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博 士 ( 農 学 ) 玖 村 朗 人 学 位 論 文 題 名

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 玖 村 朗 人

学 位 論 文 題 名

牛 乳 か ら 分 離 し た 低 温 菌 の り パ ー ゼ お よ び      プ ロ テ ア ー ゼ に 関 す る 研 究

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

長距離輸送などによる生乳の冷蔵保存期間の延長は牛乳中の低温群の増殖を許す。これらの低温 菌群がその発育に伴って分泌するりパーゼ,プ口テア―ゼ等の酵素は,熱安定性の高いものが多 く,通常の殺菌処理では酵素の完全な失活までには至らしめない場合がある。したがって殺菌後 もそれぞれの基質に作用し続けることになり,製品保存中の風味劣化や組織の変化を招くものと 考えられている。

  本研究では,牛乳から分離したPseudomonas luorescens No.33が生産するりパーゼとプ口 テアーゼを分離精製し,リパーゼの熱安定性に与える乳蛋白質の影響,ならびに,プ口テアーゼ がりパーゼや乳蛋白質に及ぼす効果をも検討することによって,牛乳中でのルパーゼの挙動を総 合的に考察することを目的とした。

  脱脂乳でPs. fluorescens No.33を培養した後,その上澄液中のりパーゼの熱安定性を観察す ると,培養時間や加熱時のpHにより著しい影響を受けたことから,リパーゼの熱安定性には pHのみならず,培養期間中に蓄積する供試菌の代謝産物や菌体外プ口テアーゼによる分解産物 等、多くの要因が関与するものと考えられた。そこで,リパーゼを精製し,その本来の性質を明 らかにすることを試みた。すなわち,培養上澄液に塩酸を添加してカゼイン成分を除去した後,

オク チル セフ ァ 口ー スCL‑4B,DEAE―卜ヨパール ,トヨパールHW―50sによる カラムク口 マトグラフィーによってりパーゼの精製を行い,回収率約35%,純化度約4,200倍の精製リパー ゼを得た。リパーゼの分子 量は,SDS・PAGEで約52,000と算出され,アミノ酸分析の結果,

1残基のシステインが認められた。

  バター脂肪を基質とした場合,精製リパーゼの最大活性はpH7.5〜8.5において認められた。

リパーゼ活性はpH7.5のりン酸緩衝液中において,45℃で最大を示した。リパーゼの熱安定性 は,pH7.5の0.1Mリン酸緩衝液中で40℃,pH6.6の同緩衝液中では50℃において,それぞれよ りも高い温度(〜 90℃)で加熱処理した場合と比較して低くなった。このように高温度領域にお

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い て 熱 安 定 性 を 示 す 低 温 菌 酵 素 がそ れ よ り も 低い 温 度 領 域 で 不安 定 化 す る 現象 はLTI(low temperature inactivation)と 呼 称 さ れ るが , 本 実 験 は緩 衝 液 の 濃 度やpHに よって ,リパ ー ゼ がLTIを示す 温度 が変化 するこ とを実 証した 。

  リ パー ゼが乳 脂肪か ら遊離 させる 脂肪 酸を, 乳脂肪 本来の 脂肪 酸組成 と比較 すると,オイレン 酸 ,カプ リル酸 ,カ プリン 酸の割 合が多 かっ た。反 応温度 が低く なると ,オ イレン酸および風味 に 強く影 響を与 える 酪酸が 多く遊 離され る傾 向が認 められ た。

  一 方, リパー ゼおよ び乳蛋 白質に 対す るプ口 テアー ゼの作 用を 知るた めにプ 口テアーゼの精製 を 行 っ た 。 すな わ ち , 培 養上 澄液に 塩酸 を添加 してカ ゼイン を除 去し, オクチ ルセフ ァ口ー ス CL―4Bに よ っ て り パー ゼ と 分離 した後 ,硫安 分画 ,DEAEセフ ァ口 ース, ブチル ―トヨ パー ル,

ト ヨ パ ー ルHW―50Sに よ っ て , 回収 率 は 約8%, 純 化度 は約170倍 の精製 プ口テ アーゼ を得 た。

そ の 分 子 量 はSDS,PAGEに よっ て 約48,000と 算 出さ れ た 。 ア ミノ 酸 組 成 は,ア ラニン ,グリ シ ン な ど の 低 分 子 量 の ア ミ ノ 酸 含 量 が 高 く , シ ス テ イ ン は 検 出 さ れ な か っ た 。   本 プ口 テアー ゼはホ 工―蛋 白質に は作用しないが,酸カゼインを基質とした場合,pH8.O〜9.8 に おいて 最大の 活性 を示し た。精 製プ口 テア ーゼの 活性はpH9.Oに おいて35℃で最大となった。

