博 士 ( 農 学 ) 高 橋 葉 子
学 位 論 文 題 名
ク ロ ー バ ー 葉 脈 黄 化 ウ イ ル ス の 複 製 機 構 に 関 す る 研 究 学 位 論 文 内 容 の 要 旨
本 研究 は、RNAを ゲノ ムと する クロ ーパ ー葉 脈黄 化ウイルス(clover yellow vein virus: CIYVV) の 感 染 性cDNAク ロ ー ン を 構 築 し、 ウ イル スゲ ノム の3′末 端領 域 に、 宿主 因子 が認 識 す る ポ リ ア デ ニ ル 化 に 必 要 な 配 列 が あ る こ と を 初 め て 明 ら か に し た も の で あ る 。 1.CIYWゲノムの 全塩基配列決定と感染性cDNAクロ―ンの構築
CIYVVは 、 主 に マ ヌ 科 植 物 に 感 染 し 、ポ テ ィウ イル ス科 ポテ ィウ イル ス属 に属 する 約9.5 Kヌ ク レ オ チド の 一本 鎖( 十) 鎖RNAを ゲノ ム とす る。 植 物RNAウ イル ス の複 製機 構や 遺伝 子機 能の 解析 には 、感 染性cDNAク ロー ンを 用い た逆 遺伝 学的 手法 が最 も有 効である。そこで 本研 究は 、ゲ ノム の全 塩基 配列 を 決定 しそ のゲ ノム 構成 を明 らか にし 、感 染性cDNAクローン を 構 築 し て そ の 遺 伝 子 機 能 を 研 究 す る 実 験 系 を 確 立 す る こ と を 第 一 の 目 的 と し た 。 ま ず初 めに 、CIYVVゲ ノム のほ ぽ全 域に およ ぶcDNAク ロー ン をシ ーケ ンス し、ゲノムの5′ 末 端 側 約5.5kの 塩基 配列 を決 定し た。cDNAラ イブ ラリ ーに 含ま れて いな かっ た5′ 末端 領域 は 、 ゲ ノ ムRNAを 直 接 シ ー ケ ン ス し た 結果 と 、5′RACE法 で得 られ たcDNAクロ ーン をシ ーケ ンス した 結果 を合 わせ て決 定し た 。既 報の3′ 末端 側約5400塩 基の 配列 と合 わせ、CIYVVゲノ ム の 全 塩 基 配 列 が 決 定 さ れ た 。CIYVVの ゲ ノ ムRNAは3´ 末 端 の ポ リA鎖 を 除 い て9584塩 基 で、3072アミ ノ酸 から なる 非常 に 長い ーつ のORFを コードしていた。このポリタンパク質は、
ウイ ルス 自身 がコ ード する プロ テ アー ゼに よっ て約10種 類の タン バク 質に 切断されると予想 される。非翻訳領域はそれぞれ、5′末端が190塩基、3´末端側が175塩基であった。CIYVV RNA のコ ード する アミ ノ酸 配列 から 、Pl、HC−pro、NIaーproの各プロテアーゼによる切断部位を 推測 し、 ゲノ ム構 成を 予測 した 。 その 結果 、CIYVVは典型的なポテイウイルス属のゲノム構成 を持つことが明らかになった。
次Iこ. 、cDNA断 片を つな げて 全長 のcDNAク 口一 ンを 作製 し 、35Sプ ロモ 一夕一下流に挿入 し てpUC系 プ ラ ス ミ ドpCIYVVを 得 た 。 転 写 開 始 部 位 に は 非 ウ イ ル ス由 来 の配 列を 含ま ず、
ま た 、3′ 末 端10塩 基 の ポ リA鎖 が 付 加 され てい る。CIYVV cDNAの 下流 に 転写 終結 シグ ナル のNOS夕 一 ミネ 一 夕ー は付 加さ れて いな ぃゝ 。pCIYVVを接 種し たソ ラマ ヌ は高 率に 発病 し、
