残留応力と負荷応力の関係に関するX線的研究
戸井詔彦*山下鉄雄*
(昭和50年9月10日受理)
The X−Ray lnvestigation on the Relation between Residual and Loading Stresses.
Norihiko Toi and Tetsuo YAMAsHiTA
(Received September 10, 1975)
The phenomenon of fatigue strength being increased by preliminary working or heat treatment has often been the subject of investigations, and the increase of fatigue strength due to these treatments has been considered to be the consequence of residual stress arised in the materials. Therefore, to c!arify the mechanism of the increase of fatigue due to these treatments, it may be important to study the behavior of residual stress under fatigue process.
In this paper, the authors discussed the behavior of residual stress under uniaxial loading, and presumed the stress state on the surface of specimen under cyclic loading.
1. 緒 言
材料に高周波焼入などの熱処理,あるいはショットピー ニングなどの塑性加工を施すと疲労強度が上昇することは よく知られており1),このことは,材料に生ずる表面残留 応力の効果とされているようである。しかしながら,これ
らの処理と疲労強度の変化に関する従来の研究は,処理条 件と疲労強度の関係を取扱ったものが多く,強度の変化を 直接支配すると考えられる表面残留応力,あるいは個々の 結晶の組織変化を基に疲労強度を考えたものは比較的少い ようである2)3)。これは表面残留応力が負荷平均応力と同
じ働きをするか否か定説に至っていない4)5),あるいは繰 返し数の増加に伴い変化するものが多い6)7)8)など,残留 応力の挙動が未だ明確でないことに起因しているように思
われる。上述の事情を考慮して,筆者らは,先ず,表面残留応力 の挙動を明確にし,続いて,それの疲労強度に及ぼす影響 を追求することにより,残留応力を有する材料の疲労強度 を力学的観点から解明しようとしている。
ところで,残留応力は一軸塑性変形に基づく場合,一軸 応力状態になるという実験結果9)もあるが,一般には平面 応力状態となるので,それに負荷応力が重畳されたもので
ある負荷時の表面応力もまた平面応力状態になるはずであ る。したがって,残留応力を有する材料の疲労強度を力学 的観的から追求するに際しては,先ず応力負荷時の表面応 力を直接測定し,それを破壊と密接な関係を有する主応 力,最:大勇断応力の挙動として解明することが重要である
と考えられる。
本報告は,そのための第一段階として,表面応力が非破 壊的に,連続的に,かつ迅速に測定できるX線応力測定法 を用い,ショットピーニング,および片振引張塑性疲労に より生ずる表面残留応力と負荷応力の重畳特性を明らかに し,残留応力を有する材料の繰返し応力負荷時における表 面応力状態を推定したものである。
*機械工学科
2.応 力 解 析
一般に,残留応力と負荷応力の重畳されたものである負 荷時の表面応力は平面応力状態になるので,これを解析す るには,少なくとも3方向の応力が得られなければならな い。しかし,この方法は広く知られているので,以下その 概要を述べるにとどめる。
先ず,材料がFig・1に示す平面応力状態にあると仮定す れば,斜面上に生ずる垂直応力σψは次式で示されることに
なる。
σψ一一告(σT+σW)+S(σT一σW)Fcos2i・+7丁晒加2・宅1)
一.F.
眼1
−f一
一 rTw 1 aw
Fig.1 Normal and Shearing Stresses.
ここで,σT,qwはFig.1に示される垂直応力でありTTW は舅断応力である。したがって,(1)式を変形すれば,主 応力al,σ2その方向gおよび主勇断応力Tl,丁2を求め
る緒式が導かれることになる。
1
q== 5−tanumi{27Tw/(aT−avv)} (2)
・・,・・一 C(・・+…)±去ゾ(・・一・W)・+伽・(・)
Ti,T2==±L
堰G1/(i.i=6ifi521F2ilili2T−aw 2+47Tvv2==±一}(ai−cr2)(4)
すなわち,表面応力を解析するには,Fig.1に示す三方
向の応力σT,σva,σ gを実測し,(1)〜(4)式を用いてσ 1,a2, Tl, T2, pを:求めればよい。
3. 実 験 方 法
.3−1試験 片
使用した材料は市販の特殊鋼板N−TUF33であり,その 化学成分および焼鈍状態の機械的性質は,Table 1に示す とおりである。
試験片は,先ず材料をFig.2に示す形状寸法に切削加工 Table 1 Chemical Composition and Mechqnidal Properties.
