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日本内科学会雑誌第110巻第3号

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Academic year: 2022

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(1)

はじめに

 脂 質 異 常 症 は 冠 動 脈 疾 患(coronary artery disease:CAD)の重要な危険因子の1つであり,

その基盤となる粥状動脈硬化症を進展させる.

従って,脂質異常症を早期に検査し,適切な治 療を行うことはCADの発症予防において極めて 重要である.日本動脈硬化学会では「動脈硬化 性疾患予防ガイドライン 2017 年版」1),さらに 脂質異常症に関しては「動脈硬化性疾患予防の ための脂質異常症診療ガイド 2018 年版」2)を発 行した.本稿では,リポ蛋白代謝経路の概略を 説明し,脂質異常症の成因,特に高頻度な遺伝 性 疾 患 で あ る 家 族 性 高 コ レ ス テ ロ ー ル 血 症

(familial hypercholesterolemia:FH)について,

診断基準も含めた診断法について紹介する.脂 質異常症の治療に関しては,上記のガイドライ ン(guideline:GL)の要点を述べる.薬物療法 では,従来,高LDLコレステロール(low-density lipoprotein cholesterol:LDL-C)血症に使われて きたスタチンや小腸コレステロールトランス ポーター阻害薬,レジン,プロブコールに加え,

LDL-Cを 著 明 に 低 下 さ せ るPCSK9(proprotein convertase subtilisin/kexin type 9)阻害薬(エボ ロクマブ)や,FHホモ接合体のみが適応となる ミクロソームトリグリセリド転送蛋白(micro- somal triglyceride transfer protein:MTP)阻害 薬(ロミタピド)も使われ,LDL-Cはある程度 までコントロールが可能となってきた.一方,

高トリグリセライド(triglyceride:TG)血症に

地方独立行政法人りんくう総合医療センター

Programs for Continuing Medical Education:C session;1. Frontiers of laboratory examination and treatment of dyslipidemia.

Shizuya Yamashita:Rinku General Medical Center, Japan.

脂質異常症の検査と治療の最前線

山下 静也

Key words 脂質異常症,家族性高コレステロール血症(FH),冠動脈疾患(CAD),

薬物療法,ガイドライン

2020年度日本内科学会生涯教育講演会

Cセッション

(2)

対しては,従来フィブラート系薬,ニコチン酸 誘導体,N-3 系多価不飽和脂肪酸に加えて,最 近上市された新規の選択的PPAR

α

モジュレー ター(selective peroxisome proliferator-activated receptor

α

modulator:SPPARM

α

)であるペマ フィブラートも有用性が明らかにされてきた.

本稿では,脂質異常症の検査や薬物治療の最新 のエビデンスを解説する.

1. リポ蛋白代謝経路の概略と 脂質異常症の成因

 脂質異常症の成因を理解するには,外因性及 び内因性リポ蛋白代謝経路(図 1)を理解して おく必要がある.食事中のコレステロールは膵 リパーゼの働きで,遊離コレステロールまで分 解された後,胆汁由来のコレステロールととも に,胆汁酸によってミセル化され,小腸で吸収

される.NPC1L1(Niemann-Pick C1-like 1)は 主に空腸の細胞の刷子縁膜に存在するコレステ ロールトランスポーターで,コレステロール吸 収 阻 害 薬 エ ゼ チ ミ ブ の 標 的 分 子 で あ る.

NPC1L1 を 介 し て 吸 収 さ れ た コ レ ス テ ロ ー ル は,acetyl-coenzyme A acetyltransferase 2

(ACAT2)の作用で脂肪酸が付加されてエステル 化され,コレステロールエステルに変換され る.一方,TGは膵リパーゼの働きで一旦,モノ グリセリドまで分解されて胆汁酸塩と複合ミセ ルを形成して,小腸上皮細胞から吸収された 後,滑面小胞体でTGに再合成される.コレステ ロールエステルはTGと共にMTPの作用でアポ 蛋白(アポ)B-48とともにカイロミクロン(chy- lomicron:CM)に会合され,腸管リンパ側へと 分泌され,これが胸管を経て体循環に流入す る.CMは 80~90%がTGから成るリポ蛋白で,

