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日本内科学会雑誌第109巻第4号

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Academic year: 2022

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(1)

はじめに

 低カルシウム(Ca)血症は,軽症のものを含 めると,日常診療において比較的よく経験され る電解質異常である.軽症例での症状は筋肉の こわばり程度であるが,重症例では全身痙攣や 意識喪失を来たす.抑うつや不安等の精神症状 を伴う場合もあり,精神疾患やてんかんと誤診 されやすい.必ずしも特異的な身体所見を示さ ないことから,血液検査によってはじめて気付 かれることが多い.従って,低Ca血症に伴う自 覚症状を疑う場合やCK(creatine kinase)高値 等の検査異常値を有する例,低Ca血症の存在が 疑われる疾患や薬剤使用例には,積極的に血清 Ca値を測定することが望まれる.本稿では,低 Ca血症を来たす内分泌疾患を中心に概説する.

1.病態

 血清Ca濃度は,副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone:PTH)や活性型ビタミンD[1,25水酸 化ビタミンD]等により,厳密にコントロールさ れていることから,軽度であっても血清Ca値が 異常値を示した場合は,何らかのCa代謝調節機 構の異常が存在することを想起する必要があ る.血清Ca濃度の低下は,副甲状腺に存在する カルシウム感知受容体(Ca-sensing receptor:

CaSR)によって感知され,PTH分泌を生じる.

PTHは,骨吸収促進による骨からのCa動員の増 加と,腎遠位尿細管からのCa再吸収の亢進,さ らに,腎近位尿細管での活性型ビタミンD合成の 促進と,それに伴う腸管からのCa吸収の増加に より,血中Ca濃度を上昇させる.このCa調節機 構のいずれかに異常を来たした場合に低Ca血症 を来たす.よって,低Ca血症の原因は,PTH作

低カルシウム血症と内分泌疾患

要 旨

山内 美香  低カルシウム(Ca)血症は,特異的な自覚症状に乏しいことから,測

定するまで気付かれないことが多い.血清Ca値は厳密に調節されている ため,軽度の異常でもCa代謝調節機構の異常を考えるべきである.Ca,

P,Alb,Cr,Mg,PTH,25(OH)D,1,25(OH)2D値等の測定により 鑑別診断を行う.PTH(parathyroid hormone)値から原因が副甲状腺か 否かを判断し,頻度の多い原因を念頭に鑑別する.低Ca血症の治療は活 性型ビタミンD製剤による治療が主となる.

〔日内会誌 109:733~739,2020〕

Key words 低カルシウム血症,副甲状腺機能低下症,副甲状腺ホルモン(PTH),

ビタミンD,マグネシウム

島根大学内科学講座内科学第一

Endocrine Diseases and Electrolyte Disorders. Topics:V. Hypocalcemia and endocrine diseases.

Mika Yamauchi:Internal Medicine 1, Shimane University Faculty of Medicine, Japan.

Ⅴ. 低カルシウム血症と内分泌疾患 トピックス

(2)

用不全によるもの,ビタミンD作用不全によるも の,そして,これら以外に大別される(表 1).

2.PTH作用不全による低Ca血症

 PTH作用不全は,PTH分泌低下によるPTH不 足性とPTHの不応性に分類される.

1)PTH不足性副甲状腺機能低下症

 PTH分泌の低下により低Ca血症を来たすPTH 不足性副甲状腺機能低下症の病因として最も多 いのは,甲状腺癌をはじめとする頸部手術であ る1).放射線照射や癌の浸潤,ヘモクロマトー シスや肉芽腫性疾患等も二次性に副甲状腺機能 低下症を来たす場合がある2)

 その他,副甲状腺発生異常やPTH分泌障害を 惹起する遺伝子異常等多様である2,3).副甲状腺 機 能 低 下 症 を 来 た す 遺 伝 性 疾 患 と し て は,

22q11.2 欠失症候群(DiGeorge症候群)の発生 頻度が最も高く,4,000~6,000 人に 1 人とされ る.TBX1が原因と考えられており,心奇形と特 徴的な顔貌を伴う.副甲状腺の発生障害による 副甲状腺機能低下症であり,胸腺の発生障害も 有する場合は免疫不全を伴う.

