博 士 ( 医 学 ) 竹 内 幹 也
学 位 論 文 題 名
The dominant negative H‑ras mutant , R/1116Y , suppresses growth of metastatic human pancreatic cancer cells in the liver of nude mice
(H‑ras 制御変異体 N116Y はヌードマウスヒト膵癌細胞の 転移性肝腫瘍増殖を抑制する)
学位論文内容の要旨
目的
膵 癌は、根治切 除術後でも約60%の症例に肝 転移再発するとされており 、術後の有効な追加補助療 法の 確立が急務で ある。膵癌ではKーras変異が 高率に証明され、発癌、増 殖に関与すると考えられて いる 。Ras抑 制変 異体N116Yはv―H―rasの コ ドン の116番目をアスパラギ ンからチロシンに置換して 得ら れた 変異 体 であ り、Ras以降のシグナル伝 達を阻害し、腫瘍細胞の増 殖を抑制する。これまでに 申請者らは、Kーras変異 のある膵癌細胞株にN116Y遺 伝子をルポフェクション法 で遺伝子導入すると、
in vitroで強カな 増殖抑制効果が得られること を明らかにしてきた。今回 さらに、遺伝子導入効率が 良 く 、癌 胎児 性 抗原(CEA)産 生膵 癌特 異的 な 遺伝 子発 現を 目的 と して 、CEAプ 口モ 一夕 一を 組 み込 んだ アデ ノウ イ ルス ベク 夕‑Ad CEA―N116Yを 作成し、in vivoにおける肝 転移抑制効果を検討した。
材料と方法
細 胞 株 : ヒ ト 正 常 膵 臓 組 織 由 来 の 細 胞 株1C3D3と 、 ヒ ト 膵 癌 細 胞 株PCI‑19、PC卜24、PCI‑35、 PCI‑43の5株 を用 いた 。 これ ら細 胞株 でのCEA産生 をEIA法 で 測定 した 。CEAプ 口モ 一夕 一 活性は、
ルシフェラーゼ遺伝子導 入後の酵素活性で測定した 。
組 み 換 え ア デ ノ ウ イ ル ス : ア デ ノ ウ イ ル スAd CEAーN116YはCEAプ 口 モ 一 夕 ー 、N116Y cDNA、 SV 40 polyAが ア デ ノウ イル ス のEl欠損 部位 に挿 入 され てい る。 サ イト メガ ロウ イル ス(CMV)プ ロモ 一夕 一ア デ ノウ イル スAd CMVーN116Y、 ロ‑galactosidase cDNAを 組 み込 んだ アデ ノ ウイルス Ad CMV―LacZと Ad CEA− LacZ、 あ る い は 空 ベ ク 夕 一 を コ ン ト 口 ー ル に 用 い た 。 アデノウイルス感染効率 : Ad CMV―LacZをmultiplicities of infection (M〇I)25―1000で各細胞株に 感 染 さ せ 、1.2%glutaralde hydeで 細 胞 を 固 定 後 、X―galで 染 色 さ れ た 細 胞 を 計 測 し た 。 RT−PCRに よ るN116Y mRNAの 検 出 :Ad CEA―N116Y感 染48時 間 後 にRNAを 抽 出 、RTーPCRを 行 いN116Y mRNAを 検 出 し た 。 感 染 コ ン ト 口 ー ル と し て 空 ベ ク 夕 一 とAdCMVーN116Yを 、 内 部 ユ ン トロールとしてglyceraldehydephosphate dehydrogenaseを用いた。
In vitroにお け るN116Yの細 胞増 殖抑 制効 果 と核 断片 化の 検 討:2x104個 ある いは5 x104個の細胞 に 、Ad CEA‑N116Yを 感 染 さ せ ト リ パ ン ブ ル 一 染 色 を用 いて1日 おき に細 胞数 を 計測 した 。lx104 個の 細胞 にAd CEA―N116Yを 感染 させ 、48時 間後 に核 断片 化 を引 き起 こし た細 胞(apoptotic celD 数を 、螢 光DNA結 合色 素Hoechst 33342に よる 核染 色 後に 計測 、感 染コ ン ト口 一ル の結 果 と比較し た。
肝転 移モ デル : PCI‑43細胞1x106個 をヌ ード マウ ス 脾臓 内に 注入 して 肝転移モデルを作成した。5
