博 士 ( 医 学 ) 津 村 宣 彦
学位論文題名
Distribution Pattern and Risk Factors of Pelvic and Para‑Aortic Lymph Node Metastasis in Epithelial Ovarian Carcinoma (上皮性卵巣癌における骨盤リンパ節および傍大動脈 リ ン パ 節 転 移 に 関 す る 転 移 分 布 と 危 険 因 子 )
`学位論文内容の要旨
I.緒言
卵巣 癌に おい て、 後腹 膜リ ンバ 節(RPLN)転移 の有無 は予後を左右する重要な因子のー つ で あ る . 本 研 究 で は 、 卵 巣癌 にお ける 骨盤 リン バ節 (PLN)お よび 傍大 動脈 リンバ 節
(PAN)転移 の分 布を 把握 する とと もに りン バ節 転移を 規定する危険因子を解析し、卵巣 癌 の正 確な 進行 期診 断と 進展 様式 の解 明にRPLN転移の 検討が必要であることを明らかに する.
II.対象と方法
対象 は1987年4月 から1997年10月 まで の期 間に 北海 道大 学医 学部 産婦 人科 におい て系 統 的PLNお よ びPAN郭 清 を 含 む 根 治 手 術 を 施 行 し た 表 層上 皮 性間 質性 卵巣 癌115例で あ る .115例 のう ち、 初回手 術で 残存 腫瘍 径を2cm以下に することか可能であった79例には PLNお よ びPANを 系 統 的 に 郭 清し 、不 可能 な36例に は導 入化 学療 法(Cisplatin50‑70mg/
ボ ,Adriam ycin30‑40mgノ ボ,Cyclophosphamide350mg/ mz)を 術前 に2〜3コ ース行 い Secondary surgeryとして 同様 に郭 清を 行っ た. 郭清 リン バ節 は日 本産 科婦 人科学 会の 卵 巣腫 瘍取 扱い 規約 (1996)に基づき左右16部位に分類した.またりンバ節転移の危険因 子 を、 臨床 進行 期、 組織 型、分化度、腫瘍径、腹膜転移、腹水量、腹水細胞診、血清CA‑
125値の8項目について解析した.
対象症例の平均年齢は52.8歳(24歳〜80歳)てあった.リンバ節転移の有無を考慮せずに 決 定さ れた 暫定 的進 行期 別内訳は1期68例、II期13例、III期27例、IV期7例であり、組織 型 別内 訳は 漿液 性嚢 胞腺 癌(S型)46例 、粘 液性 嚢胞腺 癌(M型)30例、明細胞腺癌(C型)24 例、類内膜腺癌(E型)11例、未分化癌(U型)4例であった,統計学的有意差の検定には相関 表 解 析 とFisher検 定 を 、PLNとPANの 危険 因子 の算 定に は多 重ロ ジス ティ ック 回帰分 析 を用いた.
III.結果
(1)臨床進行期とりンバ節転移率
リン バ節 転移 は115症例 中29例(25.2%) に認 められ た.リンバ節転移率は臨床進行朔
と と も に 上 昇 し 、I期 で5.9% 、II期 で23.1% 、III期 で59.3% 、IV期 て85.7% で あ っ た (pく0.0001). PANとPLNの転移率は、I期(5.9銘,0c7c,)、II期(23.1昵,7.7ch )、III期(55.6ch, 33.3% )、IV期(71.4銘,42.9%)と、両部位において有意(pく0.0001)に進行期とともに上昇 した,また、どの進行期においてもPANの転移率か高かった.
(2)組織型とりンバ節転移率
リ ン バ 節 転 移 率 はS型34.8% 、M型6.7鉐 、C型25.0% 、E型27.3瞬 .、U型50.0r/。 であ つ た .M型 とS型 (Pく0.005) 、お よびM型 とC型 (pく0.05)と の間 には それ それ 有意 差が 認め ら れた・
(3)組織分化度とりンバ節転移率
リ ン バ節 転 移率 は、Gl 7.lch.、G2 31.4% 、G3 58.3% と低 分化 な ほど 有意 (pく0.0001) に高かった.