 一方,PTH,CaSR,GNA11異常はPTHの合成 や分泌の障害を来たし,主に副甲状腺機能低下 症のみを認める(表1).常染色体優性低カルシ ウム血症(autosomal dominant hypocalcemia:

ADH)の原因の 1 つがCaSR異常であり,CaSRの 活性型変異では,低いCa濃度でPTH分泌が抑制 されるため,PTH分泌不全による副甲状腺機能 低下症に類似の病態を示す.つまり,低Ca血症 が存在してもCaSRが適切に感知できず,副甲状 腺からPTHが分泌されない.ADHではヘンレ上 行脚に発現するCaSRも活性化されているため,

低Ca血症にもかかわらず,尿中Ca排泄が相対的 に多いことが特徴である.ADHの場合,家族の 検査が有用であるが,de novo変異による孤発例 もあり,家族歴のみでは鑑別できない.

 ADHと同様の臨床症状を示すがCaSRに異常 を認めない症例のごく一部に,CaSRに対する刺 激型抗体に起因する例が存在することが報告さ れている4)

 近年,免疫チェックポイント阻害薬による免 疫関連有害事象の 1 つとして内分泌障害が注目 されており,甲状腺機能異常や下垂体炎に伴う 下垂体機能低下症,1 型糖尿病等を来たすこと がある.極めて稀であるが,副甲状腺機能低下 症についても報告されており5),その原因とし ては,自己免疫的な副甲状腺の破壊あるいは CaSRに対する刺激型抗体による機序が考えら れている.前者は不可逆的な副甲状腺機能低下 症を来たすが,後者は可逆的である可能性が考 えられている.

 副甲状腺機能低下症,Addison病ならびに慢性 粘膜カンジダ症を 3 主徴とする自己免疫性多内 分泌腺症候群(autoimmune polyendocrine syn- drome:APS)1型は,AIREの機能喪失型変異に 起因する.北欧等では,本疾患による副甲状腺機 能低下症が多いが,我が国では極めて稀である.

 低Ca血症を来たす原因として比較的多いの が低Mg血症である.MgはPTH分泌やPTH作用の 発現に必須であり,血清Mgが 1.0 mg/dl未満の 高度の低Mg血症例では,PTH分泌低下型を呈す ることが多い.ただし,PTH作用障害が主とな り,血中PTHが高値となる例もある.遺伝子異 常に伴う低Mg血症は極めて稀であるが,シスプ ラチン等の白金製剤やアミノグリコシド等の薬 剤投与時や,アルコール中毒による低Mg血症は 臨床上しばしば経験される.低Mg血症に伴う低 Ca血症の場合は,低K血症を伴うことが多く,

これらが併存する場合は低Mg血症を想起する.

2)偽性副甲状腺機能低下症

 偽性副甲状腺機能低下症(pseudohypopara- thyroidism)は,PTH受容体の異常によるPTH作 用障害であり,PTHが高値にもかかわらず,低 Ca血症を示す6).PTHは近位尿細管のPTH受容体

(3)

に作用し,Gsαを介してcAMP(cyclic adenosine monophosphate)を増加させ,P利尿をもたら す.偽性副甲状腺機能低下症に関して,このGsα をコードするGNAS1変異や組織特異的インプリ ンティング(刷り込み)等病因・遺伝様式が解 明されてきている.偽性副甲状腺機能低下症Ia 型では,円形顔貌,低身長,中手・中足骨短縮 ならびに皮下骨腫等を認め,この徴候はAlbright 遺伝性骨異栄養症(Albright hereditary osteodys- trophy:AHO)と呼ばれる.偽性副甲状腺機能

低下症Ib型はAHOを有さない.一方,Ic型,そ して,II型については,尿細管障害を伴う例が 多く,独立した疾患単位であるか否か疑問視さ れている.

