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総 説 オレオサイエンス第 16 巻第 11 号 (2016) 525 Copyright C2016 by Japan Oil Chemists Society ムール貝の接着タンパクに倣った バイオミメティック接着 還元剤 Biomimetic Adhesive and Reductive Ag

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総 説

ムール貝の接着タンパクに倣った バイオミメティック接着・還元剤

Biomimetic Adhesive and Reductive Agents Inspired by Mussel Adhesive Proteins

連絡者 :藪 浩

E-mail :hiroshi.yabu.d5@tohoku.ac.jp

藪 浩

東北大学原子分子材料科学高等研究機構

〒980-8577

仙台市青葉区片平2-1-1 Hiroshi YABU

Advanced Institute for Materials Research

(AIMR), Tohoku University

2-1-1, Katahira, Aoba-Ku, Sendai 980-8577, Japan

論文要旨:ムール貝の接着タンパク中に含まれるカテコール基は多様な材料表面と相互作用することで高 い接着性を示す。また,カテコール基はフェノール性水酸基を持つため,無機イオンを還元する還元剤とし ても働く。近年このユニークな特徴を利用して,多様な材料に接着する高分子材料が開発されている。本稿 では,筆者らが合成しているカテコール基含有両親媒性ランダムおよびブロック共重合体の合成と,その接 着,表面改質,無機ナノ粒子合成のための還元剤としての応用について紹介する。

Abstract: This review shows synthesis and application of catechol-containing random and block co- polymers. We successfully synthesized amphiphilic random copolymers containing catechol moieties as side chains by free radical copolymerization of dopamine methacrylic amide and hydrophobic mono- mers including styrene. The synthesized amphiphilic copolymers firmly adhered onto inorganic mate- rials and change surface properties from hydrophilic to hydrophobic. The polymer-immobilized inor- ganic nanoparticles can be dispersed in hydrophobic organic solvents and form porous hierarchic films after casting under humid conditions followed by calcination. Block copolymers containing cate- chol moieties have also been synthesized reversible addition-fragmentation transfer (RAFT) polymer- ization of 3,4-dihydroxy styrene and styrene followed by deprotection of methoxy groups. Metal ions can be reduced by using the synthesized block copolymers as templates and reductants, metal nanoparticles consequently formed by simple addition of metal ions into solution or film of catechol- containing block copolymers.

Key words: mussels, catechol, adhesives, reductants, block copolymers

1 はじめに

有機材料と無機材料など異種材料界面における接着・

接合は樹脂・炭素材料の構造部材,特に自動車や航空機 における主要な構造部材への採用が進むにつれ,非常に 大きな課題となっている。このような異種材料界面の接 着において,接着剤を用いて異なる材料界面を接合する 場合,粗さなどの接着界面の構造や,接着剤の力学強度,

そして化学的な相互作用の強さが求められる。しかしな がら化学的特性が大きく異なる異種材料に対して,どち らの材料表面に対しても高い接着性を持つ接着剤を選定 することは非常に困難である。

二枚貝の一種であるムール貝は海水中で多様な表面に 接着している。このことに着目した Waite らはムール 貝の接着タンパク中に一般的なアミノ酸の外に 3,4- Dihydroxyphenylalanine(DOPA)が含まれていること を 1981 年に報告し,ムール貝がテフロンやパラフィン,

ガラス,スレート(瓦や硯などに使われる粘板岩)など,

(2)

表面エネルギーの異なる基板上に接着できることを見い だした1)。さらに DOPA 中に含まれるドーパミン,さ らにはその中のカテコール基が様々な金属イオンと錯体 を形成できることから,カテコール基が接着性に関与し ていることを示唆している2,3)。近年,カテコール基が 多様な材料表面に強固な接着性を発現する物性を利用し て,様々な応用が盛んに研究されている。例えば Mess- ersmith らはドーパミンのアミノ基部分に開始剤を導入 し,ポリエチレングリコール(PEG)鎖をグラフトする ことにより,タンパク質の接着を抑制できることを報告 している4)

カテコール基が多様な材料表面と強く相互作用するの は,各種材料表面に対して多様な相互作用形態を取りう るからであると言われている(Fig. 1)5)。金属や金属酸 化物表面などに対しては,2 つの水酸基が表面金属をキ レートすることにより,錯体を形成する。また,極性官 能基がある表面に対しては水酸基との水素結合を形成す る。さらに,カテコール基はフェニル基のπ-π相互作用 や,1,4 位における Michael 付加による架橋形成など,