(4)リンバ節転移部位の倹討
リ ン バ 節 転 移 部 位 別 の 転 移 症 例 数 はPANに 最 も 多 く 、 下 腸 間 膜 動 脈(IMA)の 上 部 領 域 (326bi) が16.5% 、 下 部 領 域(326b2)が15.7% で あ っ た , 腸 骨 血管 群リ ンバ 節で は、 総腸 骨 節8.6% 、 外 腸 骨 節7.8% 、 外 鼡 径 上 節6.9昵 、 閉 鎖 節6.0% とPANに 次 い で 多 く 、 内 鼡 径 上 節 、 基 靭 帯 節 、 仙 骨 節 へ の 転 移 は 比 較 的 ま れ で あ っ た . 孤 立 性 の り ン バ 節 転 移 は115症 例 中12例 に 認 め ら れ た が 、 そ の ほ と ん ど がPAN(11例 ) で 、PLNは 基 靭 帯 節 へ の1例 ( 腹 膜 へ の直接浸潤例)のみであった.
(5)原発巣とりンノヾ節転移の側性の検討
病 巣 が 片 側 性 の 症 例 で の り ン バ 節 転 移 例 はPANが19洌 、PLNが7例 で あ っ た .PAN転 移 例 の84.2% (16/19)は 同 側 に 、52.6% (10119)は反 対側 に認 めら れた .同 側だ けに 認め ら れ た の は47.4%(9/19) で 、 反 対 側 だ け に 認 め ら れ た の は す べ て 腹 膜 転 移 を 有 す る3例 で あ っ た ,PLN転 移 例 の6例 は 両 側 性 で あ り 、1例 は 同 但Ijで あ っ た . ま た 腹 膜 転 移 も な く 腹 水細胞診も陰性である1例にPLN転移が認められた.
(6)PLN転移例の総腸骨節転移率
PLNな ら び にPAN転 移 陽 性 例 で の 総 腸 骨 節 転 移 率 は90.9弼 (10/11) で あ っ た . こ の 症 例 はPAN転移陰性のPLN転移症例(0/2)よりも高率であった(pく0.05).
(7)リンバ節転移の危険因子
PAN転 移 率 は 腫 瘍 の 低 分 化 (pく0.005)と腹 水細 胞診 陽性 例(pくQ.OOl)で それ それ 有意 に 高 か っ た .PLN転 移 がPAN転 移 の 二 次 的 な も の と 仮 定 しPAN転 移 を 含 め て 解 析 す る と 、 PLN転 移 率 は 臨 床 進 行 期 、 腹 膜 転 移 、PAN転 移 、 分 化 度 、 腹 水 量 、CA125値 、 組 織 型 、 腹 水 細 胞 診 と 正 の 関 連 を 認 め 、 腫 瘍 径 と は 負 の 関 連 を 単 変 量 解 析 で 認 め た . 臨 床 進 行 期 を 除 い た 多変 量 解析 では 、腹 膜転 移(pく0.01) とPAN転 移(pく0.005) はそ れそ れPLN転 移の 独 立した危険因子であることが判明した.
IV.考 察
卵 巣 癌 に お い て 、RPLN転 移 の 把 握 は 進 行 期 を 決 定 す る た め に は 必 須 で あ る , 本 研 究 て は り ン バ 節 転 移 の 転 移 分 布 な ら び に 危 険 因 子 に つ い て 系 統 的RPLN郭 清 に 基 づ き 検 討 し た . 臨 床 進 行 期 と と も に り ン バ 節 転 移 率 は 上 昇 す る が 、 ど の 進 行 期 に お い て もPANの 転 移 率 が 有 意 に 高 く 、 ま たI期 、II期 の 早 期 癌 で もPAN転 移 が8.6% に 認 め ら れ た . 卵 巣 癌 の
リンバ節転移様式は、IMAの上部領域より拡大していくことが本研究により初めて推察さ れたため、PANを含めたりンバ節郭清の必要性が示唆された.
