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博士(農学)江澤辰広 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(農学)江澤辰広 学位論文題名

Phosphatese Specific to Arbuscular Mycorrhizal Symbiosis

、  (Arbuscular菌根 菌共生系に特異的なホスファ夕一ゼ)

学位論文内容の要旨

  Arbuscular菌根菌(arbuscular mycorrhizal fungi)は接合菌類Glomale目に属する糸 状菌で、世界中の自然土壌および農耕地土壌に広く分布している。この菌が根に共生 し、菌根(mycorrhiza)を形成した植物は、リン酸肥沃度の極めて低い土壌においても 生育することができる。また、本菌の宿主域は広く、アブラナ科やアカザ科などの一部 の植 物群を除く約80%の陸上植物と共生関係を持つことができると言われている。

従って農業生産上、非常に有用な微生物であるばかりでなく、その感染生理やりン酸吸 収・濃縮・宿主への移行のメカニズムは科学的見地からも極めて興味深い。しかしなが らarbuscular菌根菌は人工培地上でほとんど生育しないため、その生理・生態について の解析はほとんど進んでいない。

  Arbuscular菌根菌共生系におけるりン酸代謝については、以下のようなスキームが

想定されている。土壌中の菌糸ネットワークから吸収されたりン酸は、液胞中にポリリ ン 酸粒 子 と して 蓄 えら れ 、原 形 質流 動 によ り 、宿 主 根内に形 成された樹 枝状体

(arbuscule)まで運ばれる。そこで再びオルトリン酸まで加水分解された後、菌体外

に放出され、それを樹枝状体周囲の植物細胞が吸収する。これまでに共生根で特異的に 活性の上昇するホスファターゼが、一連のりン酸代謝の一部に関与していることが示唆 されてはぃるものの、この酵素の性質や本代謝経路での役割については不明である。

  そこで本研究では、この様な背景の中で、このホスファターゼの活性と宿主植物の生 長との関係を検討すると共に、共生特異的リン酸代謝における役割を推定する目的で、

本酵素を精製し、その酵素化学的諸性質について調べた。さらに、菌根菌共生根におけ るホ スファターゼ活性の局在性について、組織化学的手法を用いて検討を行った。

  本研究の結果を要約すると、

  1.共生特異的ホスファターゼの検出法およびその活性と宿主生長との関係を検討 する目的で、以下の実験を行った。矮性マリーゴールドにarbuscular菌根菌(Glomus

etunicatum)を接種し、人工気象器中で栽培後、根の粗抽出液を得た。これを電気泳動

後、ホスファターゼ活性染色を行うと、共生根で特異的に活性の上昇するバンドが検出 され、これを共生特異的ホスファターゼ(infection‑specific phosphatase; ISPase)とし た。このISPaseの活性は、菌根菌の感染率の上昇に伴って増加した。さらに本酵素の活 性と、菌根菌の宿主植物に対する生長促進効果との間には高い相関関係が認められ、り

(2)

ン酸 の多施 用に より 生長 促進効果が減少すると、本酵素の活性も低下した。部分精製し た酵 素の活 性至 適pHは中 性付 近で あり 、種 々の 基質 を加 水分 解し、 リン 酸イ オン など により活性が阻害された。

  2. 共 生 特 異 的 ホ ス フ ァタ ーゼ の由 来を 推定 する 目的 で、 以下 のよう な実 験を 行っ た。 異なる 数種 菌株 をマ リーゴールドに接種したものから、それぞれの粗酵素液を調製 し、 電気泳 動後 、ホ スフ ァターゼ活性染色を行った。ISPaseはそれぞれ異なる菌株が共 生し た根に おい ても 共通 に検出され、それら活性バンドは泳動ゲル上でほぼ同様の移動 度(Rm値 ) を 示 し た 。 発 芽中 およ ぴ休 眠中 の菌 根菌 胞子 から 粗酵 素液を 調製 し、 同様 の分 析を行 った とこ ろ、ISPaseに 相当 する 活性 バン ドは 検出 されな かっ た。 また 、非 共生 根にお いて も弱 いな がらISPase活 性が 検出 され るこ とな どから 、本 酵素 は宿 主植 物由来であると推定された。

  3. ISPaseの さら に詳 しい 酵素 化学 的諸 性質 を調 べる 目的 で、種 々の カラ ムク ロマ トグ ラフイ ーを 組み 合わ せてISPaseを 約170倍に 精製 した (収 率0.4 Vo)。得 られ た最 終 画分 をSDS‑PAGEに よ り 分 析し たと ころ、90,70お よび60kDaの タンパ ク質 を含 んで い た。 非 変 性 状 態 で の 分 子 量は およ そ105kDaで 、concanavalinAに吸着 され るこ とか ら糖 鎖が付 加さ れて いる と推 定さ れた 。酵 素活 性の 至適pHは5.0、ピロリン酸結合に対 する加水分解活性が高く、F.,V03‑,M004z‑,P043‑などにより活性が阻害されることか ら、本酵素は酸性ホスフんターゼ(E.C.3.1.3.2)であることが明らかになった。また、