多様な相互作用が表面-カテコール基およびカテコール 基間同士に働くことによって,強固な接着性を発現して いる。この多様な相互作用という点が,ムール貝が水素 結合を阻害する海水中の高塩濃度環境下においても強固 な接着性を発現する理由であると考えられている。また,

近年では,接着タンパク質中ではカテコール基の接着性 に加えて静電荷による相互作用,疎水性相互作用も接着 に寄与していることが示唆され,これらの相互作用を模

倣した接着材料の開発が活発に行われている6)。 また,カテコール基の特徴としてフェノール性水酸基 を 2 つ含むため,銀イオンなどの金属塩を還元してキノ ンとなることで,金属を析出させる機能があり,マイル ドな条件で用いることのできる還元剤としても有用であ ることが報告されている7)

上記の背景に基づき,本稿では筆者らが取り組んでい るカテコール基含有両親媒性ポリマーの合成とその接 着・表面改質能,および還元剤としての応用について紹 介する。

2 カテコール基含有両親媒性ポリマーの合成

ムール貝の接着タンパクを模倣した接着能に着目し て,多くの研究者が合成的にカテコール基を含有するポ リマーの合成を報告している。その多くは側鎖あるいは 末端に DOPA を縮合したモノマーユニットから成るも の が ほ と ん ど で あ る。 例 え ば Messersmith ら は,

DOPA に原子移動ラジカル重合(Atom-Transfer Radi- cal Polymerization, ATRP)の開始剤を縮合し,これを チタニア表面に結合させた後,ATRP によりメタクリ レートを伸張させることにより,ポリマー鎖をチタニア 表面に形成する手法を報告している8)。また,Amstad らは様々な置換基を持つ DOPA ユニットから PEG 鎖を 伸ばしたポリマーを合成し,リガンド交換により無機ナ ノ粒子への修飾を行っている9)。高原らは側鎖に DOPA を結合したメタクリルアミドモノマーと疎水モノマーを 共重合することにより,両親媒性ポリマーの合成を報告

Fig. 1 カテコール基が示す様々な相互作用

(3)

している10)。また,DOPA を含んだポリペプチドを固 相合成により合成することで,人工的にカテコール基を 含んだポリペプチドを合成する試みもなされている11)。 ポリアクリル酸などのユニットを持つポリマーの側鎖 に,DOPA を縮合することによっても,カテコール基 を含有するポリマーが合成されている。筆者らはドーパ ミン塩酸塩と無水メタクリル酸からメタクリルアミドモ ノマーを合成し,疎水性モノマーと共重合することによ り,分子量数万程度のカテコール基含有両親媒性ポリ マーの合成を行った12)。カテコール基が還元されてで きるヒドロキノン類はラジカル重合禁止剤として知られ ているが,カテコール基を導入したメタクリルアミド

(ドーパミンメタクリルアミド)は問題なくフリーラジ カル重合できる。

カテコール基含有ランダム共重合体や末端基にカテ コール基を導入したポリマーの例に比べ,カテコール基 を側鎖に持つブロック共重合体の合成の報告は僅少であ る。その理由はカテコール基が金属イオンに対して高い 配位能を持っているため,金属錯体触媒を用いるリビン グ重合法が利用出来ないなどの理由による。そのため,

活性エステルを側鎖に持つブロック共重合体を合成した 後,高分子反応により側鎖をカテコール基に変換する手 法13)や,側鎖カテコールを保護した状態で重合し,脱 保護する14)などの試みがなされている。

側鎖にカテコール基を持つ最も単純なビニルモノマー 構造は 3,4-dihydroxy styrene(慣用的には vinyl cate- chol, VCa)である。水酸基をメトキシ基により保護し た モ ノ マ ー 3,4-dimethoxy styrene(DMSt) の 2,2,6,6- tetramethylpiperidine 1-oxyl(TEMPO)を用いたリビ ングラジカル重合は 1998 年に Gravert らが報告してい るが,ブロック共重合に供するには分子量分布が 1.56 と広く,また脱保護は行われていなかった15)。一方,

Wilker らは styrene(St)と DMSt をフリーラジカル重 合により重合し,これらのランダムコポリマーを合成し た後,三臭化ホウ素を作用させることにより,メトキシ 基を水酸基へと変換することで St と VCa のランダム共 重合体の合成に成功した。このポリマーを用いて彼らは 種々の材料への接着能を検討している。また,ごく最近 Isokova らは可逆的付加-開裂連鎖移動(RAFT)重合 を用いることにより,DMSt のホモポリマーを合成し,

