博士(農学)車 柱榮 学位論文題名
Taxonomy and ecology of Arrnillaria rne2Zea complex in Hokkaido
( 北 海 道 産 ナ ラタ ケ 類 の分 類 と 生態 )
学位論文内容の要旨
ナラタケ(Armillaria mellea (Vahl: Fr.) Kummer) は1790 年にVahl によって´勾nr めuSrnef ぬuS と命 名された。その後1821 年Fries はArmn 缸r 缸族を創設し´勾t ニEricus ′肥ぬus を含めた。また、KuI11mer
(1871 )と9u モ
let(1872 )は
ArmHfQr缸属を独立させたが、A9Qr めusme !bus を含め、現在のArmiHar 缸
menen
になった。ナラタケは世界的に樹木の根腐れ病菌として樹木を枯死させることで莫大な被害を
起こす植物病原菌としてよく知られている。日本では古くからスギやヒノキなどの人工造林地で大き な被書が現れ、北海道ではカラマツ造林地で被害が報告されてきた。また、ナラタケは無藁緑素のオ ニノヤガラやツチアケビなどのラン科植物との共生菌として、さらに子実体は北海道ではボリボりと 呼ばれる優れた食用菌としても重要な菌類のーつでもある。古くからナラタケは子実体の形態的特徴 と罹病木及び子実体から分離した菌株の培養特性及び病原性において様々な変異が知られていたが、
分類学的には従来、ナラタケ一種とされてきた。しかし、Uurich &
AnderSon(1978 )は単胞子分離菌 株の交配試験によってナラタケに互いに交配不可能な薗系が存在することを明らかにした。このよう な生殖的に隔離された菌株のグル―プは生物学的種と呼ばれている。この発見によって、それまで―
つの種と考えられていたナラタケは複数の生物学的種の集合とみなされるようになり、菌株の聞の性 質の多様さを生物学的種の違いによって説明できる可能性が生じた。さらに各生物学的種ごとに子実 体の形態に特徴があることも明らかにされ、分類学的再検討が行われつっある。現在までヨーロッパ で5 種、北アメリカで9 種、オーストラリアで
5種およびアフリカなどで世界的に30 数種の生物学的 種が報告されてきた。日本ではナラタケの生物学的種に関する研究が始まったばかりで、まだ分類学 的体系化の確立がされていない状況である。したがって、本論文の目的は日本産ナラタケの生物学的 種の分類学的体系化を確立することで、まず、北海道産のものに対して生物学的種の同定および生態 的特徴を明らかにすることであった。
本学位論文の内容は
9章で構成されており、各章別にまとめてみると、第1 章では世界各地域にお けるナラタケの研究史及び研究の目的を記述した。
第2 章では、北海道産のナラタケの不和合性グル―プの同定のため、子実体から分離した単胞子分 離 菌 株の 総 当 たり 交 配 試験 に よ って
5つ のへ テロタ リックな 不和合 性グル― プを同 定した。
第
3章では 子実体 から分離 した単胞子分離菌株が褐色の角膜菌叢をもち、また担子器の基部に
clampconnectionを持っていないこと、さらに子実下層の菌糸が単核であることからホモタリック なナラタケの一種であることを明らかにした。従って、第2 章と
3章を通じて北海道では
5っのへテ
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ロタリックな不和合性グループと
1つのホモタリックな不和合性グルーブ,計6 つのグル―プが存在 していることを明らかにした。
第4 章では、単胞子分離菌株の交配試験によって同定した6 つの不和合性グル―プと更に学名が付い ているテスタ一菌株との交配による生物学的種の同定を行った。その結果グループI は
A. ostoyae(和名:ツバナラタケ)、グループII はAIgallica (和名:ヤワナラタケ)、グループ川は新種の
AI jezoensis(和名:コバリナラタケ)、グループIV はAsinapina (和名:ホテイナラタケ)、グ ル―プV は新種のA singula (和名:ヒトリナラタケ)、またグルーブ
VIは新亜種のAlrnetLea subsp.