3.ビタミンDに関連した低Ca血症

 ビタミンD欠乏及び作用不全の場合も,低Ca 血症且つPTH高値を示す.この時のPは 3.5 mg/

dl未満で,尿中Ca排泄が 200 mg/日未満,ALP 表1 低Ca血症を来たす原因(著者作成)

PTH P その他の検査値 PTH作用不全による低Ca血症

PTH不足性

副甲状腺形成の異常

22q11.2欠失症候群(DiGeorge症候群1型)等 副甲状腺におけるPTH合成・分泌の異常

PTH遺伝子異常

常染色体優性低Ca血症

CaSR活性型自己抗体

低Mg血症(白金製剤,アミノグリコシド等)

(→↑) ↑ Mg↓ K↓

副甲状腺の破壊

術後性(頸部手術),放射線照射,癌の浸潤,ヘ

モクロマトーシス,肉芽腫性疾患,熱傷後 等

自己免疫性多内分泌腺症候群1型

免疫チェックポイント阻害薬(?)

PTH不応性

PTH受容体異常

偽性副甲状腺機能低下症

低Mg血症(白金製剤,アミノグリコシド等)

(→↓) ↑ Mg↓ K↓

ビタミンD作用不全による低Ca血症

ビタミンD欠乏 ビタミンD欠乏 25(OH)D↓

ビタミンD活性化障害 慢性腎臓病 ↑ 1,25(OH)2D↓

ビタミンD依存症1型 ↓ 1,25(OH)2D↓

不応性 ビタミンD依存症2型 等 ↓ 1,25(OH)2D↑

その他

Caの沈着

飢餓骨症候群

骨形成性骨転移

薬剤性(抗RANKL抗体,ビスホスホネート製剤等)

急性膵炎 等

Caの排泄亢進 腎性高Ca尿症 尿中Ca排泄↑

(4)

(alkaline phosphatase)の高値を認め,くる病あ るいは骨軟化症の所見を伴う.ALP高値は骨型 ALPの上昇に起因する.

 ビタミンD欠乏は,日光照射不足,ビタミンD 摂取不足ならびに消化管の吸収障害等により生 じ,25 位水酸化ビタミンD[25(OH)D]が低 値を示す.ビタミンD欠乏に伴う低Ca血症は小 児で来たしやすく,重度の場合は,成人でも低 Ca血症の原因となる.菜食主義者や日光忌避,

胃切除術後例等で来たしやすい.一方,抗けい れん薬はビタミンD不活性化酵素を誘導し,25

(OH)D低値を来たす.

 ビタミンDの活性化障害によって低Ca血症を 来たす要因で最も多いのは,慢性腎臓病であ る.遺伝性疾患では,ビタミンD活性化酵素で ある 1α水酸化酵素の遺伝子異常により生じる

(ビタミンD依存症 1 型).これらの場合,低Ca 血症,低P血症が存在するにもかかわらず,1,25

(OH)2Dが相対的低値を示す.ビタミンD不応症 は,ビタミンD受容体の遺伝子変異によりもた らされ,ビタミンD依存症2型と称される.この 場合,1,25(OH)2Dは著明高値を示す.最近,

25 位水酸化酵素の遺伝子異常や,ビタミンD不 活性化酵素の遺伝子の活性型変異によるビタミ ンD依存症も報告されている.

4.その他

 主に原発性副甲状腺機能亢進症の術後にみら れるhungry bone(飢餓骨)症候群では,血中Ca が骨に急速に取り込まれることにより低Ca血 症を来たす.

 薬剤性の低Ca血症としては,抗RANKL(recep- tor activator of NF-κB ligand)抗体であるデノス マブや,癌の骨病変に対する治療として使用さ れるビスホスホネート製剤の点滴投与による著 明な骨吸収抑制により低Ca血症を来たすこと がある.デノスマブによる低Ca血症は腎機能低 下例で生じやすく,定期的なCa値の評価を要す

る.骨粗鬆症治療薬である抗スクレロスチン抗 体のロモソズマブについても,稀ではあるが,

低Ca血症を来たすことが報告されている.これ らの薬剤の使用時は,天然型ビタミンDや,腎 機能低下例では活性型ビタミンD製剤によりビ タミンDを充足させておくことが重要である.