血液中に入り全身へ運ばれる.CMは骨格筋,心 図1 リポ蛋白代謝の外因性経路と内因性経路

HTGL: hepatic triglyceride lipase

VLDL IDL HDL

B48 B48 B100 B100

B100

LDL受容体

LDL受容体

E

Liver

レムナント受容体 peripheral

tissues

free cholesterol HTGL

LDL

FFA LPL LPL

FFA

chylomicron remnant chylomicron

acidsbile cholesterol+ dietary

cholesterol

Intestine

LDL受容体

(3)

筋等の毛細血管壁のリポ蛋白リパーゼ(lipopro- tein lipase:LPL)によりTG部分が水解され,相 対的にTGが減少してコレステロールリッチと なったCMレムナントとなり,この過程で生じた 遊離脂肪酸(free fatty acid:FFA)は全身でエネ ルギー源として使われると共に,脂肪組織に輸 送されて取り込まれ,TGとして蓄えられ,必要 時には分解されてエネルギー源となる.CMレム ナントはアポEをリガンドとして,肝臓のLDL受 容 体 関 連 蛋 白(LDL receptor-related protein:

LRP)やLDL受容体を介して肝臓に取り込まれ る.以上が外因性リポ蛋白代謝経路である.肝 臓に取り込まれたCMレムナントに含まれる脂 質や肝臓で合成された脂質を材料にして,肝臓 で超低比重リポ蛋白(very low density lipopro- tein:VLDL)が合成・分泌される.このVLDLの 会合の過程には肝臓のMTPが働く.肝臓から分 泌されたVLDLはLPLによりTG部分が分解され て中間比重リポ蛋白(intermediate density lipo- protein:IDL)(VLDLレムナント)となり,IDL の一部はLDL受容体及びLRPを介して肝臓に取 り込まれる.さらに,IDLの一部は受容体による 取 り 込 み を 免 れ て, 肝 性 リ パ ー ゼ(hepatic lipase:HL)によってTG部分が分解されて最終 産物のLDLとなる.LDLは肝臓や末梢細胞のLDL 受容体により取り込まれる.以上は内因性リポ 蛋白代謝経路と呼ばれる.

 このようなリポ蛋白代謝経路に関わる分子の 遺伝子異常によって,遺伝性の原発性高脂血症 が起こる.例えば,家族性LPL欠損症ではCM中 のTGが分解されないため,著明な高カイロミク ロン血症を生じ,急性膵炎や発疹性黄色腫の発 症リスクが増加する.二次性高脂血症(脂質異 常症)は糖尿病,甲状腺機能低下症,ネフロー ゼ症候群,メタボリックシンドローム等の疾患 や副腎皮質ホルモン,サイアザイド系降圧利尿 薬,

β

遮断薬等の薬剤使用や飲酒に伴って起こる.

2. 家族性高コレステロール血症(FH)の診断  FHは,①高LDL-C血症,②アキレス腱などの 腱黄色腫・皮膚結節性黄色腫,③早発性CADを 3 主徴とする疾患で,その大部分は常染色体優 性遺伝性である.ホモ接合体のみが発症する常 染色体劣性遺伝性高コレステロール血症(auto- somal recessive hypercholesterolemia:ARH)も FHに含まれるが,これは極めて稀である.FHの 原因となるのはLDL受容体の他,アポB-100,

PCSK9 の機能獲得型遺伝子変異で,いずれも LDL代謝において重要な役割を果たす分子であ る.ARHはLDL受容体の取り込みに関与するア ダ プ タ ー 蛋 白 で あ るLDLRAP1(LDL receptor adaptor protein 1)遺伝子異常に起因する.

 日本人でも他国と同様,FHヘテロ接合体は 200~500 人に 1 人の割合で存在し,30 万人以 上の患者がいると推定されるため,FHは実地医 家が最もよく遭遇する心血管リスクの高い遺伝 疾患である.FHは小児期から粥状動脈硬化の進 行を認めるため,小児期での診断・治療も重要 である.FHヘテロ接合体では,未治療の男性で 30~50 歳,女性で 50~70 歳の間に心筋梗塞,

狭心症などの早発性CADを発症することが多 い.FHホモ接合体はさらに重篤で,20歳までの 若年で高頻度にCADを発症する.早期診断,早 期治療に加え,CAD等の動脈硬化性疾患の適切 な評価と治療がFH患者の若年死の予防につな がる.FH患者が発見された場合は家族スクリー ニング(カスケード・スクリーニング)を実施 し,FH患者を家族内で早期発見することも重要 である.

