高校中退者のライフコース分析による中退規定要因に関する研究
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(2) 目次 1 問題の所在. 1. 1.1 高校中退者の動向一・・一一. 1. 1.1.1 高校中退者数の推移 一. 1. 1.1.2 高校中退の理由・. 4. 1.1.3 高校中退後の状況・. 9. L2 中退問題への対応の実際一一一一. 11. 1.2.1 中退問題への取り組みの実際. 11. 1.2.2 中退問題の基本的認識とその視点…. 12. 1.2.3 中退問題と進路指導・生徒指導の関連. 16. 1.3 先行研究からみた中退・一・・. 18. 1.3.1 中退研究の分類一・一・一・. 18. 1.32 中退発生要因の検討の必要性. 19. 1.3.3 中退発生要因の研究. !9. 1.3.4 分析対象および方法の課題・・. 20. 2 研究目的および方法. 30. 2.1研究目的・. 30. 2.2 研究対象・・一一. 31. 2.3 研究方法・一. 34. 2.3.1 分析方法・・. 34. 2.3.2 分析内容・. 34. 2.3.3 データの収集・一. 37. 2.4 ライフコース分析の有効性・・. 40. 2.4.1 ライフコースの定義. 40. 2.4.2 ライフコース分析の独自性・. 42. 2.4.3 ライフコース分析の方法・・. 45. 2.4.4 ライフコース分析の応用・・. 48. 3 分析結果および考察. 50.
(3) 3.1 出来事連関分析・・一・・・・… 一・・一. 50. 3.1.1 出来事連関 .. 50. 3.1.2 分析結果と考察一一・一・一・一・. 52. 3.2 キーパーソンの影響分析一一・・一・. 77. 3.2.1 キーパーソンの影響度… 一・一・・. 77. 3.2.2 分析結果と考察・. 77. 3.3 中退要因連関分析・. 87. 3.3.1 中退要因連関・… 一・. 87. 3.3.2 分析結果と考察・. 88. 3.4 中退要因連関構造分析一一. 103. 3.4.1 中退要因連関構i造・・一一・. 103. 3.4.2 分析結果と考察一・一一・. 105. 109. 4 中退のケーススタディ 4.1 キーパーソンの関わりの実際. 109. 4.1.1 中学時代の進路選択・決定時. 109. 4.1.2 中退決定時 一・__._..__. 126. 4.2 教師の関わりと中退規定要因との関連. 143. 42.1 中退者のプロフィール・一一・一一. 143. 4.2.2 中退プロセスー一. 143. 4.2.3 中退者と教師の関わりのケーススタディ. 144. 4。2.4 事例からみた教師の関わりの課題・・. !51. 153. 5 総合考察と今後の課題. 5.1 総合考察一一一・一・一一一一一・. !53. 5.2 今後の課題 ._._.. 160. 参考文献一覧. 161. Appendix. 174. ii.
(4) 1 問題の所在 1.1 高校中退者の動向 1.1.1 高校中退者数の推移. 昭和50年代中頃から,高校中途退学者(以下,中退者とする)が急増しており,教育問 題としてはもちろんのこと,社会的な問題としても大きく取り上げられるようになった。. 文部省においても,1982年度1以来,毎年度,全国規模で中途退学(以下,中退とす る)をした生徒数の状況等に関する調査を実施し,対策を講じると共に,その動向に注 目している。. 97年の2月において,95年度2における中退状況に関する調査結果がとりまとめられ たので,その概要を示す。. それによると,公・私立高等学校における中退者数の推移(文部省,1997)は,図1−1. に示される通りであり,90年度の約12万3千名をヒ。一クに,やや減少傾向を示しては いるものの,過去最低であった93年度の約9万4千名に比べて,94年度は約9万6千名, 95年度においては約9万8千名にも上り,2年連続の増加となっている3。 同様に,中退者数の高校在籍者数に占める割合である中退率についても,ここ数年 は1.9%から2.1%台で推移しているが,再び増加する傾向にある。. また,全日制高校の公・私立別の中退率をみると,図1−2に示す通り,私立高校に比. べ,依然として公立高校の中退率が下回っている状況は変わらないものの,公立高校 に限って述べるとするならば,調査開始以来,大きな変化は見られないにしろ,95年 度においては,90年度の中退率1.6%と同様に,最も高い割合を示していることが指摘 される。. このように,中退者数の推移からは,いまだ中退問題が解決しているとは言い難い 状況にある。. 1以下,西暦の表記は下2桁とする。 297年現在の最新データは,95年度(平成7年度)までである。 3文部省(1997)「平成7年度公・私立高等学校における中途退学者数等の状況について」『教育データ ランド』97−98,pp.86−87. 1.
(5) 18. 2.5. 中. 中. 退 者. 退 率. 数16. (%). (人). 2.0. 14. 国中退者数+中退率. 12 1。5. 10. 8 1.0. 6 響. 4 0.5. 2. 躯’,. 0. 0.0 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94. 図1−1公・私立高等学校における中退者数の推移. 2. 95年度.
(6) 4 中. 退. ■. 率3.5 (%). 3.3. 公立高校. ロ私立高校. 3.2 ‘. 3.0. 葦. 3. N 囁こ. ・. £r. 藍i. 穿 FF@ド. b. (〆. 2.7. 2.6. を饗. 二}. 2.6. 2.6. lb. 2.5. }ご. 聾. 1㍉. 罠・」. 葦. さ. 導. 婆. } 二. 》,. り.. ■:P. 2.2. 与. ・=. 毎. ∼1. 4㌔. pb. 宗. 忘り. 藷. y、一. う.. 琴. F. ξ. 海. 丸. 耳. {P. r. r. ぢ酎. 二、. {. ジ と㌔. }. ゾ. で. ぎ1. ゴ. 、飛. ノ.. i. 冠 節. {’. あr’. 〕’. P霧=. 鵜. ノ’. 寺. 1. ぐ冨. ・. ●. 彰. o. ■. 詫. 毛臼. .を. 弧. 詑. 工. ワ「. 1.. r. ∴ r. −乏. 書=. く、. r㌔. 逼. ;喪. 協. 葦. r 焉. 昌. 冗. 鑑 L. @,. ゴ. 、メ. 一 ず. r. “ジ、. ♪. ,ぐ ・≧瓦. 雪. ≧. ノ. b. 、. 恥. 忌. 搬 郵煮. \. 隈. _. f. b. =. r く. ニヒ. ∫’. きr. y 卜’. ひ. り. 「㌦. 急. 、. 博. 瞭 鹸 町. き、. 、. }:「. 含. 鞍. 「 甘. き’. 藻妻1昇. r ミ麦. ド. 駿. 二. 誇 .. }佐 ,〔、. し二. 崎. }. r. ぜ. か. 寧. 葦チ. 葺. 藪. }三. 三. ,. ㌻. .じ. 薬. (. 霞甘「. 証. 膨. r. ‘. くr. “ ㍉. 匙. ぐ. 垂. ⊃. じ. ■菖. “1. 翁. か. P d、. ご. ン F ∫. e. lY. ゴ,. r 毛. 二. 瞬. 二,γ. 迄、. 孟. F. r. 『. 三. n. …ヴ. 貯ゾ㍗. 0.5. 鎮. 、. 毫■ノ. r、. ■. ’ゴご r. Fな. 1主. b. ・. へ r 聯. 隆. ㌃. ノこ. 1. 1.. ㍉. 睾. 呼. }:室・二. 1.. f. 婁. 妄. ㍉. 恥b ●. 三. 無. ア. 揖ノ. 郵. 毫. f. さ. く. 5. 腸. 罫亨. .. 6. ζ㌔. r. 0. ψ. F’. 汐 亭. ド. ・. 事丁. 1. X. 7. ザ. 耳F. 1. こ冗. 冷. 斎ぴ. 罫. チ. ぐ ヒ. b 「. 憂,. 毎「. !」. い. r. ¥. 勲. 「酒. ク. rr. r. 鍵. r. L. 身 二. 坊. ,栖. プ‘. ボ. 窮. ヒ. f. 宵」. 誓. 伽. 耳. 、と. 三. 〆6. 2.0. F. 乳. 苛 ㍉ ,. b. t5. 2」. ♂. 二. 駐. ■!. r. /二. │. 爵. 2. 層. 2.3. ド. r !導・. 撃. ン. 2.5. ㌦. 二 F. 二. ぐ. 急. K ’. 垂. ^}. 評. 無. ラ. 言. 玲 》r. 、、. 》. 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 図1−2全日制高等学校の公・私立別中退者率の推移. 3. 翁. 謎. },. 厩. 章. ミ. 9495年度.
