博士(農学)富樫 学位論文題名
北海道産キノコ栽培技術の確立 学位論文内容の要旨
巌
食生活の 多用化や健 康志向の 高まりに よるキノ コ需要の増加にともなって、北海道 のキノコ 生産量も増 加傾向にある。1994年の北海道におけるキノコ生産量は11,114ト ンで全国 生産量の4% を占め、 その生産 額は80億円 に達し、 道内の主 要特産林産 物生 産額の92% を占めてい る。さら に、1993年に は主要な 栽培キノコの道内自給率が90% を超える に至った。 今後は、 自給率の 維持とと もに、長野県のエノキタケやブナシメ ジのよう に、北海道 の代名詞 となる特 産キノコ をみいだすことが、北海道におけるキ ノコ産業 のさらなる 発展のた めに望ま れる。
本研究は 、主に北海 道特産キ ノコの栽 培技術の 確立と栽培キノコの道内自給率の安 定 化 を 目 的 と し て 行 っ た も の で 、 そ の 研 究 内 容 は 以 下 の 項 目 に 大 別 さ れ る 。
1) 栽培技術
北 海道特産 キノコと してナラ タケ属、 夕モギタケ 、野生型 エノキタケに注目し、ツ パ ナ ラ タ ケ (Armillariaostoyae) の瓶栽培 の実用化 に寄与す る基礎的データーを収 集する とともに、 子実体の 形態や収 量に優れ るタモギ タケ新品種の開発等を試みた。
さらに 、シイタケ の道内自 給率の安 定化をは かるため に、シイタケ菌床栽培において 子 実 体 生 産 を 阻 害 す る ト リ コ デ ル マ の 防 除 方 法 等 を 検 討 し た 。 ナラタ ケ属の培養 において は、根状 菌糸束を 栽培培地 中に伸長させることが不可欠 で ある が、種 菌からの 根状菌糸 束形成に1週間以上 の誘導期間 を要し、 その間に 種菌 が乾燥 して弱り、 カピ汚染 を受け易 い問題点 がある。 そこでナラタケ属の根状菌糸束 形成促 進物として ニンジン をみいだ し、種菌 と培地の 間に殺菌した磨砕二ンジンを挟 むと誘 導期間が31〜43%短縮さ れること で、培養 時の問題 点の解決をはかった。根状 菌糸束 形成促進に は、ニン ジンに含 まれるロ ーカロチ ンが関与していることを明らか に し た 。 ま た 、二 ン ジ ンの 利 用 は子 実 体収 量 の 増大 に も結 び っ くこ と を示 し た 。 ー110―
子 実体 の安 定生産のためには、通気性に優れたキャップをした状態で原基形成を行 う、 栽培 培地 の水分を70%を大きく超える値にしないことがボイントとなることが分 か っ た 。 こう し た 本 研 究 の 栽 培 手 法 を 用 い る と 、約20月 の栽培 期間 で、800〜850 ml培 養瓶 当た り90〜100gの子 実体 が得 られ る。
ま た、 ツパ ナラタケの栽培における培地墓材としては、道内で入手可能な広葉樹オ ガコ とカ ラマ ツオガコが適するとともに、フスマ等と比較して米ぬかを培地添加物と し て 用 い る と 子 実 体 収 量 が 高 く な る こ と を 明 き ら か に し た 。 ッ バナ ラタ ケの人工栽培によるならたけ病の甚延を防ぐ試みとして、廃培地の有効 利用 を検 討し 、ヒラタケの培地基材として、カンバやエゾマツオガコと比較して14 ‑ 19% の栽 培期 間短縮や丶ヒラタケの菌株によっては14〜50%の子実体収量の増大が可 能に なる こと をみいだした。なお,廃培地を培地基材としてもヒラタケ子実体の形態 が乱 れる こと はな かった 。
全国 牛産景の80%を北海道で占めるタモギタケについて、子実体の形態や収量に優 れ る新 品種の開発を行った。その結果、培地添加物としてフスマを用いても子実体の 傘 が反 り返 えり難 い、 また は反 り返 らない3菌株を選抜し、米ぬかに限定されていた 培 地 添 加 物 の 選 択 支 を 増 や し 、 栽 培 者 の 培 地 材 料 選 定 の 自 由 度 を 広 げ た 。
