博士(医学)屈 秋民 学位論文題名
JC ウイルス粒子の核内移行機構の解析 学位論文内容の要旨
緒言
進行性多巣性白質脳症は致死性中枢神経系脱髄疾患であり,human polyomavirus JC virus (JCV) はその原 因ウイ ルスであ る. JCVは 核内にお いてmRNAの 転写やDNA複製を行いウイルス粒子の 増殖を行っており,ウイルス粒子の核内移行はJCVの感染に対して不可欠である.しかし,JCVの 核内移行のメカニズムは未だ不明である. JCVの標識や変異ウイルスの作製等は困難であるが,主 な外郭蛋白であるVP1は大腸菌を用いて精製する事により,粒子構造を有するvirus‑like particle (VLP)を簡 単に作 製できる .我々 はこのVLPがJCVと同様 にreceptor結合能や細胞侵入能を持つ ことを明 らかに してきた ので,このJCV‑VLPを用いてJCV粒子の核内移行のメカニズムを解析し た.
材料と方法
Wild type VLP (wtVLP)の作製には,JCVのpBR‑Madlから得たwild type VPl (wtVPl)遺伝子 を原核発現vector pET‑15bにsubcloningした後に大腸菌で発現させて,sucroseとCsClを用いた超 遠心で,wtVLPを 精製した .VPlN末にある塩基性アミノ酸系列は核局在シグナル(NLS)と考えら れて い る ので ,wtVPlのN末 端 の 三ニ つ の アミ ノ 酸KRKをAGAに 換え て ,NLSのmutantである ANLS VP1を作製 した.ANLS VP1はwtVLPと 同様にpET‑15b vectorにsubcloningした.精製した wtVLPとANLS VLPは 両方とも45kDaの パンドと して認め られた .電子顕 微鏡で もwtVLPとANLS VLPは40〜50 nmの粒子構造をとる事が確認された.
JCVの 許容 細 胞 であ るSVG細 胞 と 非許 容 細胞で あるHeLa細 胞は35 mm dishに37℃24時間 培養した後にFITC labelしたVLPを感染させて,40C1時間incubateしてから,37℃で培養し,laser scanning共焦点顕微鏡で観察した.励vitro transport assayでは,8wellのチャンバースライドに培養 したHeLaとSVGを90 yg/mlのdigitoninで5分間浸透した.Transport bufferで充分に洗い,細胞質 を完全に排出させ,細胞にATP複合体とcytosol抽出物またはimportinaまたはimportinp,もしく はimportinQとl3を同時に添加して,FITC labelしたVLPを接種後300C 30分間incubateして,3%
paraformaldehydeで 固 定 し ,laser scanning共 焦 点 顕 微 鏡 で 写 真 撮 影 を し た . 結果と考案
接種 後370C1時間培 養すると ,FITC labelしたwtVLPは すでにHeLaとSVGの 細胞核内 に入 り,2時間後 および3時間 後では さらに核 内への集 積が見 られた,接種後3時間では95.6%のHeLa 細胞と95.4 010のSVG核内にVLPが見られた,VLPが粒子状態で核内に移行するのかを調べるため ー38一
に ,HeLaとSVGにCy3をpackagingしたFITC‑VLPを 接 種し た . 感 染後370C1時 間でFITCとCy3 の シグナル が同時 にHeLaとSVGの核内 に認めら れ,2時間後 ,3時間後では核内集積が増加して き た.Cy3をpackagingしたFITC―VLPが細 胞質に 入ってか らvlrionからpolymerのVP1となりそ のpolymerに結合して核内に移行する可能性を排除するために,FITC labelしたVLPをdissociation bufferと1時間incubateしてCy3と混ぜ,reassociation bufferで透析しない状態で直接細胞を感染さ せた.その結果,感染後370C1時間,2時間,3時間でFITCのシグナルは核内に認められたが,Cy3 の シグナル は殆ど見られなかった.っまり,Cy3がVP1のpolymerと結合して核内に移行している の ではない という事が示された.以上の結果から,VLPが粒子状態で核内に移行する事が示唆さ れた.
