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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 理 学 ) 坂 井 直 樹

     学位論文題名

A pilot study of the structural genomics     of ーPyrococcz/,ts カorikoshii

(Pyrococcus horikoshii 構造ゲノム科学の先導的研究)

学位論文内容の要旨

  ゲノム塩基配列解析はこれまでの分子生物学的パラダイムに変化をもたらしている.す なわち塩基配列の解析により我々の眼前に潜在的な真実の姿が提示されたわけである.し かしながら我々の有するゲノム塩基配列の内容を解析し,そこから引き出した情報を細胞 内,生体内のイベントの完全理解に使用するために必要な情報の翻訳手法は未熟である.

ポストゲノム期における研究はゲノム情報を種々の生命現象を記述し得るものにする研究 と言える.

  ゲノ ムDNAの配列情 報は機能分子へと翻訳され,これらの機能分子が複雑なネットワー クを構成していく.生体内における機能分子の内,細胞内における基本生命現象から高度 な生命現象に至るまで幅広く用いられるのが蛋白質である.蛋白質はその種類と取り巻く 環境に応じて固有の機能を発現する.これらの機能は蛋白質の立体構造と深い関わりを有 する.ゲノム配列情報から蛋白質の一次配列を解析し,その配列に対応する蛋白質の立体 構造を解析することが可能である.しかし,ゲノム解析の結果からも明らかであるが遺伝 子の数は膨大であり,これらの遺伝子の産物である蛋白質の立体構造をすべて解析するこ とは物理的に不可能に近い.しかしながら情報生物学の進歩により配列類似性の高い蛋白 質の立体構造予測の精度が向上しており,すべての蛋白質の立体構造を実験的に解析せず ともホモロジーモデリング法により大多数の蛋白質の構造予測(解析)が可能になると考 えられている.しかし,モデリングの精度を向上させるためにはこれまでに発見されてい ない フオール ドなど を実験的 に立体 構造解析 しなけれぱならない.その数は少なくとも 10,000個以上と推定されている.

  日米欧を主軸とした国際協調によりこれらの対象となる蛋白質の重複を避け,また多種 の蛋白質を短期間に構造解析することを目的としたプロジェクトである構造ゲノム科学プ ロジェクトが2001年春より開始された,本研究はこのプロジェクトのコアとなる技術であ る ハ イス ル ー プット蛋 白質立 体構造解 析の必 要性に着 目し, 超高度好 熱菌Pyrococcus horikoshiiゲノムをターゲットとして行った先導的研究である.対象となった蛋白質は配列 比較 により機 能が予 測されうる蛋白質約100種と機能が予測できない蛋白質の内,非膜蛋 白質と推定された中から生物種問で広く保存されている84種の蛋白質であった.蛋白質調 製は大腸菌組換え発現系を用い,並列処理を基本としたストリームラインを構築してきた.

我々のチームはストリームラインの構築と平行し,結晶構造解析を行い,これまでに35種 の蛋白質結晶が得られ,その内13種が構造解析された.本論文では例として機能予測され た細 胞分裂部 位決定 因子MinDと 機能未知 蛋白質PH0642の立体構造解析にっいて述べてい

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る.

  前者は細胞分裂時において複製された染色体が正確に娘細胞に分配されるための機構に 関与している.原核生物の細胞分裂では正確に細胞の中央における細胞分裂を行うために は分裂 部位の決 定機構 が必要になる.細胞はFtsZ蛋白質が重合して形成されるZ環により 締め付 けられ, 分裂す る.このZ環の 形成部 位は細胞の両極付近でも起こり得るためZ環 が細胞中央で形成されるように位置決めを行う必要がある.MinDはこの機構において細胞 膜内側 に局在し ,Z環 の形成 を阻害す る活性 を有しているが自身の有するATP加水分解活 性によって細胞の極から極ヘ周期的に振動することによりMinDの濃度分布が生じ,細胞中 央の み でZ環形 成 を許容 する.こ の周期 振動にお いてMinDはATPを加 水分解 するエネ ル ギーを用いて細胞内を移動することができるモーター蛋白質と考えられていた.大腸菌ホ モログ であるP加m甜轟ガ のMinDの立体 構造は モーター蛋白質であるキネシンと類似して おり,ATP加水 分解に 関与する 構造モチ ーフも 類似していた.さらにATP加水分解活性も モーター蛋白質型であり,これらの結果からMinDが細胞内でモーター蛋白質として機能し ているという機能予測を裏付ける結果が得られた.