nipponica
(和名:ナラタケ)と命名した。グル―プVI の和名を除いた他の種の和名は子実体の形 態、形質、発生状況などから付した新称である。
Aostoyaeは大型のっばと発達した鱗片を持ってい ること、
A gallicaは柔らかいかさを持っていること、Ajezoensis はかさに小針状の鱗片を持ってい ること、
A. sinapinaは茎の基部が膨らむこと、A. singula は単生すること、またA.mellea subsp.
nipponica
はかさの鱗片の発達が弱く、黄色一オリーブ色を呈することなど種ごとに異なる形態的特徴 を持っていた。また、
A. mellea subsp. nipponicaは他の種と異なり担子器の基部f こclamp connection を持っていないことが特徴である。
第5 章では、各生物学的種の分離菌株についての培地での培養特性を調ぺた。天然培地(
MDA,
YDA,PDA ,PCDA 】のなかの
PDAとPCDA ではA .sinapina ,A. singula とA.mellea subsp . nipponica が 菌糸束の形成及び菌叢の成長が優れていた。また、ブナ、ミズナラ、シラカンバ、トドマツ、エゾマ ツ、カラマツの鋸眉培地では
A. gallica を除いたすべての生物学的種が広葉樹の鋸眉培地で菌糸束の形 成および菌叢の成長が優れていた。また、針葉樹ではカラマツの鋸眉培地で菌糸束の形成及び菌叢の 成長が優れていた。樹木6 種の樹皮抽出成分を入れた培地での培養特性は全ての生物学的種が抽出成 分が入っていないコントロールより菌糸束の形成及び菌叢の成長が優れており、広葉樹よりはやや劣 るが針葉樹の抽出成分の培地での成長も優れていた。とくに、本研究を通じて北海道で発見されたナ ラタケの生物学的種の新種あるいは新亜種は北海道の樹種の鋸眉及び樹皮抽出成分培地で他の生物学 的種より優れた菌糸束の形成及び菌叢の成長が見られた。
第
6章では、各生物学的種の樹木の材に対する腐朽能カを調ぺた。木粉寒天培地での菌叢の着色反 応と木片に菌を接種し、木片の重量減少による腐朽能カを測定したが、A. ostoyae ,AIsinapina とAI
singulaが比較的強い腐朽能カを持っていると判断された。
第
7章では、無葉緑素のラン科植物であるオニノヤガラとツチアケビとの共生菌としてのナラタケ の生物学的種の特徴について調ぺた。オニノヤガラとツチアケビの根茎の細胞内から菌を分離し共生 関係を確かめた。また、分離菌株はテスタ一菌株との交配試験及びアイソザイムの分析により生物学 的種を同定した結果A. mellea subsp. nipponica を除いた全ての生物学的種がオニノヤガラの共生菌であ り、その中
A gallicaとA .
singulaの分離頻度が高かった。また、ツチアケビから
fまA .jezoensis が 分離された。また、分離菌株はオニノヤガラとツチアケビの根茎の成分を入れた培地で菌糸束の形成 及び菌叢の成長が優れている特徴が見られた。
第
8章では、担子菌のタマウラベニタケを侵害するナラタケの生物学的種の同定及び両菌間の相亙 関係を調ぺた。タマウラベニタケを侵害する菌としてA .
