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日本内科学会雑誌第110巻第3号

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Academic year: 2022

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(1)

1.ウイルス性肝硬変

 我が国における肝硬変の原因としては,C型 やB型といった肝炎ウイルスによるものが最も 多い(図 1).肝硬変の診断に関しては,女性化 乳房やくも状血管腫等の身体所見に加えて,さ まざまな生化学的検査をもとに診断するとされ ている.日本消化器病学会の「肝硬変診療ガイ ドライン 2015(改訂第 2 版)」においても,各 種線維化マーカーや計算式が推奨されていた が,今回改訂第 3 版では,これら生化学検査に 加えて,画像診断や組織学的検査を加えること で診断の確度は増加する点などが追加された

(図2)1).肝生検による組織学的診断は確定診断 として昔から有用であることが知られている が,侵襲的であり,出血のリスク及び評価者に よるバイアス等があることから,日常診療で全 てのケースに行うには問題がある.最近にな り,超音波装置を使ったフィブロスキャンや MRI(magnetic resonance imaging)を用いたMR エラストグラフィ等非侵襲的検査の研究が進

み,生検を行わなくとも肝硬変の診断がある程 度の確率で可能となってきたものの,依然とし て,ステージ分類を含めて非肝硬変症例との厳 密な判定は困難であるのが現状である2).肝に おける線維化進展度を正確に評価することは,

肝疾患全体において臨床的に極めて重要なテー マであり,今後,さらなる研究が期待されてい る3)

 診断に加えて,ウイルス性肝硬変の治療も大 きく変貌している.例えば,C型肝炎に対する 抗ウイルス療法は数年前までインターフェロン が中心であり,肝硬変患者では有害事象の問題 等でウイルス排除が困難であったが,直接型抗 ウイルス薬(direct acting antiviral:DAA)の登 場により,肝硬変患者であってもウイルス排除 を目指すことが可能となっている.インター フェロンはうつ病の発症等さまざまな有害事象 があったが,DAAは中止に至るような有害事象 はほとんどなく,高率にC型肝炎ウイルス(hep- atitis C virus:HCV)を排除することが可能であ り,C型肝硬変に対する根本的原因治療は大き

奈良県立医科大学消化器・代謝内科

Programs for Continuing Medical Education:A session;3. Liver cirrhosis:recent of diagnosis and therapies.

Hitoshi Yoshiji:Department of Gastroenterology, Nara Medical University, Japan.

肝硬変:最新の診断と治療

吉治 仁志 Key words 肝硬変,診断,治療,ガイドライン

(2)

く一変した.最近では,代償性肝硬変に加えて,

非代償性肝硬変に対してもDAAが認可され,

HCVの排除と共に一定の割合で肝予備能が代償 期へ改善する症例が報告されており,予後改善 への貢献が期待されている4).一方で,治療後 に重度の感染症や静脈瘤出血等を生じることが あり,治療適応は肝臓専門医により適切に判断 されるべきである.

 B型肝硬変患者に対しても,核酸アナログが 登場してから,生命予後は著しく改善してい る.初期の核酸アナログ製剤は薬剤耐性が生じ やすかったが,最近の薬剤はほとんど薬剤耐性 がみられず,肝発癌の抑制効果や肝予備能の改 善に伴う予後の延長効果が報告されている.肝 硬変症例ではALT/AST(alanine aminotransfer- ase/aspartate aminotransferase)等が正常範囲で あり,一見,肝機能障害の所見が乏しく見える ことがあるが,全症例に核酸アナログの投与が 提唱されていることから,早期に専門医へ紹介 することが望ましい.また,B型肝炎において は再活性化問題が注目されている.これは抗癌

薬や生物学的製剤を用いた後に肝組織中に存在 していたB型肝炎ウイルスが再活性化して肝炎 を引き起こすものである.通常の急性肝炎に比 して劇症化率は高く,劇症化した場合はほぼ全 例で死亡することから,ガイドラインに沿った スクリーニングが必要である.スクリーニング せずに治療を開始した後に重篤な肝炎を発症し た場合は訴訟になることが多く,ステロイド治 療でも発症することがあることから,非専門医 であっても留意すべき事項と考える.

2.非ウイルス性肝硬変

 肝硬変の成因も時代と共に大きく変化してい る.日本肝臓学会による2018年の5万例以上の 全国集計では,約 4 割が非ウイルス性肝硬変で あることが明らかとなっている.これら非ウイ ルス性肝硬変のうち,多くはアルコール性肝硬 変 と 非 ア ル コ ー ル 性 脂 肪 肝 炎(non-alcoholic steatohepatitis:NASH)によるものとされてい る5).非ウイルス性肝硬変のうち多くを占める 図1 肝硬変の成因の変遷

HBV:hepatitis B virus,HCV:hepatitis C virus

HBV HCV アルコール その他

0% 20% 40% 60% 80% 100%

n=50,903

n=20,179 n=26,293 2018

2014

第54回日本肝臓学会総会(大阪 西口修平)全国集計による(2018年)

第50回日本肝臓学会総会(東京 泉 並木)全国集計による(2014年)