 FHの診断に必ずしも遺伝子診断は必須では ないが,高LDL-C血症に加え,LDL受容体などの LDL異化に関わる遺伝子に変異が確認されれば 確定診断となる.臨床診断されたFHヘテロ接合 体の 6~8 割で原因遺伝子の変異が確認される.

FHホモ接合体は対立遺伝子双方にLDL受容体,

アポB-100,または機能獲得型のPCSK9 の異常

(4)

をもつものと定義されるが,我が国ではアポ B-100 の 変 異 に よ るfamilial defective apolipo- protein B-100(FDB)は発見されていない.FH ヘテロ接合体の診断基準を表11)に示す.FHを診 断する際には,特に注意深くFHや早発性CADの 家族歴を聴取する必要がある.アキレス腱肥厚 の評価はX線撮影にて行い,最大径9 mm以上を 肥厚ありと診断する.超音波を用いた評価も可 能である.

 FHホ モ 接 合 体 は 血 清 総 コ レ ス テ ロ ー ル 値 600 mg/dl以上,小児期からみられる黄色腫と 動脈硬化性疾患,両親がFHへテロ接合体である ことから臨床診断が可能である.FHホモ接合体 の黄色腫は手指関節,肘関節,膝関節など,機 械的刺激を受ける部位に多発する.

3. 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版 1) スクリーニングにおける脂質異常症の

診断基準と動脈硬化性疾患の絶対リスク評価  日本動脈硬化学会では,動脈硬化性疾患予防 のためのスクリーニングにおける脂質異常症の 診断基準(空腹時採血)を設定し,高LDL-C血 症,境界域高LDL-C血症,低HDLコレステロール

(high-density lipoprotein cholesterol:HDL-C)血 症,高TG血症,高non-HDL-C血症及び境界域高

non-HDL-C血症という基準を設定した.LDL-Cは Friedewald式(TC-HDL-C-TG/5)または直接 法で求める.LDL-C直接法は以前よりも正確性 が上がり,Friedewald式の代わりに用いること も可能である.TGが 400 mg/dl以上や食後採血 の 場 合 はnon-HDL-C( 総 コ レ ス テ ロ ー ル - HDL-C)かLDL-C直接法を使用する.ただし,

non-HDL-CはTG>600 mg/dlの場合は正確性が 担保できないので,他の方法での評価を考慮す る.脂質異常症の診断にはその成因を検索し,

FH等の遺伝性の原発性高脂血症か,疾患や薬物 投与に起因する続発性高脂血症かを明らかにす る.さらに,リポ蛋白電気泳動などで脂質異常 症の表現型を分類し,成因の解明を行う.

 2017 年版では,10 年間のCAD発症率を評価 する吹田スコア3)に基づいて層別化する.CAD 予防の観点から見たLDL-C管理目標設定のため の 吹 田 ス コ ア の 絶 対 リ ス ク を 用 い た フ ロ ー チャート(図 2)1)と吹田スコアによるCAD発症 予測モデル(図 3)1)を示す.リスク評価を簡便 化するため,性・年齢・危険因子の個数からみ たLDL-C管理目標設定のためのフローチャート も参照する.

2)脂質異常症治療薬の概略

 脂質異常症自体は無症状であり,治療が長期 間にわたることを念頭において,治療効果,患 表1 成人(15歳以上)FHヘテロ接合体診断基準(文献1より)

・高LDL-C血症(未治療時のLDL-C値180mg/dL以上)

・腱黄色腫(手背,肘,腱等またはアキレス腱肥厚)あるいは皮膚結節性黄色腫

・FHあるいは早発性冠動脈疾患の家族歴(2親等以内)

・続発性高脂血症を除外した上で診断する.

・2項目以上でFHと診断する.FH疑いは遺伝子検査による診断が望ましい.

・皮膚結節性黄色腫に眼瞼黄色腫は含まない.

・アキレス腱肥厚はX線撮影により9 mm以上で診断する.

