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博士(農学)近藤 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(農学)近藤 学位論文題名

稲作生産構造の変化に関する計量経済学的研究 学位論文内容の要旨

  本論文は,総頁数226頁,図20,表58を含む邦文論文である。別に参考論文6編が添えられて いる。

  日本の農政は,生産性の向上によって,わが園農業の比較劣位化を克服し,農工間の所得格差 を是正することを目的に,1961年に農業基本法を制定した。農家の広範な兼業化によって農工間 の所得格差は解消されたが,依然として土地利用型農業,中でも稲作においては,1980年以降さ らなる比較劣位化が進行している。

  農業保護に頼らず,このような,稲作生産における比較劣位化を回避するために,規模拡大に よって土地装備率を向上させ(生産構造の変革),生産コストを引き下げることが課題となって いる。そのためには,土地装備率の向上を阻んだ制約要因を明らかにし,これを除去することが 現在求められている。

  そこで,本論文では,核所得者の就業選択,稲作に関わる農業政策,稲作生産技術に焦点を据 え,計量経済学的手法を用いて,土地装備率の向上の制約要因を明らかにする一方,土地装備率 の 改善 方 策と して 圃場 整備の推進,零細 分散錯圃的農地利用の克服に っいて分析した。

  第1章では,本論文の課題と分析方法を述ベ,さらに,従来の稲作生産構造の変化に関する既 往の研究成果を概観している。

  第2章では,何故,高度経済成長期,農家の兼業化によって,農地流動化による土地装備率の 向上が阻まれたのかを,わが国の代表的稲作地帯である東北,北陸農区を対象に明らかにしてい る。米価に比べ,恒常的兼業労働の賃金率の上昇率が高かったため,農家の核所得者は,非農業 の恒常的兼業労働市場ヘ参入するという,きわめて経済合理的な選択をしたことを核所得最大化 モデルによって明らかにした。核所得者が,恒常的兼業労働者に転化するのが合理的とされる規 模は年々上昇してゆく。その規模を達成するためには,年々規模を拡大しなければならないが,

農地流動化の経済的条件は満たされていなかった。かかる状態のもとで,農地流動化によって土 地装備率が改善されなかったことを明らかにしている。

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  第3章では,現在のわが国稲作が,価格支持政策と作付制限政策という制度的条件下にあるこ とから,これらの条件を明示的に組み込んだ稲作産業モデルを構築し,価格支持政策,作付制限 政策,並びに技術進歩の稲作所得に及ぼす影響を明らかにし,生産構造の変化を阻んだ要因を分 析した。その結果,価格支持政策と作付制限政策は,農業労働賃金率よりも地代を高める効果が 大きく,農地流動化と矛盾することを明らかにしている。さらに,稲作における技術進歩は,賃 金率,労働投入の双方とも減少させる作用をもっているのに対し,地代に関しては,逆に高める 作用をもっており,こうした地代の高騰は,農地の借り手から貸し手への所得移転額の増加を意 味 し てお り, 農地 の借 り 手の 規模 拡大意欲を喪 失させていたことを明らかに している。

  わが国稲作農業の急速な比較劣位化を回避するために導入されたこれらの農業保護政策は,地 代の上昇を招き,規模拡大による土地装備率の向上を困難なものとし,ますますわが国農業を比 較 劣 位化 に追 い込 んで ゆ くと いっ た大 きな 矛 盾が 存在 する こ とを 明ら かに して い る。

  第4章では,稲作における生産力格差を組み込んだ農家経済行動モデルを構築し,限界生産力 理論に基づいて,米の需給均衡政策,特に価格支持水準の引き下げと作付制限政策,および農業 労働の機会費用の上昇が,小規模農家から大規模農家への農地流動化にいかなる影響を及ぼすか を明らかにしている。この分析によって,価格支持水準の引き下げは,小規模農家の所得を低下 させることよりも,むしろ大規模農家の限界地代負担カを低下させる効果の方が大きいことを明 らかにしている。すなわち,米価引き下げは,大規模農家の土地装備率の改善にネガティブに作 用していることを明らかにした。同様に,作付制限の強化や農業労働の機会費用の上昇も,小規 模農家の稲作所得よりも大規模農家の限界地代負担カを低下させていることを明らかにした。

  第5章では,農業の担い手層が,圃場整備事業をどのように評価しているのか,その実態と要 因をアンケート調査から明らかにし,土地装備率の改善にとって不可欠と考えられる圃場整備推 進の可能性を分析した。分析対象は,米の主産地であり,全国水準に比べて圃場整備率が低く,