gatlicaとAjezoensis が同定された。ナラタ ケの生物学的種とタマウラベニタケ菌との対置培養試験によって両菌の相亙関係を明らかにした。
第
9章は、総括である。本研究ではそれぞれ種の子実体の形態的特徴及び生態的特徴を明らかに し、将来ナラタケによる樹木の根腐病の防除及びナラタケの食用菌として、さらにラン科植物の人工 栽培等の利用において、重要な基礎的資料を提供した。′
ー 857一
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教 授 教 授 教 授 助 教授
五十嵐 木村 寺澤 矢島
学 位 論 文 題 名
恒夫 郁夫
実
崇
Taxonomy and ecology of ArrnilZaria rnellea complex in Hokkaido
(北海道産ナラタケ類の分類と生態)
本
t塗 文は
9章 で構 成さ れ 、図
83、表30 、弓I 用文献154 、総頁数200 頁の英文諭文で ある。別に参 考論
36篇が 添え られ てい る 。
ナラ:タケ
(Armillaria mellea (Vahl: Fr.)Ku ■mer) は世界 的に広く分布し、樹木を枯死させる
重 大 な 病 原 菌 と し て 、 ま た 無 葉 緑 素 の ラ ン 科 植 物 と の 共 生 苗 と し て 、 さ ら に 子 実 体 は 優 れ た 食 用 苗 と し て 知 ら れ る 重 要 な 菌 類 の ・ ー つ で あ る 。 分 類 学 的 に は 従 来 ナ ラ タ ケ ー 種 と さ れ て き た が 、 近 年 単 馳 子 分 離 菌 株 の 交 配 試 験 に よ っ て 互 い に 交 配 不 可 能 な 苗 系 が 存 在 す る こ と が 明 ら か と な り 、 ナ ラ タ ケ は 複 数 の 生 物 学 的 種 の ! 集 合 と み な き れ 、 分 類 学 的 再 ニ 検 討 が 行 わ れ っ っ あ る 。 現 在 ま で ヨ ー ロ ッ パ で5種 、 北 ア メ リ カ で9種 、 オ ー ス ト ラ リ ア で5種 お よ ぴ ア フ リ カ な ど 世 界 的 に30数 種 の 生 物 学 的 種 が 報 告 さ れ て き た 。 日 本 で は ナ ラ タ ケ の 生 物 学 的 穐 に 関 す る 研 究 が 始 ま っ た ば か り で 、 ま だ 分 類 学 的 体 系 化 の 確 立 が さ れ て い な い 状 況 で あ る 。 し た が っ て 、 本 給 文 で は 日 本 産 ナ ラ タ ケ の 生 物 学 的 穐 の 分 類 学 的 体 系 化 を め ざ し 、 ま ず 北 海 道 産 ナ ラ タ ケ の 生 物 学 的 種 の 同 定 お よ び生態的特徴 を明らかにするこ とに努めた。1.世界各地域にお けるナラタケの研究 史について論述し た。
2. 北 海 道 内13地 域 か ら112菌 株 を 分 離 し 、 子 実 体 か ら 分 離 し た 単 胞 子 分 離 菌 株 の 総 当 り 交 配 試験によって5っのヘ テロタリックな不和 合性グループを同 定した。
3. 子 実 体 か ら 分 離 し た 単 胞 ・ 子 分 離 菌 株 が 褐 包 の 角 膜 菌 叢 を も ち 、 ま た 担 子 器 の 基 部 にclamp connectionを 持 っ て い な い こ と . 、 子 実 下 層 の 菌 糸 が 軍 核 で あ る こ と から ホモ タ リッ ,, ク なナ ラタ ケ の一種が存在 することを明らか にした。
4. 交 配 試 験 に よ っ て 同 定 し た6っ の 不 和 合 性 グ ル ― プ と 学 名 が 付 い て い る テ ス ・ . タ ― 菌 株 と の 交 配 に よ る 生 物 学 的 種 の 同 定 を 行 い 、 グ ル ― プIはA.ostoyae( 和 名 : ッ バ ナ ラ タ ケ ) 、 グ ル ー プ Hは !!.galll.._塑(和名 :ヤワナラタケ)、グループmは新種の量.ユ豊懃旦虹!(和名:コバリナラタケ)
