博 士 ( 医 学 ) 高 橋 典 彦 学 位論文 題名
Involvement of Macrophage Migration Inhibitory Factor(IVIIF) in the Mechanism of Tumor Cell Growth
( 腫 瘍 細 胞 の 増 殖 機 構 に お け る マ ク ロ フ ァ ー ジ 遊 走 阻 止 因 子 の 関 与 に つ い て の 研 究 )
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
I.目的
マ クロフ ァージ遊 走阻止因 子(以 下MIF)は1966年 、活性型T細 胞より分 泌される サ イトカインとして発見された。この蛋白質はマクロファージを集積させ、炎症の場におい て 種 々 の免 疫 反 応を 惹 起 す る。1989年 、 ヒトT細 胞か ら のMIF cDNAをWeiserら が単 離 して以 来、この 蛋白質の 特性と してMIFは様々な組織(脳、肝臓、腎臓など)に広く 分 布し、 炎症反応 や免疫応 答に関 与していることが報告されてきた。一方MIFは、胎生 期の鶏のレンズ、ヒトの皮膚や角膜上皮などの研究によって細胞増殖や分化を促す機能が 見いだされ、また増殖因子よって誘導される因子のーっであることも報告された。さらに 1996年 、前立 腺癌の研 究にお いて、MIF mRNAが原発巣 より転 移巣により強く発現して い ること が報告さ れ、MIFが炎症 反応や免疫応答のみならず腫瘍細胞の増殖に関与して いることが示唆された。
進行あるいは転移性大腸癌患者の治療法はいまだ確立されてはいない。癌患者の治療法 や予後については、癌細胞の増殖能や転移能を決定する細胞学的研究が広く行われてきた。
大腸癌細胞はその細胞増殖に関して、様々な増殖因子と深く関与していることが報告され ている。
本 研 究 で は 、 今 回 腫 瘍 細 胞 の 増殖 とMIFと の 関連 に つ いて 、 マ ウス 大 腸 癌細 胞 colon26を用いてMIFの働きについて検討した。
II.方 法
1)MIF蛋白 質の同 定
ウ エ ス タ ン ブ ロ ッ ト 法 を 用 い て 、 マ ウ ス 大 腸 癌 細 胞colon26(5xl06個 ) にお けるMIF蛋白質 の発現 を同定し た。
2) 免疫組織 化学的 染色法に よるMIFの細胞 内局在
colon26に お け るMIFの 発 現 を 、 免 疫 染 色 法 を 用 い て そ の 局 在 を 同 定 し た 。 3) 増殖因子 によるMIFの誘 導試験
各増殖 因子(transforming growth factor cTGF)p、basic fibroblast growth factor (b‑FGF)、platelet‑derived growth factor (PDGF))をcolon26培養液中に添加し、MIF mRNAの 発現 に 対 する 影 響 をノ ー ザンブ ロット法 にて検 討した。 各増殖因 子の濃 度は O‑100ng/mlと し 、24時 間 培 養 後 のcolon26細 胞 内 のMIF mRNAを 測 定 し た 。 4) 細胞増殖 試験
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MIFアンチセンスプラスミドをcolon26にエレクトロボレーション法にて遺伝子導入し、
細 胞増 殖能をMTS Assayにて解析した。遺伝 子導入細胞の確認はウェスタンプロット法 に てお こない、 またコントロールとしてpBKベクターのみを導入した細胞を使用し、96 時間後の細 胞増殖能を比較検討した。
III.結果 1)MIF蛋白の同定
MIF蛋白 質の 発現 を ウエ スタ ンブ ロッ ト法 にて検討すると、colon26細胞にMIF蛋白 質が強く発現していた。
2) 免疫染色によるMIFの局在
colon26におけるMIFの 細胞内局在については、本蛋白質は細胞質内に主に局在し、ま た核内にもその存在が確 認された。
3) 増殖因子によるMIF mRNAの発現に対する影響
TGFpに よ るMIF mRNAの 発 現 は 、Ing/mlで 最も 発現 が強 く、 無 刺激 をコ ント ロー ル とす ると1.4倍の 発現 増加 であ った 。b‑FGFおよぴPDGFによるMIF mRNAの発現は、
濃度依存性,に増加し、100ng/mlの濃度でそれそれコントロールの1.6倍、1.7倍と増加 していた。
4)MIFアンチセンス遺伝 子導入による細胞増殖抑制効果
MIFアン チセ ンス 遺 伝子 導入 細胞 では 、colon26親株細胞やpBKベクターのみを導入 したコントロール細胞と比較して細胞増殖率がそれそれ61.1%、85.8%と、有意に細胞増 殖が抑制された。
IV考察
MIF蛋白 質お よぴmRNAがcolon26おい てそ の細 胞質 内に 強く 発現 して いる ことが確 認さ れた 。こ のこ と はMeyer‑Sieglerらが 前立 腺 癌およぴ癌転移巣においてMIF mRNA の存在を報告したと同様に大腸癌にお いてもMIFが発現しているこ とを示している。細 胞増 殖に おけ るMIFの関 与に関するいくっかの報告はあるが、細胞増殖とMIFの直接的 な関係を明らかに証明したものはない 。今回の研究では、MIFアン チセンスの遺伝子導 入により細胞増殖が有意に抑制される ことを明らかにした。この事実は細胞内のM[Fが 腫瘍細胞の増殖に深く関与しているこ とを強く示唆している。