PAN転移の危険因子は分化度の低さと腹水細胞診陽性で、PLN転移の危険因子は腹膜 転移とPAN転移で ある.PLN転移を認め た13例中11例にPAN転移を認め、PAN転移陰性 例はわずか2例であった.PLN転移がおもにPAN転移の結果として生じるものと推察され るが、広靭帯ならびに円靭帯を介したりンバ流によるもの、また腹膜転移巣あるいは腹水 細胞が直接腹膜に浸潤転移していく機序も考えられる.
化学療法施行後にりンバ節郭清した36例をも本研究の対象に含めたが、化学療法によ るりンバ節転移病巣の消失も考慮に入れるとりンバ節転移率は25.2銘よりもさらに高値を 示すと推察される.今後、系統的RPLN郭清が予後に与える影響について解析する必要が ある.
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
Distribution Pattern and Risk Factors of
、Pelvic and Para‑Aortic Lymph Node
Ix/Ietastasis in Epithelial Ovarian Carcinoma ( 上 皮 性 卵 巣 癌 に お け る 骨 盤 リ ン パ 節 お よ び 傍 大 動 脈 リ ン パ 節 転 移 に 関 す る 転 移 分 布 と 危 険 因 子 )
卵 巣癌 にお いて 、後 腹膜 リン バ節(RPLN)転移 の有 無は予後を左右する重要な因子のー つで ある 。本 研究 では 、卵 巣癌 にお ける骨 盤リ ンバ 節(PLN)お よび傍 大動 脈リ ンバ節
(PAN) 転移の 分布 を把 握す ると とも に、 リン バ節 転移 を規 定す る危険 因子 を解 析し、
卵巣 癌の 正確 な進 行期 診断 と進 展様 式の解 明にRPLN転移の検討が必要であることを明ら かに する こと を目 的と した 。対 象は1987年4月 から1997年10月ま での期 間に 系統 的後腹 膜リ ンバ 節郭 清を 含む 根治手術をした表層上皮性・問質性卵巣癌158例(初回手術で残存 腫瘍 径を2cm以 下に する こと が可 能で あっ た79例に はPLNおよ びPANを系 統的 に郭 清し、
不 可 能 な36例 に は 導入 化 学 療 法 を 術 前 に 行 いSecondary surgeryと して 同様 に郭 清を 行った)のうち臨床進行期、組織型、分化度、腫瘍径、腹膜転移、腹水量、腹水細胞診、
血 清CA‑125値 の 危 険因 子8項目 すべ てを 確認 しえ た115例で 、郭 清リ ンバ 節は 日本 産科 婦人 科学 会の 卵巣 腫瘍 取扱 い規 約に 基づき 左右20部 位に分類しだ。平均年齢は52.8歳で ある 。リ ンバ 節転 移の 有無を考慮せずに決定された暫定的進行期内訳は、I期68例、II期 13例 、III期27例、IV期7例 で、 組織 型は漿 液性 腺癌46例、粘液性腺癌30例、明細胞腺癌 24例、類内膜腺癌11例、未分化癌4例であった。
(1)リンバ節転移は115症例中29例(25.2%)に認められ、臨床進行期とともに転移率は 増加し、PAN転移頻度はPLN転移頻度に比ベ有意に高率であった。(2)I,II期の早期癌で転 移症例7例の全例に326blに転移が認められた。(3)組織型では粘液性腺癌が他に比し転移 率が低い傾向にあった。(4)分化度が低くなるにっれて転移頻度が有意に高くなった。(5) 後腹 膜リ ンバ 節部 位別 の転 移頻 度はPAN領 域に 最も 多い。(6)孤立性のりンバ節転移部位 は、 ほと んど がPAN領域 であ った 。(7)リン パ節 転移 の側 性の 検討 で、PANは 腹膜 転移が 無け れば 同側 への 転移 が多 く、 腹膜 転移が あれ ば側 性との関連は認められない。一方、