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、 グ ル ー プIVはA.sinapina( 和 名 : ホ テ イ ナ ラ タ ケ ) 、 グ ル ー プVは 新 種 のA.sine;Li廸 ( 和 名 : ヒ トりすラタケ) 、またグループ、 ′.【は新亜種のA.melleasubsp.直ヒ四聖!c.一皇(和名:ナラタケ)と命名 し た 。 グ ル ー プuの 和 名 を 除 い た 他 の 種 の 和 名 は 子 実 体 の 形 簡 、 形 質 、 発 生 状 況 な ど か ら 付 し た 新称である。ま た、各生物学的種 の形態的特徽を明ら かにした。
5. 各 生 物 学 的 種 の 培 養 特 性 を 天 然 培 地 (mA,YDA,PDA,PcDA) と プ ナ 、 ミ ズ ナ ラ 、 シ ラ カ ン パ 、 卜 ド マ ツ 、 エ ゾ マ ツ 、 カ ラ マ ツ の 鋸 肩 培 地 で 覊 べ た 。PDAとPcDAで は ホ テ イ ナ ラ タ ケ 、 ヒ 卜 リ ナ ラ タ ケ 、 ナ ラ タ ケ が 、 広 葉 樹 の 鋸 屑 培 地 で は ヤ ワ ナ ラ タ ケ を 除 く す べ て の 種 が 、 ま た 針 葉 樹 の 鋸 屑 培 地 で は カ ラ マ ツ 培 地 で 、 苗 糸 東 の 形 成 及 び 菌 叢 の 成 長 が 優 れ て い た 。 こ の 研 究 を 通 じ て ; | ヒ 海 道 で 発 見 さ れ た ナ ラ タ ケ の 生 物 学 的 種 の 新 種 あ る い は 新 亜 種 は 、 北 海 道 の 樹 種 の 鋸 肩 及 ぴ 樹 皮 抽 出成分培地で他 の生物学的種より 優れた菌糸東の形成 及び菌叢の成長を 示した。
6. 樹 木 の 材 に 対 す る 腐 朽 能 カ を 木 粉 寒 天 培 地 で の 着 色 反 応 と 木 片 の 重 量 減 少 か ら 、 ッ バ ナ ラ タ ケ 、 ホ テ イ ナ ラ タ ケ 、 ヒ ト リ ナ ラ タ ケ が 比 較 的 強 い 腐 朽 能 カ を 持 っ て い る と し た 。 7. 無 葉 緑 素 の ラ ン 科 植 物 で あ る オ ニ 丿 ヤ ガ ラ (Gastr塑 壘 出ta) と ツ チ ア ケ ピ (Gal笠 彑 豊r tentri。nalis) の 根 茎 か ら 菌 を 分 離 し 、 テ ス タ 一 菌 株 と の 交 配 試 験 及 び ア イ ソ ザ イ ム の 分 析 に よ り 生 物 学 的 種 を 同 定 し た 結 果 ナ ラ タ ケ を 除 い た 全 て の 生 物 学 的 種 が オ ニ ノ ヤ ガ ラ の 共 生 薗 で あ り 、 そ の 中 ヤ ワ ナ ラ タ ケ 、 ヒ 卜 リ ナ ラ タ ケ の 分 離 頻 度 が 高 か っ た 。 ま た 、 ツ チ ア ケ ピ か ら は コ バ リ ナ ラ タ ケ が 分 離 さ れ た 。
8. 担 子 菌 の タ マ ウ ラ ペ ニ タ ケ(Rhodophyllus abortivus)を 侵 害 す る 苗 と し て 、 ヤ ワ ナ ラ タ ケ 、 コ バ リ ナ ラ タ ケ が 同 定 さ れ 、 対 置 培 養 試 験 で タ マ ウ ラ ベ ニ タ ケ と の 相 互 関 係 を 明 ら か に し た 。 以 上 の よ う に 本 研 究 は 、 北 海 道 に 産 す る ナ ラ タ ケ の 生 物 学 的 種 が 新 種2、 新 亜 種1を 含 め て6 種 あ る こ と を 確 認 し 、 子 実 体 の 形 態 的 特 徴 及 び 生 態 的 特 徴 を 明 ら か に し 、 分 類 学 的 体 系 化 へ の 展 望 を ひ ら ぃ た 。 将 来 ナ ラ タ ケ に よ る 樹 木 の 根 腐 病 の 防 除 及 び ナ ラ タ ケ の 食 用 菌 と し て 、 さ ら に ラ ン 科 植 物 の 人 工 栽 培 等 の 利 用 に お ぃ て 、 重 要 な 基 礎 的 資 料 を 提 供 し た も の で 高 く 評 価 さ れ る 。 よ っ て 審 査 員 一 同 は 、 最 終 試 験 の 結 果 と 合 わ せ て 、 本 論 文 の 提 出 者 車 柱 榮 は 博 士 ( 農 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 十 分 な 資 格 が あ る も の と 認 定 し た 。
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