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博 士 ( 薬 学 ) 高 橋 弘 樹

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Academic year: 2021

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博 士 ( 薬 学 ) 高 橋 弘 樹

学 位 論 文 題 名

原 索 動 物 マ ボ ヤ の 細 胞 性 防 御 シ ス テ ム に 関 与 す る 抗 原 レ セ プ タ ー 様 分 子 に 関 す る 研 究

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

    系 統発 生 学的 に脊 椎動 物と 無 脊椎 動物の中間に位置する 原索動物ホヤ類が、脊椎動物 に 存在 する 細 胞性 免疫 シス テム の 原型 を有していると考えら れるので、原索動物の免疫担 当 細胞 に存 在 する 膜蛋 白質 が進 化 的に 保存されて脊椎動物の 免疫システムで機能している 可能性が 考えられる。マポヤの体液( 喃乳類の血液に相当する) では傷口などの局所におい て 凝集 塊を 形 成す る。 この 時、 血 球が 互いに接着することで 細胞間のシグナルを伝達し、

血 球の 活性 化 が引 き起 こさ れて い る可 能性があり、マボヤの 血球の凝集機構の解析は細胞 性 防 御 シ ス テ ム の 初 動 反 応 を 捕 え る 手 掛 か り を 与 え る と 考 え ら れ る 。     初 めに 、 マボ ヤ血 球の 凝集 を 定量 的に測定することによ り、マボヤから体液をシリン ジ で採 取す る と採 取の 刺激 によ る 局所 的な血球凝集の活性化 がおきること、マポヤ血球の 凝 集に 金属 イ オン 、ペ プチ ド性 物 質、 プ口テアーゼ、チロシ ンキナーゼ、アクチンフアラ メントお よび糖鎮が関与することを明 らかにした。

    次 に、 マ ボヤの血球凝集に対 する阻害作用を指標にしてモ ノクローナル抗体(A74)を作 製 した 。A74抗 体は、マボヤ血球に よる食作用をも阻害するこ とから、血球‐血球間あるい は 血球 ・異 物 間の接着を阻害する と考えられる。マポヤ血球膜 画分からA74抗原蛋白質(A74 蛋白質) を精製し、N末端部分アミノ 酸配列を決定した。A74蛋白 質はシアル酸を含む分子量 160Kの 糖 蛋 白 質 で 、 約70%の 血 球 群 の 細 胞 膜 に 存 在 す る こ と も 明 ら か に し た 。     マ ボヤ の 細胞 性防 御シ ステ ム にお ける 細胞 間 接着 に関 与す るA74蛋白質の分子構造を 明 らか にす る ため に、 そのc‑DNAク 口一 ニングを行った。決定 されたN末端部分アミノ酸配 列 をも とに プ ライマーを作製し、 それを用いてマボヤ血球c‑DNAライブラリーを鋳型にして PCR産 物を 得た 。そ れ を、 プロ ープ とし て 用い 、マ ボヤ 血球c‑DNAライプラリーからA74蛋 白 質を コー ド するD DNAク ロー ンを 得た 。A74 c‑DNAク 口ー ンは 全長3390bpでポリAテイル を含み、722アミノ酸をコードしてい る。蛋白質から決定されたN末端アミノ酸配列を含み、

1つ の 膜貫 通領 域を 有 する 新規 膜蛋 白質 である。細胞外ドメイ ンに5つのN‑グリコシド型糖 鎖 のコ ンセ ン サス 配列 と5つの シス テイ ン 残基 があ り、 細胞 内 ドメインにチロシンリン酸 化 を介 する シ グナ ル伝 達に 働く と 考え られる複数のモチーフ 構造が存在することが明ぢか に な っ た 。 ま た 、A74蛋 白 質のmRNAは血 球 特異 的に 発現 し てい るこ とも 明ら か にし た。

A74蛋 白質 に存 在する細胞内ドメイ ンのモチーフ構造として、 第一に、哺乳類由来の抗原レ セプタ― に特徴的なAntigen Recognition Activation Motif (ARAM)が、膜貫通領域のすぐあと に 、2回 繰 り 返 し て 存 在 す る。 脊椎 動物 以 外の 免疫 担当 細 胞に おけ るARAMモ チ ーフ 含有 分 子の 存在 は 本研究で初めて明ら かにされた。哺乳類由来の1細胞レセプター(TCR)、B細胞