近 年 , 圃 場 整 備 事 業 の 推 進 が 問 わ れ て い る 宮 城 県 内 の 4市 町 村 で あ る 。   分析結果によれば,専業農家や経営主が農業専従である農家ほど圃場整備に積極的意義を見出 しており,高い評価を下していた。さらに,圃場整備に対する高い評価の主要因が,労働節約的 効果にあることを口ジット分析により明らかにしている。専業農家及び第一種兼業農家と第二種 兼業農家の事業費の負担カには大きな差が認められ,こうした相対的に高い負担能カをもつ第二 種兼業農家の圃場整備に対する評価が低かったことが,圃場整備の推進にとって危惧されるとし ている。

  第6章でtま,農地の面的集積をいかに図るかにっいて分析している。単に地片として農地を集

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積す るので はなく ,土 地装備 率向上 の効果 を最 大限に 引き出 すには ,零細 分散錯圃的農地利用を 解消 しなけ ればな らな い。土 地利用 型農業 にお いては ,農地 の面的 集積, 集団化を達成できるか 否か が生産 コスト を左 右する ため, 本章は ,農 地の集 団化, 農場的 土地利 用の実現可能性にっい て分 析した 。その 結果 ,農地 市場の 不完全 性の ため, 農地の 面的集 積にと って「市場取引」は万 能で はなく ,「組 織取 引」の 活用が 望まし いこ とを示 した。

  そし て, 地緑集 団の合 意形成 の不可能性とセンの呈示したりベラルパラドックスを解消すれば,

「組 織取引 」によ って 農場的 土地利 用を実 現で きる可 能性の あるこ とを指 摘したうえで,この解 消方 法にっ いて検 討し ている 。

  第7章 では, 以上の 分析結 果を 要約し ,稲作 の比較 劣位 化を回 避する ための 政策的 合意 を明ら かに してい る。

  以上 ,本 論文に よって ,稲作 生産構 造, 特に土 地装備 率の変 化の 制約要 因が明らかにされ,稲 作 の 比較 劣 位 化 を 回 避す る た め の 政策 の 展 開 方 向に 一 定 の 指 針か 与 えら れたも のとい える 。

学位論文審査の要旨

  本 論 文は , 総 頁 数226頁 ,図20,表58を含む 邦文論 文であ る。別 に参 考論文6編 が添え られて い る。

  高 度経済 成長 期,日 本農業 は農家の広範な兼業化によって,農工間の所得格差を解消されたが,

依 然とし て土地 利用型 農業 ,中で も稲作 におい ては ,1980年以 降さ らなる比較劣位化が進行して い る。

  現 在の日 本農 業にと り,最 も根本的に重要な課題は,稲作における比較劣位化を回避するため,

農 地の耕 作規模 拡大に よっ て,土 地装備 率を向 上さ せ,生 産コス トを引 き下げることにある。日 本 農業の 本課題 克服の ため にfま ,土 地装備 率の向 上を阻んだ原因を明らかにすると共に,その制 約 要因を 除去す ること が現 在強く 求めら れてい る。

雄 生

久 彦

俊 長

時 克

柳 戸

井 村

黒 七

土 出

授 授

授 授

   

   

教 教

教 助

査 査

査 査

主 副

副 副

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  本論文の特色は,日本農業の最も基本的な重要課題に対し,主として計量経済学的分析方法に より,従来以下のような明らかにされてない5っの問題に取り組み,日本農業の分析に新たな知 見を加えた点にある。

  すなわち,第1の問題は,土地装備率の向上を実現できる担い手を確保する条件を明らかにす るためには,核所得者の労働供給モデルを用いた兼業化の説明が必要だったこと,第2の問題は,

稲作に関する価格支持政策や作付制限政策が農地流動化に与える影響モデルの構築上,従来制約 のきっいCobb‑Douglas型生産関数や双対(duality)として得られる利潤関数分析であったた ため,技術進歩が地代など稲作生産要素の機能的分配や構造変化に与える影響の分析まで及んで いなかったこと,第3の問題は,従来の農地流動化分析が生産要素の平均生産カにもとづくもの であり,規模拡大への誘因が農地の限界生産カとその機会費用の大小にあるというミクロ経済理 論的分析が極めて不充分であったこと,第4の問題は,土地装備率を向上させる圃場整備事業か,