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日 後 にAd CEA−LacZを4x 108 plaque forming units (pfu)脾 注 、3日 後 に 肝 臓 を 摘 出 、2% formaldehydeで 固定 後 に水 平断 で3分割 、X−gal染 色し 、パ ラフィン包埋 切片を作成レた。これを hematoxylinとeosinで 染色 し、 鏡検 した 。 翌日 ある いは5日 後にAd CEA‑N116Yを4x108 pfu脾注、
6週 後に 肝臓 を 摘出 、10%forrnaldehydeで 固定 後に 水平 断 で3分割し、バ ラフィン包埋切片を作成 し た。 これ をhematoxvlinとeosinで 染色 し 、鏡 検、 肝転 移 結節数を計測し た。Ad CEA‑LacZを用い て 感染 コン ト口 一ル と した 。
結果 m vitro実験
各 細 胞 株 のCEA産 生 をEIA法 で 測 定 し た 結 果 、1C3D3、PCI―19、PCI‑24で はCEA産 生を 認め ず 、 PCI‑35、PCI‑43ではCEA産生 を認 めた 。 ルシ フェ ラー ゼア ッ セイ‑CCEAプ ロモ 一夕 一活 性 を測 定し た 結 果 、1C3D3、PC卜19、PCI‑24は プ ロモ 一夕 ー活 性陰 性 、PCI‑35、PCI‑43は 陽性 であ った 。 ア デ ノ ウ イ ル ス ベ ク 夕 一 に よ る 遺 伝 子 導 入 効 率 は 、1C3D3で はMOI1000で80% 、 膵 癌 細 胞 株 で は MOI400で 約90% で あ っ た 。Ad CMV−N116Y感 染 後 に は 、 全 細 胞 株 でN116Y−mRNAの 発 現 が 確 認 さ れ た が 、Ad CEA―N1‑16Y感 染で は、N116Y―mRNA発現 は ブ口 モ一 夕ー 活 性陽 性膵 癌細 胞株PCI‑
35、PCI一43に特 異 的で あっ た。 細胞 増 殖抑 制効 果を 調べ た とこ ろ、Ad CMV−N116Y感 染 後で は全 ての 細胞 株 にお いて 、細 胞増 殖 が有 意に 抑制 さ れた のに 対し 、Ad CEA―N116Y感 染後 は、1C3D3、 PCI‑19、PCI‑24では 細胞 増殖 が 抑制 され ず、PCI‑35、PCI‑43では5日 後までに有意に細胞 増殖が抑 制 さ れ た 。 細 胞 の 核 形 態変 化 を観 察し た結 果 、Ad CMV−N116Y感染 後は 全 ての 細胞 株に おい て 、 apoptosisに 特 徴 的 な 核形 態変 化を 示 した 。Ad CEA―N116Yを感 染 させ た細 胞で は、1C3D3、PCI‑
19、PCI−24におしゝてはapoptotic cellの害0合はユント口ールと差カミなしゝのに対し、PCI―35、PCI―43 では有意にapoptotic cellが増加していた。さら にPCI‑35、PCI一43ではapoptotic cellは時間依存的 に 増 加 レ 、Ad CMV―N116Y感 染 と 比 較 し て も 、 そ の 効 果 に 差 は な か っ た 。以 上よ り、Ad CEA― N116YはCEA産生 陽性 膵癌 細胞 特 異的 に増 殖抑 制 効果 を持 ち、apoptosisを誘導、その効果 は、強カ なプロモ一夕ーを持つAd CMV一N116Yと同等であることがわかった。
In vivo実験
肝転 移モ デ ルにAd CEA―LacZを 脾注 、肝 臓標 本をp―gal染色 すると、ヒト膵癌細胞PCI‑43の転移結 節の みが 染 色さ れた 。こ れはCEAプロ モ 一夕 一アデノウイルス を脾注すると、肝内のCEA産 生陽性膵 癌細 胞に の み遺 伝子 導入 でき る こと を示 す。 次に同じモデル‑てAd CEA‑N116Yを脾注し、6週後の肝 臓標本で転移結節数を 計測すると、モデル作成1日 後に脾注した場合、肝内に 転移結節を認めず、5日 後に脾注した場合でも 転移結節数はコントロール と比較し、有意に減少してい た。以上より、脾注さ れたAd CEA−N116Yは、 ヒト 膵癌 細胞PC卜43に特 異的 に作 用 し、 肝転 移結節の形成、増殖 を効果的 に抑制することが明らかになった。
考察