した後,.780?C,3時間真空中で焼鈍し,電解研摩したも の,焼鈍・電解研摩後両面にショットピーニング(0,06 , カバレ・・一一ジ100%)を施したもの,および焼鈍・電解研摩 後,破断寿命の約80%まで片振引張塑性疲労(繰返し応力 42.5kg/mm2,応力繰返し数N=250回,繰返し速度10回/
.分)させたものの3種類である。
3−2 応力負荷装置
rkM,応力と負荷応力の重畳特性を検鮒するtgめに筆者ら は,試験片に任意の軸応力が負荷でき,かつ,その状態で X線による表面応力の測定が可能な応力負荷装置を作製し た。すなわち,Fig.3に示すように,本装置は軸応力がネ ジとナイフエッジにより均一曲げとして与えられ,試験片 裏面に貼り付けられたひずみゲージにより検出される機構
である。一e
5trqin Gqu e S ecmen
1
幽 F
Screw
I Knife Edge
Composi−
tion
・ (%)
Yielding point
(kg/mm2)
30.6
c si
o.og 1 o.23
Mn
P s
1.27 1 O.017 1 ・O.OQ6
Tensile strength
(kg/mm2)
Fracture stress
(kg/mm2)
Reduction
of area(%)
Fig.3 Stress Loading APparatus.
44.1
Elongation (%)
i20.6 1
3−3箪線による応力測定条件
表面応力測定に用いた特性X線はCrkα線であり,用い
Table 2 Condition of X−Ray Stress Measurement.
,6 1 40
Characteristic Line
P10 麺
Diffraction Plane of
Specimen
Om
0059一130
Tube Voltage
Tube Current FilterArea
Incident Angle of X−Ray
Fig.2 Shape and Dimensions of Specimen. Peak Determination
Cr−Ka
(211)
・30KV
5mA
Vanagium2mm×8mm
,O, 10, 15i 30. 40, 4s (deg.)
Half Value Breadth Method
た応力測定装置は自動記録式平行ビーム型X線応力測定装 置(島津SMX−50)である。すなわち,表面応力は回折面 依存性の影響の少ない10)と思われる試料の(211)より回 折線を得て,sin2ψ法により計算した。この際,.測定精度 を高めるため,+η側回折線のみ採用し,X線入射角ψoを 0。,10Q,15。t−30。,40。および45。の6方向に変化させて 測定を行なった。その他のX線条件は一括してTable 2に 示す。Fig.4は得られたsin2ψ線図の一例である。すなわ ち,本実験においてsin2ψ・線図の非直線性に起因する.x線 応力測定誤差は約1.5kg/mm 2(60%信頼区間)であった。
40
30
所「一一一否
.『 セ一 3 oo 4 oe 4se [
①N
副一踊L.
155,5 Lu_昌
。20 ︵㌃E豆︶8 10
切の2お石りでσ=り①Σ
C−;−︑
r
ユ
O Q」25 05 0.75Sin2ψ
Fig.4 Relation between 2θa皿d sin2ψ.
/
./
/ /O
/ O
.//
O 10 20 30
Stress Catcutated from Strain CSIE (kglmm2)
Fig.5 Relation between a6 and aML
本稿ではσεを機械的応力(負荷応力)と称することにす
る。
4. 実験結果および考察
残留応力および負荷時の表面応力を測定する手段とし て,X線応力測定法を採用したが,これは材料を均質で等 方な弾性体とみなし,応力に基づく結晶格子面間の距離の 変化が弾性力学の諸法則に従うという仮定のもとに,得ら れた格子ひずみを応力に換算する方法である。すなわち,
得られる結果には結晶学的ならびに金属組織学的諸因子の 影響が伴うので,X線による測定応力は必ずしも機械的な 応力値と一致するとはかぎらない11)。そこで,先ず,X線 による測定応力を機械的応力と同じ尺度で取り扱うため に,焼鈍試験片を用い,外荷重下での表面応力をX線によ り測定し,両者の相関関係を明らかにしておくことにす
る。
4−1機械的応力とX線測定応力の関係
Fig.5は試験片裏面に貼り付けられたひずみゲージによ り測定した応力σε(縦弾性係tw E =21000kg/mm2として 計算)と島津オートグラフIS−5000を用いて負荷した機械 的応力σMの対応を調べたものである。この図において,
両者の間には,ほぼσε=σMなる関係が認められるので,
Q O / O