第44回日本肝臓学会総会(松山 恩地森一)全国集計による(2008年)

2008

49.2

11.8 0.8 19.4 2.73.3 5.8 7.1

53.3

12.4 0.8 17.6 1.8 10.6

60.2

13.1 1.1 14.8 4.22.24.5

3.4

(3)

アルコール性肝硬変に対しても,診断や治療の 概念等が変化しつつある.常酒飲酒家は実際よ りも飲酒量を少なく申告することが多く,飲酒 量を適切に診断し得るマーカーが必要とされて いる.欧米で飲酒マーカーとして幅広く使用さ れている糖鎖欠損トランスフェリン(carbohy- drate-deficient transferrin:CDT) が 2016 年 に ALD(alcoholic liver disease)マーカーとして国 内で初めて体外診断用医薬品として承認され,

国内でも広く使用されることが期待されてい る.断酒はアルコール性臓器障害治療の根幹で あり,その代表格であるAL-LC(alcoholic-liver cirrhosis)の病態や長期予後改善には必須であ る6).しかし,依存的な要素が大きく,断酒が 困難である場合も多い.薬物治療では,2019年 1 月に飲酒量低減薬としてナルメフェンが認可 され,断酒を必要とする患者の中間目標として 減酒を設定することでハームリダクションへの 新たな選択肢が示されている.現時点では,一 定の講習を受けた精神科医のみが処方可能な状

況であり,今後,一定の基準をクリアした内科 医が臨床で使用できる方向に進むことが期待さ れる.

 食生活の欧米化に伴い,本邦でも欧米諸国と 同様に肥満の頻度が急増しており,同時に健康 診断における脂肪肝等の肝機能異常の増加が大 きな問題となっている.そのなかで,NASHとい う,脂肪性肝炎から肝硬変,さらには肝細胞癌 へと進展し得る予後不良な病態が含まれている ことが明らかになり,その病態生理や治療法が 精力的に研究されている.インスリン抵抗性や 各種アディポカイン,さらには,インスリン抵 抗性等さまざまな環境因子に加えて,遺伝子多 型(SNP(single nucleotide polymorphism))と いった遺伝的因子が複雑に相互作用しながら病 態が進行するという“multiple hit theory”が有 力であるが,現在も詳細なメカニズムは未だ不 明である7).NASH患者の予後は肝線維化である ことが報告されており,現在,世界中で抗線維 化を目的とした多くの臨床試験が行われている 図2 肝硬変の診断フローチャート

(日本消化器病学会・日本肝臓学会編:肝硬変診療ガイドライン2020,南江堂より)

:保険適応外

CT:computed tomography,P-III-P:procollagen-3-peptide,M2BPGi:macrophage galactose-specific lectin-2 binding protein glycosylation isomer,FIB-4:Fibrosis-4,APRI:aspartate aminotransferase to platelet ratio index

生化学的検査(いずれでも可)

①単一の検査  ヒアルロン酸  Ⅳ型コラーゲン・7S  P-Ⅲ-P

 M2BPGi  オートタキシン

②スコアリングシステム  FIB-4

 APRI  Hepascore  C型肝硬変の判別式  など  

リスク群 身体所見 本人 B型肝炎

 C型肝炎  飲酒 輸血  肥満 糖尿病  肝機能異常  など家族  肝疾患歴  吐血歴 など

酒皶手掌紅斑 クモ状血管腫 女性化乳房 黄疸脾腫大 腹水肝左葉腫大 腹壁静脈怒張 下腿浮腫瘙痒感 など  

F4の線維化

画像診断・組織学的診断 腹部超音波,

腹部CT,MRI

上部消化管内視鏡検査

(食道胃静脈瘤)

超音波 elastography

(MR elastography 肝生検

(4)

が,日常診療の現場で使えるようになるまでは しばらく時間を要すると思われる.これらの新 規薬剤が一般的に使われるようになるまでの 間,安全性が確認されている既存薬剤等を組み 合わせることによる肝線維化抑制の可能性も臨 床現場における重要なアプローチと考えられ る8)

 日本消化器病学会から「NAFLD/NASH診療ガ イドライン」,日本肝臓学会から「NAFLD/NASH 診療ガイドライン」が出版されているが,既存 薬剤を用いた治療アルゴリズムはほぼ同じであ る.改訂第2版が2020年に発行されたが,前回 までと同様に,まずNASHと診断された場合は,

減量に向けた生活習慣指導が原則である.線維 化を改善させるためには 10%の体重減少が必 要であるが,NASHの改善には7%の改善で認め られるため,7%の減量を目標として食事指導

や運動療法を進めていく(図 3).しかし,生活 指導で目標の体重減少を達成できる割合は高く なく,多くの症例では薬物治療による介入が必 要となることが多い.薬物治療に関しては,各 種合併症に応じた薬剤が選択される.糖尿病合 併症に対しては,NASHの発症基盤であるインス リン抵抗性を改善させるチアゾリジン系薬剤が 推奨されている.メトホルミンは,海外での臨 床試験で線維化改善効果がみられなかったこと から,ガイドラインでは推奨されていないが,