マクロファージから分泌される増殖因子やサイトカインは、癌に対する宿主の反応とし て重 要で ある 。こ の 研究 にお いて 、colon26細 胞 のMIF mRNAの発現は、これらの増殖 因子により明らかに誘導されることを示した。このことから、これらの増殖因子が細胞内 MIFの増加を弓iき起こすことにより、腫瘍細胞の増殖を誘導すると考えられた。一方、培 養液中にrecombinant MIFを加えても細胞増殖率に影響がないこと を確認した。よって 細胞外より細胞内MIFの量が増加することが細胞増殖にとって重要 と推測される。この ことはMIFアンチセンスを遺伝子導入した細胞の結果と一致する。即ち、hiflFが他の増 殖 因 子 と 協 調 し て 腫 瘍 細 胞 の 増 殖 を 誘 導 し て い る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。 以 上の 結果 から 抗MIF抗体やMIFアンチセンス遺 伝子導入法などを使うことによる新 しい癌治療法の確立の可能性が期待さ れる。
V結語
1. MIFが大腸癌細胞の増殖能に深く関与していることが明らかとなった。
2.MIFアンチセ ンス遺伝子導入法による腫瘍増殖抑制効果が期待される。
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学位論文審査の要旨
学位論文題名
Involvement of Macrophage IVIigration Inhibitory Factor(lvIIF) in the h/Iechanism of Tumor Cell Growth
( 腫 瘍 細 胞 の 増 殖 機 構 に お け る マ ク ロ フ ァ ー ジ 遊 走 阻 止 因 子 の 関 与 に つ い て の 研 究 )
マク ロフ ァー ジ遊走阻止因子(以下MIF)は、活性型T細胞より分泌されるサイトカイ ンとして発見され 、炎症の場においてマクロファージを集積させ、いろいろな免疫反応を 惹起する物質と考 えられている。このMIFの特 性としては様々な生体内組織(脳、肝臓、
腎臓など)に広く 分布し、炎症反応や免疫応答に関与していることが報告されてきた。一 方MIFは、鶏のレンズ、ヒトの皮膚や角膜上皮 などの研究や、増殖因子によって誘導され る因子であること などが報告され、細胞増殖や分化を促す働きが注目されてきている。ま た前立腺癌の研究 において、MIF mRNAが原発巣より転移巣により強く発現 していること が報告され、MIFが炎症反応や免疫応答のみな らず腫瘍細胞の増殖に関与していることが 示 唆さ れた 。こ こで、今回腫瘍細胞の増殖とMIFとの関連について、マウス大腸癌細胞 colon26を用 いてMIFの働きについて検討した。MIF蛋白質の発現をウエスタンブロット 法・免疫染色法に て検討すると、colon96細胞 にMIF蛋白質が細胞質内に強 く発現してい た。しかし培養液 中にrecombinant MIF・抗MIF抗体を加えても細胞増殖率 に影響がなか っ た 。 増 殖 因 子 に よ るMIF mRNAの 発 現 に 対 す る 研 究 で は 、b‑FGFお よ びPDGFに よ るMIF mRNAの発 現は 、濃 度依 存性 に 増加 し、100ng/mlの濃度でそれそれコントロール の1.6倍、1.7倍と 増加 して いた 。TGF‑pに よるMIF mRNAの発 現 は、Ing/mlで最も発 現が強く、無刺激 をコントロールとすると1.4倍の発現増加であった。MIFアンチセンス 遺伝子導入による 細胞増殖抑制効果の検討では、MIFアンチセンス遺伝子導入細胞では、
colon26親株細胞やコントロール細胞と比較して細胞増殖率が有意に抑制された。このこと より細胞外より細 胞内MIFの量が増加すること が細胞増殖にとって重要と推測された。こ の事実は増殖因子などが細胞内MIFの増加を弓【き起こすことにより、腫瘍細胞の増殖を誘 導 する と考 えら れ、MIFが 腫瘍 細胞 の増 殖に 深く 関与 して いる こ とを強く示唆した。
審査 にあ たっ て、 藤堂 教授 からTGF‑pの刺 激に よるMIF mRNAの 発現の意義、腫瘍細 ―467−
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主 副
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胞 内でのMIFの機能と役割についての質問があった。申請者は増殖因子と腫瘍細胞に関す る 文献、MIFと細 胞増殖に 関する 文献を弓1用 し、TGF‑pが細胞 増殖と抑 制の2面性の機 能を持っていること、そしてその働きを反映した結果であることや、細胞内でのMIFはp5,3 の細胞増殖抑制作用に拮抗する報告があることを回答した。次いで、加藤教授から他の細 胞種での検討とその可能性、高増殖能を有する高肝転移株についての現在までの研究状況、
腫 瘍の発生から転移までの多段階におけるMIFの働きについての質問があった。申請者は MIFと細胞増殖に関する文献、申請者自身の実験データなどを引用し、他の細胞種につい て は今後 検討が必 要なこと 、癌細 胞の増殖 をMIFが促進し たこと 、高転移 株ではMIFの 発 現が高くなっていること、細胞内のMIFが重要な働きを果していること、さらに今後腫 瘍の増殖と.MIFについて検討が必要なことを回答した。最後に、石橋教授よりin vitroの 結果とin vivoの関連ついての質問があった。申請者は受容体の未解決なこと、生体内にお けるさまざまな中間産物の関与の可能性などについて明快に答えた。また中央研究部の西 平 先 生 よ り 癌 とMIFに 関 す る 研 究 の 今 後 の 展 望 に つ い て の 説 明 が な さ れ た 。 審査員一同は、これらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑽や取得単位なども 併 せ申請 者が博士 (医学) の学位 を受ける のに充 分な資格 を有す るものと 判定した。
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