0 6 2 8 4 2 1 1︵NEE︑望汲σで︒£ΦΣ﹀σにレ×︑nuりmΦ﹂疏 O一︒凶 唱 遭 茄 弓り
O
20一
O 0
Fig.6 Relation between axT and as・
Fig.6は焼鈍試験片について,均一曲げ負荷時の表面応
力を測定した結果であるが,試験片軸方向に表面残留応力
が認められたため,X線応力測定は試験片の幅ならびに軸 方向について行なった。この図から,軸方向応力σXTとσε の間には次式の直線関係が成立するのが認められる。
axT=O.70aE−4.6 (5)
すなわち,本材料の残留応力。・XTRは一4.6kg/mm2,直 線の勾配dσXT/Aaε=(σ XT一・rXTR)/σεは0.7となる。な お,板幅方向の表面応力はσεの変化に無関係に常に0で あった。したがって,表面残留応力を有する試験片におい て,∠σXT/∠σε=0.7なる勾配が得られるならば,その表面 残留応力と機械的応力(負荷応力)を1対1に加算すれば,
負荷時の表面応力が求められることになる。
これらの諸点を考慮しながら,以下,残留応力と表面応 力の関係を調べ,繰返し応力負荷時の表面応力状態を考え ることにする。
4一一2 ショットピーニングに伴う残留応力
ショットピーニング処理の結果発生する表面残留応力は 平面応力状態にあると考えられるので,これを解析するた め試験片の軸,板幅およびそれらと45。をなす方向の3方 向について,それぞれの応力σST,σε およびas4sをX 線により測定した。
10 ・ ・(白丁
Q一。σ§冷5
◎一◎(るw
一3 隔20 −10 0 ℃ 20 30
Nomind StresS
暖(kg m揃2)
モ
a{郵1。
●£占 豊げ 曇.2︒︾
慧撃の 一30
■ o
n o
o o
●
一40
●
asT=O.63ae−31 dcrsT/riae=O.63 (6)
asw == 一31 (7)
vs4s=O.24a6−31 (8)
ここで,(6)〜(8)式の定数項は残留応力であり,いずれ も一31kg/mm2となるので,本材料には,方向性を有しな いほぼ均一なショットピーニングが施されていると推定で きる。しかしながら,負荷方向の勾配daST/4σεは(6)式に 認められるように0.63となり,(5)式に示される焼鈍材の 値0.7より小さくなるので,ショットピーニングに基づく 表面残留応力は負荷応力と見掛け上,同一に取扱えないこ
とになる。このことは,負荷応力により,表面近傍の残留 応力分布が変化することに起因していると思われるが,こ の点に関しては更に詳細な検討が必要である。
一方,三幅方向の表面応力σSWは(7)式に認められる如 く,σεの変化に無関係に一定(一31kg/mm2)となり,シ ョットピーニングによる表面残留応力はそれと直角な方向 の負荷応力とは全く無関係であることになる。
以下,これらの関係を更に詳細に検討するため,破壊と 密接な関係を有する主応力および最大勢断応力のσεに対 する変化を調べることにする。
㎝
研q石O O ◎
●Q O 20
︵N∈E︑9鴻︒βぱ.け
10 20
Y6−N6A
Stress ae(kgimrr{2)
一20! /
/
Fig.7 Stresses by X−Ray Method at Surface of
Specimen and Mechanical Axial Stress.
Fig.8 Changes of a l, a2 and Tmax for ae・
1
Fig.7はσST,σSWおよびσs4sのσεに対する関係であ る。この図から,それぞれの間には次式の関係が成立する のが認められる。
Fig.8は(1)〜(4)式を用いて計算した主応力σ1,σ2お よび最大勢断応力7maxのσεに対する変化であるが,これ らの闇にも次式の直線関係が成立している。
ai==O.64as−31 (9)
a2=一31 (10)
Tmax=O・32as (11)
すなわち,(6),(9)式および(7),(10)式はそれぞれ全
く同一になり,したがって,主応力方向も試験片の軸およ び三幅方向と全く一致している。しかし,勇断応力は残留 応力には無関係で,σεの変化に伴い直線的に増加する。
以上のことを総合すると,ショットピーニングに基づく 表面残留応力は:方向性を有しないが,負荷応力下ではその 分布が変化すると思われ,両者を1対1に加算して表面応 力を求めることはできない。換言すればσεが繰返される疲 労試験時には両者を加算した値よりも幾分低い表面応力が 繰返されていると思われる。したがって,最大勢断応力も 見掛け上残留応力と無関係なようであるが,負荷応力のみ で計算:した値より小さくなる。
ところで,緒言でも述べたように,表面残留応力は疲労 の進行に伴い変化することが多く,その変化した残留応力 が,上記と同様に取り扱えるか否か疑問である。そこで,