その後同様に三臭化ホウ素を作用させることにより,

polyvinyl catechol(PVCa)の合成に成功している。

筆者らは用いる連鎖移動剤や溶媒条件を検討すること で,DMSt と St のブロック共重合体を RAFT 重合によ り合成し,その後三臭化ホウ素で脱保護する事により,

種々の共重合比を持つ PVCa-b-PSt(b:ブロック共重合

体)の合成に成功した(Fig. 2)。得られたブロック共重 合体の分子量分布は 1.2 程度であり,従来報告されてい るカテコール含有ポリマーと比較しても分布の少ないポ リマーが得られた。

3 カテコール基含有両親媒性ポリマーを用いたナノ粒 子の表面改質

無機ナノ粒子などを有機ポリマー中に分散させた有機

-無機ハイブリッド材料は,有機ポリマーの易加工性と 無機ナノ粒子の電気・熱伝導性,力学特性など,それぞ れの特徴を両立させることができることから注目されて いる。無機のナノ粒子は表面エネルギーが高いため,極 性の低い疎水性有機溶媒中に分散させることは困難であ る。また,同様の理由で疎水ポリマーなどとのコンポジッ トを混練などのプロセスで実現することは難しい。その ため,無機ナノ粒子の表面を両親媒性の界面活性剤など で被覆することで,有機溶媒やポリマーへの分散性を上 げる手法が一般的に用いられている。しかしながら無機 材料と界面活性剤間の相互作用は疎水性相互作用などに 限られており,より強固な結合を形成する材料としてカ テコール基が注目されている。

カテコール基含有両親媒性ポリマーを用いて,TiO2

や Al2O3,Fe2O3,ZnO,ハイドロキシアパタイトなど 多様な無機ナノ粒子を有機溶媒(クロロホルム)中に高 濃度で安定に分散させることが可能である(Fig. 3)。各 ナノ粒子をアセトン・ジメチルホルムアミド(DMF)

の混合溶媒に分散させ,ポリマー 1(Fig. 2(a))のク ロロホルム溶液を加えて撹拌することで被覆した。洗浄 後,クロロホルムに再分散させた。粒径分布はほぼ水分 散液中のものと同様であり,ポリマー被覆することによ る粒径の変化はない。この結果は疎水部を PVCa-b-PSt の様にポリスチレン等に変更しても同様であった。以上 から,ポリマー 1 が多様なナノ粒子可溶化剤として有用 であることが示された。

TiO2等の半導体ナノ粒子を製膜し,焼成すればナノ 粒子から成る多孔体が得られる。このような多孔膜は光 増感太陽電池の電極として有望である。電極の比表面積 や電解質の拡散は光増感太陽電池の効率に直結するた め,より比表面積が大きく,拡散が容易な階層的多孔質 電極の作製が期待されている。また,階層的な構造を持 つ無機多孔膜は触媒担持体としても有望である。疎水性 ポリマーと両親媒性ポリマーを疎水性有機溶媒に溶か し,高湿度下でキャスト製膜することにより,結露した 水滴を鋳型としてハニカム状にサブミクロン~ミクロン サイズの孔が穿たれた多孔質膜が得られる(Fig. 4)16)。 水滴は両親媒性ポリマーにより安定化され,合一せずに

(4)

Fig. 2 カテコール含有ランダム共重合体(a)とブロック共重合体(b)の合成

Fig. 3 カテコール含有両親媒性ポリマーによるナノ粒子の有機溶媒(クロロホルム)中への分散

(5)

毛管力により配列する。その結果,周期性が高く孔が配 列した多孔膜を形成する。結果として両親媒性は水滴が いた孔および表面周辺に局在する。ポリマーの代わりに 有機溶媒に分散可能なポリマー被覆無機ナノ粒子を用い て多孔体を形成し,さらに焼成することで有機物を除去 すれば,無機ナノ粒子が形成するナノサイズの多孔構造

と,水滴を鋳型として形成されるミクロンサイズの多孔 構造を持つ階層的な多孔膜を作製することが可能とな る。実際に TiO2や ZnO 等から多孔膜を作製し,焼成す ると,ミクロンからナノサイズに至る階層的構造を持つ 多孔膜が形成された(Fig. 5)17,18)。本手法は多様なナノ 粒子材料に階層的な多孔構造を付与することのできる新 Fig. 4 ハニカム状多孔質膜の形成プロセス

