH2A.Bbd及びH2B に陽 性バ ンド がみ られ ,H3との 弱い 結 合も 観察 され た。 一方 、(H2A‑H2B)ま たは(FB‑H4)の組 合せ で共 発現 させ た抽 出液 を用 いた 場 合で は、(H2A‑H2B)ではGST‑SSX1との結合が認められ、
(H3‑H4)では弱い結合が認められた。
SY‑SSXIまたはSSXIと各ヒストンとの結合解;幵では、SYr‐SSXlにおいてヒストンを沈降させ てSYrSSXlを 検 出 し た 場 合 にH3とH4と の 結 合 が み ら れ た 。 ま たSSXlに お い てはSSXlを沈 降 させ てヒ スト ンを 検出 した 場合 、比A.Blぬとの強い結合と比狐.Xでも弱い結合がみられた。
4つのSSXl欠失変異体と各ヒストンとの結合性解析では、SSXlmml(11110アミノ酸)あるいは 弧蛇(111ー1鶴アミノ酸)を沈降し、ヒストンを検出した際に、SSXlnlmlと比強,Bbdにおいて強い結 合がみられた。SSXlmuにではこの結合は認めら れなかった。これらのことからH2A.Bbdに着目し SSXlInuB(1石1アミノ酸)ヽIInn4(621110アミノ酸)を用いて解析を行ったところ、SSXl弧必を沈降 し、H2A.Bbdを検出した際に結合が認められた。以上のことからssX1のN末端61アミノ酸が比強.Bbd との結合領域であることが示唆された。
[考察]
ゲルろ過解析の結果、→部のSYトSSXlは蠻丙1/SNF複合体の分子量である約2M【涵あるいはそれ 以上の大きさの複合体を形成して存在していることが観察され、SWI/SNF複合体に加えて新たな分 子が 存在する可能性が示唆された。SWI/SNF複合体のサプュニットの1つであるhBRMが発現して いな い細 胞株SW13では この 巨大 複合 体 はみ られ なか った ことから、この複合体はSYr―SSX1と SWI/SNF複合体との結合によるものであることが示唆された。
コアヒストンは(H幽卜E狃)で2量体を形成し、(HうーH4)み量体と結合して8量体となることが知ら れ て い る 。G釘pml一awn髑ayでのSSXlとヒ スト ンHB、H:4との 弱い 結合 は、SSX1と結 合し た
(mA・H加)2量体にさらに結合したHう、H4が間接的に検出された結果と思われ、SSXはヒストンE強 か比狃に結合すると考えられた。
こ れま で報 告さ れたSSXと コア ヒス トン との 結合 はSSXのC末78アミノ酸であったが、本研究 では以前の報告とは異趣り、N末端においてヒストン比狐.Bbdと結合していることが確認された。
IセA.Bbdは不活性 化したX染色体に存在しない 比強ヒストンであることから、Ssxは何らかの転写 因子と競合して転写活性化状態のヒストンに結合することで、転写抑制に働くと予想される。今後 はSSxlと結合がみられた砿へ.Bbdを含めた比狐v甜antでの結合領域の解析、さらにはヒストンと 結合することによるSSX分子の機能の解明が必要と考えられた。またSsXlと 比強.Bbdとの結合が SyP嚠融 合 遺伝 子の 発癌 機構 にお いて 、ど の様 な機 能を 有して いるのかを現在検索している。
匸黼]
滑膜肉腫細胞において、SY卜SSX1は巨大複合体を形成していることがゲルろ過で示された。また、
この複合体はhB恥岨う細胞では認められなかった。
29町細胞を用いた−1畳性の発現系において、SSXlはN末端においてヒストンE強v面antである 比溝,Bl坩と結合することが示された。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
滑膜肉腫原因キメラ癌遺伝子SY T‑SSX1 産物との 結合分子の解析
滑 膜 肉 腫 は 若 年 成 人 の 四 肢 関 節 近 傍 に 好 発 す る 悪 性 腫 瘍 で 、 腫 瘍 細 胞 に は 特 徴 的 な 相 互 転 座 t(X;18)(p11.2;q11.2)が認められる。その結果18番染色体ヒのsynovial translocation protein(甜刀遺伝子 とX染 色 体 上 のsynovial saroomaX breakpoint (SSX)遺伝 子が 融合 し たSYT‑SSX遺 伝子 が形 成さ れ 、 現 在 こ の 融 合 遺 伝 子 は 滑 膜 肉 腫 の 診断 マ ーカ ーと して 広く 用 いら れて いる 。し か し、 野生 型SYl'及 びSSXの機能が 不明なため、癌化のメカニズ ムも不明な点が多い。
SYTは 分 子 量 約57 kDaの 蛋 白 で 、 多 く の 組 織 で 発 現 し て い る 。 現 在 ま で にSYI'及 びSYT‑SSXに 結 合 す る 転 写 調 節 因 子 が 幾 っ か 報 告 さ れ て い る 。 そ の 中 のhBRMを 含 む ク 口 マ チ ン リ モ デ リ ン グ SWI/SNF複 合 体 は 約2MDaで あ り 、 ま たp300も 巨 大 複 合 体 を 形 成 す る こ と が 知 ら れ て い る 。 本 研 究 で は ま ず 初 め に 、 滑 膜 肉 腫 細 胞 に お い てSYr−SSXlが どの 位の 分子 量の 複 合体 とし て存 在 す る か を 、 滑 膜 肉 腫 細 胞 株 やSYT‐SSXl安 定 発 現 細 胞 株 を 用 い てゲ ルろ 過ク ロマ ト グラ フイ 一解 析 を 行い分子量の検 討を行った。