5.診断

 低Ca血症では,全身痙攣,テタニーならびに 口周囲や手足のしびれ等の感覚異常のほか,抑 うつや不安等の精神症状を伴う場合もあり,精 神疾患やてんかんと誤診されやすい.軽症例で は筋肉のこわばり程度で,無症状であることが 多い.また,低Ca血症が長期に亘る場合は,血 清Ca値が 6 mg/dl台と著明な低Ca血症であって も,無症状の場合や症状に気付いていないこと も多く,遺伝性疾患であっても成人になってか ら診断されることもある.低Ca血症では,筋痙 攣により筋肉由来酵素が高値を示すため,原因 不明のCKやLD(lactate dehydrogenase)高値で は低Ca血症を疑う必要がある.

 身体所見上は,Chvostek徴候(耳介前方の顔 面神経走行部を打腱器で軽く叩くと口輪筋や眼 輪筋が収縮)や,Trousseau徴候(マンシェット で上腕を圧迫すると助産師手位が出現)を認め る.低Ca血症はQTc延長を来たすことから,心 電図でのQTc延長も日常診療で低Ca血症を疑う べき所見の1つである.また,頭部CT(computed tomography)における大脳基底核の石灰化は,

低Ca血症が長期に亘り存在することを示唆す る所見である.

 厚生労働省難治性疾患克服研究事業ホルモン 受容機構異常に関する調査研究班は,低Ca血症 の鑑別診断指針を提示している(図)3).血清Ca の約50%はイオン化Caとして存在し,残りは主 にAlbと結合しているため,低Alb血症の場合,

血清Caは見かけ上低値を示す.よって,イオン 化Ca濃度をより反映する補正Caを算出する.血

(5)

清Albが4 g/dl未満の時,補正Ca=測定Ca+[4-

Alb]で計算できる.補正Ca 8.5 mg/dl未満を低 Ca血症とする.

 低Ca血 症 の 場 合,P 3.5 mg/dl以 上 でeGFR

(estimated glomerular filtration rate)30 ml/

分/1.73 m2以上と腎機能低下がなく,intact PTH 30 pg/ml未満が認められれば,PTH不足性副甲 状腺機能低下症と診断できる3)(図).PTH不足 性副甲状腺機能低下症の病因の鑑別は,臨床像 のみでは困難であり,遺伝子診断が有用とな る.一方,30 pg/ml以上では,偽性副甲状腺機 能低下症やビタミンD欠乏の鑑別を要する.

 副甲状腺機能低下症は,厚生労働省の指定難 病の対象疾患の1つに挙げられている(https://

www.nanbyou.or.jp/entry/4427).指定難病にお

ける副甲状腺機能低下症の診断基準では,表 2 のA(症状)のうち 1 項目以上+B(検査所見)

のうち3項目を満たすものをdefinite,Bのうち3 項目を満たすものをprobable,Bのうち 1 と 3 を 満たすものをpossibleと診断する(表 2).この うち,definite,probableと診断され,重症度分 類で中等症(低Ca血症を認め,しびれ等の感覚 異常を認め,日常生活に支障がある)以上のも のが指定難病の対象となる.ただし,頸部手術 後等二次性の副甲状腺機能低下症や低Mg血症 によるもの等除外項目に該当する場合を除く.

6.治療

 顕著な低Ca血症を示し,痙攣やテタニー発作 図 厚生労働省 特定疾患 ホルモン受容機構異常に関する研究班による低Ca血症の鑑別診断指針(文献3より引用)

1)乳児では5.5 mg/dl,小児では4.5 mg/dlを用いる.

2)小児では4 mg/kg/dayを用いる.

3) 特に小児では,血清25(OH)Dが15 ng/mlを超えていても,ビタミンD欠乏が否定できない場合がある.こ のような場合には,まずビタミンDの補充が薦められる.

4)副甲状腺手術後の飢餓骨症候群,骨形成性骨転移,急性膵炎,ビスホスホネートなどの薬剤が含まれる.