精 製プ口 テアー ゼは ,これ まで報 告され てい る低温 菌プ口 テアー ゼと同 様に ,50℃の加熱で著し いLTIを 示した 。

  精 製リ パーゼ に精製 プ口テ アーゼ を添 加して ,4℃で24時 間保持 し, リパFゼ活性をプロテアー ゼ 無添加 のそれ と比 較した ところ ,両者 に差 は認め られな かった 。一方 ,プ 口テアーゼ存在下で 3時 間 保持 した場 合のり パーゼ の熱安 定性 は,プ ロテア ーゼ無 添加 の場合 よりも 低下し た。こ の 結 果,プ 口テア ―ゼ はりパ ーゼ活 性には 影響 を与え ないが ,その 熱安定 性を 低下させることを示 し ている 。とこ ろが 両酵素 は,供 試菌よ り生 産され た後の 培養期 間中, 数日 間にわたって共存状 態 にあっ たこと から ,培養 液中で もプロ テア ーゼが 上記の ような 作用を りパ ーゼに与えるのなら ば ,精製 リパー ゼは 既にプ 口テア ーゼの 作用 う充分 に受け た後に 得られ たも のであって,改めて 精 製プロ テアー ゼを 添加し ても, 見かけ 上の 活性や 熱安定 性の変 化はも はや 観察し得ないと思わ れ る。し たがっ て, 以上の 結果か らプ口 テア ーゼは 本来, リパー ゼの熱 安定 性を低下させるが,

培 養液( 脱脂乳 )成 分もし くは供 試菌に 由来 する他 の成分 が存在 すると ,そ の作用が感じられる と 考えら れる。

  牛 乳 の塩 類 組 成 を 模倣 し た ,SMUF(simulated milk ultrafiltrate)中での りパー ゼの熱 安 定 性と脱 脂乳中 での りパー ゼの熱 安定性 を比 較する と,50℃ 以下 の加熱 温度で は,脱脂乳中のり パ ーゼの 熱安定 性か 高くな るもの の,60℃以上 の加熱 では両 者に あまり 差は認 められなかった。

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SMUFに 懸濁 し た カ ゼ イン ミ セ ル 中 での り パ ー ゼ の熱 安 定 性 は 脱 脂乳 中 のそ れより も高 かった が , ホ エ ー 蛋 白質 を 含 むSMUF中 の りパ ー ゼ は60〜 80℃の加 熱によ って 完全に 失活し た。っ ま り ,脱 脂乳中 での本 リパー ゼの 熱安定 性はカ ゼイン による 安定 化作用 とホエ ー蛋白質による不安 定 化作 用の総 和であ ると考 える ことが できる 。  前 述のよ うにプ ロテア ーゼは カゼインを分解す る 一方 ,ホエ ー蛋白 質には 作用 しない ことを 考慮す ると, 牛乳 中では 培養時 間が延長されるに従 い .プ 口テア ―ゼの カゼイ ン分 解が進 行して ホエー 蛋白質 の占 める割 合が高 くなるため,リパー ゼ の 熱 安 定 性 が低 下 す る と結 論され る。と ころ で,SMUFの代わ りにり ン酸緩 衝液を 用い ると,

60〜 80℃での 加熱後 もり パーゼ 活性は 維持さ れるこ とか ら,ホエー蛋白質によるりパーゼの熱安 定 性 低 下 に はSMUF中 の成 分 が 不 可 欠で あ る こ と を示 し て い る 。 さら に ,ホ エー蛋 白質 を添加 し たル ン酸緩 衝液中 でのり パー ゼの熱 安定性 は,80〜 90℃でのそれが50〜70℃よりも高くなり,

こ の 原 因 は り パ ー ゼ と ロ ー ラ ク ト グ 口 プ リ ン の 相 互 作 用 に あ る こ と が 明 ら か に な っ た 。

学位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教 授 教 授 教 授 助 教授

斎藤 高橋 近藤 三河

善 一 興 威 敬 治 勝 彦

  本 論文 は総頁 数132で,図31,表17,引用 文献132を 含む和 文論文 である 。別に 参考 論文3篇が 添え られて いる。

  隔日 集乳や 長距離 輸送 により 牛乳を 冷蔵す る期 間が長 くなる 傾向に あり, そのため,しばしば 低温 菌の増 殖が見 られる よう になる 。低温 菌が生 産する りパ ーゼや プ口テ アーゼには殺菌処理に よっ ては完 全に失 活しな いも のがあり,製品保存中の風味劣化など品質の低下を招くことがある。

本 研 究は , 牛 乳 か ら分 離 した 低温菌Pseudomonas fluorescens No.33が生産 するり パー ゼとプ ロテ アーゼ を分離 精製し ,そ の相互 作用や 耐熱性 を中心 とし た諸性 質にっ いて検討したものであ る。