(7) 1.1.2 高校中退の理由. 中退理由別中退者数の状況,およびその比率の推移は表1−1,図1−3に示す通りであ る4。. 95年度における,各理由の占める割合をみると,「進路変更」によるものが43.3%で 最も高く,次いで「学校生活・学業不適応」によるものが28.6%,以下「学業不振」が 7.9%,「家庭の事情」が5.4%,「問題行動等」が4.7%と続いており,86年度以来,同様. の順となっている。「進路変更」および「学校生活・学業不適応」の2要因で,中退理 由のおよそ7割を占めることは,ここ数年間における特徴的な傾向であるといえる。 なかでも,中退理由のおよそ半数を占めている「進路変更」についての比率の推移は, 年々増加する傾向を示し,86年度の28.3%から比較するとほぼ1.5倍にあたる43.3%と なっており,その内訳については,「就職を希望」が6割を越えており,「別の高等学校へ の入学を希望」,「専修・各種学校への入学を希望」,「大検受験を希望」と続いている5。 これに対し,「学業不振(7.9%)」,「家庭の事情(5.4%)」,「問題行動等(4.7%)」,「病. 気・けが・死亡(3.9%)」,「経済的理由(2.2%)」は緩やかではあるが,減少傾向を示して. いる。また,「学校生活・学業不適応(28.6%)」に関しては,ほとんど変化はみられず;. 26%から28%台を推移しており,ほぼ横這い状態にある。 しかし,ここで考慮すべきことは,「進路変更」,「学校生活・学業不適応」などの中. 退理由が,中退者本人の意識を的確に反映したものであるかどうかという問題である。. この中退理由については,捉え早いかんによって,中退問題に対する今後の対応が大 きく変わってくるため,非常に重要な問題となる。. たとえば,文部省の『生徒指導上の諸問題の現状と文部省の施策について』によれ ば,「公立高校の校内暴力の発生校数」は図1−4に示す通りであり,ここ10年間におい. て急激に増加しっっある6。特に,95年度においては,最も高い数値を示しており,84 年度と比較するとおよそ2.8倍となっている。. そして,その加害生徒に対する措置状況として,公立高校では,退学・停学・自宅謹 4表1−1は『教育データランド』97−98,pp.86を抜粋したものである。 5文部省(1997)「平成7年度公・私立高等学校における中途退学者数等の状況について」『高校教育』 7月号,pp.64−65. 6文部省(1997)「平成7年度公・私立高等学校における中途退学者数等の状況について」『教育データ ランド』97−98,pp.86−87. 4.
(8) 慎,訓告などの懲戒措置があげられている7。. つまり,生徒間暴力や対教師暴力などの校内暴力が多発している,いわゆる「学校 が荒れている」時期にも関わらず,校内暴力に直接的または間接的に関連すると思わ れる中退理由である,「問題行動等」や「学業不振」,「学校生活・学業不適応」が減少. 傾向,もしくは横這い状況にある,という矛盾が生じているのである。. 以上述べたように,高校の生徒指導上の諸問題の現状と,中退理由に関しての調査 対象が,高校側が中心,つまり中退理由を中退者本人ではなく,学校側により判断され ているという点を考慮するならば,むしろ,小川(1993)や木下(1994)が「他に何らか の理由があり,結果として進路変更になっている」8,「退学理由の分類は,本人が学校. で,教師に翻意を促されながら,退学理由を問われ,やむなく一言を言う。翻意を絶っ ためである。その時,『就職でもする』と答えれば立派な『進路変更』である。しかし, 彼らの多くはまだ何も決めていないのである(略)」9と指摘するように,「進路変更」そ. のものが理由だけではなく,中退に至る過程において様々な要因が絡まり合って,表 面的には「進路変更」となっている状況にある,と捉えるほうが妥当ではないか。 もちろん,文部省などの指導10もあり,ここ数年,中退に対しての高校側の姿勢も慎 重になってはきている。. しかし,中退理由の中で最も多い「進路変更」の実情は,単に「前向きに進路を切 り開こうとする生徒が増えた」,「高校側の柔軟な対応の成果である」とは言い切れず,. 逆に『中退』の問題がどこにあるのかを見えにくくしているように思える。. また,中退の実情を把握し,前向きに改善しようと試みている教師がどれほどいる だろうか。未だ把握できない教師,関心のない教師が多くいることも否定できない現 状であることも付言しておきたい。. 7公立中学校においても同様に増加しており,校内暴力事件においては,中・高とも8割から9割が生 徒間暴力である。 8小林一郎(1993)「家庭,地域とどう連携するか」『高校教育』3月号,pp.38−44. 9木下征四郎(1994)「高校中退と大検制度」『季刊教育法』第99号,pp.49−51. 10次節において,文部省の具体的取り組みを示している。. 5.