5) 報告されている偽性副甲状腺機能低下症Ⅱ型患者には,尿細管障害を伴う例や抗痙攣薬による治療中の例が 含まれている.これらのCa代謝に影響する原因を有さない,偽性副甲状腺機能低下症Ⅱ型患者が存在するか どうかは明らかではない.

6)クエン酸などのキレート剤は,総Ca濃度を変化させずにイオン化Ca濃度を低下させる.

低Ca血症

血清リン

糸球体濾過率

Intact PTH 尿中Ca排泄

腎性高Ca尿症

Ca沈着,薬剤4)

25(OH)D

ビタミンD

欠乏 ビタミンD

依存症Ⅰ型 ビタミンD 依存症Ⅱ型 1,25(OH)2D

Ellsworth-Howard 試験でのcAMP

排泄亢進 PTH不足性

副甲状腺機能低下症 偽性副甲状腺 機能低下症

Ⅰ型

Ⅰa型 Ⅰb型

偽性副甲状腺5)

機能低下症

Ⅱ型 くる病/骨軟化症所見

<3.5 mg/dl1)

慢性腎不全

3.5 mg/dl1)

30 ml/min/1.73 m2 200 mg/day2)

<200 mg/day2)

<15 ng/ml3) 15 ng/ml≦

<60 pg/ml

<30 pg/ml

60 pg/ml≦

30 pg/ml≦

<30 ml/min/1.73 m2

血清Caが8.5 mg/dl未満の場合を,低Ca血症とする.

血清アルブミンが4.0 g/dl未満の場合には,以下の式に よる補正Ca値を用いる.

補正Ca(mg/dl)=測定Ca(mg/dl)+4-Alb(g/dl)6)

(6)

が頻発する状態では,8.5%グルコン酸Ca 10 ml を 10 分以上かけて静注する.改善しない場合 は,8.5%グルコン酸Ca(Ca 7.85 mg/ml含有)

を5%ブドウ糖に添加し,8~10時間の間に0.5

~1.5 mg/kg/時で点滴静注を行う7).急速な静 脈内投与は,房室ブロックや心停止等を誘発す る可能性があるため,心電図と血清Caを1~4時 間毎に測定しつつ,緩徐に是正する.

 急性期を脱すれば,早急に標準的治療法であ る活性型ビタミンDの経口投与に切り替える.

活性型ビタミンDに対する反応性には病型によ

る差や個体差があるため,少量から開始し,漸 増しながら至適用量を決める.治療の目的は,

低Ca血症を改善し,それに伴うテタニー等の症 状が出現しない程度に維持することである.目 標としては,血清Caを 7.8~8.5 mg/ml程度2), 尿 中Ca/尿 中Cr比 を 0.3 以 下1,8),Ca×P積 を 55 mg2/dl2以下に保つ7).Ca製剤の併用は,血 中・尿中Caの大幅な変動を来たしやすく,通常 十分量の活性型ビタミンDが投与されれば必要 ない場合が多い.また,CaSR活性型変異例では 高Ca尿症を惹起しやすく,より低いCa値に維持 表2 厚生労働省指定難病における副甲状腺機能低下症の診断基準(https://www.nanbyou.or.jp/entry/4427より引用)

<診断基準>

副甲状腺機能低下症の診断基準でDefinite,Probableとされたものを対象とする.

ただし,二次性副甲状腺機能低下症,マグネシウム補充により治癒する場合を除く.

副甲状腺機能低下症の診断基準 A.症状

1.口周囲や手足などのしびれ,錯感覚 2.テタニー

3.全身痙攣 B.検査所見

1.低カルシウム血症,かつ正又は高リン血症 2.eGFR 30 ml/min/1.73 m2以上

3.Intact PTH 30 pg/ml未満

<診断のカテゴリー>

Definite:Aのうち1項目以上+Bのうち3項目を満たすもの.

Probable:Bのうち3項目を満たすもの.

Possible:Bのうち1と3を満たすもの.

<除外項目>

1.二次性副甲状腺機能低下症

二次性に副甲状腺機能低下を来す疾患は以下のとおり.