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レ セ プ タ ー(BCR)あ るい はFcレ セプ ター(FcR)に おい て、 抗 原刺 激の シグ ナ ル伝 達にARAM が 必須であることがミュータン トを用いた実験などから明らかにされている。.第二のモチー フ 構 造は 、細 胞内 ドメ イ ンの 中央 部に 位 置す るSH3ド メイ ン結 合配 列 と2つ のSH2ドメイ ン 結 合 配列 であ る。SH2/SH3ドメ イ ンを持っシグナル分子(チ ロシンキナーゼ、ホスファタ ー ゼ あ るい はア ダプ ター 分 子) がSH2/SH3ドメイン結合配列に 結合し、シグナルを下流に伝 え て い る可 能性 が考 えら れ る。 第三 のモ チ ーフ 構造 はrrrモ チ― フで 、C末端 近傍 に2っ存 在 す る。1XH胞の接着分子LFA‑1と 抗原提示細胞のIくニAM‑1と が接着することにより抗原シグナ ル を増強するようなシグナル(costimulatory signal)を細胞内に伝えるモチ―フで、インテグリ ンB鎖(LFA‑1)の細胞内ドメイン に存在するふ

    A74蛋 白 質の 機能 をさ ぐる 目 的で 、A74抗 体を 用い た免 疫沈降実験を行った結果、主 に 分 子 量105K,75Kお よび56Kの蛋 白 質がA74蛋白 質と 一緒 に沈 降 し、A74蛋白 質が 細胞膜近 傍 で 複 数の 蛋白 質と 複合 体 を形 成し てい る こと が明 らか にな った。免疫沈降物を用いて抗 ホ ス ホ チ口 シン 抗体 によ る ウエ スタ ンプ 口 ッテ ィン グを 行い 、分子量160K, 90Kおよび75Kの 3本 の バ ン ド が チ ロ シン リン 酸 化さ れる こと を 明ら かに した 。分 子 量160Kの バン ドはA74 蛋 白 質に 由来 する と考 え られ る。 次に 、 血球 凝集 に伴 う蛋 白質のチ口シンリン酸化の経 時 変 化 を解 析し た結 果、 凝 集刺 激後10分 に 分子 量260Kお よび160Kの蛋白質がチロシンリン 酸 化 さ れ、30分 後に 分子 量90Kと75Kの蛋 白 質が チ口 シン リン 酸化されることが明らかにな っ た 。 分 子 量160Kの 蛋白 質はA74蛋白 質由 来で 、90Kと75Kの蛋 白質 はA74蛋 白 質と 複合 体を 形 成 し 、 か つ 、 チ 口 シ ン リ ン 酸 化 さ れ る 蛋 白 質 と 分 子 量 が 一 致 し た 。     哺 乳 類 由 来 のTCRを 介す る 抗原 提示 のシ グ ナル は、Srcファ ミリ ーキ ナ ーゼ によ って TCRのARAMの チ ロ シ ン 残 基 が り ン 酸 化 さ れ るこ とで 下流 に 伝え られ る。 こ のチ ロシ ンリ ン 酸 化 さ れ たARAMにZAP‑70(分 子量70Kのキ ナー ゼ) が2つのSH2ドメ イン を 介し て結 合す る と 、そ れ自 身がSrcファ ミリ ー キナーゼによってりン酸化 され活性型キナーゼとなり、 次 の タ ーゲ ット 蛋白 質を り ン酸 化す ると考えられている。A74蛋白質のモチーフ構造および 血 球 凝 集に 伴う チロ シン リ ン酸 化の 解析 結 果を ふま えて 、抗 原提示のシグナル伝達機構と の ア ナ ロ ジ ー で 、1℃RのARAMに 対 し て マ ポ ヤA74蛋 白 質 のARAMが 対 応 し 、ZAP‑70に 対 し て マ ポヤ75K蛋白 質が 対応 する と 考え ると 、マ ボヤ の 血球で は、凝集の刺激によってA74蛋 白 質 のARAMの チ ロ シン 残基 がり ン酸 化 され 、次 に、A74蛋白 質と 複 合体 を形 成す る75K蛋 白 質 が、 チ口 シン リン 酸 化さ れたARAMに 結合 する と、 それ 自身もチ口シンリン酸化され 、 シ グ ナル をさ らに 下流 に 伝え ると いう 機 構が 考え られ る。 この機構の検証が今後必要で あ る 。