(9) 表1−1中退理由別中退者数の状況. 年度 沫R笈. 学業不振. 1986. 霊987. 1988. tg90. 望989. 15,510. 14,075. 壌4,282. 15,026. i13.6). i12.4). i122). i12。4). 1992. 1991. 13,932 i1t3). 11,685 i10.3). 1α025. 1993. 1994. 1995. 8,841. 8,507. 7,754. i9.9). i9!D. i8.8). i7.9). 病気・け. 5,886. 5,944. 5,911. 3,762. 8,791. 3,874. i5,1). 5,247 i42). 4,093. i5.2). 5,556 i45). 4,658. i5.2). i4」). i4.0). i4.0). i33). i3.9). 経済的理由. 4,724 i4。9. 4,136. a639. 3,185. 2,零36. 2,198. 2,419. 2,196. i3.9. i2.6). 2,360 i19). 2,269. i3.6). i2.0). i2.1). i2.3). i2.5). i2.2). &210. 7,943. 8,134. 8,332. 7,345. 6,160. 4,084. 4,255. 4,597. 4,614. i7.2). i7』). i7.0). i6.8). i5。9). i5.5). i4.7). i4.5). i4.8). i4.7). ェ・死. 問題行動等. 進路変更 家庭の事情. 21,望90. 34,765. 38,022. 43,162. 48,099. 46,175. 43,792. 41,163. 4零,699. 42,544. i28.3). i30.7). i32,6). i35.1). i38.9). i40.9). i43.3). i43.8). i43.3). i43.3). 11,248. 10,398. i9.9). i9.2). 9,726. 9,087. 8,041. &062. 5,559. 5,2マ4. 5,357. 5,334. i8.3). i7.4). i65). i5.8). i5.5). i5.5). i5£). i5.4). 学校生活・. 30,568. 3α338. 31,406. 33,053. 32,849. 30,649. 26,850. 24,596. 25,959. 28,035. w業不適応. i26.8). i26.8). i26.9). i26.9). i26.6). i27.1). i26.5). i26.1). i26.9). i28.6). そ の 他. 5,602. 5,757. 5,497. 5,488. 5,656. 4,735. 3,935. 4,036. 4,072. 3,828. i4.9). i5.壌). i4.7). i4.5). i4.6). i4.2). i3.9). i4.3). i4.2). i3.9). 計. 113,938 i1000). 113,357. 116,617. 123,069. 123,529. 112,933. i100.0). i100.0). i100.0). i100丑). i100.0). 在籍者数. 5,243』099. 5,363,582. 5,520,951. 5,628,478. 5,609,353. 2.2. 2.1. 2.1. 22. 2.2. 比率(%). (注) ()内は構成比を示す。 (資料) 文部省. 6. 10胴94. 94,065. 96,4α. 98,179 i100.0). i100.0). i100.0). i100.0). 5,443,237. 5,201,859. 4,991,109. 4,850,868. 4,711,305. 2.1. 1.9. 1.9. 2.0. 2.1.
(10) 100% .9 3.. 2.. 2.. 2.. 0.. 1.. .9. 90%. 註{. 磁. /. 無. 奨. 蓑. 覇欝胃. 電、. 彰慧. 、§. ヒ繋. 團病気・けが・. 》 揮. 80%. □学業不振. 》. 物. 死亡. ‘藪. ,1. □経済的理由. 70%. 60%. 3.. 8.. 0.. 2. 0。. 8.. 3,. 3.. 3.. 5.. 團問題行動等. 50%. □進路変更 40% .9. 口家庭の事情 30%. 翻学校生活・. 20%. 学業不適応. 10%. 口その他 .9. .1. .9. .9. 0% 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95. 図ト3中退理由一中三者数の比率の推移. 7. (年度プ.
(11) 600. 900 (件). (万人). 800. 500 700 600. 400. 團校内暴力発生学校数 ィ一生徒数. 500. 300 400. 200. 300. 200. 100 100. 0. 0. 8283848586878889909192939495(年度) 図1−4公立高等学校における校内暴力発生校数. 8.
(12) 1.1.3. ●. 高校中退後の状況 「どうして中退などしたのか,何か悪いことでもしたのか」. ●. 「学校でつとまらないのに,ここでつとまるか」. ●. 「高校も出ないんだから,一人前でない」. ●. 「働くことは厳しいそ,甘ったれるな」. これは,小林(1993)が「高校中途退学者の追跡研究」で示している,中退者が就職 するに当たって,雇用する側から言われた「不快」に感じた言葉の中で,最も多かった コメントである。. その中で,中退者の中退後の状況の特徴を,以下のように指摘している11。. 1.中退したことの後馬については,中退後,1年半経過した時期において,中退を. 後悔している者は約4割みられ,最も多い後悔の理由は「中退した劣等感」であ り,「1人前に扱われない」,「同僚・上司がいろいろ言う」と続いている。. 2.中退後の生活については,「仕事もせず学校にも行ってない者」が約1割みられ, 「学校から中退させられた者」は中退後の生活が不安定な者が多い12。. 3.就労については,中退者は就労先で,極めて不満の多い生活をしている。その理 由として「仕事が合わない」,「人間関係がいや」,「賃金が安い」,「仕事がきつい」. があげられ,これは就労先が限られているために希望の職場に入れないことが考 えられる。 4.就学意欲については,「機会があれば,これからでも学校へ行きたい」と答えてい. る者が約半数みられ,中退者の高校に対するこだわりは大変高い。こうした意識 の裏側には,中退者が社会に出て,日本の学歴社会や学校信仰の壁にぶつかって いることを反映している。 11小林剛(1993)「高校中途退学者の追跡研究(2)一中途退学者の中退後の意識変化と就労の周辺一」『福 井大学教育学部紀要』IV,46,pp.45−46. 12文部省の87年度中退調査によると,中退者の現在の状況は,「仕事をしていて学校へは行っていな い」者が61.7%,「無職・その他」の者が15.8%,「学校に行っている」者が12.1%,「仕事をしながら学校. に行っている」者が10.3%となっている。. 9.
(13) また,堀田(1992)によれば『高校退学者の就業の実態と意識』の中で,5割以上の中. 退者が,悩み事を持っていると指摘している。その内容については,「何かしなくては と思うが,何をしたらよいか分からない」が35.6%で最も多く,以下「どんな仕事が自 分に向いているのか分からない」が35.5%,「イライラしたり,身体の具合が悪くなった りすることが多い」が34.9%,「毎日がつまらない,何をやってもむなしい」が24.0%,. 「生活が乱れている」が23.8%,と続いていることを示しており,中退後の生活におい. て,精神的にも極めて不安定な状態である場合が多いことを指摘している13。 もちろん「悩み事」については,中退者のみがあてはまるというものではない。労働. 省の調査によれば,青少年の中で「職場および家庭での悩み」を持っている者が5割を 越えていることが示されており,その内容においては「職場の人間関係」が28,5%で最 も多く,続いて「人生の目標が見つからない」が26.3%,「毎日がつまらない」が21%な. ど,中退者の悩みの内容,比率ともほぼ同様な傾向にあるといえる14。. しかし,このことを「今日の若者一般に共通する悩み」として捉えることは非常に 短絡的にすぎよう。それは先述した中退者のコメントからもわかるように,中退した 者こそ今後のサポートが必要であるにもかかわらず,社会において一般的に彼らが肯 定的に受け入れられているとは言い難い現状があるからである。. 中退者の多くは,中退したというハンディを乗り越えるために,悩みながらも,克 服したいと希望しつつ生活していることを考慮するならば,若者一般との悩みの違い にもしっかりと目を向ける必要があると考える。. 概して,中退者の中退後の生活や就労状況は,必ずしも安定したものではなく,む しろ,さまざまな困難を背負っている場合も少なくないのである。そして,いまだに 中退したという結果だけをみて,中退者を学校や社会から逸脱した,特別な者である とする認識が深く根づいていることも否めない状況である。. 以上,中退者の全体的な動向を述べたが,あくまでも全体の把握であって,傾向を 示しただけに過ぎない。中退した,あるいは中退の岐路に立たされている一人ひとり の生徒にとって,中退者全体の数の増減云々によって,その出来事の重要性が変わる ような問題ではないことは言うまでもない。. 13堀田千秋(1992)「高校中途退学者の就業の実態と意識一青年期の進路変更とキャリア形成に関する 調査一」『日本労働研究機構i研究報告書』No.22,pp.58−60. 14労働省(1990)『勤労青少年福祉に関する総合的な調査結果報告書』. 10.
