博 士 ( 理 学 ) 高 橋 淳 一
学 位 論 文 題 名
Optical Response fromTranSitionMeta10XCideS . 「 遷 移 金 属 酸 化 物 に お け る 光 応 答 」
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
ペ ロ ブ ス カ イ ト 型 遷 移 金 属 酸 化 物 は 遷 移 金 属 イ オ ン のd軌 道 と 酸 素 イ オ ン のp軌 道 が 互 い に 同 方 向 に 広 が り 、 大 き な 重 な り を 有 す る こ と で 、los cm1の オ ー ダ ー に 及 ぶ 強 い 電 荷 移 動 吸 収 を 持 っ 。 こ の 強 い 電 荷 移 動 吸 収 に よ り 光 と 物 質 の 相 互 作 用 が 共 鳴 的 に 大 き く な る こ と が 期 待 で き る 。 遷 移 金 属 酸 化 物 の 電 気 的 お よ び 磁 気 的 を 性 質 は 古 く か ら 詳 細 に 検 討 さ れ 、 今 日 で は 極 め て 広 範 囲 の 分 野 に お い て 様 々 な 応 用 が 報 告 さ れ て い る が 、 他 方 、 磁 気 光 学 を 除 い て 光 学 的 性 質 、 特 に 非 線 形 光 学 応 答 は 必 ず し も 十 分 に 検 討 さ れ て き た と は 言 え な ぃ 。 本 論 文 で は フiム ト 秒 レ ー ザ ー を 用 い た 光 混 合 分 光 に お い て 、 新 規 な 広 帯 域 コ ヒ ー レ ン ト 光 発 生 が 実 現 で き た こ と を 示 す 。 更 に 、d電 子 を 有 す る 遷 移 金 属 酸 化 物 な ら で は の 新 規 な 光 学 応 答 と し て 、 ペ ロ ブ ス カ イ ト 類 似Mn酸 化 物 に お い て 、 ラ マ ン ス ペ ク ト ル 及 び 赤 外 吸 収 分 光 か ら 特 異 な マ ル チ マ グ ノ ン 励 起 が 観 測 さ れ た こ と 示 す 。 (1) YFe03及 び 関 連 化 合 物 に お け る 光 応 答
斜 方 晶 構 造 を 持 つ 遷 移 金 属 酸 化 物YFe03に お い て ラ マ ン 散 乱 、 及 び 再 生 増 幅 器 を 用 い た 高 強 度 フ ェ ム ト 秒 光 パ ル ス ( パ ル ス 幅 〓 約150fs) を 用 い た 非 線 形 分 光 に よ り 数100〜 3000cnユ.1における素励起を検討した 。
YFe03の ラ マ ン 散 乱 ス ペ ク ト ル は1300 cm‑1以 下 の 領 域 に 鋭 い1及 び2フ ォ ノ ン 線 を 有 す る と 同 時 に 広 帯 域 の 弱 い 発 光 を 有 す る 。 広 帯 域 の 発 光 は 偏 光 依 存 性 か ら 螢 光 成 分 と 考 え ら れ る が 、CARS(Coherent anti‑Stokes Raman Scattering)分 光 に よ れ ば2700cm.1に 及 ぶ 領 域 に お い て 信 号 が 観 測 さ れ 、 な ん ら か の 広 帯 域 素 励 起 の 存 在 す る こ と が 示 さ れ た 。 結 晶 の 欠 陥 た い し 微 量 不 純 物 に よ る キ ャ リ ア に 基 づ く 電 子 的 な 散 乱 と 考 え て い る が 、 本 研 究 では起源を 明らかにするには至ってい ない。
他 方 、800cm.1以 下 の 低 エ ネ ル ギ ー に は1フ オ ノ ン 励 起 に 基 づ く 鋭 い 吸 収 が 存 在 す る 。 異 な る エ ネ ル ギ ー を 持 っ ふ た つ の 超 短 光 パ ル ス を 用 い て 多 光 波 混 合 分 光 を 行 っ た と こ ろ 、 両 者 の エ ネ ル ギ ー 差 が 1フ オ ノ ン の エ ネ ル ギ ー に 共 鳴 し た 場 合 に は 、 高 次 のCARS光