費用負担能カや圃場整備の投資収益からいって,逆に土地装備率向上の制約要因になっていない かどうかの評価が明らかでなかったこと,第5の問題は,零細分散錯圃が市場下で解消し得るの か 否 か , 経 済 学 の フ レ ー ム ワ ー ク で 明 ら か にさ れて こ なか った とい うこ と であ る。

  そこで,本論文は,これら5っの問題に対し,核所得最大化モデル,トランス口グ型費用関数 等の計量経済学的分析と,K. Arrowの一般不可能性定理,A.K.Senのりべラルパラド゛ソク ス理論等を用いて,核所得者の就業選択,稲作に関わる農業政策,稲作生産技術に焦点を据え,

土地装備率向上の制約要因を明らかにする一方,土地装備率向上の改善方策として,圃場整備事 業の推進,零細分散錯 圃的農地利用を如何にして克服するかにっいて分析したものである。

  第1章では,本論文の課題と分析方法を述べ,さらに,従来の稲作生産構造の変化に関する既 往の研究成果を概観している。

  第2章では,わが国ではじめて核所得最大化モデルを用いて,何故,高度経済成長期,農家の 兼業化によって,農地流動化による土地装備率の向上が阻まれたのかを明らかにしている。生産 者米価に比べ,恒常的兼業労働の賃金率の上昇率の方が高かったため,核所得者が,農業にフル タイム就業するのが合理的とされる規模は年々上昇していた。その規模を達成するための農地流 動化の経済的条件は満たされていなかった。そのため,農地流動化によって土地装備率が改善さ れなかったことを明らかにしている。

  第3章では,価格支持政策,作付制限政策,技術進歩を組み込んだ稲作モデルを構築し,これ らが稲作における農業労働賃金率よりも地代を高める効果が大きく,農地流動化と矛盾すること を明らかにしている。したがってこのことから,作付制限の緩和が今後の重要な政策的インプリ

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ケ ーショ ンとし て示唆 される 。

  第4章 では ,稲作 におけ る生産 力格差 を組 み込ん だ農家 経済行 動モ デルを 構築し ,限界 生産力 理 論に基 づいて 分析し た結果 ,価 格支持 水準の 引き下 げ, 作付制 限の強 化,農業労働の機会費用 の 上昇は ,小規 模農家 の所得 を低 下させ ること よりも ,む しろ大 規模農 家の限界地代負担カを低 下 させる 効果の 方が大 きく, 大規 模農家 の土地 装備率 の向 上を阻 害して いることを明らかにして い る。

  第5章 では ,アン ケート 結果か ら,専 業農 家は, 圃場整 備事業 を大 区画化 を通じ ての労 働節約 的 低コス ト化へ の投資 行動と 見なしている一方,第二種兼業農家は,それを「資産的価値の上昇」

で しかみ ていな いこと を明ら かに した。

  第6章 では ,零細 分散錯 圃が市 場メカ ニズ ムによ り解消 し得な い理 由を取 引費用 や情報 の不完 全 カヽら ,パレ ―ト最 適が保 証されないことに求めた。一方,合意形成の必要な組織的取引にも,

K. Arrowの一 般 可 能 性 定理 やA. K. Senの り べ ラ ル パラ ド ッ ク ス 理論 に 照 ら し ,分 散 錯 圃 解 消 に は 無 理 が あ る が ,Senの 「 共 感 」(Sympathy) と 「コ ミ ッ 卜 メ ン ト」 (Commitment)に も とづく 農場的 土地利 用の実 現可 能性に っいて 明らか にし た。

  第7章 では ,以上 の分析 結果を 要約し ,稲 作の比 較劣位 化を回 避す るため の政策 的合意 を明ら か にした 。

  以 上,本 論文に よっ て,稲 作生産 構造中 ,これ まで ほとん ど計量 経済学 的に解明されなかった 土 地装備 率の変 化の制 約要因 を明 らかに したこ とによ って ,農地 流動化 への新しい知見を加えた だ けでな く,稲 作の比 較劣位 化を 回避す るため の政策 展開 に重要 な示唆 を与えるものと評価され る 。

  よ って, 審査員 一同 は,別 に行っ た学力 確認試 験の 結果と 合わせ て,本 論文の提出者近藤巧は 博 士(農 学)の 学位を 受ける のに 十分な 資格が あるも のと 認定し た。

参照

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