  機能未 知蛋白質PH0642は配列 比較に よりd鹸1鵠e馴lperf弧dlyに帰属 される.しかし m伍1謎esuper価 皿y内における真の酵素反応は明らかになっていない.PH0642の立体構造 は1.6A分解能で解析された.立体構造はmtrilasesuperfぬdlyに属するカルバミラーゼなど と類似していたが活性部位近傍の残基が異なっており,基質認識に違いが生じることが示 唆された.実際PH0642はカルバミラーゼ活性を有していなかった,そこで活性部位のポケ ット内部の表面形状と静電的な環境の考察を行った.このポケットは入り口が疎水性残基 の相互作用により狭くなっており,嵩高い基質の侵入を防いでいる.また,ポケットの内 部は負電荷を帯びており,正電荷を有した基質の侵入を助長していると考えられた.また,

ポケット最奥部は正電荷を帯び,これにより基質を押しとどめていると推察された.また,

mmlasesuper ぬmlyでは保存されているシステイン残基を介して,基質とアシル化酵素を形 成するといわれている.PH0642はこのシステイン残基を有しており,上述した条件を満た した基質を認識し,アシル化酵素状態を経た反応を触媒するものと示唆された,機能未知 蛋白質の立体構造から蛋白質機能を解析する手法は未だ確立しておらず,以上の方法は活 性部位形状からの基質推定に関する基礎的な研究である.

  ここにあげた構造ゲノム科学研究における解析例ではゲノム塩基配列情報を蛋白質立体 構造へと翻訳することで蛋白質機能解析への道筋がより明確なものになることが示されて いる.一次配列から機能予測された蛋白質の立体構造を明らかにすることでこれらの分子 の機能するメカニズムについてより正確に推定することが可能になることが明らかになっ た.また,機能未知蛋白質の機能予測が蛋白質立体構造をもとに行うことで反応機構の予 測,基質の予測の確度が向上することが期待される.解析には開発中のハイスループット 技術が用いられており,実際にある種の蛋白質立体構造を短期間のうちに解析することが 可能であることも示している.蛋白質立体構造解析のハイスループット化を含んだ構造ゲ ノム科学プロジェクトは創薬,有用酵素作成などの産業面にも多大な影響を及ばすものだ ろう.

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学位論文審査の要旨 主査    教授    田中    勲 副査    教授    新田勝利 副査   助教授   渡邉信久

     学 位 論 文 題 名

A pilot study of the structural genomics     of Pyrococcus カ orikoshz,z,

(Pyrococcus horikoshii 構造 ゲノ ム科学 の先 導的 研究 )

ゲノ ム解 析プ ロジ ェク トの 進展 によ り,さまざまな生物のゲノム塩基配列が利 用で きる よう にな って いる .今 後は ,ゲノム塩基配列情報を生物学,医学,農 学等 にい かに 利用 する かが 問わ れる .ゲノ ムDNA の 配列 情報 は機 能分子である 蛋白 質に 翻訳 され ,さ らに ,発 現蛋 白質は取り巻く環境に応じて固有の機能を 発現 する ;こ れら の機 能は 蛋白 質の 立体構造と深い関わりを有する.したがっ て遺 伝子 の機 能を 真に 理解 する ため には,遺伝子産物である蛋白質の立体構造 解析 が不 可欠 であ る.

多 種の 蛋白質 を短 期間 に構 造解 析す ることを目的とした構造ゲノム科学プロジ エ クト が国際 的な 規模 で推 進さ れて いる,本研究では,そのプロジェクトの中 核 技術 である 蛋白 質立 体構 造解 析の ハイスループット化を実現するために,発 現 系の 構築か ら構 造解 析ま での シス テム化を行い,また実際に,超高度好熱古 細菌Pyrococcus horikoshii のゲノムからターグット蛋白質を選択し,ハイスルー プットな構造解析を実現したものである.ターゲットとして選択した蛋白質は,

配 列比 較によ り機 能が 予測 され うる 蛋白 質約 100 種 と, 生物 種間 で広く保存さ れ てい る84 種 の機 能未 知蛋 白質 (非 膜蛋白質)である,研究の結果,35 種の蛋 白 質結 晶が得 られ ,そ の内 13 種 が構 造解析された.論文では,ホモログ蛋白質 か ら機 能予測 が可 能で あっ た細 胞分 裂部位決定因子MinD ,および,機能未知蛋 白質PH0642 の立体構造解析について述べている.