CIYVVの 典 型 的 病 徴 を 示 し た 。 感 染 ソ ラ マ メ か ら はCIYVV粒 子 が 電 子 顕 微 鏡 で 観 察 さ れ 、 RT―PCRでCIYVVゲ ノ ム の3´ 末 端 が 特 異 的 に 検 出 さ れ た 。 こ れ に よりpCIYVVが感 染性cDNA ク ロ ー ン で ある こと が証 明さ れた 。ま た、500 pg/Vlの低 濃度 で感 染す る こと から 、pCIYVV は既 報の 他の ポテ ィウ イル スの 感 染性cDNAクロ ーン と比 べ、 高い 感染 性を 持つことが明らか になった。
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2.ゲノムRNA3´末端のボリアデニル化機構
cDNAが 感 染 性 を 保 持 す る に は 、 充 分 な長 さの ポリA鎖 と、 転 写終 始シ グナ ルのNOS夕ー ミ ネ一 夕一 が必 要で ある と 従来 考え られ てい た。 しかしp CIYVVはそのどちらの条件も満たさず に 高 い 感 染 性を 保持 して いた 。そ のた め、 これ らの 不足 を補 う 何ら かの 機構 がCIYVVの複 製 過 程 で 働 く ので はな いか 、あ るい はCIYVVゲ ノム にこ れら の不 足を 補う 何ら かの シグ ナル が 存在すると考えた。そこで、複製機構の 中で(十)鎖RNAから(一冫鎖RNAが合成される機構と、
( 十 ) 鎖RNAの ポ リ ア デ ニ ル 化 の 機 構 に つ い て 研 究 す る こ と を 第 二 の 目 的 と し た 。 ま ず 、 ポ リA鎖 長 の 感 染 性 に 及 ぽ す 影響 を調 べた 。ポ リA鎖 とし てAを10塩 基含 むp CIYVV を も と に 、Aを5塩 基 含 む も の (pCIYVV ‑PA5) 、Aを 完全 に欠 失し たも の、 ポリA鎖の1塩 基 をTに 置 換 したcDNA3種類 、ATの5反 復配 列に した もの 、3′末 端 の5塩基 を重 複さ せた もの 、 10塩 基 を 重 複さ せた もの の9種類 の プラ スミ ドを 作製 した 。さ らに 、CIYVV cDNAの下 流に 、 外 被 夕 ン パ ク質 (CP)のORF全 域と3´非 翻訳 領域 をあ わせ た1022塩 基を 重複 させ たも の、CP のC末 端側 と3′非 翻訳 領 域を あわ せた662塩基 を重 複させたものを作製した。これらの感染性 を調 べた とこ ろ、 全て の 構築 で感 染性 があ り、 ポリA鎖が長いほど感染性が高く、また、重複 した 領域 が長 いほ ど感 染 性が 高い 傾向 がみ られ た。 さら に、3′末 端に ポリA鎖がない感染性 cDNAクローン(pCIYVVAPA)はこれが初報 告である。
次 に、 これ らの ソラ マメ感染葉から子孫ウイルス のゲノムRNA3´末端領域の塩基配列を調べ た 。 そ の 結 果、p CIYVVAPAを 含め 、全 ての プラ スミ ド由 来の 子 孫ウ イル スが ポリA鎖 を持 っ てい たこ とか ら、 その 付 加は 鋳型 非依 存性 であ ることが示唆された。また、ポ リA付加部位の 塩基配列は、3′末端の塩基配列を正確に保持しており、接種源のプ ラスミドでは後に続くはず の非ウイルス由来の配列は完全に欠失し ていた。
こ こで 、ソ ラマ メのp CIYVV感染葉から(一)鎖RNAの検出を試みた。これまで、ポティウイ ルス の( −) 鎖RNAの検 出と 解析 は前 例が ない 。そ こ で、 感染 葉の 全RNAか らウイルス二本鎖 RNAと し て 、( う鎖RNAを 分画 した 。次 に( う鎖RNAの5´ 末端 領 域を5′RACE法で クロ 一二 ン グし、塩基配列を調べたところ、(う鎖RNAの5´末端はポリUが付加 していることが分かった。