栽培 技術 が確立されながら、本格的な実生産が滞っている野生型エノキタケについ て 、コ ーヒ ーカスを用いた栽培を試み、カンバオガコを用いた場合と比較して、栽培 期 間や 子実 体の形態に影響を及ほすことなく、子実体収量の増加が期待できることを 示 した 。産 業廃棄物として処理されるコーヒーカスの有効利用は、環境にやさしい技 術 に結 ぴっ くと とも に野 生型 エノ キタ ケの知 名度 やイ メー ジア ップ に貢献できる。
さらに、シイタケの道内自給率 を支えているシイタケ菌床栽培について、その安定 し た子 実体 生産をはかるために、シイタケ害菌であるトリコデルマの挙動解明や防除 方 法を 検討 し、培地添加物の使用量とトリコデルマ汚染に関係があることを示した。
トリ コデ ルマ の挙 動解 明に おい ては、 道内の240所の菌床シイタケ発生施設の落下 菌 調査 や菌 床からのトリコデルマの採取やグループ分けを全国に先駆けて行った。こ れ によ り、 シイ タケ 発生 施設 や菌 床に発 現するトリコデルマを4グループ(1〜4型)
に 分け ると とも に、PDA平 板培 地で 同心 円上 に成 長し ない 特徴 を持つ1型の検出率が 高いことを明らかにした。
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2)培地基 材の阻害 成分
キノコ栽 培の培地 基材とし て、トド マツ等針葉樹オガコを用いると、広葉樹オガコ と比較し て、菌糸 成長の遅 れや子実 体収量の 低下が生じる。そこで、トドマツに含有 さ れ る 、 菌 糸 成 長 を 阻 害 す る 物 質 同 定 と そ の 除 去 方 法 を 検 討 し た 。
キノ コ の菌 床 栽 培が 盛 んに なる とともに 、広葉樹 を中心と した栽培に 適するオ ガコ の安定確保 が難しく なってき ている。 そこで、 北海道に おける森林 蓄積の第1位樹種
(森林蓄積 の20%強を 占める) であるト ドマツに 注目し、食用キノコの菌糸成長を阻 害する物買 同定とそ の除去方 法を検討 した。そ の結果、セスキテルペンで、ホシカメ ムシの幼弱ホルモンである(+)−Juvabioneがキノコの菌糸成長を強く阻害すること,
その除去 方法として散水堆積が有効であることを明らかにした。
3)担子菌の 生物的機 能の利用
北海道にお けるキノ コ産業の 新たな発 展をはかることを目的として、未利用リグノ セ ル ロ ー ス の パ イ オ マ ス 変 換 に 食 用 キ ノ コ の 栽 培 技 術 の 活 用 を 試 み た 。
人 工栽培され ている食 用キ丿コ の多くが 白色腐朽 菌であり、リグニン代謝能を有す こ とに着目し た。その 結果、タ モギタケ を培養し た稲わらは、消化性が改善されて反 す う動物の 粗飼料と して有望 であるこ とをみい だし、そ うした処理 に適する2菌株を 選 抜 し た 。 稲 わ ら の 消 化 性 は 、2ケ 月 聞 の 処 理 で 最 大84% 改 善 さ れ た 。
以上の結果 、ツパナ ラタケの 瓶栽培に 必要な基 礎的手法 を確立する とともに、子実 体の形態や 収量に優 れるタモ ギタケ新 品種の開 発、トド マツに含ま れる食用 キノコの 菌糸成長阻 害物質の 解明等、北海道産キノコの実用的かつ新たな栽培技術を提案した。
乞
学位論文審査の要旨
主 査 教 授 寺 澤 實 副 査 教 授 五 十 嵐 恒 夫 副 査 教 授 小 島 康 夫 学位論文 題名
北海 道産キノコ栽培技術の確立
本論文は、3章からなり、図46、表54、写真25、引用文献146を含む総項数245の和 文論文である。別に参考論文63編が添えられている。
北海道におけるキノコ生産は年々盛んになり、1994年の生産量は11,114トンで全国 生産量の4%を占め、また、生産額は80億円に達して道内の主要特産林産物生産額の 92%を占めている。さらに、1993年には主要な栽培キノコの道内自給率が90%を超え た。キノコ産業は、北海道の地域振興に大きく貢献する一次産業としての地位を築き つっある。今後は、自給率の維持とともに、北海道の代名詞となる特産キノコをみい だす こ とが 、 北海 道 にお け るキ ノ コ産 業 のさ ら 毅る発 展のために 望まれる。