Fig. 5 ポリマー被覆 TiO2,ZnO ナノ粒子から作製した階層的多孔構造を持つナノ粒子膜の走査型電子顕微鏡像

(6)

規の手法になり得る。

4 カテコール基含有両親媒性ポリマーを用いたポリ マー・無機材料間の接着

前章で作製したような表面がハニカム状の多孔構造を 持つ無機材料は,摺動部材やコンデンサ電極の表面処理 として期待される19)。ポリマー材料からなるハニカム 状多孔質膜を鋳型として,無機材料表面をエッチングで きれば,多孔構造を無機材料表面に転写できると考えら れる。しかしながら無機材料の表面をエッチングするた めには,低あるいは高 pH 条件でも安定して鋳型となる 多孔質膜を表面に接着させることが必要不可欠である。

そこで両親媒性ポリマーとしてポリマー 1 を用いること により,材料表面に多孔膜を強固に接着させることを考 えた。ポリマー 1 とポリスチレンからなる多孔体を作製 し,アルミやチタンの表面に貼り付け,エッチングを行っ た後,鋳型を有機溶媒や強酸により分解して取り除いた

結果をFig. 6に示す。アルミやチタン表面に多孔構造が

転写されていることがわかる12)。特筆すべきはこのよ うな材料表面を加工するためには酸やアルカリなどでの 処理が必要であるにもかかわらず,安定に鋳型が存在し,

構造が転写できるということである。カテコール基の代 わりにカルボン酸を導入した両親媒性ポリマーではエッ チング時に剥がれてしまうことから,カテコール基含有 両親媒性ポリマーが有用な接着剤であることが示され た。

ナノインプリントにおいても異種材料界面の接着は重 要である。熱ナノインプリントにおいてインプリントす る樹脂と鋳型の界面は良く研究されている。一方で樹脂 と基板の界面に関しての研究は僅少である。しかしなが ら樹脂と基板の界面の親和性が低い場合,熱ナノインプ リントの際,鋳型の剥離後に樹脂が基板から剥離すると いう問題があり,樹脂-基板界面の制御は重要な課題で

ある。筆者らはポリマー 1 からなる薄層を基板と樹脂(ポ リスチレン)の間に形成することにより,基板から樹脂 の剥離を抑制し,良好に表面パターンが転写されること を見いだした20)。Fig. 7にポリマー 1 層を形成した場合 としなかった場合の熱ナノインプリント後のフィルムの 外観と表面形状の原子間力顕微鏡(AFM)像を示す。

ポリマー 1 層をスピンコートにより形成し,さらにその 上にポリスチレンをスピンコートした場合は樹脂の基板 からの剥離もなく,明確に構造が転写されているのに対 し,ポリマー 1 層が無い場合,樹脂層が基板から剥離し,

表面に微細構造は形成されなかった。この結果から,カ テコール基含有両親媒性ポリマーが異種材料界面をつな ぐ「つなぎ」の役割を果たしていることがわかる。さら に特筆すべきことに,ポリマー 1 層をポリテトラフルオ ロエチレン(PTFE)上にスピンコートし,その上にポ リスチレン層を形成した後,熱ナノインプリントを行っ たところ,明確に構造が転写された。PTFE はフライパ ンの表面加工にも使用される低表面エネルギー表面材料 としてよく知られており,このような材料表面にも熱ナ ノインプリントが可能であったのは,カテコール基が PTFE にも接着性を持つことを示す良い例である。

5 カテコール基含有両親媒性ブロック共重合体を用い た金属ナノ粒子の合成

両親媒性ブロック共重合体の応用として,逆ミセルを 用いた無機ナノ粒子の合成が挙げられる。両親媒性ブ ロック共重合体は疎水性有機溶媒中で内部に親水基を持 つ逆ミセル構造を形成する。親水ブロックがカルボン酸 やピリジンなど金属イオンと相互作用する官能基を有す る場合,金属イオンを逆ミセルの内部に担持することが 可能となり,還元剤により還元を行うことで,逆ミセル 中に金属ナノ粒子を合成できた21)。金属ナノ粒子のサ イズはミセルのサイズ,錯化した金イオンの量などで調

Fig. 6 接着性ハニカム多孔膜を用いた無機基板のエッチング

(7)

製できる。また,同様に金属イオンを錯化した両親媒性 ブロック共重合体のフィルムを作製し,還元を行うこと で,ブロック共重合体のミクロ相分離構造を反映したナ ノ粒子アレイを形成する事が可能となる。

今回合成した PVCa-b-PSt は両親媒性ポリマーである ため,有機溶媒中で逆ミセル構造を形成すると考えられ る。さらに,カテコール基はフェノール性水酸基を 2 つ 持つため,電子を放出してキノン化する事により,還元 剤としても働く。そのため本ブロック共重合体はナノ粒 子合成のテンプレート兼還元剤として利用できる。Fig.