最終 画分に 含ま れる70kDa夕 ンパ ク質のN末 端ア ミノ 酸配 列は 他の植 物由 来酸 性ホ スフ ァタ ーゼの もの と相 同性 が高 く、 この こと は本 ホス フん ター ゼが宿 主植 物由 来で ある 可能性を支持していた。

  4. 菌 根 菌 感 染 に よ る 菌根 の酸 性ホ スフ ァタ ーゼ 活性 局在 性の 変化を 調べ 、ISPase 活性 の発現 部位 を推 定す る目 的で 、以 下の 実験 を行 った 。菌 根菌共 生根 およ び非 共生 根をグル夕´レア´レデヒド固定後、活性染色を行い、凍結切片を作成した。宿主皮層細 胞の 細胞壁 では 両者 に共 通し て酸 性ホ スフ んタ ーゼ 活性 が構 成的に 発現 して いた のに 対し 、菌根 菌共 生根 では 、特 に樹 枝状 体と それ を取 り囲 む宿 主細胞 との 間の 空隙 部分   (apoplast)で 活性 が上 昇していた。また、共生根から分泌(非破壊的に抽出)される ホス ファタ ーゼ アイ ソザ イム 群の 中に は、ISPaseと 同様 のRm値を示 すも のが 含ま れて いた 。これ らの こと からISPaseは 、宿 主細 胞と 樹枝 状体 との 間の空 隙部 分に 分泌 され る酵素である可能性が示唆された。

    5.共 生状 態に ある 菌根 菌組 織にお ける ホス ファ ターゼ活性の局在性について、数 種の 菌株を 用い て比 較検 討す る目 的で 、以 下の 実験 を行 った 。宿主 細胞 をセ ルラ ーゼ およ びベク チナ ーゼ で消 化し 、得 られ た菌 根菌 組織 をホ スフ ァター ゼ活 性染 色し た。

酸性 ホスフ ァタ ーゼ は老 化し た樹 枝状 体や のう 状体 を除 くほ ぼ全組 織で 活性 が認 めら れ、 局在性 に関 して 菌株 間の差異は認められなかった。一方、アルカリホスフ.アター ゼはGlomus属菌 では 特に 成熟 した 樹枝 状体 で活 性が 高かったのに対し、Gigaspora属菌 ではそれに加えて細胞間菌糸でも高い活性が認められた。

    以上の よう に本 研究 では、arbuscular菌根菌共生系における共生特異的ホスファタ ー ゼ(ISPase)を 検 出 し 、 そ の 活 性 が 菌 根 菌 の 宿 主 植 物 に対 する 生長促 進効 果と 密接 な関 係にあ るこ と、 また 、ISPaseの精製を行い、本酵素が酸性ホスファターゼ(E.C.

(3)

3.1.3.2

)であることを明らかにすることなどに加え、本酵素が宿主植物由来のもので ある可能性を示唆した。また、共生状態にある宿主およぴ菌根菌組織のホスファター ゼ活性の局在性について、組織化学的手法を用いて調べることにより、ISPase の発現 部位を推定すると共に、菌根組織全体のホスファターゼ局在性を明らかにするなど、

菌 根 菌 共 生 系 に お け る り ン 酸 代 謝 を 解 明 す る 上 で の 基 礎 的 知 見 を 得 た 。

(4)

学位論文審査の要旨

     学位論文題名

Phosphatese Specific to Arbuscular Mycorrhizal Symbiosis

(Arbuscuiar菌 根 菌 共生 系に 特異 的な ホス ファ 夕一 ゼ)

  本 論 文 は 英 文83頁 、図25、 表11、 引 用 文 献68、 緒 言 、4章 、 英 文 総 括 か ら な り 、 ほかに参考論文5編が付されている。

    Arbuscular菌根 菌(arbuscular mycorrhizal fungi)は接合菌類Glomale目に属する 糸状 菌で 、本 菌が根 に共 生し 、菌 根(mycorrhiza)を 形成 した 植物 は、 リン酸 肥沃度の 極め て低 い土 壌にお いても生育することができる。従って、そのりン酸吸収・濃縮・宿 主へ の移 行の メカニ ズムは極めて興味深いが、本菌が人工培地上でほとんど生育しない こ と か ら 、 そ の メ カ ニ ズ ム に つ い て の 解 析 は ほ と ん ど 進 ん で い な か っ た 。   本 研究 では 菌根菌 共生 根で 特異 的に 活性 の上 昇す るホ スフ んタ ーゼ の活性 と宿主植 物の 生長 との 関係を 検討すると共に、共生特異的リン酸代謝における本酵素の役割を推 定す る目 的で 、精製 した酵素の諸性質を明らかにした。さらに、菌根菌共生根における ホ ス フ ん タ ー ゼ 活 性 の 組 織 局 在 性 に つ い て 、 詳 細 な 検 討 を 行 っ た 。     第1章 では 共生 特異 的ホ スフ ァタ ーゼ の検出 法、その活性と宿主生長との関係およ び 本 酵 素 の 部 分 精 製 の 結 果 に つ い て 述 べ ら れ 、 下 記 の 内 容 が 含 ま れ て い る 。 O矮性 マリ ーゴ ール ドにarbuscular菌 根菌 (Glomus etunicatum)を接種し、人工気象器 中で 栽培 後、 根の粗 抽出液を得た。これを電気泳動後、ホスファターゼ活性染色を行う と、 共生 根で 特異的 に活性の上昇するバンドが検出され、これを共生特異的ホスファタ ーゼ(infection‑specific phosphatase; ISPase)とした。このISPaseの活性は、菌根菌の感 染率 の上 昇に 伴って 増加した。さらに本酵素の活性と、菌根菌の宿主植物に対する生長 促進効果との間には高い相関関係が認められた。