これにより(う鎖RNAは、(十)鎖のポリA配列を鋳型にしたポリUか ら合成が開始されることに なる。つまりこれらの実験結果は、(十 )鎖RNAをポリアデニル化す る装置の存在を示唆してい る 。 一 般 に 、 細 胞 のmRNAで は 、 ポ リA付 加 に 先 行 し て ポ リA部 位 でRNAが 切 断 さ れ 、 そ れ に共 役し てポ リAが 付加 され るこ とが 知ら れて いる 。そこで、CIYVVの3′非翻訳領域とその下 流 の べ ク タ ー の 配 列 を 含 むRNAが 、 細 胞 の 成 分 に よ っ て 切 断 さ れ る か ど う か 調 ぺ た 。 p CIYVV―PA5の3´ 非翻 訳領 域をin vitroで転 写し 、 ソラ マヌ の全 細胞 抽出液 にそのRNAを加 え 、RNAが どの よう な断 片に 変化 す るか 調べ た。 その 結果 、ポ リA部 位付 近で 切断 され たRNA が 主 産 物 と して 検出 でき た。 これ によ り、 何ら かの 細胞 成分 がCIYVV RNAの 切断 に関 与し て い る こ と 、 CIYVV RNAが 潜 在 的 に ポ リAシ グ ナ ル を 持 つ こ と が 示 唆 さ れ た 。 以 上の 結果 から 、cDNAから 転写 され たRNAは 、3´ 末端 で正 確に 切断 され た後にポリアデニ ル化され、十分に(十)鎖として機能す るRNAが核外に移行すると考えられた。次にこの(十)鎖 がポリUでプ ライミングする(−)鎖合成の鋳型となりその後、 RNA‑R NAの通常の複製サイクル に入ると考えられた。
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学位論文審査の要旨 主査 教授 上田一郎 副査 教授 生越 明 副査 教授 喜久田嘉郎
学 位 論 文 題 名
クローバー葉脈黄化ウイルスの複製機構に関する研究
本 論 文 は 、8章 で 構 成 さ れ 、 図21、 表6、 引 用 文 献198、 総 頁 数103の 和 論 文 で 、 他 に参 考論文2編が添えられている 。
ク 口一バ一葉脈黄化ウイルス(clover yellow vein virus;CIYVV)は、主にマヌ科植物に感 染 し、 ポ テイウイルス科ポティウイル ス属に属する約9. 5Kヌクレ オチドの一本鎖(十)鎖RNA を ゲ ノ ム と す る 。 本 研 究 は 、CIYVVの 感 染 性cDNAク ロ ー ン を 構 築 し 、 こ れ を 用 い て 、 ウ イル スゲノムの3′末端領域に、 一連のポリアデニル化反応に必要な宿主因子に認識される配列 が ある こ とを 初め て明 らか にし たも ので ある 。主 な研 究成 果は 以下のようにまとめられる。
1.CIYWゲノムの全塩基配列決定 と感染性cDNAクローンの構築
ゲノ ム の全 塩基 配列 を決 定し て、 ゲノ ム構 成を 明ら かに し、 感染性cDNAクローンを構築し て遺 伝子機能を解析する実験系を確立した。
CIYVVゲ ノ ム のF末 端 側 約5.5kの 塩 基 配 列 を 決 定 し 、 既 報の3′末 端側 約5400塩 基の 配列 と 合わ せ 、全 塩基 配列 が決 定さ れた 。ゲ ノムRNAは3´ 末端 のポ リA鎖 を除 いて9584塩基 で、
3072ア ミ ノ酸 から なる 非常 に長 いー つのORFを コー ドし てい た。 この ポリ タン パク 質は 、ウ イ ルス 自 身が コー ドす るプ ロテ アー ゼに よっ て約10種 類の タン パク質に切断されると予想さ れ た 。 非 翻 訳 領 域 は そ れ ぞ れ 、5′ 末 端 が190塩 基 、3´ 末 端 側 が175塩 基 で あ っ た 。 次 に 、cDNA断 片 を っ な げ て 全 長 のcDNAク ロ ー ン を 作 製 し、35Sプ ロモ ータ ー下 流に 挿入 し てpUC系 プ ラ ス ミ ドpCIYVVを 得 た 。 転 写 開 始 部 位 に は 非ウ イ ルス 由来 の配 列を 含ま ず、
