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認知の誤りと学校ストレッサーが抑うつに及ぼす影響

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Academic year: 2021

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(1)認知の誤りと学校ストレッサーが抑うつに及ぼす影響  学校教育学専攻 臨床心理学コース.    M090811     佐藤文彦. 1.問題と目的. ぐる問題」(21%)など学校生活に関わるものが多.  近年,学校現場では,不登校,いじめ,非行,. く挙げられている。このように学校生活に関する. 校内暴力といった学校不適応の問題が増加してお. ストレスから不登校へづながっていることが明ら. り、社会問題として大きく取り上げられている。. かになっている。. 特に不登校の問題については深刻化している。近. 佐藤・石川ら(2004)は,「友達とケンカをし. 年,児童・一思春期初発のうつ病の代理症状として. た」などの場面のネガティブな解釈が,抑うつ症. の不登校が注目されつつある。猪子(2006)は不. 状の強さに対して影響を及ぼしているという報告. 登校児とうつ病の子どもには共通点が多いことを. をしている。つまり,ストレッサーが直接抑うつ. 指摘している。このように,上に挙げた学校現場. に影響を与えるのではなく,スキーマや自動思考. の問題には,抑うつが関わっているものもあるの. などの認知を媒介にして抑うつに影響を与えてい. である。. るのである。このことからも学校生活の中で抱え.  こうした抑うつを発生させる要因の一つとして,. ているストレスのみを変数とするのではなく認知. スギニマや推論の誤りなどの認知に注目したもの. 的内容を変数に加えることの重要性が示唆された. がある。Leitenbergeta1(1986)は,児童にみら. のである。. れる樹較的な推論の誤りとして,r破滅的な思考」,.  佐藤・市井(2010)は中学生を対象とした抑う. 「過度の一般化」,「個人化」,「選択的な抽出」の. つの調査をしており,その中で認知的内容の自動. 4つを取り上げ,これらの推論の誤りがうつ症状. 思考と抑うっとの関係を調査し,学年とヰ靭jによ. を強く示している児童に顕著にみられることを報. って多少の差異はあるものの,「自己の否定」,「絶. 告している。. 望的思考」といったネガティブな自動思考は抑う.  また,佐藤ら(2004)は児童用認知の誤り尺度. つに対して正の影響を与え,「サポートヘの期待」. 改訂版(C㎞1dren’sCogmtlveError. というポジティブな自動思考は,抑うつに対して. Sca1e−Revised)を用いた調査によろて,児童を対. 負の影響を与えるということを明らかにしている。. 象に推論の誤りが,不安障害とうつ病性障害の症. しかしながら,抑うつに対しての直接的な影響に. 状に及ぼす影響ついての調査を行い,推論の誤り. 限定されており,認知的変数の媒介効果について. が両方に正の影響を与えるということを明らかに. は検討されていない。加えて,中学生を対象とし. している。. て,ストレッサーと認知的内容とを考慮した抑う.  文部科学省が2002年に発表した調査によると,. つの調査は行われていない。そこで本研究は,中. 不登校への原因として,「友人関係をめぐる問題」. 学生を対象とし,学校ストレッサーと認知の誤り. (45%),「学業の不振」(28%),「教師との関係をめ. が抑うつに対して与える影響について調査行った。. 一160一.

(2) 2.方法. 一は「部活動」(β=.31,pく.01)のみであった。し. 都市部のA中学枝の生徒,110名程度を対象とし. かしながら,「友人関係」(β=.29,p〈、01),「学業」. た。学校側の都合に合わせて,11月初句から中旬. (β=.24,pく.05)から認知の誤りに有意なパスが. 検出されたことから,これら2つのストレッサー. にかけて調査の実施・用紙の回収を行った。 用いた測度は以下の通りである。. は,解釈評価されるものの,その後抑うつには. ・児童用抑うつ自己評価尺度(Depression. 影響を与えないということが明らかになった。加. Se1f−RatingSca1e此rChi1dren;以下DSRS−C). えて,抑うつ得点において性差がみられたため,. 子どもの抑うつ症状に関する18項目から成る。村. 男子,女子別に共分散構造分析を行った。その結. 岡ら(1996)が日本語版を作成している。. 果,認知の誤りの媒介効果については検出されな. ・中学生用字枝ストレッサー尺度. かったものの,男子と女子では抑うつに直接的に.  岡安ら(1992)によって作成され,r友人関係」,. 影響を与えるストレッサーが異なるということが. 「学業」,「教師との関係」,「部活動」,「規則」,「委. 明らかになった。男子においては,r部舌動」(β. 員会活動」の6因子,37項目から成っている。 ・児童用認知の誤り尺度改訂版(C㎞1dren’s. =.37,p<.05)のストレッサーが直接的に抑うつに 影響を与え,女子においては,r友人関係」(β=.34,. Cognitive Error Sca1e−Re耐sed;以下CCES−R). pく.05)のストレッサーが直接的に抑うつに影響を.  石川ら(2003)によりCCESが作成され,その. 与えているということが明らかになった。. 改訂版を佐藤ら(2004)が作成した。17項目から.  しかしながら,先行研究においそは認知の誤り. 成り,9つの場面を提示し,推論の誤りを表す項. などの認知的変数が抑うつに影響を与えるという. 目を提示して回答を求めるという構造になってい. 結果を示すものがある(佐藤ら,2004など)。本研. る。. 究において先行研究と一致しなかった結果となっ.  以上の測度を用いて,抑うつ,認知の誤り,学. た要因として考えられるものに,用いた測度の問. 校ストレッサー得点について,学年,幟uにおい. 題が挙げられる。CCES−Rは本来児童用に作られ. て有意な差があるのか,分散分析を用いて分析を. た測度である。中学生用に認知の誤りを測定する. 行った。また,学校ストレッサーと認知の誤りが. ような尺度を使用するべきであったと考えられる. 抑うつに対して与える影響について検討するため. が,現在そのような尺度は作成されていないため,. 共分散構造分析を用いて分析する。ストレッサ]. その作成が待たれる。. →認知の誤り→抑うつというモデルについて検討.  また,中学生の抑うつの予防・低減のためには 男子よりも女子に重点を置いた介入や部活動,友. した。. 人関係に関するストレッサーを多く体験している 3.結果と考察. 生徒に注目してみるのもよいだろう。現在,わが.  中学生を対象に,学校ストレッサーと認知の誤. 国では児童生徒の抑うつの予防・低減に関する取. りが抑うつに与える影響について検討した。共分. り組みとして,抑うつ予防プログラムが実践され. 散構造分析によって得られた知見を示す。. ている(佐藤ら,2009)。本研究で得られた知見が.  分析の結果,認知の誤りから抑うっに対して,. このような介入の一助になれば幸いである。. 有意なパスが検出されなかったことから,認知の’ 誤りにおける抑うつに対する媒介効果については. 主任指導教官市井雅哉. 認められないということが明らかになった。抑う.   指導教官 市井雅哉. っに対して直接的に影響を与えていたストレッサ. 一161■.

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参照