次節ではこの点を明確にするため,初期残留応力を有しな い材料を用い,疲労試験を行ない,疲労の進行に伴い発生 した残留応力の挙動を調べることにする。
4−3疲労の進行に伴い発生する残留応力
疲労変形に伴う残留応力の挙動を追求するため,寿命の 80%まで片振引張塑性疲労を行なった試験片を用い,上述 と同様,負荷応力下で試験片の軸,子午およびそれらと45。
をなす3方向の表面応力aFT,σFWおよびσF45をX線に より測定した。
NE E20 σ計
crF45
Fig.9はσFT,σFWおよびσF45のσεに対する変化を示 したものであるが,これらの問にも,次式で示される直線 関係が成立している。
aFT=O.70ae−8.6 daFT/deE=O.70 (12)
opw=::O.06ffe−6.6 (13)
aF4s一=O.47as−8.4 (14)
すなわち,試験片の軸方向に最大の圧縮残留応カー8.6 kg/mm 2が生じているが,一軸三振引張疲労を行なったに
もかかわらず,板幅方向にも大きな圧縮残留応カー6.6kg/
mm2が生じ,表面残留応力は平面応力状態にあることに なる。しかし,この場合,軸方向の勾配∠σFT/dσεは焼鈍 材の値と全く一致しており,軸:方向の表面残留応力に負荷 応力を加算すれば負荷時の表面応力が求められることにな る。一方,(13)式に認められる如く,σFWはショットピー ニングの場合と異なり,σεの増加につれて増大するのは興 味深い。換言すれば疲労に伴う残留応力はそれと直角な方 向の応力によっても影響されることになるが,その勾配は 0.06と極めて小さいので,この点に関しては更に詳細な検 討が必要である。
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Nominqt Stress crE(kglmm2)) ig.9 Stresses by X−Ray Method at Surface of
Specimen and Mechanical Axial Stress.
Fig.10 Changes of al, ff2 and Tmax for ae・
以下,表面応力を解析し,主応力σ1,σ2および最:大薗 断応力Tm。xのσεに対する変化(Fig.10)を考えることに する。この図においてσ1,σ2および7maxとσεの間に次 式の直線関係が成立しており,その方向gはσεに無関係
に,ほぼ7。である。
ai=O.72as−8.6 (15)
a2=O.05a6−6.6 (16)
Tmax=O.33a6ml.O (17)
このように,表面残留応力が軸,板幅方向で異なれば,
一軸応力を負荷した場合,それに残留応力が加算されるた め,主応力軸は負荷応力軸とは一致しなくなり,負荷時の 最大勢断応力も残留応力の影響を直接受けることになる。
換言すれば,ショットピーニングの場合とは逆に,繰返し 応力負荷時の試験片表面には負荷応力と残留応力を加算し て得られる値よりも大きな応力が繰返されていることにな
る。
以上,ショットピーニングおよび疲労の過程で生ずる表 面残留応力の挙動について考えてきたが,両者の負荷応力 に対する重畳特性は互いに異なり,同一の尺度で取扱うこ とはできないように思われる。すなわち,これら表面残留 応力と疲労強度の関係を明らかにするには,残留応力の応 力繰返し数に対する変化だけではなく,それらと繰返し応 力の重畳特性を明らかにし,表面に繰返される主応力およ び最大鈎断応力を推定することが重要なように思われる。
5.結
言
以上の実験結果および考察をまとめると次のとおりであ
る。
1)本材料では,σXTRを残留応力とすればX線測定応力 σXTと機械的応力σεの間には,(σXT一σXTR)/σε=O.7な る関係が成立する。
2)ショットピーニングに基づく表面残留応力は,方向 性を有しないが,それと負荷応力を加算して負荷時の表面 応力を推定することはできない。すなわち,実際の表面応 力は上記の計算で求めた値よりも小さいようである。
3)ショットピーニングに基づく表面残留応力はそれと 直角な方向の負荷応力には何ら影響されない。
4)方向性を有しない残留応力に負荷応力が加算されれ ば,その表面応力の主軸は応力負荷軸,およびそれと直角 な方向と一致する。
5)疲労の進行に伴い発生する残留応力は軸方向で最大 となり,それと直角な方向で最小となる。しかし,直角な 方向の残留応力も無視できない大きさである。
6)疲労の進行に伴う表面残留応力と負荷応力を加算す れば,負荷時の表面応力を推定することができる。しかし ながら,表面残留応力が軸,板幅方向で異なる場合,負荷 時の表面応力の主軸は負荷軸と一致しなくなり,試験片表 面には見掛けより大きな応力が生ずることになる。
最後に,本研究を進めるにあたって,実験を担当してい ただいた本校学生,目黒和弘君,矢内秀明君に深謝します。
6.参 考 文 献