(14) 1.2 中退問題への対応の実際 前節で述べた中退についての状況から,中退には,自ら選んだ,いわば「積極的な 進路変更」と,選ばざるを得なかった「消極的な進路変更」という面が,互いに見え 隠れしていることが推察される。高校進学率が95%を越え,中卒者のほとんどが高校 に進学する状況の中では,必ずしも明確な目的意識を持って入学する者だけではない ことを考慮するならば,むしろ「積極的な進路変更」が行われること自体,困難では なかろうか15。. このような状況のなか,特に,90年代に入ると,学校側の中退および不登校問題へ の対応の不備が大きな教育問題となり,入試の改善,生徒の能力・適性や興味・関心に. 応じる高校の多様化の推進,興味・関心や能力・適性に応じて進学したい高校を選ぶ 能力を育成するための中学校進路指導の改善など,各学校おいても工夫された取り組 みが進められるようになっている。. 文部省は,平成元年に「学校不適応対策調査研究協力者会議」を設置し,中退者本 人へのアンケートを実施するなどして,中退問題への対応策についてとりまとめ,『高 等学校中途退学問題について』(文部省,1992)の報告書を公表している16。. 以下,その概略と本研究の関連内容を示す。. 1.2.1 中退問題への取り組みの実際. 学校での中退問題への取り組みの現状については「学校では,生徒の能力・適性,興. 味・関心等が多様化していること,授業に興味がわかない,授業がわからない等が中 途退学理由として多く指摘されていることを踏まえ,教育課程の多様化,弾力化を図っ たり,学習指導に当たっても様々な工夫を行っている。また,様々な教育活動を通じ高. 等学校への適応指導,進路指導の充実を図っている」として,次のような取り組みを 行っている17。 15文部省の89年度中退調査によると,高校に進学した理由については,「就職に有利であるから」が最 も多く23.2%,「みんなが行くから」が17.5%,「将来の仕事に役立つ知識・技術を身につけたいから」が 14.9%,「特に理由はない」が13.8%と続いている。. 16文部省(1992)『高等学校中途退学問題について一学校不適応対策調査研究協力者会議報告一』 17教育委員会における取り組みとして,1.中退問題の検討会議などを設置および具体的措置について の指導助言,2.カウンセリング技術向上のための教員研修の実施や指導資料の作成,3.体験入学の促進 など高校の理解のための進路指導の充実や転・編入学の促進,などがある。文部省(1992),前掲,pp.13−14. 11.
(15) 具体的取り組み 1.教育課程の編成,実施上の工夫について (1)選択教・科目の増加と,多様な類型・コース制の導入。 (2)生徒の学習意欲が高まるような指導方法の改善。 (3)資格取得を目指した,学習の導入や学習の習熟度に応じた指導。 (4)進級認定の弾力化についての改善。. (5)学校行事などにおいて,生徒が主体的に参加できるような場面の設定と工夫b. 2.適応指導の充実について (1)入学後の早期適応を図るための,新入生オリエンテーション合宿等の実施。. (2)登校拒否生徒を中心に,家庭訪問や指導・相談の実施や,日常的教育相談の 充実。. (3)教師間の共通理解を図りながらの学校全体での組織的な取り組み。 (4)生徒・保護者の意識調査の実施。. 3.進路指導の充実 (1)中学校との連絡の下での,進路指導の充実を図るための中・高連絡協議会の 開催。. (2)中学生の体験入学の拡充。. (3)退学を希望する生徒に対して,希望を踏まえての,学校や就職の紹介におけ る指導の充実。. 1.2.2 中退問題の基本的認識とその視点. 中退者数,中退率をどのように考えるのか,また,中退自体をどのように認識,評 価するかについては,今後の中退問題の方策を導出する上で非常に重要な問題となる。. 文部省の協力者会議においても様々な意見が出されおり,その内容については,中 退を一律に考えず多面的に捉えること,中退に至るまでの過程を重視した実情を把握 すること,学校不適応の問題として把握することなどがあげられている。. 12.
(16) 具体的には,次の7点にまとめることができる18。. 中退の基本的認識 1.中退は,その数の多少や増減で一律に議論されてきた傾向があるが,態様には 様々なものがあり,多面的な認識や評価をしていく必要がある。. 2.高校は義務教育ではないからと,単純に割り切って考えることのできない問題 として認識しなければならない。しかしながら,中退理由をみると,各学校にお. ける指導の充実や,学校と家庭との連携によってある程度防止できる場合と,中 退即学校不適応という視点だけではなく,積極的な進路変更によるケースなど新 たな進路への適切な配慮が求められる場合があり,別の視点からの考察も必要で ある。 3.「進路変更」による中退者が年々増えてきており,特に,中退に至るまでの過程. で進路変更したいと思っていた者が半数強に上る,という実情を踏まえた取り組 みを重視していく必要がある。 4.中退は,各学校における指導の充実や学校と家庭との連携によってある程度防止. できる場合と,積極的な進路変更により中退するケースなど,新たな進路への適 切な配慮が求められる場合があり,それらを分けて考えることが必要である。 5.生徒が充実感を持って学校生活を送れるよう,何より「参加する授業」,「分かる. 授業」を行い,学習意欲を高めるような改善を進めるとともに,生徒の多様な能 力・適性,興味・関心,進路等に対応して,多様化,柔軟化,個性化する必要が ある。 6.中退者が,再び高校で学びたいと希望するケースが多い中で,就学の道を確保し,. 円滑に再度就学できるようにしていくことが必要である。 7.中退までには至らなくても,学校不適応を起こして,中退傾向にいるような生徒. が存在するので,学校不適応の問題として,日頃から生徒の実態を十分に把握す る必要がある。 18文部省(1992),前掲,pp。15−17. 13.