In vitro transport assayでは,transport buffrとA11P複合体だけを添加した場合には,wtVLPは digitoninで処 理したHehとSVGの核内に移行しなかったが,ArP複合体と細胞質抽出物を添加す る と.wtVLPの核内 移行が観 察され た,従ってVLPの核内移行には細胞質因子が必要であること が示された.細胞質中のimportinsのVLPの核内移行における役割を調べるために,細胞質抽出物 の 代わりにimportinQとpを それぞれ 添加した ,ImponinQとATP複合 体、又はimponinpとATP複 合 体を添加 しても ,wtVLPはdigitoninで処理したHekとSVGの核内には入らなかった.しかし,
importinaとDが同時に存在すると,wtVLPの核内移行が観察された,っまり,wtVLPの核内移行は importinQお よ び imponinpの 共 同 作 用 に よ り 制 御 さ れ る こ と が 示 唆 さ れ た , JCV‐VLP核内移行におけるNLSの役割を調べるために,△NLSVLPの核内移行を調べた.Hehと SVGにFITClabelした△NLSVLPを接種 すると ,37℃1時間から2時 間で△NLSVLPは細胞質 に入っ たが.核内には入られなかった.3時間経過してもわずかに2.2%のHeLaと6.1ワ。のSVGの核にのみVLP が 認められ た.Cy3をpackagingしたFITC‐ △NLSVLPをHeLaとSVGに 接種する と,FITCとCy3は 細胞質に見られるが,核内には認められなかった.伽vfrmtransportassayにおいて,細胞質抽出物 ま た はimportinQとimponinpが存 在した 場合,wtVLPはdigitonin浸透し たHehとSVG細 胞核に 入 ったが, △NLSVLPは核 内に入 らなかった,即ち,NLSはVLPの核内移行には不可欠だと考えら れた.Overlayassayでは,wtVLPはGST・importinQともGST・・importinpとも結合したが,△NLSVLP はGST.importinQとpの両 方とも結 合しなか った. 以上の結 果からVLPの核 内移行 はVP1のNLS とimportin.Qとpとの相互作用によって制御されることが示唆された.
wtVLPの核内移行に核膜孔複合体(nuclearporecomplexes,NPC)が関与するのかを調べるため に ,FITC‐wtVLPを 接 種 する前に ,digitonin浸透したHehとSVG細胞 をwheatgermagglutinin
(WGA)又は抗NPC抗体で予め反応させた.細胞質抽出物またはimportinQとimportin.pの両方が 存 在 し ても ,wtVLPの核 内 移 行 がWGAと抗NPC抗 体 に より 完 全 に抑 制 さ れた .WGAと抗NPC抗 体 は特異的 にNPCと結合し て蛋白 質の核内 移行を 抑制する ことから,VLPがNPCを経由して核内 に移行することが判明した.
結語
JCvirus(JCV) の核 内移行機 序を明 らかにす るためCy3をpackagingしたrecombinantの virus‐likeparticle(VLP)を作成して解析し,次の結果が得られた,
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1. JCV‑VLPは感染後1時間で細胞の核内に移行し,VLPはCy3をpackagingしたまま粒子状態で核 内に移行していることが示された.
2. JCV‑VLPの核内移行にはVP1の核局在シグナル(NLS)がimportinQ及びDと結合し,核膜孔複合体 (NPC)を介して核内に移行することが判明した.
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
JC ウイルス粒子の核内移行機構の解析
進 行 性 多 巣 性 白 質 脳 症 は 致 死 性 中 枢 神 経 系の 脱髄 疾 患で あり 、JC virus (JCV)は その 原 因 ウ イ ル ス で あ る 。 今 ま で の 研 究 で 、JCVは 核 内 に お い てmRNAの 転 写 やDNA複 製 を 行 い ウ イ ル ス 粒 子 の 増 殖 を 行 っ て い る 事 が 判 明 し て い る が 、JCV粒 子 の核 内 移行 の機 序は 不 明 で あ る 。JCVは 変 異 ウ イ ル ス の 作 製 が 困難 な ウイ ルス であ る 。主 な外 殻蛋 白で あ るVP1 は 大腸菌を用いて発現、精製す る事により,粒子構造を有するvirus‐ like particle (VI」P)を 簡 単 に 作 製 で き る 。 こ のVLPで は 変 異 ウ イ ル ス 作 製 が 可 能 で 、 か つJCVと 同 様 にreceptor 結 合 能 や 細 胞 侵 入 能 を 持 つ こ と か ら 、 本 研 究 で はJCV‑VLPを 用 い てJCV粒 子 の 核 内 移 行 の メ カ ニ ズ ム を 解 析 し た 。wtVLPは 、JCVのMadl株 のVP1遺 伝 子 を 大 腸 菌 発 現vector pET‑15bにsubcloningし た 後 に 大 腸 菌 で 発 現 さ せ 、sucroseとCsClを 用 い た 超 遠 心 で 精 製 し た 。VPl N‑末 のKRKGERK配 列 のKRKをAGAに 変 換 し て 、mutant VPl (ANLS VPl) を 作 製 し た 。ANLS VLPも wtVLPと 同 様 の 方 法 で 精 製 し 、wtVLPと 一 緒 にSDS‑PAGE で 展 開 、CBB染 色 を 行 っ た と こ ろ 、wtVLPとANLS VLPは 両 方 と も45kDaの バ ン ド と し て 認 め ら れ 、 電 子 顕 微 鏡 で もwtVLPとANLS VLPは 同 様 な 粒 子 構 造 を と る 事 が 確 認 さ れ た 。
