炭素鋼の疲れと残留応力(引張圧縮)
(昭和47年4月28日原稿受理)
工学部二部機械工学科光永公一 日本鋼管福山製鉄所福武 諄
Fatigue and Residual Stresses in Carbon Stee1
by Koichi MITSUNAGA Atsusi FUKUTAKE
It has been reported that the compressive residual stress in the surface is useful for improvement of fatigue strength. In order to produce residual stress in the sur二 face layer of specimens, the various surface treatments have been adopted. When−
never the residual stress iS generated by the surface treatment, it is not able to avoid the change of material properties in surface layer such as work・hardening and struc−
tural change.
Residual stress has been thought to be equivalent to mean stress. However, it is shown by recent investigations that these factors themselves vary during fatigue proceSS.
Accordingly, it is unsuitable to discuss the effect of residual stress measured be・
fore the fatigue test、 Hence the following investigations are conducted and reported in this paper;
(a)the variation of residual stress during fatige process,(b)rough seperating of the factors contributed to fatigue strength in residual stress and changes of material properties of surface layer.
It was obtained that in tension−compression test, the change of material properries in surface layer contributed much more to fatigue strength in the surface・treatment
ひ speclmens・
は少ないように思われる3)。
1. 緒 言
上述の観点から著者らは先にS45C平滑試験片
疲れ強さ改善について,材料表面に存在する圧 を用いて,切削加工およびショットピーニング材 縮残留応力は有利であることは多くの研究によっ の表面層の圧縮残留応力と材質的な変化の回転曲 て明らかにされている。しかし一般に材料表面に げ疲れ強さへの寄与を定量的に分離して検討し 残留応力を発生させるためには種々の表面処理が た4)。その結果,切削加工材では表面加工iこよる 施される。したがって材料の表面層は残留応力の 材質的変化の寄与が主となり残留応力の寄与が相 発生とともに材質的な変化も同時に生じている。 対的に小さいが,ショットピーニング材では両者 表面処理材の疲れ強さの上昇はこの圧縮残留応力 の寄与がほぼ同程度となることがわかった。また と材質的な変化の共同作用の結果として起こるこ 疲れ耐久線図をもとにして考えた表面処理材の疲 とが指適されている1)。、過去の多くの研究が疲れ れ強さ推定式により求めた疲れ強さが実験値とよ 強さの上昇を残留応力の観点から定量的に検討し い一致をみた。
ており2),材質的要因について言及したものもあ そこで今回は同様の検討を,切削加工およびタ
るが両者の寄与を分離して定量的に検討したもの フトライド処理を施した平滑試験片を用いて引張
圧縮疲れ試験の場合について行ったのでその結果 うな中空加工をした試験片(図1の破線)を準備 を報告する。 した。切削加工中空材をさらに650℃,30分の真 空焼鈍を行なったものを中空焼鈍材とした。
2供試材・試験片および実験方法 表面処蜘こよる加工縄層の深さを知るためシこ 素材は市販のS25C丸鋼(22φ×5m)で,試 断面内のかたさ分布を表面から逐次電解研磨しな 験片の長さに切断したものを870℃,30分保持の がらマイクロビッカースかたさHv(100 gr/30 焼準をしたのち図1に実線で示す形状に旋削し sec)を測定して求めた。