(mn二ニのi十n(c01.の2):の1,002はそれぞれ入力光のエネルギーでのi>c02)が発生する。高次CARS は 赤 外 か ら YFe03のCT吸 収 端 約600nmに 至 る ま で 連 続 し て 観 測 さ れ る 。 な お 高 次 CSRS(Coherent Stokes Raman Scattering)列 は 適 切 な 測 定 器 が な ぃ た め に 本 研 究 の 対 象 か ら は 除 外 し て い る 。n次CARS光 の 発 生 は(n‑1) 次 のCARS光 と2つ の 入 射 光 の1,(D2と の 4波 混 合 に 基 づ く 。 ま た 、 高 次CARS光 と 同 時 に 試 料 背 面 よ りTHG、THGに 連 続 す る CARSTH(CARS associated with Third Harmonic Generation:のn=3coi+n(coi‑cD2);n冫0)及 び CSRSTH 光 (CSRS associated with Third Harmonic Generation : (Dn=3(02+ri((oi‑OJ・2);nく0) が 発 生 す る こ と が 見 出さ れ た。n次の 高 次CARSTH光はn次 の高 次CARS過 程 に お け る 仮 想 的 な 発 光 準 位 に お い て 、 更 に 入 射 光 か ら2つ の 光 子 を 吸 収 し 発
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光 したもの と考え られる。 これら の光混合 は試料背 面の薄 い領域に おいて 発生し、 ほぼ可 視 域 全 域 に 渡 る 広 帯 域 の 光 ノ ミ ルス 列 と なっ て い る。 高 次CARS列及 び 高 次CARSTH列 は 顕 著な遅延 時間依 存性を示 し、coi光がm2光 に先行 する場合 には個々のピークのスペクトル の 分 離 が 不 鮮 明 に な る 。 ス ペ ク ト ル の 遅 延 時 間 依 存 は 高 次CARSと 高 次CARSTHと で 完 全 に対応す ること から、両 者は中 間状態を 共有して いると 考えられ る。ま た顕著な 遅延時 間 依存性は 、ml光がm2光に先行 する場 合、・誘導ラマン過程により低エネルギーフオノンが 実 励起され るのに 対し、(D2光がm1光に先行 する場 合には熱 的に励起されたフォノンと結合 し な け れ ば な ら ず 、 低 エ ネ ル ギ ーフ オ ノ ンの 実 励 起が 困 難 であ る た めと 考 え られ る 。 高 次CARSTH及 び 高 次CSRSTHの 発 生 は ペ 口 ブ ス カ イ ト 型 遷 移 金 属 酸 化 物YFe03に 限 ら な ぃ。 本 研 究で は ガ ーネ ッ ト 構造 を 持 つY2Fe3012丶広 い バ ンド ギ ャ ップ を 持ちTHG と 非 共 鳴なSrTi03、非 遷 移 金属酸 化物[3‑BaB204におい ても発生 するこ とを示し た。特 に SrTi03は 主 に 高 次CSRSTHの みが 観 測 され る 。SrTi03は 全 ての フ オ ノ ンが ラ マ ン禁 制 で あ り、高次CSRSTHは2次のラマ ン過程 により生 成され ている。
最 後 に 高 次CARSTH光 パル ス 列 を重 畳 し た超 短 光 パル ス を 作り 出 す 可能 性 に つ いて 述 べ た 。 発生 す る 高次CARSTH列の ス ペ ク トル 幅 は5000cm.1に達 し 、 共軸 で 発 生し 、 互い に 位相をそ ろえて 重畳する ことで 、10fs以下の パルス 幅を有す る超短 光パルス を得るこ と が 可 能 で あ る 。 更 に 、 高 次CARSTHはTHGと バ ラ ン ス し 、 全 体は な め らか な 釣 鐘 状の ス ベ クトルと なって 、フーリ エ変換 された超 短光パル スは寄 生的なパ ルスの 発生は抑 制され る ことが期 待され る。`
(2)六 方 晶YMn03に お ける 光 協 同励 起