(17) また,先に述べた中退問題についての基本的認識のもとに,問題に対応していく基 本的視点があげられている。その内容には,中退など学校不適応の問題は高校の在り 方に関わる問題とし,中退者個々に応じた対応の必要性があげられている19。 具体的には,次の3点にまとめることができる。. 対応の基本的視点 1.中退など学校不適応の問題は,今日の高校教育の在り方そのものに関わるもので あり,高校教育の多様化,柔軟化,個性化を進めていくことが重要である。 2.中途退学の背景となる,生徒の学校不適応の状況を的確に把握し,積極的進路変 更を理由とする中途退学の指導の在り方を含め,個々に応じた指導が必要である。. 3.学校生活において,達成感や成就感を味わうことができるよう,魅力ある教育活 動を展開し,学校への適応を図っていく指導が重要である。. そして,今後の積極的な対応のために,各学校において,早急に取り組む必要があ るとして,次のような対応方策があげられている20。. 今後の対応方策 1.高校教育の多様化,柔軟化,個性化を推進すること (1)高校における教育課程等の改善. a)生徒選択中心の単位制の主旨を生かした教育課程の編成・実施等 b)進級認定の弾力化 c)高校の特色づくり,魅力づくりと情報提供 (2)中学校・高校における進路指導の改善・充実. a)中学校における進路指導の充実 b)高校における進路指導の充実 c)進路指導に関する中・高校間の連携 19文部省(1992),前掲pp.18−19 20文部省(1992),前掲,pp.20−31の項目のみを抜粋した。. 14.
(18) d)人間として在り方生き方に関する指導の充実 2.個に応じた手厚い指導を行うこと (1)高校における生徒指導の充実. a)高校における適応指導の充実. b)生徒理解の深化 c)校則の見直し (2)「参加する授業」「わかる授業」の徹底等個に応じた学習指導の改善・充実. 3.開かれた高校教育の仕組を整えること (1)転・編入学についての積極的な受け入れ・周知,追指導の充実 (2)編入学する際の十分な適応指導等 (3>転校・転科許可の弾力化 (4)休学の取り扱いの弾力化. 以上の概略から,文部省においても,中退問題を,中退者が急増した時期に考えら れていたような「生徒側の学校への不適応」つまり『責任の所在は生徒にある』といっ た捉え方だけではなく,「学校側の生徒への不適応」つまり『責任の所在は学校にある』. としても捉えることにより,高校の在り方や中学校での進路指導などを,生徒の意欲 や興味・関心に応じるような形に改めようとする,積極的姿勢がうかがえる。 また,中学校・高等学校(以下,中・高とする)において,入学者選抜や高校におけ. る教育課程等の改善,さらには単位互換の推進,社会人入学の拡大などシステムを中 心とした改革なども目に見えて行われつつあるのも確かである。. しかし,問題なのは,このような取り組みを実施し,システムも変化しっっあるに もかかわらず,中退者数は依然として減少しておらず,むしろ増加する傾向にあると いう事実である。. そして,先述したように,それが必ずしも「積極的な進路変更」を意味するもので なかったり,中退後の生活が不安定であることが少なくないというような状況を考慮 するならば,システムを中心とした改革ももちろん大切ではあるが,より中退者側の 実情に即して中退問題を捉え直し,今,最も生徒が必要としているものは何であるの かを踏まえて,学校側の具体的対応策を示すことが急務ではなかろうか。. 15.
(19) 1.2.3 中退問題と進路指導・生徒指導の関連. 中退問題と進路指導・生徒指導が,深く関わっていることは自明である。ここでは,. 中退時期の傾向を把握することで,進路指導・生徒指導の中で,どの時期における指 導が中退に最も関連しているのかを推測し,そのなかで考えられる具体的な問題点を 提示する。. まず,中退時期の傾向を述べると,学年別の中退者数については,静岡県立教育研 修所(1985)や那須(1991)の研究によると,「中退は1年生の時期に最も多く生起してい る」ことが指摘されている2122。. また,文部省の中退調査からも,95年度における学年別中退者数は,1年は約5万3 千名,2年は約3万4千名,3年は約1万1千名となっており,学年別の比を算出すると,. 1年,2年,3年の1頂に,およそ5対3対1となっており,1年時の中退が2・3年時に比 べ,格段に高い割合を示していることが確認できる23。 中退した月については,「公立高校全日制中退調査」(文部省,1987)の中で,,月別の. 比率は,3月が26%と最も多く,続いて9月の11%,10月の9%の順となっていること が示されている24。. 特に,学年末である3月においては,全中退者数の4分の1が集中していることが特 徴的である。このことは,学業不振や休学,出席日数に最も関連のある原級留置が学 年末に行われることに大きく関係していると考えられる。. つまり,中退は,1年時の3学期,もしくは2学期という比較的早い時期に決定され ているのである。そして,中退に至る発端となった要因においては,それ以上に早い 時期に生起していることが推測される。. このように,中退者数が依然として減少していない現状や,中退決定時期が1年の 2・3学期という入学後わずかな期間に集中して生起している点,中退理由が「進路変 21静岡県立教育研究所(1985)「高校中途退学者の実態と問題点に関する調査研究」『教育研究』72,pp.10−. 54 22那須光章(1991)「高校中途退学者の中退要因と学習,生活の実態に関する研究」『滋賀大学教育学部 紀要』No.41,p.87. 23文部省(1997)「平成7年度公・私立高等学校における中途退学者数等の状況について」『進路指導』 平成9年3月号,70巻,pp.46−49. 24文部省(1987)「昭和59年度公立高等学校全日制課程中退者調査」『高等学校中退者進路状況等調査 報告書』. 16.
(20) 更」,「学校生活・学業不適応」,「学業不振」などの直接的に進路指導・生徒指導に関わ. る内容でほとんどを占めている点を考慮するならば,中退時期もしくは,それ以前に おける中・高の進路指導・生徒指導に問題があるとみるのが妥当であろう。. 具体的には,中学校段階の進路選択・決定時などの進路指導・生徒指導と,その時 期における教師の関わり方,そして,高校での中退に至るまでの進路指導・生徒指導 と,その時期における教師の関わり方に,最も問題があると考えられるのではないか。. 学校現場で,中退した生徒の話が出ることがある。その時の中学教師から出る言葉 の中で「やはり中退したのか,仕方ない」という意味の言葉が出ることがある。その教. 師は,一体中退をどのように捉えているのだろうか。無責任にも,その生徒自身の問. 題としてのみ捉えているのではなかろうか。教師の指導を反省し,それを生かし,学 校全体で取り組もうとする姿勢が見られないのが現状ではなかろうか。 なお,本研究では,「進路指導・生徒指導」という言葉を使用している。これは,お もに進路指導に焦点を当てて生徒指導全般を述べていることを意味している。. 17.