・LDL-Cが250 mg/dL以上の場合,FHを強く疑う.

・すでに薬物治療中の場合,治療のきっかけとなった脂質値を参考にする.

・早発性冠動脈疾患は男性55歳未満,女性65歳未満と定義する.

・FHと診断した場合,家族についても調べることが望ましい.

・この診断基準はホモ接合体にも当てはまる.

(5)

者のコンプライアンス,安全性も考慮して使用 する薬剤の種類を決定する.薬剤としては,高 LDL-C血 症 に 対 し て は ス タ チ ン(HMG-CoA

(3-hydroxy-3-methylglutaryl-coenzyme A) 還 元 酵素阻害薬),小腸コレステロールトランスポー ター阻害薬(エゼチミブ),陰イオン交換樹脂

(胆汁酸吸着薬),プロブコール,PCSK9阻害薬,

MTP阻害薬(ロミタピド),高TG血症に対して はフィブラート系薬,SPPARM

α

,ニコチン酸誘 導体,N-3 系多価不飽和脂肪酸(イコサペント 酸エチル(ethyl icosapentate:EPA),

ω

(オメ ガ)-3脂肪酸エチル(EPA/DHA(docosahexaenoic acid)製剤)など)がある.投与する薬剤は,

どのようなリポ蛋白が増加しているのかを示す 脂質異常症表現型分類に従って選択する.各薬 剤の各脂質に対する効果を表 22)に記す.

 PCSK9 阻害薬はPCSK9 に対するモノクローナ ル抗体で,エボロクマブ,アリロクマブ(皮下 注射剤)が上市された.この薬剤は,肝臓LDL 受容体の分解に関わるPCSK9 蛋白に完全ヒト型 抗体が特異的に結合し,その作用を阻害するこ とで,LDL受容体のリサイクリングを増加させ,

強力なLDL-C低下作用を示す3).また,Lp(a)

を約50%低下させ,TGは20~25%低下,HDL-C は 10~15%増加させる.FHホモ接合体・ヘテ ロ接合体または心血管イベントの発現リスクが 高く,最高忍容量のスタチン治療下でも効果不 十分な高コレステロール血症の患者が適応であ る.また,心血管イベントの発現リスクが高く,

スタチンで効果不十分な難治性の高LDL-C血症 では,PCSK9 阻害薬の使用も考慮する.

 MTP阻害薬は肝臓におけるVLDL合成・分泌 図2 冠動脈疾患予防からみたLDLコレステロール管理目標設定のための吹田スコアを用いた

フローチャート(文献1より引用)

脂質異常症のスクリーニング

注)家族性高コレステロール血症および家族性Ⅲ型高脂血症と診断される場合はこのチャートは用いずに 文献1の第5章「家族性コレステロール血症」,第6章「原発性脂質異常症」の章をそれぞれ参照すること.

「なし」の場合

「あり」の場合

「あり」の場合 冠動脈疾患の既往があるか?

以下のいずれかがあるか?

「なし」の場合

二次予防

高リスク 糖尿病(耐糖能異常は含まない)

慢性腎臓病(CKD)

非心原性脳梗塞 末梢動脈疾患(PAD)

吹田スコアの得点 40以下

41-55 56以上

予測される10年間の

冠動脈疾患発症リスク 分  類 低リスク 中リスク 高リスク 2%未満

2-9%未満 9%以上 吹田スコアは文献1の図1-2に基づいて計算する.

(6)

図3 吹田スコアによる冠動脈疾患発症予測モデル(文献1より引用)

① ~ ⑧ の 合計得点

10年以内の 冠動脈疾患 発症確率

発症確率の範囲 発症確率の

中央値 分  類

最小値 最大値

吹田スコア(

DL Lモデル詳細)

35以下 <1% 1.0% 0.5%

36-40 1% 1.3% 1.9% 1.6% 低リスク

41-45 2% 2.1% 3.1% 2.6%

中リスク

46-50 3% 3.4% 5.0% 4.2%

51-55 5% 5.0% 8.1% 6.6%

56-60 9% 8.9% 13.0% 11.0%

61-65 14% 14.0% 20.6% 17.3% 高リスク

66-70 22% 22.4% 26.7% 24.6%

≧71 >28% 28.1% 28.1%以上

高血圧で現在治療中の場合も現在の数値を入れる.ただし高血圧治療の場合は非治療と比べて同じ血圧値 であれば冠動脈疾患のリスクが高いことを念頭に置いて患者指導をする.禁煙者については非喫煙として扱 う.冠動脈疾患のリスクは禁煙後1年でほぼ半減し,禁煙後15年で非喫煙者と同等になることに留意する.