本研究は、主に北海道特産キノコの栽培技術の確立と栽培キノコの道内自給率の安 定化 を 目的 と して 行 った も ので 、 その 研 究内 容 は以下 の項目に大 別される。
1)栽培技術
北海道特産キノコとしてナラタケ属、夕モギタケ、野生型エノキタケに注目した。
人工栽培施設で子実体の形成が難しく、栽培方法が確立していないナラタケ属担子 菌について、ツパナラタケ(Armillaria ostoyae)の瓶栽培の実用化に寄与する基礎 的データーを示した。ナラタケ属の培養においては、根状菌糸束を栽培培地中に伸長 させることが不可欠であるが、種菌からの根状菌糸束形成に1週間以上の誘導期間を 要し、その間に種菌が乾燥して弱ルカピ汚染を受け易い問題点があった。そこでナラ タケ属の根状菌糸束形成促進物としてニンジンをみいだし、種菌と培地の間に殺菌し た磨砕ニンジンを挟むことで、誘導期間が31〜43%短縮され培養時のトラプルが解消 することを示した。また、根状菌糸束形成促進にはニンジンに含まれるロ―カロチン が関与していることを明きらかにした。本研究の栽培手法では、約2ケ月の栽培期間 で、800〜850 ml培養瓶当たり90〜100gの子実体が得られる。また、ヅバナラタケ の人工栽培によるならたけ病の蔓延を防ぐ試みとして、廃培地の有効利用を検討し、
ヒラタケの培地基材として、カンバやエゾマツオガコと比較して14〜19%の栽培期間 短 縮 や 14〜 50% の 子 実 体 収 量 の 増 大 が 可 能 に な る こ と を 示 し た 。 全国生産量の80%を北海道で占めるタモギタケについて、子実体の形態や収量に優 れた新品種の開発を行った。その結果、培地添加物としてフスマを用いても子実体の 傘が反り返えり難い、または反り返らない3菌株を選抜し、米ぬかに限定されていた
培地添加物の選択支を増やした。
栽培技術が確立されながら、本格的な実生産が滞っている野生型エノキタケについ て、コーヒーカスを用いた栽培を試み、カンパオガコを用いた場合と比較して、栽培
期間 や子 実体の形態に影響を及ほすことなく、子実体収量の増加が期待できることを 示し た。 産業廃棄物として処理されるコーヒーカスの有効利用は、環境にやさしい技 術に 結ぴ っく とと もに 野生 型エ ノキ タケ の知 名度 やイメ ージ アッ プに貢献できる。
さ らに 、シイタケの道内自給率を支えているシイタケ菌床栽培について、その安定 した 予実 体生産をはかるために、シイタケ害繭であるトリコデルマの挙動解明や防除 方法 を検 討し、培地添加物の使用量とトリコデルマ汚染に関係があることを示した。
2)培地基材の阻害成分
キノコの菌床栽培が盛んになるととも、に、広葉樹を中心とした栽培に適するオガコ の 安定 確保が難しくなってきている。そこで、北海道における森林蓄積の20%強を占 め るト ドマツに注目し、食用キノコの菌糸成長を阻害する物質同定とその除去方法を 検討した。その結果、セスキテルペンで、ホシカメムシの幼弱ホルモンである(+)−
Juvabioneが キノ コの 菌糸 成長 を強 く阻害すること,その除去方法として散水堆積が 有効であることを明らかにした。
3) 担子 菌の 生物 的機能 の利 用
北海 道におけるキノコ産業の新たな発展をはかることを目的として、人工栽培され て いる 食用キノコの多くが白色腐朽菌であってりグニン代謝能を有すことに着目し、
未 利用 リグノセルロースのバイオマス変換に食用キノコの栽培技術の活用を試みた。
そ の結 果、タモギタケを培養した稲わらは、消化性が改善されて反すう動物の粗飼料 と して 有望 であ るこ とを みい だし 、そうした処理に適する2菌株を選抜した。稲わら の 消化 性は 、20月間 の処 理で 最大84% 改善 され た。
以上 の結 果、 ツパ ナラ タケの瓶栽培に必要な基礎的手法を確立するとともに、子実 体 の形 態や 収量 に優 れる タモギタケ新品種の開発、トドマツに含まれる食用キノコの 菌糸成長阻害物質の解明等、北海道産キノコの実用的かつ新たな栽培技術を提案した。
よ って、審査員一同は、別に実施した学力認定試験の結果とあわせて、本論文の提 出者 富樫 巌は 博士 (農学 )の 学位 を受 ける のに 十分 な資 格が あるものと認定した。