(21) 1.3 先行研究からみた中退 1.3.1 中退研究の分類. 中退に関する研究は,中退原因の追究や実態の把握を中心とした調査研究が多くを 占めるものの,内容も徐々に多様化してきている。 小林(1992,1993)によれば,これまでの中退研究について分類・整理すると,6つに 分類できる25。. 第1に,国民教育研究所(1985)の「中・高校生の学習と生活,進路選択に関する意識 調査」に始まった,高校生の中退意識の研究26。. 第2に,秦(1981)の「高校中退の発生要因に関する分析」に代表される,高校中退 の発生に関する研究27。. 第3に,金子ら(1991)の「高校中退生徒の在学中の意識構造の特徴と予防的指導方 法の開発的研究」に代表される,中退者の特性に関する研究28。. 第4に,那須(1991)の「高校中途退学者の中退要因と学習,生活の実態に関する研 究」に代表される,高校中退を在学中の生活や学習との関わりで研究している追跡研 究29。. 第5に,堀田(1992)の「高校中途退学者の就業の実態と意識」に代表される,中退 者の職業的適応に関する研究30。. 第6に,小林自身の研究である「高校中途退学者の追跡研究」を代表とした,中退者 の中学校生活に関する研究である。 25小林剛(1992)「高校中途退学者の追跡研究一中途退学者の中学校生活を中心に一」『福井大学教育 学部紀要IV(教育科学)』44,pp.13−40同左(1993)「高校中途退学者の追跡研究(2)一中途退学者の中退 後の意識変化と就労の周辺一」『福井大学教育学部紀要IV(教育科学)』46,pp,33−51. 26国民教育研究所(1985)「中退・高校生の学習と生活,進路選択に関する意識調査」『国民教育』64, 春季号,P.79. 27秦政春(1981)「高校中退者の発生要因に関する分析」『福岡教育大学紀要』第31号,第4分冊,pp.61−94. 28金子基照・榊原禎宏・植田義幸(1991)「高校中退生徒の在学中の意識構造の特徴と予防的指導方法 の開発的研究」『マツダ財団研究報告書』voL4,pp.35−51 29那須(1991),前掲,pp.87−106 30堀田(1992),前掲,pp.7−127. 18.
(22) 1.3.2 中退発生要因の検討の必要性. 中学校および高校での進路指導・生徒指導を有効に機能させる方途を検討する上で は,中退の発生要因や発生過程についての研究および検討が必要であり,それによっ て,より生徒側に立った具体的な対応策が講じられることになる。. つまり,いつ,なぜ,どのようにして中退が生起するのかを探ることで,誰が,ど のように関わり,そしてどのような影響を受けてきたのかという点を明確にできるか らである。. それによって,中退者や中退傾向のある生徒だけに限らず,中・高の全生徒に関わ る進路指導・生徒指導についての,具体的な改善点を導出することができると考える。. また,この研究は,中退を規定する原因は本人にあるのか,保護者なのか,学校な のか,それとも社会なのかという,いわば責任を追及するような目的ではなく,これ からの中退問題についての,より具体的対応策を講じることができるようにするとと もに,社会における中退についての否定的な捉え方を少しでも改善するために,実情 を的確に把握する必要があると考える。. 中退発生要因の検討は,単なる中退の分類や発生要因の抽出という枠を越えた,こ れからの進路指導・生徒指導,そして少なからず,教育の在り方に対する方向づけを 可能とする研究になり得るのではないか。. 1.3.3 中退発生要因の研究. 中退についての代表的な研究は,表1−2から表1−9に示す通りである。ここでは,本 研究に関連の深い,高校中退に影響を及ぼした中退発生要因の分析に関する研究を示す。 たとえば秦(1981)は,中退者と非中退者の分化に関する規定要因を7つ(出身地域,. 父の学歴,母の学歴,所得,学業成績学科,職業)セットし,数量化理論第II類を用 いて,両群の判別要因を明らかにしている。. その結果中退と非中退ゐ分化に最も強い規定力を持つ要因は「学業成績」であり, それに続いて「出身地域」が高いことが明らかになっている。また,それ以外の「社 会経済的要因」が決して無視できないほどの規定力を持っていることも否めないこと も指摘している31。 31先行研究の要約(表1−2)を参照のこと。. 19.
(23) 大谷・清水(1989)は,中退に至るまでの過程を,中退のきっかけ・発端の時期,決 心・決定の時期,退学の時期の3時期から分析し,原因別にみた中退の過程を明らかに している。. その結果,中退原因として「厳しい校則への反感」,「教師からの潮IJ扱い・友達との 不仲・暴力を受けた」,「成績不良による教師からの訓戒・授:業についていけない」,「家. 庭の経済的事情,親への反発」,その他「非行・問題行動」等をあげている32。. 那須(1991)は,滋賀県内の8公立高校,188事例の中退事例を教師に評価させるとい. う方法によって実施された調査を,全ケース分析することにより,中退の直接的原因 を明らかにしている。. それによれば,「学科別に見た中途退学の直接的原因では,普通科,農業科では学業. 不振の率が高く第1位の原因となっているが,商業科や工業科ではその率はやや低下 し,進路変更や問題行動が多くなっている。すべて女子の中途退学者である家庭科で は経済的家庭的理由の率が高くなっている」ことを指摘している33。 小林(1993)は,研究者自身のヒヤリングという方法で,中退相談や中退後のカウン セリングを行った事例を通して,中退要因を明らかにしている。 その結果,中退理由として「学力や勉強」,「先生との関係」,「なんとなくっまらな くて」,「別な生き方をしたくて」,「不登校」,「病気・怪我」,「家庭的・経済的理由」を. あげている。また,「大部分の中退者の背景に『学習がわからない』という,いわゆる 『学力問題』がある」ことを指摘している34。. 1.3.4 分析対象および方法の課題. 調査対象としては,小林のように中退者への直接のヒヤリングという方法によって,. 彼らの生の声を分析しようと試みているものもあるが,多くの研究が中退者本人では なく,おもに高校教師・中学校教師や担任教師を対象としたアンケート調査によるも のや,中退者を対象としたアンケート調査によるもの,在学高校生を対象としたアン ケート調査によるものであることが多い。 32大谷尚子・清水利江(1989)「高校中退に関する実態調査一中退に至るまでの過程と中退者の心身状 況について一」『茨城大学教育学部紀要』38号,pp.193−205 先行研究の要約(表1−4)を参照のこと。 33先行研究の要約(表1−5)を参照のこと。 34先行研究の要約(表1−9)を参照のこと。. 20.
(24) したがって,分析結果は,中退者自身の意識や実態の反映であるとは言い難く,あ くまでも,中退に関わった学校および教師側からみた第三者の私見であり,中退者側 のものではない。那須(1991)や秦(1981)が指摘するように「文部省や教育委員会の調. 査だけでは,必ずしも中退者の実像は浮び上がらず,中退に追い込んだ最も根本的な 要因を探ることができない」3536のである。. そのためにも,中退に至る経過の分析や複雑な発生過程を捉えるには,中退者の生 活史という,ダイナミックな文脈でのとらえ直しを行い,なおかっ中退者本人からの 生の「声」を分析することが必要であると考える。. 35那須(1991),前掲,p.140 36秦(1981),前掲,p.93. 21.