①年  齢

(歳)

35-44 30

45-54 38

55-64 45

65-69 51

70以上 53

②性  別 男 性 0

女 性 -7

③喫  煙 喫煙有 5

④血  圧

至適血圧   <120かつ<80 -7

正常血圧   120-129かつ/または80-84 0 正常高値血圧 130-139かつ/または 85-89 0 I度高血圧    140-159かつ/または 90-99 4 II度高血圧   160-179かつ/または100-109 6

⑤HDL-C

(mg/dL)

<40 0

40-59 -5

≧60 -6

⑥LDL-C

(mg/dL)

<100 0

100-139 5

140-159 7

160-179 10

≧180 11

⑦耐糖能異常 あり 5

⑧早発性冠動脈疾患家族歴 あり 5

① ~ ⑧ の点数を合計 点

危険因子①~⑧の点数を合算する. (点数)

(7)

を抑制し,LDL-C,TGの低下が期待される.ロ ミタピドがFHホモ接合体に対して投与され,

LDL-C,アポBを約50%減少させた.作用機序か ら予想されるように,胃腸障害(下痢,吐き気,

腹部不快感など)や肝機能障害が認められた が,投与量の調整で継続投与が可能で,我が国 ではFHホモ接合体のみに適応がある.FHホモ接 合体ではLDLを吸着して廃棄するLDLアフェレ シスが必要となる場合が多い.

 FHに対しては,強力なスタチンの最大耐用量

かつ/または小腸コレステロールトランスポー ター阻害薬エゼチミブの併用を行い,難治性の 場合はレジン,プロブコールやPCSK9 阻害薬も 用いる.特に黄色腫を合併するFHでは,黄色腫 を退縮させるためにプロブコールが有効であ る.HDLは組織からのコレステロール引き抜き と肝臓へのコレステロール逆転送におけるコレ ステロール運搬役であるが,プロブコールは HDLによるコレステロール引き抜きやコレステ ロール逆転送系を促進し,HDL-Cを低下させる 表2 脂質異常症治療薬の特性と副作用(文献2より引用)