8に実際に PVCa-b-PSt のテトラヒドロフラン溶液に硝 酸銀を加えることで作製したナノ粒子の透過型電子顕微 鏡(TEM)像を示す。この場合,粒径が約 20 nm 程度

のナノ粒子が還元剤なしで合成された。また,ナノ粒子 のサイズはブロック共重合体の PVCa ブロックの量に 依存し,制御する事が可能であった。一方で同じ組成の ランダム共重合体で同様の実験を行ったところ,幅広い 粒径のナノ粒子が形成された。この結果は,カテコール 基が金属イオンの錯化と還元を担っており,ブロック共 重合化する事により,逆ミセルがナノ粒子のテンプレー トとして働くことを示している。

6 カテコール基含有両親媒性ブロック共重合体の形成 する相分離構造と有機-無機コンポジット材料への 展開

ブロック共重合体はバルクフィルム中で共重合比や分 Fig. 7 熱ナノインプリントにおける樹脂-基板間の接着

PVCa-b-PSt ( OsO

4

染色) PVCa-b-PSt(OsO

4

染色+Agナノ粒子)

Fig. 8  ラメラ構造を持つカテコール基含有両親媒性ブロック共重合体の断面透過電子顕微鏡(TEM)像(左)と銀ナノ粒子形 成後の断面 TEM 像(右)

(8)

子量に依存したミクロ相分離構造を形成することが知ら れている。そこで,種々の共重合比の PVCa-b-PSt を合 成し,それぞれのフィルムを作製し,フィルム中でのミ クロ相分離構造について検討した22)。その結果,Graz- ing Incidence Small Angle X-ray Scattering(GI-SAXS)

や TEM 観察により,フィルム内部にスフィア,シリン ダー,およびラメラなど,種々のミクロ相分離構造が形 成されることを見いだした。これらのフィルムを硝酸銀 水溶液に浸漬したところ,PVCa 相に銀イオンが拡散し,

ミクロ相分離構造内にサイズの揃ったナノ粒子がアレイ 状に形成された(Fig. 9)。これは,親水性の PVCa 相が 膨潤し,銀イオンが拡散した後,側鎖のカテコール基に よって還元された結果であると考えられる。本実験結果 は還元剤を用いることなく,ブロック共重合体のミクロ 相分離構造中に金属ナノ構造を形成できる事を示してお り,本ブロック共重合体と鋳型中でブロック共重合体の 配向・相分離構造制御を行う誘導自己組織化(Directed Self-Assembly, DSA)と組み合わせることで,次世代の ナノパターニングへの応用が期待される。また,PVCa 鎖は弱酸性の親水基であるため,イオン伝導体としての 応用も期待できる。

7 おわりに

カテコール基含有両親媒性ポリマーは接着性だけでな く,イオン還元能など,多様な機能を持ったポリマーで あることが明らかとなった。現在はカテコール基を含有 するモノマーと疎水モノマーを単純に共重合している が,親水性モノマーや架橋構造などを加え,接着能や還 元能を持つ水溶性ポリマーや架橋樹脂材料などへの展開 が期待される。特に,カテコール基は界面で機能発現し

ていることから,界面へ偏析させる仕組みや,界面形状・

材料に合わせた分子設計が期待される。

接着できる材料の探索も非常に興味深い。特に従来か ら接着が難しかった炭素系材料への接着が可能かどうか については,今後一層の研究が必要であり,もし実現で きれば非常に有用な炭素系ハイブリッド材料の作製技術 となると期待される。

文 献

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参照

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〔追記〕  校正の段階で、山﨑俊恵「刑事訴訟法判例研究」

Key words: human stratum corneum, TEWL, ultrathin cr yo-section, low-flux electron diffraction, synchrotron X-ray diffraction,

3) Hotta N, et al : Long-term clinical effects of epalrestat, an aldose reductase inhibitor, on progression of diabetic neuropathy and other microvascular complications