(25) 表1−2. 文献名 1)目的 2)調査対象 3)方法 4)中退類型 5)結果要約 6)課題. 1.秦 政春(1981) 「高校中退者の発生要因に関する分析」 『福岡教育大紀要』第31号,第4分冊,pp,61−94 1)高校中退の発生率・退学状況や発生要因を社会・文化・家庭等経済条件な どについて分析する。. 2)おもに高等学校教師,担任教師。 3)質問紙調査中心。. 4)6類型(親の無理解による中退・経済的貧困による中退・本人自身の問題 行動による中退・健康上の理由による中退・不本意就学による中退・他校 受験による中退)。 5)a 中退発生率は,定時制課程,私立,職業科(特に農業科・工業科),男 子に高いという特徴が見られる。 b 中退発生原因は,経済的理由から学力不足,非行といった問題行動に移 行し,背後に介在する原因はともかく,中退を余儀なくされているよう である。. c中退後の進路は,在籍していた高校のランクや学科,学業成績の影響が 強く,家庭的諸特性(家庭の所得水準等)に影響される部分は少ない。 d普通高校からの中退者の発生要因は,家庭の文化的条件が生徒の学業成 績に影響を及ぼすといったメカニズムが支配しているようである。つま り,ある文化条件をもつ家庭環境の中で育った生徒が,学業不振に陥り, さらに非行を生じて起こる,といったケースが多い。. e職業高校からの中退者の発生要因は,普通高校にみられた家庭のもつ文 化的特性→学業成績→中退発生という図式は認められない。むしろ,不 本意就学による学業不振,あるいは非行といったケースが多いと考えら れる。. f高校中退者は,ほぼ6つに類型化することができる。 g家庭の社会経済的条件が高くても,ネガティヴな条件,例えば学力不足 であるとか,職業高校にしか進学できなかったといった条件が結びつい た時,異常に中退者発生の可能性が高くなると考えられる。 h学業不振や非行といったものは,直接的,あるいは間接的に社会経済的 要因に支配される部分が極めて大きい。高校中退問題は,本人自身の問 題であるといった単純な側面だけで片づける問題ではなく,社会経済的 要因を無視するわけにはいかない。 6)a高校中退者の問題を教育機会の側面からとらえ直し,中退に追い込んだ 最も根本的な要因を探ることが必要である。 bユニバーサル段階までに達している高校教育の質的側面を,今後いかな る方向に転換していかなければならないのかといった問題は,極めて重 大な教育課題であり,政策課題でもある。. 22.
(26) 表1−3. 文献名 1)目的 2)調査対象 3)方法 4)中退類型 5)結果要約 6)課題. 2.文部省(1987) 「昭和59年度公立高等学校全日制課程中退者調査」 『高等学校中退者進路状況等調査報告書』 文部省初等中等教育局 1)高等学校中退者の進路状況等について調査を行い,高等学校における生徒 指導および教育課程の改善,中学校の進路指導の改善のための諸資料を得 る。. 2)昭和59年度中に公立高等学校全日制課程を中退した者。. 3)電話による聞き取り調査(A調査),郵送によるアンケート調査(B調 査),面接による調査(C調査)。. 4)8類型(学業不振・病気,ケガ・経済的理由・問題行動等・進路変更・家 庭の事情・学校生活,学業不適応・その他)。. 5)a 中退者の就職・就学の状況は,男子の有職率が高く,女子は「無職・そ の他」が多い。また,学校に行っている者の内訳は,男女とも高等学校 が多い。. b現在の生活感で,生き甲斐を感じるのは「友達や仲間といるとき」が約 57%を占めており,次に「スポーツや趣味に打ち込んでいるとき」の約 41%である。また, 「心をうちあけて話せる友人」は「2・3人」が半 数を占めている。 c高校をやめた理由では, 「高校の生活があわなかったから」が約27%と 最:も多く,次に「この中にはない」が約19%, 「進路変更」が約14%と 続いている。. d中退時の状況は「自分からすすんでやめた」が約77%と圧倒的に多く, 退学したとき「さっぱりした」者が半数を占めている。 e希望高校の選定では「将来の進路を考えて」は4分の1程度にとどまつ ており, 「自分の成績を考えた」が約44%で一番高い数字を示した。. f中学校の進路指導への要望は「将来の職業について,もっと教えてほし い」 「高等学校の生活や勉強について,もっと教えてほしい」が一番多 く,約35%を占めた。. g高等学校決定の方法は半数近くの者が「自分の意志で決定した」と述べ ている。また, 「中学校の先生」の意見を参考にしたとこたえた者が約 半数近くおり, 「両親や家族」の意見を参考にした者も40%近く占めた。. h教師との関係において,高校時代「先生方と親しく話をした」は半数近 くが「話をした」と答えている。 「対立した」は10%に満たなかった。. i中退理由の多い順にあげていくと,一番多いのが「学校生活・学業不適 応」であり,次に「進路変更」 「学業不振」,そして「問題行動」と続 いている。 6)特に記載なし。. 23.
(27) 表1−4. 文献名 1)目的 2)調査対象 3)方法 4)中退類型 5)結果要約 6)課題. 3.大谷尚子・清水利江(1989) 「高校中退に関する実態調査」. 一中退に至るまでの過程と中退者の心身状況について一 『茨城大学教育学部紀要』38号,pp.193−205 1)定時制高校に通う高校中退者を対象として,中退がどういつだ経過をたど って起こるのか,また,中退者の心身の状況はどうなるのかを明らかにす る。. 2)定時制高校養護教諭。 3)アンケートおよび面接調査。. 4)5類型(校則に対する反感による中退・差別等教師,友人との対人関係か らの中退・成績不良等学習面の問題による中退・経済その他家庭事情によ る中退・非行,問題行動による中退)。. 5)a中退は,発端→決定(決心)→退学の過程をとり,多くは1年次の1・ 2学期に発端があり,3学期までに退学してしまう。年度末の退学者は 4割である。 b中退の発端から決定までの;期間は2カ月以内群と,4∼6カ月以上群に 二分される。決定から退学までの期間は,ほとんど2カ月以内である。 c中退の原因として,校則,差別・対人関係,成績・学習及び家庭の問題 がほぼ同率であげられ,非行・問題行動を理由に強制的に中退させられ た者は少ない。 d中退に至る過程は,中退の原因により各々特徴が認められた。校則反感 群は1年次のうちに中退しており,差別・対人関係群は1年次で決定し,. 1年次または2年3月で中退した者が多い。また,成績・学習群は1学 期初めてのテストである6月以降に発端があり,年度末に退学する者が 多く,家庭の事情群は中退に至る過程が全体的に長い期間を要している。. 非行・問題行動群は1年次2学期以降に発端があり,即退学という過程 をとる。. e中退を決定するまでの期間に心身の影響を自覚したものが8割みられた。 特に,中退原因が家庭に関わる場合には,心身への影響は強くあらわれ ていた。また,中退という選択を肯定的に受けとめたものが約4分の1 を占めた。逆に後悔している者は,1割弱であった。 f中退について相談した相手は親,教師,友達が上位を占めた。養護教諭 が相談相手になる経路として2っの典型を得た。 g中退の過程が速いテンポで進んだ群は,後悔が少ない。 h中退を強制された3事例は,全例「学校をやめたくない」という気持を 持っていた。中には,周囲からの何ら支援を受けることなく退学させら れた事例もあった。 6)特に記載なし。. 24.