分類 LDL-C Non-HDL-C TG HDL-C 副作用 主な一般名

スタチン ↓↓~

↓↓↓ ↓↓~

↓↓↓ ー~↑

横紋筋融解症,筋肉痛や脱力 感などミオパチー様症状,肝 障害,認知機能障害,空腹時 血 糖 値 お よ びHbA1c値 の 上 昇,間質性肺炎など

プラバスタチン,

シンバスタチン,

フルバスタチン,

アトルバスタチン,

ピタバスタチン,

ロスバスタチン 小腸コレステロー

ル ト ラ ン ス ポ ー

ター阻害薬 ↓↓ ↓↓

消化器症状,肝障害,CK上昇 

※ワルファリンとの併用で薬 効増強を認めることがあるの で注意が必要である

エゼチミブ

陰イオン交換樹脂 ↓↓ ↓↓

消化器症状 ※ジギタリス,

ワルファリンとの併用ではそ れら薬剤の薬効を減ずること があるので注意が必要である

コレスチミド,

コレスチラミン

プロブコール ↓↓ 可逆性のQT延長や消化器症状

など プロブコール

PCSK9阻害薬 ↓↓↓↓ ↓↓↓↓ ↓~↓↓ ー~↑ 注射部位反応,鼻咽頭炎,胃腸炎,肝障害,CK上昇など エボロクマブ,

アリロクマブ MTP阻害薬※ ↓↓↓ ↓↓↓ ↓↓↓ 肝炎,肝機能障害,胃腸障害 ロミタピド

フィブラート系薬 ↑~↓ ↓↓↓ ↑↑ 横紋筋融解症,胆石症,肝障 害など

ベザフィブラート,

フェノフィブラート,

クリノフィブラート,

クロフィブラート 選択的PPARα

モジュレーター ↑~↓ ↓↓↓ ↑↑ 横紋筋融解症,胆石症など ペマフィブラート

ニコチン酸誘導体 ↓↓ 顔面潮紅や頭痛,肝障害など

ニセリトロール,

ニコモール,

ニコチン酸 トコフェロール n-3系多価不飽和

脂肪酸 消化器症状,出血傾向や発疹

など

イコサペント酸 エチル,オメガ-3 脂肪酸エチル

※ホモFH患者が適応

↓↓↓↓:<_-50% ↓↓↓:-50~30% ↓↓:-20~30% ↓:-10~-20%

↑:10~20% ↑↑:20~30%  -:-10%~10%

HbA1c:hemoglobin A1c,CK:creatine kinase

(8)

が,心血管イベントの二次予防に抑制的効果を 示す可能性が最近示された4)

3)脂質管理目標値

 本GLでは,CADの有無やリスクの程度に応じ た脂質異常症の管理目標値を設定した(表3)1). 一次予防では高リスクではLDL-C 120 mg/dl未 満 と し, 低 リ ス ク・ 中 リ ス ク で は そ れ ぞ れ 160 mg/dl未満,140 mg/dl未満を管理目標値と した.二次予防では生活習慣の改善とともに薬 物療法によりLDL-C 100 mg/dl未満を目標とす るが,100 mg/dl未満の管理が難しい場合には 50%以上のLDL-C低下を目標とすることも可と する.二次予防では,非心原性脳梗塞,末梢動 脈疾患(peripheral arterial disease:PAD),慢性 腎臓病(chronic kidney disease:CKD),メタボ リックシンドロームの合併や主要危険因子の重 複,喫煙の継続がある場合は,よりリスクが高 いと考え,LDL-C 100 mg/dl未満の達成を必須と することが望ましい.さらに,二次予防の中で も,FH, 急 性 冠 症 候 群(acute coronary syn- drome:ACS)を合併する場合にはLDL-C 70 mg/

dl未満,non-HDL-C 100 mg/dl未満を目標とした

より厳格な脂質管理を考慮する.また,二次予 防の糖尿病患者の中でも,他の高リスク病態(非 心原性脳梗塞,PAD,CKD,メタボリックシン ドローム,主要危険因子の重複,喫煙)を合併 するときは再発リスクが高いと考えられ,これ に準じる.脂質異常症の各項目で管理目標値が 設定されているが,LDL-Cの管理目標値の達成 を優先し,達成された場合にnon-HDL-Cの管理 目標値を検討する.LDL-Cに 30 mg/dl追加した 値がnon-HDL-Cの管理目標となる.一方,TGと HDL-Cについては,一次予防でも二次予防でも,

それぞれ 150 mg/dl未満,40 mg/dl以上を目標 として管理することが勧められる.

4. 脂質異常症治療薬の心血管イベント 抑制効果に関する最新のエビデンス  スタチンによる心血管イベントの有意な抑制 効果がメタ解析で証明されており,LDL-C低下 量と主要心血管イベント抑制効果との間には正 相関が認められ,治療中LDL-C値と主要心血管 イベント発症率も正相関する.最近,我が国で もピタバスタチンの低用量(1 mg/日)と高用 表3 リスク区分別脂質管理目標値(文献1より引用)

治療方針の原則 管理区分 脂質管理目標値(mg/dL)

LDL-C Non-HDL-C TG HDL-C 一次予防

まず生活習慣の改善を行った後 薬物療法の適用を考慮する

低リスク <160 <190

<150 ≧40 中リスク <140 <170

高リスク <120 <150 二次予防

生活習慣の是正とともに

薬物治療を考慮する 冠動脈疾患の既往 <100

(<70) <130

(<100)

家族性高コレステロール血症,急性冠症候群の時に考慮する.糖尿病でも他の高リスク病態(文献1の表 1-3b)を合併する時はこれに準ずる.

● 一次予防における管理目標達成の手段は非薬物療法が基本であるが,低リスクにおいてもLDL-Cが180 mg/

dL以上の場合は薬物治療を考慮するとともに,家族性高コレステロール血症の可能性を念頭においておく こと(文献1の第5章参照).