◎部 分精 製し た酵素 の活 性至 適pHは中 性付 近で あり 、種 々の 基質 を加 水分解 し、リン 酸イオンなどにより活性が阻害された。

  第2章 で はISPaseの 由 来と 酵素 化学 的諸 性質 につい て述 べら れ、 下記 の内 容が 含ま れている。

CDISPaseは、 異なる 菌株 を接 種し たマ リー ゴー ルド 根に おい ても 共通 に検出 されるこ と、 発芽 中お よび休 眠中の菌根菌胞子からは検出されないこと、非感染根においても弱 いな がら その 活性が 検出されることなどから、本酵素は宿主植物由来であると推定され

男 哉

辰 誠

田 葉

冨 千

授 授

教 教

査 査

主 副

(5)

た。

@ISPaseを 種々 のカ ラム クロ マト グラ フイ ーにより約170倍に精製し(収率O.4%)、

SDS‑PAGEに よ る 分 析 を行 った ところ 、最 終画 分は90,70お よび60kDaのタ ンパ ク質 を 含 ん で い た 。 非 変 性 状態 での 分子量 はお よそ105kDa、 酵素 活性 の至 適pHは5.0、ピ ロ リン酸結合を持つ種々の基質に対する加水分解活性が高く、F.,V03‑,M00421,P043‑な どにより活性が阻害されることから、本酵素は酸性ホスフんターゼ(E.C.3.1.3.2)であ

,ることが明らかにされた。

    第3章 では 菌根 菌共生 根に おけ る酸 性ホ スフんターゼ活性発現部位について述べら れ、下記の内容が含まれている。

@ 共生 根お よび 非共 生根 をグ 少夕 ルア ルデ ヒド で固定 した 後、 ホス フん ターゼ活性染 色 を行 い、 凍結 切片 を作 成し 、そ れぞ れの 活性 部位を 比較 した 。宿 主皮 層細胞の細胞 壁 では 酸性 ホス ファ ター ゼ活 性が 構成 的に 発現 してい たが 、菌 根菌 感染 を受けると、

特 に樹 枝状 体と それ を取 り囲 む宿 主細 胞と の問 の空隙 部分(apoplast)で 活性が上昇し た。

◎ 共 生 根 か ら 分 泌 ( 非 破 壊 的 に 抽 出 ) さ れ る ホ スフ ァタ ーゼア イソ ザイ ム群 の中 に は 、 電 気 泳 動 的 にISPaseと同 様の移 動度(Rm値) を示 すも のが含 まれ てい た。 これ ら の こと からISPaseは 、宿 主細 胞と 樹枝 状体 との 間の空 隙部 分に 分泌 され る酵素である 可能性が示唆された。

    第4章 で は 、 数種 菌株 の菌 根菌 組織 にお ける ホス ファ ターゼ 活性 の局 在性 につ い て 、 詳 細 に 比 較 検 討 し た 結 果 が 述 べ ら れ 、 下 記 の 内 容 が 含 ま れ て い る 。

@ 宿主 細胞 をセ ルラ ーゼ およ びべ クチ ナー ゼで 消化し 、得 られ た菌 根菌 組織を活性染 色 した 。酸 性ホ スフ ァタ ーゼ は老 化し た樹 枝状 体やの う状 体を 除く ほぼ 全組織で活性 が認められ、菌株間の差異は特に認められなかった。

◎ アル カリ ホス ファターゼの局在性は菌株間で異なっており、Glomus属菌では特に成 熟 した 樹枝 状体 で活 性が 高か った のに 対し 、Gigaspora属菌ではそれに加えて細胞間菌 糸でも高い活性が認められた。

    以 上の よう に本研究では、arbuscular菌根におけるホスフんターゼについて酵素化 学 的お よび 組織 化学 的側 面か ら検 討を 加え 、共 生特異 的リ ン酸 代謝 の解 明に関して基 礎的な貢献を果たした。

  よっ て、 審査 員一 同は 別に 行っ た学 力確 認試 験の結 果と 合わ せて 、本 論文の提出者 江 澤 辰 広 は 博 士 ( 農 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 充 分 な 資 格 が あ る も の と 認 定 し た 。

参照

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