(28) 表1−5. 文献名 1)目的 2)調査対象 3)方法 4)中退類型 5)結果要約 6)課題. 4.那須光章(1991) 「高校中途退学者の中退要因と学習,生活の実態に関 する研究」 『滋賀大学教育学部紀要』Nα41,pp.87−106 1)中退者一人ひとりの中退に至った状況と経過,その後の様子を調査・分析 し,中退の原因,要因,背景を明らかにする。 2)中途退学生徒に関わった高校担任教師,学年主任,生徒指導担当者など。 3)質問紙調査。. 4)7類型(死亡・病気,けが・学業不振・経済的家庭的理由・問題行動・進 路変更・その他)。 5)a不登校(登校拒否)状況の生徒,原級留置の決定後の中退者がかなり多 い(特に1年生に多い)。そしてその措置のとられ方には,学校差がか なり大きい。. b中退者は,ホームルーム,部活動等の教科外の諸活動にあまり参加して いない。. c中退者の中には,中学時代の学業成績,入試成績,IQ,学習意欲・態 度の低いものが多い。 d中退者の中には,経済的・家庭的に負因を抱えた生徒がかなりいる。 e中退を考える生徒の指導にあたって,高校側が中学校と連携し,生徒・ 保護者と関わったのは全体の30%の事例にすぎない。 f親に対する指導が,生徒本人に対する指導と同じくらい困難iを極めてい る。 g 中学校での進路選択になおざりな部分があったこと,生活態度や情緒安 定性などにおいて問題をもち,意欲の喪失などの弱さをもったまま高校 に入学する生徒が多い。 h中退者は離転職を繰り返しながらも定職をもっているものが50%いる。 6)a文部省や教育委員会の調査だけでは中退者の実像は浮び上がらないので, 中退に至る経過の分析が必要である。. b高校の不登校生徒への対応,校則の見直し等,教育的配慮に基づいた弾 力的運用の見直しが必要である。. c学習内容,評価の検討や,教育機会が奪われないように福祉的財政画歴 援システムを作り上げることが必要である。 d実質的な形での中高連携や,学校・教師の意識改革が必要である。 e 中退時に本人の決意が高まるような指導が必要である。 「学校が嫌い」 「勉強する気がしない」だけでの中退とはせず,何かを求めるための再 出発となるような援助が必要である。. f今なお,生活上の困難さや問題行動から完全には脱却できない者も相当 いる事実を押える必要がある。. 25.
(29) 表1−6. 文献名 1)目的 2)調査対象 3)方法 4)中退類型 5)結果要約 6)課題. 5.金子基照他(1991) 「高校中退生徒の在学中の意識構造の特徴と予防的 指導方法の開発的研究」 『マツダ財団研究報告書』vol.4,pp.35−51 1)高校中退問題の総合的対応策を考えるとともに,中途予防的な指導の在り 方を摸索するための手がかりを,生徒の意識構造の特質性に求め,高校中 退の志向性を潜在的に有している生徒の意識構造の特性を発見する。 2)在学高校生,高校教師,中退者。 3)質問紙調査。 4)特に類型なし。. 5)a中退生徒は,高校での学習・クラス活動に対して消極的であり,さらに 高校への在籍自体に否定的意識を持つ傾向が強い。これらの否定的意識 は高校生として要求されない,趣味のためのアルバイトや異性との交際 への積極的な姿勢への裏返しとして捉えられる。 b 中退生徒は,中退しなかった生徒に比べて,自分自身を持続的な努力あ るいは向上への意欲が弱いと評価している。こうした継続的努力への姿 勢の弱さは,物事が偶然の出来事によって決りやすいと考える運依存の 傾向につながっている。 c 中退生徒は,自己を相対的に把握し対象化するという内省的傾向の弱い 点でも特徴的である。このことは,自己への否定的動揺や葛藤,これら を安定させるための内省の試みといった思春期の発達特性から考えて問 題性を持つ。. d中退生徒は,自己主張の傾向をより強く意識していることが明らかであ る。中退生徒が対人関係により自信を持っていることを考えると,社交 的傾向はより強く,決断力を持っている。その意味で高校中退は,消極 的な回避行動ではなく,むしろ自分で選びとるという積極的行為の現れ でもありうる。 e高校中退は一面として,高校以外への自分にふさわしい適応を求める, 青年の「適応的逸脱」であると理解することも可能である。. 6)a第1に検討すべきは,高校での諸活動は,いかに中退の可能性を持つ生 徒の努力向上への姿勢・意欲を高めうるかということである。. b第2に検討すべきは,中退生徒と,中退生徒と同様の特質を持つ中退し ない生徒へどう対応するかである。 c第3に検討すべきは,高校の教育的任務をいかに捉えるかである。. d義務教育と,高等教育に挟まれた高校の在り方の構想,さらに小学校や 中学校を含む学校制度全体の編成原理が問われており,このことは学校 制度の問題であると同時に,従来の学校制度の相対化を要請する「生涯 学習」体系の構想にも連なる課題である。. 26.
(30) 表1−7. 文献名 1)目的 2)調査対象 3)方法 4)中退類型 5)結果要約 6)課題 6.小林 剛(1992) 「高校中途退学者の追跡研究」. 一中途退学者の中学校生活を中心に一 『福井大学教育学部紀要W』44,pp.13−40 1)高校中退者の中学校における生活と学校や教師への適応状態を調査し,中 退は中学校生活の適応と深く関わるという点を可能な限り検証する。 2)郵便・電話の相談や,中退相談・カウンセリングで来室した中退者または 父母。中学校・高等学校の教師。 3)質問紙調査(可能な限り中退者本人へのヒアリングも行う)。. 4)6類型(病気等による中退・学業不振による中退・家庭事情や経済的理由 による中退・問題行動による中退・進路変更による中退・不登校による中 退)。. 5)a 6類型の中退群の結果説明(省略)。 b各群にほぼ共通にいえることは,中学校における学習の適応が十分では ない。高校中退の根底のところに,中学校における「学習適応」の問題 があることがかなり明確になった。 c学習が「わからない」と回答している者が学習を投げているのではなく, 実はわかりたい要望を持っていることがわかった。このことは中学校教 育が学習面で彼らにそった対応をしたならば,あるいは中退抑止になつ たと予測できる。 d中退者は教師との関わりが貧しいことが認められる。叱られることが多 く,誉められることが少ないということで教師に対する不満や口答えが 多い。中退者たちが全体として貧しい教師との人間関係にあったという ことは,中学時代の教師と生徒の人間関係構築の大切さをあらためて提 出してくれている。 e 中学時代の学習への適応や教師との関わりが不十分であっても,友達関 係に恵まれたり,クラブ活動等の生き甲斐があれば,中学生活は必ず暗 いものではない。どこかに生き甲斐があれば,それをステップにして高 校生活に多少の困難があっても乗り越えていく力となる。. 6)a被調査者の想起による記述のため,中学校時代の意識をリアルに記述で きるが,一人ひとりの状況やその時の意識によって異なる。本調査を見 るに当たって,そうした視点を充分視野に入れる必要がある。こうした 調査が共通にもつ限界といえる。 b 中退者の意識を特徴的に明らかにするには,非中退者にも同種の調査を 行い,比較することが良いと思われる。. c本調査が直接,間接に調査者とのコンタクトのあった者であり,またカ ウンセリングを続けた者もいる。その点がデータに反映している可能性 があることも考慮すべきである。. 27.
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