YMn03は 六方 晶 系 を有 す る 典型 的 な フ ラス ト レ ート 系 ス ピン 化 合 物で あ る 。この 物質 は 反 強 磁 性 秩 序 と 強 誘 電 性 秩 序 が 共 存 す る 数 少 な い 系 の 一 例 と し て 知 ら れ て い る 。 YMr103の磁 気 転 移温 度 は74Kに 存 する が 、 面内 ス ピ ンン 相 互 作用 は 面 間ス ピ ン相互 作 用に比べ 著しく 大きいこ とにより 、室温 において も面内 秩序が維 持され ている。 そのため 室温にお いてさ えラマン スペクト ルには 明瞭なフ オノン 線ととも にスピ ン揺動に もとづく 広帯域の スペク トルが観 測される 。温度 依存を検 討した ところ、 前者の 強度が温 度に対し 一意に決 まるの に対して 後者はラ ンダム に変化す ること を見出し た。そ れを利用 して両者 をス ペ ク トル 分 離 し、 後 者の形 状を緩和 を考慮し た2層三角格 子にお けるスピ ン系の分 散 関係から みちび かれるラ マンスベ クトル でフイッ ティン グを行っ た。得 られた交 換相互作 用Jは143 cm‥ 、 緩 和半 値 幅 はl100cm‑1と非 常 に 大き い 値 を示 し た 。ス ピ ン 遥動 の緩和 が著しく 大きい ことは励 起状態に おいて 電荷移動 に伴う 遷移行列 要素が フオノン およびエ キシトン の存在 により大 きな摂動 を受け たものと して理 解される 。同時 に中赤外 吸収分光 を行い、 フオノ ンアシス トm'マグ ノン吸収 によるピ ークを 観測した。m:ニニ2の場合、ピー ク の 位 置 は ラ マ ン 散 乱 ス ベ ク ト ル の 解 析 か ら 求 め たJと良 く 整 合す る 値 を得 た 。 更 に m=ニ3,4,5に対 応するエ ネルギ ーにもピ ークが観 測され た。これらはフオノンアシストm‑
マグ ノ ン 吸収 と 同 定さ れ る 。同 じ 結 晶構 造 で 異 なる スピン配 置を持 つErMn03におい ては Erのf・f遷 移 に伴 う 吸 収の み が 観測 さ れ る こと か らYMn03の ハ ミ ルト ニ ア ンは スピ フカ イラリテ ィ項Si(SjxSk)を持っ ことが 示唆され た。
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以 上
学位論文審査の要旨
主 査
教 授
中 原 純 一 郎
副 査
教 授
花 村 榮 一 ( 千 歳 科 学 技 術 大 学 ) 副 査
教 授
徳 永 正 晴
副 査
教 授
八 木 駿 郎 副 査
助 教 授
三 品 具 文
学位論文題名
Optical Response from Transition rvIetal Oxcides . 「遷移金属酸化物における光応答」
遷移金属酸化物の電気的および磁気的な性質は古くから詳細に検討されてきたが、磁気 光学を除いて光学的性質、特に非線形光学応答は必ずしも十分に検討されてきたとは言え ない。本研究では、遷移金属酸化物の光応答の特徴を2 っの観点、即ち遷移金属の3d 軌 道から酸素の
2p軌道への電荷移動遷移に伴う大きな振動子強度を利用した強い光一物質 相互作用、及びスピンに起因する光応答に注目し、線形及び非線形光学応答を検討したも のである。結果は、以下の2 点に集約される。
(1) YFe03
及び関連化合物における非線形光応答
斜 方 晶構 造を 持つ 遷移 金属 酸化 物YFe03に おい てラ マン 散乱 、及 ぴ高 強度 フェ ムト秒赤 外光 パ ルス (パ ルス 幅〓 約150fs)を用 いて 数100〜3000cm'1に おけ る素 励起 を検 討した。
YFe03の ラ マ ン 散 乱 ス ベ ク ト ル に お い て フ ォ ノン 励起 に基 づく 鋭い 線構 造と そ の背 景 に 微 弱 な 広 帯 域 発 光 を 観 測 し た 。 本 研 究 で はCARS(Coherent anti‑Stokes Raman Scattering)分 光に より 広帯 域発 光 が2700cm‑1の 広帯 域に 及ぶ ラマ ン成 分で ある ことを示 した 。 欠陥 ない し微 量不 純物 によ るキ ャリ ア生 成に 基づく電子的な散乱 と考えているが、
本研究では起源を明らかにするには至っていない。