K‑ras変 異は 、癌 細 胞の 浸潤、転移 、特に膵癌においては肝転移 の発生、進行に関与する可 能性が報 告さ れて い る。 従っ て、 強カ なRas阻 害 作用 を持 つN116Yの癌特 異的遺伝子導入が、肝での 転移性増 殖の 抑制 に 有効 かど うか を検 討 した 。in vitro実験ではAd CEAーN116YのCEA産生膵癌特異 性が確認 され た。in vivo実 験で は、 肝転 移早 期 のN116Y遺伝子導入で、 癌細胞の転移能、増殖能は 著しく抑 制されることがわかっ た。これは、活性化K,−rasのシグナル伝達を阻止ことで、膵癌細胞肝転移の抑 制が 可能 で ある こと を示 唆す る 。臨 床的 には 膵 癌手 術前 後の 潜在 的 肝転 移に対し、N116Yを選択的 に遺伝子 導入すれば、肝転移の発生 、増殖を抑制する効果を期待 でき、膵癌における有カな 補助療法 としてのN116Y遺伝子 治療の可能性を示レている。
結 語
Ras抑制 変 異体N116Yは 、膵 癌細 胞にapoptosisを 誘 導し 、CEAプ 口モ 一夕一アデノウイル スを用い た N116Yの 導 入 は 、 肝 転 移 モ デ ル に お け る ヒ ト 膵 癌 の 増 殖 を 強 く 抑 制 し た 。
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学 位論 文 審 査 の要 旨
学位論文題名
The dominant negative H‑ras mutant , N/1116Y , suppresses growth of metastatic human pancreatic cancer cells in the liver of nude mice
(H‑ras 制御変異 体 N116Y はヌ ードマウス ヒト膵癌細 胞の 転 移 性肝 腫 瘍増 殖 を抑 制 す る)
膵癌は、根治切除後でも約60 %の症例に肝転移再発するとされており、術後の有効な追 加補助療法の確立が急務である。膵癌ではK 一ras 変異が高率に証明され、発癌、増殖に関 与する。Ras 抑制変異体N116Y はコドン116 をアスパラギンからチ口シンに置換した変異 体で、Ras 以降のシグナル伝達を阻害し、細胞の増殖を抑制する。今回、癌胎児性抗原 (CEA) プ口モーターを組み込んだアデノウイルス Ad CEA ―N116Y を作成し、 CEA 産生 B 萃 癌特異的な遺伝子発現を試み、選択的 N116Y 遺伝子導入による肝転移抑制効果を検討する ことを目的とした。
細胞株はヒト正常膵臓組織由来の1C3D3 、ヒト膵癌細胞株PCI 一19 、 PCI 一24 、PCI‑35 、 PCI ―43 の5 株 を用いた。 これら細胞 株でのCEA 産生を EIA 法で、 CEA プ口モ一夕ー活性 をルシフウラーゼ活性で測定した。組み換えアデノウイルス Ad CEA ―N116Y の他、サイ ト ヌ ガ 口 ウ イ ル ス (CMV) プ 口 モ ー 夕 一 ア デ ノ ウ イ ル ス Ad CMV ― Nl16Y 、 p ― galactosidase cDNA を組み込んだアデノウイルス Ad CMV − LacZ とAcl CEA ー LacZ あるい は空 ベクターをコント□ールに用いた。アデノウイルス感染効率は、 Ad CMV −LacZ を M 〇125 −1000 で各細胞株に感染させ、1.2 %glutaraldehvde で細胞を固定後、X −gal 染色 陽性 細胞数で計 測した。N116Y 発現は、 Ad ―N116Y 感染 48 時間後にRNA を抽出し、 RT − PCR で検出した。内部コント口ールとして glyceraldehydephosphate dehyclrogenase を 用いた。In vitro におけるN116Y の細胞増殖抑制効果は、2 あるいはSx10 |個の細胞にAcl ー N116Y を感染させ 、 1 日お きにトリパ ンブルー染色後の生細胞数で評価した。 N116Y に よる核断片化の検討は、 lx10l 個の細胞に Ad 一 N116Y を感染させ、48 時間後に螢光DNA 結 合色素Hoechist 33342 で核染色し、断片化引き起こした細胞数で評価した。肝転移モデ ルは PCI ―43 を lx10'i 個をヌードマウス脾臓内に注入し、作成した。5 日後に Ad CEA ー LacZ 4x10 pfu 脾注、 3 日後に肝臓を摘出、固定後に水平断で3 分割、X ― gal 染色後に切
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