こ のmutant VP1とwtVPl遺 伝 子 をSVG細 胞 にtransfectionし て 、 抗flag抗 体 でVP1 の 発 現 を 検 索 す る と 、wtVPlは 主 に 核 内 に 発 現 し た が 、ANLS VP1は 主 に 細 胞 質 に 発 現 し た 。VPIN末 の こ の 配 列 は 核 局 在 シ グ ナ ル(NLS)と し て 機 能 し て い る こ と が 示 唆 さ れ た 。 細 胞 にFITC labelし たVLPを 接 種 す る と 、1時 間 後 にwtVLPは す で に細 胞 核内 に入 り、
接 種 後3時 間 で は95.6% のHeLa細 胞 と95.4% のSVG細 胞 核 内 にVLPが 見 ら れ た 。 し か し 、 ANLS VLPを 接 種 し た 細 胞 で はVLPが ほ と ん ど 核 内 に 移 行 し な く 、 接 種 後3時間 では2.2%の HeLa細 胞 と6.1% のSVG細 胞 核 内 に の みVLPが 見 ら れ た 。VLPの 核 内 移 行 に はNLSが 寄 与 していることが示唆された。
FITC‑ VLPの 中 にCy3をpackagingし て 、HeLaとSVG細 胞 に 接 種 す る と 、Cy3を packagingし たFITC‑ wtVLPは 感 染 後1時 間 、2時 間 、3時 間 でFITCとCy3の シ グ ナ ル が 同 時 に 核 内 に 認 め ら れ た 。 一 方 、Cy3をpackagingし たFITC ANLS VLPを 接 種 す る と 、1時 間 、2時 間 、3時 間 後 で はFITCとCy3の シ グ ナ ル が 同 時 に 細 胞 質 に 見 ら れ た が 、 ‑ 41 ‑
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核 内 に は 認め ら れ なか っ た 。FITC labelし たwtVPlとpackagingしてい ない単 独のCy3 と の 混 合物を細 胞に接種 すると 、1時 間、2時間、3時間 後にFITCの シグナル が核内 に認 め ら れ たが、Cy3のシグ ナルは 消失して いた。Cy3がVP1に単 純に結合 して核内 に移行 す る わ け で な い 事 が 示 さ れ た 。Cy3をpackagingし たVLPをSDS‑PAGEで 展 開し 、Cy3の 螢 光を 検 出 し てか ら 、 同じgelをCBBで 染 色 した 場 合 、VP1とCy3が 異な る 場 所に 存 在 し 、Cy3とVP1が 結 合 して い な い事 が 確 認で き た 。以 上 の 結 果から、JCV VLPが 粒子状 態で核内に移行する事が証明された。
plasmid DNAをpackagingし たVLPを細胞に 接種し た場合、wtVLPにpackagingされ た DNAはHeLaとSVG細胞 のtotal cell lysateと 核抽 出 液 内に 検 出された が、ANLS VLPに packagingされたDNAはtotal cell lysateにだけ検出され、核抽出液には検出されなかった。
VLPはDNAを 内部 にpackagingした 状態 でも、核 内に移行 するこ とができ 、本来 のJCV粒 子と同様の生物学特性を有していると示唆された。
わvitro transport assayではATP複合体とcytosol、またはimportinQとpを同時に添 加 し た 場合での み、VLPの核内 移行が観 察され たことか ら、VLPの核内 移行はimportinQ と6の 共 同 作 用に よ っ て媒 介 さ れる こ と が示 唆 さ れた 。VLPの 核 内 移行 はWGAと 抗NPC 抗 体によ り抑制さ れたこ とから、VLPは 核膜孔複 合体(NPC)を経由 して核内に移行するこ と が明ら かとなっ た。ImportinQとpが存在 しても、ANLS VLPの核内移行が認められなか っ た こ と から 、VLPの 核 内移 行 に おけ るNLSの 必 要性 が 示 さ れた。Overlay assayでは wtVLPはimportinQとpに 結 合 し た が、ANLS VLPはimportinQと もpと も 結合 し な かっ た 。 こ の 結 果 か らVLPの 核 内 移 行 に はVP1のNLSとimportinaとpと の 相互 作 用 によ っ て制御されていることが示唆された。
以上の結 果から 、JCV‑VLPは 感染後 粒子状態 で核内 に移行し 、JCV‑VLPの核内移行に はVP1のNLSがimportinQ及 びpと 結合し 、NPCを 介して核 内に移 行するこ とが判 明した。
口頭 発 表 に当 た り 、副 査 の 古木 教 授 より 、VLPの サ イ ズはJCVと同じ か、JCV許容 細 胞と非 許容細胞 の核移 行機序に ついて 、同じく副査の志田教授よりVLPの核内移行にお け るRanの 役 割 、大 き なJCVが 小さ なNPCを 通 過す る 機 序 等に 関する 質問があ った。 ま た 主 査 の 長嶋 教 授 よりHeLaとSVG細胞の 核内移 行におけ る量的 差、overlay assayの長 所 、直接JCVを使 わない 理由等に 関する 質問があった。これらの質問に対して申請者はお おむね適切な回答を行った。
この論文はJCウイルス粒子の核内移行機構を明らかにした点で優れていると判断され、
今 後の進 行性多巣性白質脳症発症機構の解釈と治療に貴重な示唆を与えたものと考えられ た。
審査員一同は、これらの成果を高く評価し、申請者が博士(医学)の学位を受けるのに充 分な資格を有するものと判定した。
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