●まずLDL-Cの管理目標値を達成し,その後non-HDL-Cの達成を目指す.

● これらの値はあくまでも到達努力目標値であり,一次予防(低・中リスク)においてはLDL-C低下率20~

30%,二次予防においてはLDL-C低下率50%以上も目標値となり得る.

●高齢者(75歳以上)については文献1の第7章を参照.

(9)

量(4 mg/日)を比較した二次予防試験である REAL-CAD試験4)の対象は,20~80歳の安定CAD の日本人患者で,主要評価項目は心血管死亡,

非致死的心筋梗塞,非致死的虚血性脳卒中,救 急入院を要した不安定性狭心症の複合エンドポ イントとした.主要評価項目の累積イベント発 生リスクは,標準用量群に比べて高用量群で 19%有意に低下した.本試験により,ピタバス タチンの高用量投与の優位性が証明された.無 作為化比較試験でスタチン投与患者を対象とし た報告5)では,主要心血管イベントのハザード 比は治療中LDL-C値 50 mg/dl未満の群で最も低 く,少なくとも二次予防ではLDL-C値は“The lower,the better”と考えられた.

 スタチンに小腸コレステロールトランスポー タ ー 阻 害 薬 の エ ゼ チ ミ ブ を 上 乗 せ し た IMPROVE-IT(Improved Reduction of Outcomes:

Vytorin Efficacy International Trial)試験6)の結果 か ら, ス タ チ ン 以 外 の 薬 剤 に よ っ てLDL-Cを 70 mg/dlから 50 mg/dl程度まで低下させる意 義が確認された.我が国で行われた75歳以上の 高LDL-C血症を有する後期高齢者を対象とした EWTOPIA(Ezetimibe Lipid-Lowering Trial on Prevention of Atherosclerotic Cardiovascular Dis- ease)試験7)では,食事療法単独に対して食事 療法とエゼチミブ併用により,複合脳心血管イ ベント(心突然死,致死性・非致死性心筋梗塞,

冠 血 行 再 建 術(PCI(percutaneous coronary intervention) ま た は CABG(coronary artery bypass grafting)),致死性・非致死性脳卒中)の 有意な抑制が認められた.

 スタチン服用中でLDL-C 70 mg/dl以上の患者 へのPCSK9 阻害薬エボロクマブの追加投与を検 討 し たFOURIER(Further Cardiovascular Out- comes Research with PCSK9 Inhibition in Sub- jects with Elevated Risk)試験8)では,エボロク マブは心血管イベントなどの主要評価項目を 15% 有 意 に 減 少 さ せ,LDL-Cを 92 mg/dlか ら 30 mg/dl程度まで低下させることの有効性も

示された.PCSK9 阻害薬アリロクマブを用いた Odyssey Outcomes試験でもイベント抑制効果 が報告されている.

5.高TG血症の治療

 高TG血症の管理には,従来からのフィブラー ト系薬,ニコチン酸誘導体,n-3 系多価不飽和 脂肪酸の他に,最近上市された新規の作用機序 の薬剤であるSPPARM

α

であるペマフィブラー トも有用である.SPPARM

α

は従来のフィブラー トのようなPPAR

α

agonistで見られる肝機能障 害,血清ホモシステインやクレアチニンの上昇 等の副作用を減らし,TG・レムナント減少や HDL-C増加等の効果が増強されることを目指し ている点で,従来のフィブラートとは全く異な るコンセプトで開発された薬剤である9).ペマ フィブラートは極めて強いPPAR

α

agonist活性 を有し,PPARサブタイプの選択性も非常に高 い.臨床第II相の用量設定試験10)では,ペマフィ ブラート100

μ

g(1日,2回)が投与され,フェ ノフィブラート 100 mg(1 日,1 回)に比し,

よ り 脂 質 改 善 効 果(TG,non-HDL-C,VLDL低 下,HDL-C上昇)は大きかった.また,動脈硬 化惹起性のリポ蛋白の粒子サイズにもより好ま しい影響が認められた.有害事象はプラセボと 同程度で,フェノフィブラートに比べて少な く,薬物副作用も同様であった.フェノフィブ ラートでは血清クレアチニンやホモシステイン の 有 意 な 上 昇 が 認 め ら れ た が,ALT(alanine aminotransferase),