ま た、3′末 端に10塩 基の ポリA鎖が 付加 され てし ゝる 。CIYVV cDNAの下流に転写終結シグナ ル は付 加 され てい ない 。p CIYVVを 接 種したソラマヌは高率に発病し、ウイルスが回収される の でp CIYVVが 感 染 性cDNAク ロー ン であ るこ とが 証明 され た。 また 、500 pg/Vlの 低濃 度で 感 染 す る こ と か ら 、p CIYVVは既 報 の2種の ポテ ィウ イル ス感 染 性cDNAク ロー ンと 比ペ 、高 い感 染性を持つことが明らかになった。
2.ゲノムRNA3´末端のボリアデ ニル化機構
cDNAが 感染 性を 保持 する には 、充 分な 長さ のポ リA鎖 と、 転写 終始 シグ ナル が必 要で ある と 従来 考 えら れて いた 。し かしp CIYVVはそのどちらの条件も満たさずに高い感染性を保持し て いた 。 その ため 、こ れら の不 足を 補う 何ら かの 機構 がCIYVVの 複製 過程 で働 くか 、あ るい ―978ー
はCIYVVゲノ ムに これ らの 不足 を補 うシ グナ ルが 存在 する と考えた。そこ で、(十)鎖RNAか ら (う 鎖RNAが合 成さ れる 機構 と、 (十 )鎖RNAの ポリ アデ ニル化の機構について解析した。
ま ず 、 ポ リA鎖 長 の 感 染性 に及 ばす 影響 を調 べた 。 ポリA鎖 とし てAを10塩 基含 むp CIYVV を も と に 、Aを5塩 基 含 む も の 、Aを 完 全 に 欠 失 し た も の 、 ポ リA鎖 の1塩 基 をTに 置換 した も の やATの5反 復 配 列 に 置 換 し た プ ラ ス ミ ド を 作 製 した 。さ らに 、CIYVV cDNAの 下流 に、
ゲ ノ ム3′ 末 端1022塩 基 、662塩 基 、10塩 基 お よ び5塩基 を重 複さ せた もの も作 製 した 。こ れ らの 感染 性を 調べ たと ころ 、 全てのプラスミドで感染性があった。また 、3'末端にポリA鎖 がない感染性cDNAクローン(pCIYVV APA)は これが初報告である。
更に 、p CIYVVAPA由来 のウ イ ルス を含 め、 子孫 ウイ ルス は全 てポ リA鎖 を持 って いたこと か ら、 付加は鋳型非依存性であることが示唆さ れた。また、ポリA付加部位 の塩基配列は、 3' 末 端の 塩基配列を正確に保持しており、接種源 のプラスミドでは下流に続くはずの非ウイルス 由来の配列は完 全に欠失していた。
次に 、( う鎖RNAの5′ 末端 に ポリUが付加し ていることをポティウイルスとして初めて明ら か にし た。 これ によ り( →鎖RNAは、(十)鎖 のポリA鎖を鋳型にしたポリUから合成が開始さ れることになる 。
ま た 、 ソ ラ マ ヌ の 全 細 胞抽 出液 にウ イル スRNAを 加 える と、 ポリA部 位付 近で 切 断さ れた RNAが検出できた。
以上 の結 果か ら、cDNAから 転 写さ れたRNAは、3′末 端で 正確に切断された後にポリアデニ ル化され、(十 )鎖として機能するRNAが核外に移行すると結論した。この(十)鎖を鋳型として ポ リUで プラ イミ ング する (う 鎖が 合成 され 、ウ イル スのRNAーRNA複 製サ イク ルに 入ると考 え られ た。この成果は、学術上の貢献が大きく ,学会においても高く評価されるものである。
よ って 審査 員一 同は ,本 論文 の 提出 者高 橋葉 子は 博士 (農 学)の学位を受けるに十分な資格 を有するものと 認めた。
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