た。旋削後%番エメリー紙で表面を研磨したもの 試験片の軸方向残留応力もそのつどX線応力測 を切削加工材とし,さらにタフトライド処理を施 定法により測定して断面内の残留応力分布を求め
したものをタフトライド材とした。タフトライド た。X線の使用条件は表3のとおりでGM計数 の処理条件は表1に示すとおりで,浴槽は空気吹 管によりsiu2ψ法(入射角o°,15°,3帆45°)を 込み式のチタンポットを用い570℃,90分保持の 用い,ピーク位置の決定は半価巾法を使用した。
塩浴処理ののち・水中(10%NaC1)急冷した。 表3 X線使用条件 特 性 X 線
芦 」 鞘1
照 射 面 積
...一___一___.一_ P20__. 一一.__ ブイルター
2θ送 り 速さ
図1試験片 チヤ_ト速さ
表1 タフトライド処理条件 時 定 数
熱処理条件 570℃90min水冷
Cr−Kα
(211)
30Kv
gmA
4×4mm
バ ナ ジ ュ ム 1°/min
20mm/min
タフトライド塩浴の条件 疲れ試験は島津製引張圧縮疲れ試験機(土1 KCN 45% ton)を用いたが,繰返し数は毎分約1800であ KCNO 45% る。また中空加工前後の表面残留応力を測定した NO、Fe(CN)6 0・05% こと,表面残留応力の疲れ強さへの寄与のしかた を検討するために疲れ過程での表面残留応力の変 基準材としては切削加工材をさらに650℃・30 化の挙動を検討したことは回転曲げ疲れ試験の場 分の真空焼鈍をしたものを準備した。焼鈍材の化 合と同様である。
学成分および機械的性質を表2に示す。
3.実 験 結 果 表2 化学組成および機械的性質
C 0.23 降 伏 点 30.2kg/mm2 Si 0.29 引張強さ 47.Okg/mm2 Mn 0.51 伸 び 32.2%
P 0,020 絞 り 69.8%
S 0,022 真 応 力 106.5kg/mm2
化学成分(⇒機械的蛭_論力謹薯漂欝鴎1鷲r測定
30 2kg/mm2 結果の一一例を図2に示す。図より加工硬化層の深
さは40〜50μでそれ以上内部ではほぼ一定値とな
69.8% り母材のかたさはHv÷145である。圧縮の残留
106.5kg/mm、 応力も加工影響層内のみに大きく発生しており急
速に減衰している。図3はタフトライド材につい
また回転曲げ疲れ試験の場合と同様に,表面処 ての測定例を示したものである。切削加工の場合
理材の表面層の残留応力を解放し材質的変化の因 に比較してかなり影響層が深く表面より約1mm
子のみを取り出す目的で,肉厚約1mmとなるよ までかたさが上昇しておりそれ以上の内部ではほ
190 180g
主170
い60
K 150
よ
;140
表面からの距離 (μ) の最大値となるようにして疲れ試験に供した。
\ 8\
8\。°
\_
_ 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180
度の処で圧縮の最大値を示し最表面ではわずかな がら小さくなる傾向がみられる。タフトライド処 理を行なうと表面に10μ程度の化合物層が生ず る。その表面層の金属顕微鏡組織を図4に示す。
この化合物層の影響で表面層(10〜20μ)でのか たさの急変や残留応力の低下が現われたと考えら
N∈
ξ 豆 束 「0
餌 一20
一3
↓
ヂーユ+⊥%一一一
∫
/
図2 切削加工材のかたさおよび残留応力分布
450
4000
主35・艮 ㌦
>600
遡300 エ500 250 \ 400
…8 ̲3°°
8\8_。一
\c㌶鳶当:
図4 タフトライド材の金属顕微鏡組織
3・2. 疲れ試験
中実の焼鈍,切削加工およびタフトライド材の
゜2°°=∵聯12°°1管;16°°18°° S−N蹴姻5に示主蹴材の疲れ強さは
∈ 0 20406080100120140160180 19・Okg/mm2であり,切削加工およびタフトラ
150
ξ こ 一20
R
鍋 一30
一40
▽ノ/°°←
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ε 一 }一『 一
●
伊 σw二27.5
25
図3タフトライド材のかたさおよび残留応力分布 、。 ミこ≧一…一
\ここ▲・
・ \主_.噌よ竺α5 ぼ母材のかたさになっている。最表面のかたさは 焼 毒 σwgo Hv÷620であるが表面層を約10μ電解研磨によ 104 1。5 106 1。ワ
り除去すると急激にかささは低下してHv÷400 繰返し数
となつている。残留応力は表面から10〜20μ程 図5中実試験片のS−N曲線