  緒論 では, 低温菌 の定 義,性 質,お よび乳 製品 の保存 性との 関係な どにっ いて従来の研究をま とめ ている 。特に プ口テ アー ゼが殺 菌温度 よりも やや低 い特 定の温 度領域 において耐熱性が低く

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な る 現 象 に っ い て の 研 究 を 詳 し く 紹 介 し , 本 研 究 と の 関 連 性 を 示 し て い る 。   第1章では,P. Fluorescens No.33を還元脱脂・乳中で培養する場合の培養期間,温度,pHの 変化とりパーゼ活性,プ口テアーゼ活性との関係から,これらの酵素を得るためには培養温度17

℃が適当であることを確認した。

  第2章では,同菌を培養後,遠心分離によって得られた上澄液を粗酵素液とし,リパーゼの熱 安 定性を観察し,pH7.5では,60〜70℃に加熱すると,その前後の温度に加熱した場合よりも 活 性が低くなることを認めた。熱安定性にはpHのみならず,培養中に蓄積する代謝産物や菌体 外プロテアーゼによる分解産物等の要因も関与するとしている。

  第3章では,上記上澄液からのりパーゼおよびプ口テアーゼの分離精製にっいて述べている。

す なわち ,オク チルセ ファ口 一スCL―4Bに対す る吸着性の差によってIJパーゼとプ口テアー ゼ とを分離し,前者をカラムク口マトグラフィーにより精製した。回収率約35%,純化度は約 4,200倍であり,分子量52,000であった。プ口テアーゼにっいては硫安分画ならびにカラムク口 マトグラフィーにより精製し,回収率約8%で,純化度約170倍,分子量48,000の精製標品を得 た。これらの精製した酵素を用いて以後の実験を行っている。

  第4章では,リパーゼの至適条件,添加物の影響など一般的性質および熱安定性を示している。

最 大活性は,pH7.5〜8.5に認められ,至適温度45℃であった。熱安定性は,pH7.5およびpH 6.6のO. 1M緩衝液中で,それぞれ40℃,50℃において,より高い温度(〜90℃)に加熱した場合 よりも低くなった。

  第5章では,リパーゼの作用により乳脂肪から遊離する各且旨肪酸の割合を示しているが,反応 温 度 を 低 く す る と 酪 酸 お よ び オ イ レ ン 酸 が 増 加 す る 傾 向 を 認 め て い る 。   第6章では,リパーゼの活性と熱安定性におよぼす乳成分の影響を示した。ロs・,ロ,カゼイ ンは活性と熱安定性を高めるが,一方,ホエータンパク質が活性におよぼす効果は僅かであり,

牛乳の塩類を含む溶液(人工乳清)中で加熱すると熱安定性が著しく低下した。したがって,牛 乳中におけるりパーゼの熱安定性は,カゼインによる安定化作用と,ホ工一夕ンパク質による不 安定化作用の平衡によると説明している。

  第7章では,精製したプロテアーゼの諸性質を示しており,活性はpH 9.0,35℃で最大であっ     Ih

た。50℃,10分間の加熱により活性を失ったが,.それよりも高い温度では活性が認められ,リン 酸緩衝液中よりも人工乳清中で高い活性が示された。

  第8章において,プロテアーゼは各カゼインを分解するが,ホエータンパク質には作用しない ことを示した。

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  第9章では,共存するりパーゼに対するプ口テアーゼの作用を示している。プ口テア―ゼはル パーゼ活性には影響を与えないが,その熱安定性を低下させ,特に50℃以下でその効果の大きい ことを明確にした。

  総合考察では,本研究で得られた結果から,牛乳の流通過程で実際にみられる条件下で起こり 得るりパーゼの作用,特にタンパク質との相互作用,ならびにそれに及ぼすプロテアーゼの影響 にっいて考察している。カゼインミセルの構造,各種カゼインおよびホ工一夕ンパク質のプ口テ アーゼに対する感受性から,プロテアーゼによるカゼインの分解が,リパ―ゼの熱安定性の低下 をもたらすと結論している。また,加熱処理後むりパーゼとプ口テアーゼの活性が残存した場 合,長期保存により,遊離した酪酸による異常風味,カゼインの分解によるゲル化,苦味の発生 等が起こることを指摘した。

゛以上のように本論文は,長時間の冷蔵に基づく低温菌の増殖によって生成するりパーゼ,プ口 テアーゼの性質,とくに耐熱性にっいての研究成果を示し,いくっかの新知見を提出した。学問 的にも,また実際の面からも示唆に富むものである。

  よって審査員一同は,最終試験の結果とあわせて,本論文の提出者玖村朗人は博士(農学)

の学位を受けるのに十分な資格があるものと認定した。

参照

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