他 方 、よ り低 エネ ルギ ー域 では フォ ノン との 共鳴 が明瞭にぬってくる 。フォノンに共鳴 し た 場 合 に は 、 赤 外 か らYFe03のCT吸 収 端 約600nmに 至 る ま で 連 続 し た 高 次 のCARS 光(COn=(Dl十n(mi‑の2):m1,(02はそれぞれ入力光のエネルギーでのi>c02)、および可視域では THG、THGに 連 続 す るCARSTH(CARS associated with Third Harmonic Generation: (On=3(oi十l(COl‑cD2);ri>0)光 、 及 びCSRSTH光(Coherent Stokes Raman Scattering associated with Third Harmonic Generation:(On=3(D2+ri((oi‑c02);riく0)が発生することを 見出 し た。 これ らの 信号 が発 生す るメ カニ ズム を説 明するための半定量 的なモデルを提案 し た 。 高 次CARSは 既に 気 体に おい てい くっ かの 報告 例が ある が、 本研 究で は固 体 にお け る フ ォ ノ ン を 利 用 し た こ と 、 ま た 、 そ れ ら がTHGと 効率 的に 結合 し、 可視 域に 釣 鐘状 の 広帯域スベクトルを成すことを見出した点に新規性がある。
更 に 高 次CARSTH及 びCSRSTH光 は ペ ロ ブ ス カ イ ト 型 遷 移 金 属 酸 化 物YFe03に と ど
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ま ら ず 、 ガ ー ネ ッ ト 構 造 を 持 つY2Fe30i2、 広 い バ ン ド ギ ャ ッ プ を 持 ちTHGと 非 共 鳴 な SrT103、非 遷移 金属 酸化 物p.BaB204な どに おい ても 観測 され る非 常に 一般的 な非線形光 学 現象 であ るこ とを 示し た。 以上 を通 じて 得ら れたスペクトルは多彩な構造を 有し、非線 形 光学 一般 に新 たな 話題 を提 供す るも ので ある 。
最 後 に 高 次CARSTH光 パ ル ス 列 の 応 用 に 触 れ て い る 。 発 生 す る 高 次CARSTH列 の ス ペ ク トル 幅は5000cm.lに 達 し、 可視 から 紫外 にお ける10fs以下 のパ ルス 幅を有 する超短光 パ ルス 発生 とい う野 心的 な試 みを 提案 して いる 。
(2)六 方 晶YMn03に お け る 光 協 同 励 起
YMn03は 六 方 晶 系 を 有 す る 典 型 的 な フ ラ ス ト レ ー ト 系 ス ピ ン 化 合 物 で あ る 。 本 研究 では ラマ ン散 乱ス ベク トル に広 帯域 の発光 成分を見出し、温度依存性を詳細に検 討し て、 シミ ュレ ーシ ョン との 比較 から その 構造が スピン揺動に基づくものであると結論 付け た。 他方 、中 赤外吸 収スベクトルには鋭い微細構造を持つフオノンアシスト2.マグノ ン吸 収を 見出 した 。両 者の 形状 の際 立っ た違 いから 、ラマン散乱スペクトルから磁気的励 起を 解釈 する 際に は中 間状 態に おけ るマ グノ ンーエ キシトン及びマグノンーフォノン相互 作用を適切に考慮することの重要であることを指摘して いる。
更に、広帯域の赤外吸収スベクトルにm=l,2,3,4,5に対応するフォノンアシストm'マグ ノン 吸収 の構 造を 見出 して 、YMr103のス ピン カイ ラリ テ ィSi(SjXSk)を直 接光学的に観測 した もの であ ると 主張 して いる 。ス ピン カイ ラリテ ィはフラストレートスピン系において 大き な関 心を 呼ん でい るテ ーマ であ り、 本研 究の知 見は当該分野に重要な話題を提供する ものである。
以上 を要 する に、 著者 は遷 移金 属 酸化 物における光応答に関し、線形および非線形光学 を 用い て光 励起 に伴 う素 過程 から そ の応 用に至るまで広範囲にわたる検討を行ったもので あ り、 遷移 金属 酸化 物に おけ る光 応 答の 研究に対して貢献するところ大なるものがある。
よ っ て 著 者 は 北 海 道 大 学 博 士 ( 理 学 ) の 学 位 を 授 与 さ れ る 資格 あ るも のと 認め る。
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以 上