・頚部手術後

・放射線照射後

・悪性腫瘍の浸潤

・肉芽腫性疾患

・ヘモクロマトーシス

・ウィルソン病

・母体の原発性副甲状腺機能亢進症(新生児・一過性)

2.マグネシウム補充により治癒する場合

低マグネシウム血症を認める場合には硫酸マグネシウム等による補充を行い,低マグネシウム血症の改善に伴い 低カルシウム血症が消失する場合には,低マグネシウム血症に対する治療を継続する.

(7)

せざるを得ない場合もある.

 PTH不足性副甲状腺機能低下症に対する活性 型ビタミンDによる治療は,病因に基づく治療 法とは言えず,本来はPTH自体の補充が望まれ る.副甲状腺機能低下症は,唯一,不足ホルモ ンの補充療法が行われていない疾患である.本 邦で骨粗鬆症治療に使用されているのは遺伝子 組換えヒトPTH[rhPTH](1-34)であるが,ヒ トPTHと分子構造が同じrhPTH(1-84)が副甲 状腺機能低下症の治療薬として米国や欧州で承 認された.rhPTH(1-84)の1日1回皮下投与に より,活性型ビタミンD投与量の低下,尿中Ca 排泄の低下,Pの低下ならびにCa×P積の低下が 報告されており9),異所性石灰化や腎機能低下 の防止効果が期待されている.PTH補充はより 生理的状況に近づいた治療法であり,QOL(qual- ity of life)改善効果や,骨代謝への好影響も期 待されている.現在,本邦においても,rhPTH の臨床使用に向けた検討が進められている.

 低Mg血症による低Ca血症の場合,Ca製剤や 活性型ビタミンD製剤では改善しない.この場 合,硫酸Mg溶液 20 mlを 5%ブドウ糖液 500 ml に溶解し,4~8時間で投与する.急性期を過ぎ れば酸化Mg等の内服投与とする.

おわりに

 低Ca血症は気付かれていない場合が多く,慢 性腎臓病や原発性骨粗鬆症の診断時,CKやALP 高値例等では,血清Ca値の測定を行っておく必 要がある.血清Ca濃度は厳密にコントロールさ れていることから,軽度であっても異常値を示 した場合は,鑑別診断を行い,適切な治療に結 び付ける必要がある.

著者のCOI(conflicts of interest)開示:山内美香;講演 料(中外製薬)

文 献

1) 日本内分泌学会編:副甲状腺機能低下症,内分泌代謝科専門医研修ガイドブック.診断と治療社,東京,2018, 361―

362.

2) Gafni RI, Collins MT : Hypoparathyroidism. N Engl J Med 380 : 1738―1747, 2019.

3) Fukumoto S, et al : Causes and differential diagnosis of hypocalcemia - recommendation proposed by expert panel supported by ministry of health, labour and welfare, Japan. Endocr J 55 : 787―794, 2008.

4) Makita N, et al : An acquired hypocalciuric hypercalcemia autoantibody induces allosteric transition among active human Ca-sensing receptor conformations. Proc Natl Acad Sci USA 104 : 5443―5448, 2007.

5) Win MA, et al : Acute symptomatic hypocalcemia from immune checkpoint therapy-induced hypoparathyroid- ism. Am J Emerg Med 35 : 1039 e1035―1039 e1037, 2017.

6) 日本内分泌学会編:先天性副甲状腺機能低下症(偽性を含む),内分泌代謝科専門医研修ガイドブック.診断と治療 社,東京,2018, 363―365.

7) Brandi ML, et al : Management of Hypoparathyroidism : Summary Statement and Guidelines. J Clin Endocrinol Metab 101 : 2273―2283, 2016.

8) 厚生省特定疾患ホルモン受容機構異常調査研究班:平成 4 年度総括研究事業報告書.1993.

9) Tay YD, et al : Therapy of hypoparathyroidism with rhPTH (1-84): a prospective, 8-year investigation of effi- cacy and safety. J Clin Endocrinol Metab 104 : 5601―5610, 2019.

 

参照

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