SYト災;X1は 分子量671【I沌の蛋白であ るが、分子量約4501【Eぬま での複合体、さらに一部は蠻M/SNF 複 合 体 の 分 子 量 で あ る2N皿k、 あ る い は そ れ 以 上 の 大 き さ の 複合 体を 形成 して 存 在し てい た。hBRM が 発 現 し て い な い 細 胞 株SW13で は こ の 巨 大 複 合 体 は み ら れ ず 、こ の 複合 体はSYT−SSXlとSWI/SNF 複 合 体 と の 結 合 に よ る も の で あ り 、sWI/SNF複合 体に 加え て 新た な分 子が 存在 す る可 能性 が示 唆 さ れた。
ま た 、SSXlは 分 子 量 約30kぬ の 蛋 白 で 、 正 常 組 織 で は 精 巣 に 、 ま た 一 部 の 腫 瘍 細 胞 で も 発 現 が 認 め ら れ る 。SSXのN末 端 に は 硲 廴 堝 領 域 が 存 在 し 、C末 端 のSsXRD領 域 は 転 写 抑 制 能 を 有 す る こ と が 示 さ れ て い る が 、 既 知 のDNA結 合 配 列 を も た ず 何 ら か の蛋 白と 結合 し転 写 を制 御し てい る と 考 え ら れ て い る 。 最 近 、SSXと 共 に 精 製 さ れC末 端 で 結 合 し て い る と 報 告 さ れ た コ ア ヒ ス トン は 、 2個 の (IセAーH2B)2量 体 カ 誑Bよ14)4量 体と 結合 し た8量 体 で、H2AにはH2A.X、H2A.Z、H2AIBbd な ど のv面antが あ る こ と が 知 ら れ て い る 。 本 研 究 で はSSXは コア ヒス トン のう ち のい ずれ かに 直 接 結 合 す る こ と で 機 能 の 役 割 を 果 た す と い う 仮 説 を 立 て 、Ssxl及びSYr‐SSXlと ヒ スト ンと の結 合 解 析を行った。
大 腸 菌 か ら 精 製 し たa沁SSXlと 各 ヒ ス ト ン の 郷T細 胞 で の 一 過 性 発 現 系 の 細 胞 抽 出 液 を 用 い て G釘pml司 恥massayを 行 っ た 。 ヒ ス ト ン 比 強 とvmantで あ る 比 強 .Xと 比A.Btd及 び 比 猖 と の結 合 、 Hう と の 弱 い 結 合 が 観 察 さ れ た 。 .SSX1ま たはSYr‐SSX1と 各 ヒス トン を微 `細 胞 に一 過性 に共 発 現 さ せ て 結 合 解 析 を 行 っ た 。SSX1に お い て は ,Btxlと の 強 い 結 合と 比 強.Xでも 弱 い結 合が みら れ 、 SYT‐SSXlに お い て はHBとH4と の 結 合 が み ら れ た 。 こ の 結 果 か らG釘 融 合SsX1欠 失 変 異 体 を 作 製 し 、SSXlに お け る ヒ ス ト ン と の 結 合 領 域 の 同 定 を 行 っ た 。SSXlm匝1(HlOア ミ ノ 酸 ) あ る い は
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mut2 (111−188アミノ&)にお。ゝて、H、H4ともに結合がみられなかった。SSXl mvtlとH2A.Bbdに おいて強い結合がみられたことから、H2A.Bbdに着目しSSXl mut3 (1‑61アミノ酸)、mut4 (62‑110 アミ ノ酸)を用いて同 様の解析を行った。SSXl mut3とH2A.Bbdに結合が認めら れ、SSX1のN末端 61アミノ酸がH2A.Bbdとの結合領域であることカ職された。
本 研究 で は以 前の 報告 とは 異なり、SSX1はN末端においてヒストンH2A.Bbdと結合しているこ とが確認された。H2A.Bbdは転写活性化領域に存在し転写を調 節すると考えられることから、SSX は転写活性化状態のヒストンに結 合することで、転写抑制に働くと予想された。またSYT‑SSX1に おいてH3とH4との結合がみられ、 コアヒストンに結合することで遺伝子の発現調節に関与するこ とが推測された。今後はヒストン と結合することによるSSX分子の機能とこれによるSYl: SSX発癌 機構の解明が必要と考えられた。
口頭発表に当たり、副査の上出教授より、巨大複合体でのヒストンの有無、SYT‑SSXの細胞局在、
副査の畠山(鎮)教授より、結合したヒストンの形態、´SSXとSYT‑SSXの細胞内拮抗等に関する質問 があった。また主査の長嶋教授よ り細胞株の由来、SYl:SSXが抑制すると推定される遺伝子とその 遺伝子との関連、SYTの検討の有無等に関する質問があった。これらの質問に対して申請者はおお むね適切な回答を行った。
こ の論 文 はSYI:SSXI及 びSSX1が 結合 する 蛋白 分子 の解 析を 行い 、SYT‑SSX1とSSX1が異なる ヒストンと結合性を示すことを明らかにした点で優れていると判断され、今後の滑膜肉腫の癌化機 構を明らかにする上で貴重な示唆を与えたものと考えられた。
審査員一同は、これらの成果を高く評価し、申請者が博士(医学)の学位を受けるのに充分な資格を 有するものと判定した。
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