PLNはほ とんど が両 側性 で腹 膜転 移を 伴っ てい る症 例が多い。(8)総腸骨節転移例では、
郎 之郎
一 和 紘征 嶋藤 本 長加 藤 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副
ほ と ん ど がPAN、PLNと も に 転 移 を 認 め 、PAN転 移 陰 性 でPLN転 移 陽 性 例 で は 総 腸 骨 転 移 例は 認め られ なか った 。(9)リンバ節転移の危険因子については、単変量解析では原発 腫 瘍径 を除 き、 すべ ての 因子 と有意 な関 連を 認め た。 多変 量解 析で はPAN転移 は腹 水細 胞 診 と 分 化 度 が 独 立 し た 危 険 因子 であ り、PLN転 移がPAN転移の 二次 的な もの と仮 定す ると、PLN転移の危険因子は腹膜転移とPAN転移である。
本研究で以下に示すことが判明した。(a)臨床進行期とともに卵巣癌のりンノヾ節転移率 は 増加 する 。(b)PLNに比 しPANの転 移率 が有 意に 高率 であ る。(c)PLNの転 移径 路と して PAN転移 から の逆 行性 転移 、腹 膜転 移巣 から の浸 潤・ 転移 、広間 膜・ 円靭 帯を 介し た転 移 など が考 えら れる 。(d)リン バ節 転移 の危 険因 子の 解析 で、PAN転移の危険因子は分化 度 の 低 さ と 腹 水 細 胞 診 陽 性 でPLN転 移の 危険 因子 は腹 膜転 移とPAN転 移で ある こと が推 察 され た。(e)卵 巣癌 のり ンバ 節転移経路を想定すると卵巣血管に沿ったりンノく流路で 326bl領域に転移し、その後逆行性に骨盤リンノヾ節に転移していくものと、腹水中の癌細 胞 や腹膜転移巣より直接浸潤あるいは腹膜を介してのりンバ節転移が主体である。それゆ え 卵巣 癌の 手術 治療 に当 たっ ては、PANを含 めた 系統 的後 腹膜リ ンバ 節郭 清が 必要 であ ることが示唆された。
口頭発表に際し、副査の加藤教授から、初回手術時のりンバ節郭清と化学療法後に郭清 し たものとを併せて解析していることの問題点、またりンバ節転移の危険因子の背景的統 一 性、PANの 転移 リン バ節 の位 置的 検討 、腫 瘍サ イズ を危 険因子 とし て扱 うこ との 問題 点 、暫定的病期の臨床面への反映の具体的な方法、などについて質問があり考察を求めら れ た 。 次 い で 病 理 学 第 一 講 座 の 吉 木 教 授 か ら 、 逆 行 性 リン バ 節 転 移 の 機 序 ,mic ro m etastasis検索 の必 要性 、な どについての質問があった。さらに副査の藤本教授から、
リ ンバ節郭清を系統的に行う場合の開始部位、縮小手術の場合の郭清範囲、化学療法が転 移 率に与える影響、卵巣血管に沿ったりンバ流路の存在の証明、などについて質問があっ た。
いずれの質問に対しても、申請者は対象症例の統計学的解析の結果や実際の卵巣癌リン バ 節 郭 清 手 術 、 化 学 療 法 の 臨 床 経 験 を 引 用 し 、 概 ね 妥 当 な 回 答 を な し え た 。 審査員一同は、上皮性卵巣癌における骨盤リンノヾ節および傍大動脈リンバ節の転移分布 と 危険因子についてのこれらの研究成果を高く評価し、申請者が博士(医学)の学位を受 けるのに充分な資格を有するものと判定した。