細 胞 分 裂 部 位 決 定 因子 MinD は細 胞分 裂時 にお いて 複製 され た染 色体 が正 確に

娘細 胞に 分配 され るた めの 機構 に関 与している.原核生物の細胞分裂では正確

に細 胞の 中央 にお ける 細胞 分裂 を行 うためには分裂部位の決定機構が必要にな

る. 細胞 はFtsZ 蛋 白質 が重 合し て形 成され るZ 環に より 締め 付け られ,分裂す

る . こ の Z 環 の 形 成 部 位は 細胞 の両 極付 近で も起こ り得 るた めZ 環が 細胞 中央

で形 成さ れる よう に位 置決 めを 行う 必要がある,MinD はこの機構において細胞

膜内 側に 局在 し, Z 環の 形成 を阻 害す る活性を有しているが,自身の有するATP

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加水 分解活性 によって 細胞の極 から極ヘ 周期的に 振動するこ とにより 細胞内で 濃 度 分布 を 生 じさ せ ,細 胞 中央 のみでZ環 形成を許 容する,こ の周期振 動にお い てMinDはATPを 加 水 分解 す る エネ ル ギー を 用 いて 細 胞内 を 移 動す る こと が でき るモータ ー蛋白質 と考えら れていた .本研究 では,大腸菌MiIめのホモログ 蛋白 質であるPカD′ぬめめ釘由来M血Dの立体構造解析を行い,この蛋白質の立体 構造 が,モー ター蛋白 質である キネシン と類似し ており,A11P加 水分解に 関与 する 構造モチ ーフも類 似してい ること, さらにA1、P加水分解活性もモーター蛋 白質 型である ことを示 した.こ れらの結 果からMinDが 細胞内でモ ーター蛋 白質 と し て 機 能 し て い る と い う 機 能 予 測 を 裏 付 け る 結 果 が 得 ら れ た . 機能未知蛋白質PH0642は配列比較により nitrilase superfamilyに帰属される.し かしnitrilase superぬily内にお ける真の 酵素反応 は明らか になって いない.

PH0642の立 体構造は1.6A分解能 で解析さ れた.立 体構造はmtrilasesupef觚ily に属 するカル バミラー ゼなどと 類似して いたが活 性部位近傍 の残基が 異なって おり ,基質認 識に違い が生じる ことが示 唆された .実際PH0642はカ ルバミラ ー ゼ活 性を有し ていなか った.そ こで活性 部位のポ ケット内部 の表面形 状と静電 的な 環境の考 察を行づ た.この ポケット は入り口 が疎水性残 基の相互 作用によ り狭 くなって おり,. 嵩高い基質の侵入を防いでいる.また,ポケットの内部は 負電 荷を帯ぴ ており, 正電荷を有した基質の侵入を助長していると考えられた.

また ,ポケッ ト最奥部 は正電荷 を帯び, これによ り基質を押 しとどめ ていると 推察 された. また,nimlasesupe血milyでは保存 されているシステイン残基を介 して ,基質と アシル化 酵素を形 成すると いわれて いる.PH0642はこ のシステ イ ン残 基を有し て韜り, 上述した条件を満たした基質を認識し,アシノレ化酵素状 態を経た反応を触媒するものと示唆された.

こ の2つ の解 析 例で は , ゲノ ム塩基配 列情報を 蛋白質立体 構造へと 翻訳する こ とで 蛋白質機 能解析へ の道筋が より明確 なものにな ることが 示されて いる.一 次配 列から機 能予測さ れた蛋白 質の立体 構造を明ら かにする ことで, 分子の機 能す るメカニ ズムをよ り正確に 推定する ことが可能 になるこ とが明ら かになっ た. また,機 能未知蛋 白質の機 能予測の 確度が,蛋 白質立体 構造をも とに行う こと で,向上 すること が示され た.解析 には開発中 のハイス ループッ ト技術が 用い られてお り,実際 にある種 の蛋白質 立体構造を 短期間の うちに解 析するこ とが 可能であ ることも 示されて いる.

以 上,本論 文は,こ れまでに ない広範 な蛋白質を 研究ター ゲットと する構造 ゲ ノ ム科学の 可能性を 示したも のであり ,本研究が 生物科学 に及ばす 貢献には 多 大 なものが あると考 えられ, よって審 査員一同は 申請者が 博士(理 学)の学 位 を 得る十分 の資格が あるもの と認めた .

参照

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