イド材のそれは20.5および27.5kg/mm2とな 3・3.中空加工による残留応力の解放
り強さの上昇値はそれぞれ1.5kg/mm2(約8 焼鈍,切削加工およびタフトラ・fド材の中空加
%)および8.5kg/mm2(約45%)である。こ 工前後の表面残留応力の測定結果を表4に示す。
の強さ上昇には表面処理により生じた材料表面の 焼鈍材では中実,中空いずれの場合もほとんど応 材質的変化と圧縮残留応力の寄与がともに含まれ 力値は変化しないことがわかる。切削加工材では ている。 中空加工前に30kg/mm2程度の圧縮応力であっ 表面層の材質的変化のみの疲れ強さへの寄与を たものが加工後は平均して約6.Okg/mm2の圧 得るために準備した中空試験片について求めた 縮応力に解放されている。タフトライド材でも加 S−N曲線を図6に示す。中空焼鈍材の疲れ強さは 工前に34kg/mm2程度の圧縮応力が加工後は同 18.5kg/mm2で,中空切削加工およびタフトラ 様に6. O kg/mm2程度に解放されている。いず
・イド材のそれは19.5および26.5kg/mm2とな れの場合にも中空加工後の残留応力は焼鈍材の残 り,強さの上昇値はそれぞれ1.Okg/mm2(約5 留応力に相当する値にまで低下しており,中空加
%)および8.Okg/mm2(約43%)となった。 工することにより材料表面の残留応力は完全に解 _ 放されて材質的変化の因子が抽出されたものと考
ξ
豆 30
言
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25
20
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° 8ρ◆〜編。2。,
\ロム
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〉\ミこ\△△ σ.。1。5
。、フ、ライド\。 △一△一
△切削加工 一雷・一 ロ 焼 鈍 σw司85
1♂ @1♂ 1♂。託. その挙動を追跡した結果の一例として図7rこタ
フトライド材,図8に切削加工材および図9に焼 図6 中空試験片のS−N曲線
鈍材の中実試験片について得られた結果を示す。
表4 中空加工前後の残留応力 図中にはいずれもその応力振巾の大きさが示して (kg/mm2) ある。また図の縦座標は試験前に存在した残留応
えてよいであろう。
3・4. 疲れ過程での表面残留応力の挙動 疲れ強さを議論する場合に,表面の残留応力は 平均応力としての効果をもつと考えられる。しか し一般に残留応力は繰返し応力(ひずみ)を受け ると変化する5)。したがって疲れ過程における残 留応力の挙動を検討しておくことが必要であ
る4)。
試験片 喉材平均値中空材1平均値 力値に文寸す砒αで表わしてある・
焼 鈍 材 0
ユ
2 6
一7.2
−6.6
−3.8
−6.0
81−6・2−a・
一7.5
−7.1
−3.7
−4.1
−3.3
焼鈍材は初期値が小さく疲れ過程中にほとんど 変化しないと考えられる。一方切削加工およびタ フトライド材では疲れ限度の応力を繰返したとき
一5.1 繰返し数
U−5 −31.2 −6.1 U−6 −28.ユ ー6.1 切削加工材 U−7 −27.3 −7.3 U−8 −30.6 −4.9 U−9 −32.3 −29.9 −6.1
∋ 白 5 6 7 0 10 10 10 10 10
02 苫04 這06
−6.1 ) T一ユ9 一31.7 一5.8
T−21 一33.6 一6.7 タ フ ト
宴Cド材 T−23 一39.6 一8.4
T−27 一34.2 一5.2 T−27 一32.4 一34.3 一5.4 一6.3
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一6 3 @ 図7 タフトライド材の残留応力の挙動
繰返し数 れ強さ上昇値1.5および8.5kg/mm2には材料表 0103 104 105 106 1♂ 面の圧縮残留応力および材質的変化の影響が含ま
0.2 0.4 き・・6 邑o.8
1.0 1.2
1.4
れている。しかしこの中実試験片を中空加工する ことにより残留応力がほとんど完全に解放される ことが認められたから図6の中空試験片について の切削加工およびタフトライド材の疲れ強さ上昇 値1.0および8.Okg/mm2には残留応力の寄与 は含まれておらず材料表面の材質的変化の寄与の みが現われたものと考えることができる。したが 図8 切削加工材の残留応力の挙動 って上記の疲れ強さの上昇値を比較すれば,引張 圧縮疲れ試験の場合には強さ上昇の主因が表面処 繰返し数 理により生じた材料表面の材質的強化の寄与であ 01♂ 18 1♂ 18 1♂ り,表面層の圧縮残留応力の寄与は相対的に少な
(05
ε ε1・01.5
2.0