γ

-GTP(

γ

-glutamyl transpep- tidase)は不変であった.これに対し,ペマフィ ブラートでは血清クレアチニンやホモシステイ ンの有意な上昇はなく,肝機能は改善したこと から,NASH/NAFLD(non-alcoholic steatohepa- titis/non-alcoholic fatty liver disease)への有効性 も示唆された.食後高脂血症は動脈硬化惹起性 が強いが,ペマフィブラートは食後高脂血症も 改善したことから,食後高脂血症を合併しやす

(10)

いメタボリックシンドロームや 2 型糖尿病への 有用性も期待される.ペマフィブラートは他の フィブラートと異なって,腎臓で代謝を受けな いことから,腎機能低下症例でも使用できる可 能性があり,また,スタチンとの相互作用もな いことが確認されている.今後,SPPARM

α

とい う新たなコンセプトの薬として,従来のフィブ ラートとは異なった多面的な臨床効果が期待さ れる.現在,高TG血症,低HDL-C血症を合併す る糖尿病患者におけるイベント試験(PROMI- NENT(Pemafibrate to Reduce Cardiovascular Outcomes by Reducing Triglycerides in Patients with Diabetes))が進行中であり,その結果報告 が期待されている.

おわりに

 近年,粥状動脈硬化性疾患の強い危険因子で ある脂質異常症に対する治療は大きく変わって きた.高LDL-C血症に対しては,PCSK9 阻害薬 やMTP阻害薬(FHホモ接合体のみが適応)が上 市され,重症例でもLDL-Cを相当なレベルまで低 下させることができるようになった.高TG血症 に対しても,新たなSPPARM

α

が上市され,その 有効性についても検証されつつある.今後はこ れらの薬剤の長期の安全性や心血管イベント抑 制に及ぼす効果が実証されることが期待される.

著者のCOI(conflicts of interest)開示:山下静也;講演 料(MSD,興和)

文 献

1) 日本動脈硬化学会:動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2017 年版.

2) 日本動脈硬化学会:動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド 2018 年版.

3) Sabatine MS, et al : Efficacy and safety of evolocumab in reducing lipids and cardiovascular events. N Engl J Med 372 : 1500―1509, 2015.

4) Taguchi I, et al : High-dose versus low-dose pitavastatin in Japanese patients with stable coronary artery disease

(REAL-CAD): a randomized superiority trial. Circulation 137 : 1997―2009, 2018.

5) Boekholdt SM, et al : Very low levels of atherogenic lipoproteins and the risk for cardiovascular events : a meta-analysis of statin trials. J Am Coll Cardiol 64 : 485―494, 2014.

6) Cannon CP, et al : Ezetimibe added to statin therapy after acute coronary syndromes. N Engl J Med 372 : 2387―

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7) Ouchi Y, et al : Ezetimibe Lipid-Lowering Trial on Prevention of Atherosclerotic Cardiovascular Disease in 75 or Older(EWTOPIA 75): a randomized, controlled trial. Circulation 140 : 992―1003, 2019.

8) Sabatine MS, et al : Evolocumab and clinical outcomes in patients with cardiovascular disease. N Engl J Med 376 : 1713―1722, 2017.

9) Yamashita S, et al : Clinical applications of a novel selective PPARα modulator, pemafibrate, in dyslipidemia and metabolic diseases. J Atheroscler Thromb 26 : 389―402, 2019.

10) Ishibashi S, et al : Effects of K-877, a novel selective PPARalpha modulator(SPPARMalpha), in dyslipidaemic patients : a randomized, double blind, active- and placebo-controlled, phase 2 trial. Atherosclerosis 249 : 36―43, 2016.

 

参照

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4) American Diabetes Association : Diabetes Care 43(Suppl. 1):

10) Takaya Y, et al : Impact of cardiac rehabilitation on renal function in patients with and without chronic kidney disease after acute myocardial infarction. Circ J 78 :

38) Comi G, et al : European/Canadian multicenter, double-blind, randomized, placebo-controlled study of the effects of glatiramer acetate on magnetic resonance imaging-measured

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