症例によっては非常に有効であるため,個々の 症例に応じて調節する.最近の薬剤として,

GLP-1(glucagon-like peptide-1)受容体作動薬 やSGLT2(sodium glucose cotransporter 2)阻害 薬のNASHに対する有効性が報告されている.今 後,前向き試験等での大規模研究の結果が期待 されている.なお,GLP-1 受容体作動薬は経口 図3 NASHの治療アルゴリズム

(日本消化器病学会・日本肝臓学会編:NAFLD/NASH診療ガイドライン2020,南江堂より)

NAFLD:non-alcoholic fatty liver disease,NAFL:non-alcoholic fatty liver なし

なし あり

ビタミンE 脂質異常症

2型糖尿病

(インスリン抵抗性)

基礎疾患の有無 鑑別診断(肝生検) 

高血圧 ACE阻害剤ARB ピオグリタゾン スタチン

GLP-1アゴニスト SGLT2阻害剤 治療継続

外科療法

食事・運動療法 による減量 生活習慣の改善,

基礎疾患・合併症の治療

NASH

効果不十分

(目標7%以上)減量達成

肥満

高度の肥満 

NAFL

NAFLD

あり

(5)

薬が最近上市されたこともあり,患者のコンプ ライアンス向上が期待されている.現在,我が 国の糖尿病治療薬として最も多く使われてお り,インクレチンに関してGLP-1 と類似の機序 を有するDPP-4(dipeptidyl peptidase-4)阻害薬 に関しては,NASHに対する評価が一定しないも のの,基礎的検討では線維化抑制効果や発癌抑 制作用が報告されており,今後,さらなる検討 が期待されている.脂質異常症の合併例では,

スタチン系の薬剤の有用性が報告されている.

また,SGLT2 阻害薬は心不全にも保険適用が拡 大されており,合併症を有する患者等に広く使 用できるようになることが期待される.一方,

前回のガイドラインではエゼチミブが推奨され ていたが,最近の臨床試験の結果等から,線維 化改善効果はみられておらず,次回改訂では推 奨薬剤から外れる予定である.NASH患者では高 血圧を合併していることが多く,報告により差 があるが,約60%の患者が高血圧を合併してい るとされている.降圧薬でACE(angiotensin-con- verting enzyme) 阻 害 薬 やARB(angiotensin II receptor blocker)は基礎的にも強い抗線維化作 用が報告されている9). 臨床例においても,

NASHやC型肝炎において線維化抑制効果がメ タ解析で報告されており,高血圧合併例におい て投与が推奨されている.最近の報告で,膵癌

治療において抗癌薬治療にARBを併用すること で治療効果と予後の改善が示されたこともあ り,今後の検討が期待される.

おわりに

 肝硬変は慢性肝疾患の終末像として知られて おり,以前は不可逆性と考えられていたが,近 年の研究から,適切な治療を行うことにより,

可逆的に線維化が改善することが明らかにされ ている.身体障害者手帳の発行も以前はChild- Pugh分類でCの患者しか適応となっていなかっ たが,Child-Pugh分類Bの症例まで抵抗範囲が拡 大され,より多くの患者が恩恵を受けられるよ うに制度的にも改善がみられている.我が国の 肝硬変患者も大きく様変わりしており,肥満や 生活習慣病を有する非ウイルス性肝硬変が増加 していることから,症例に応じた適切なマネジ メントが必要となっている.本稿では,明日の 診療から役に立つことに主眼を置き,最近増加 が著しいNASHを中心に,診断・治療のポイント や最新の治療について診療ガイドラインを踏ま えながら解説した.

著者のCOI(conflicts of interest)開示:本論文発表内容 に関連して特に申告なし

文 献

1) 日本消化器病学会,日本肝臓学会編:肝硬変診療ガイドライン 2020(改訂第 3 版).2020.

2) 吉治仁志:慢性肝疾患の最新治療と臨床検査.臨病理 64 : 1065―1071, 2016.

3) 吉治仁志:肝硬変診療のup to date.日消誌 114 : 8―19, 2017.

4) Takehara T, et al : Efficacy and safety of sofosbuvir-velpatasvir with or without ribavirin in HCV-infected Japa- nese patients with decompensated cirrhosis : an open-label phase 3 trial. J Gastroenterol 54 : 87―95, 2019.

5) 鍛治孝祐,吉治仁志:ウイルス性肝炎克服時代の慢性肝疾患―NASHとアルコール性肝障害の現状―.日内会誌  107 : 57―63, 2018.

6) 佐藤慎哉,他:アルコール性肝硬変.肝胆膵 76 : 77―84, 2018.

7) 吉治仁志:NASHと線維化・発癌.メディカル・ビュー・ポイント 37 : 3―4, 2016.

8) 赤羽たけみ,吉治仁志:世界の診療ガイドラインの現状.カレントテラピー 37 : 36―41, 2019.

9) Yoshiji H, Fukui H : Renin-angiotensin system and progression of chronic liver diseases. J Gastroenterol 41 : 1020―1022, 2006.

 

参照

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