    A74抗 体 によ る機 能阻 害実 験 から 、A74蛋 白質 の細 胞外 ドメインが、血球が互いに接 着 す る 血球 凝集 と、 血球 が 異物 を取 り込 む 食作 用に 機能 して いると考えられる。一方、74蛋 白 質 の 細 胞 内 ド メ イン に抗 原レ セプ タ ーの シグ ナル 伝達 に 特徴 的なARAMモ チー フが 存在 し 、 さら に、A74蛋白 質が 血球 凝 集に 伴っ てチ ロシ ン リン酸 化される。A74蛋白質は、細 胞 外 からのシグナル(血球・血球間接着あるいは血球‐異物間認識)を受容する細胞外ドメインと シ グ ナル を内 部に 伝え る 細胞 内ド メイ ン がー つの 分子 とし て合体した形をとっている。 そ れ に 対し て、喃乳類由来の抗原レ セプターは、抗原特異性を 決定するサブユニット(r細胞 、 B細胞 の各 ク 口― ンに 特異 的な 構 造を持つ)と細胞内へのシ グナル伝達を行うサプュニッ ト

( クローン間で共有されるモチ ーフ構造を持つ)に機能分化している。両者の比較の上に、ホ ヤ 型 のプ ロト タイ プか ら 、哺 乳類 型の 抗 原レ セプ ター への 進化に伴って抗原特異性と多 様 性 を獲得したという仮説が提案 できる。

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学位 論文審査の要旨 主 査    教 授    横 沢 英 良 副 査    教 授    長 沢 滋 治 副査    助教授    高橋 和彦 副査    助教授    沢田    均

学 位 論 文 題 名

原索動物マボヤの細胞性防御システムに関与する 抗 原レセプター様分子に関する研究

  原 索 動 物 は 系 統 発 生 学 的 に 脊 椎 動 物 と 無 脊 椎 動 物 の 中 間 に 位 置 し て お り 、 免 疫 の 進 化 を 考 え る 上 で 重 要 な 動 物 で あ る 。 抗 体 や 補 体 を 持 た な い 原 索 動 物 の 生 体 防 御 シ ス テ ム は 血 球 が 行 う 細 胞 性 防 御 反 応 が 中 軸 を 成 し 、 そ の 細 胞 性 防 御 シ ス テ ム の 解 明 は 脊 椎 動 物 の 高 度 に 発 達 し た 免 疫 シ ス テ ム の よ り 深 い 理 解 に 役 立 っ と 考 え ら れ る 。 そ し て 、 原 索 動 物 の 血 球 に 存 在 す る 生 体 防 御 蛋 白 質 が 進 化 的 に 保 存 さ れ て 脊 椎 動 物 の 免 疫 シ ス テ ム で 機 能 し て い る 可 能 性 が 考 え ら れ る 。

  本 論 文 提 出 者 は 、 原 索 動 物 マ ボ ヤ の 細 胞 性 防 御 シ ス テ ム の 中 で 、 血 球 凝 集 に 着 目 し 、 そ の 反 応 に 関 与 す る 分 子 に 関 す る 一 連 の 研 究 を 展 開 し 、 以 下 の 成 果 を お さ め た 。

(1) マ ボ ヤ の 血 球 凝 集 を 定 量 的 に 測 定 す る 方 法 を 開 発 し 、 局 所 的 刺 激 に 伴 い 血 球 凝 集 の 活 性 化 が お き る こ と 、 血 球 凝 集 に 金 属 イ オ ン 、 ペ プ チ ド 性 物 質 、 プ ロ テ ア ー ゼ 、 チ ロ シ ン キ ナ ー ゼ 、 ア ク チ ン フ ィ ラ メ シ ト お よ び 糖 鎖 が 関 与 す る こ と を 明 ら か に し た 。

(2) マ ボ ヤ の 血 球 凝 集 に 対 す る 阻 害 作 用 を 指 標 に し て モ ノ ク ロ ー ナ ル 抗 体A74を 作 製 し 、 そ の 抗 体 が マ ボ ヤ 血 球 に よ る 食 作 用 を も 阻 害 す る こ と を 明 ら か に し た 。 さ ら に 、 そ の 抗 原 蛋 白 質 (A74蛋 白 質 ) を マ ボ ヤ 血 球 膜 画 分 か ら 精 製 し 、  ̄ 本 蛋 白 質 が シ ア ル 酸 を 含 む 分 子 量160Kの 糖 蛋 白 質 で あ る こ と を 明 ら か に し 、 N末 端 部 分 ア ミ ノ 酸 配 列 を 決 定 し た 。

( 3)A74蛋 白 質 の 分 子 構 造 を 明 ら か に す る た め に 、 そ のcDNAク ロ ー ニ ン グ を 行 い 、 単 離 さ れ た A74 cDNAク ロ ー ン が 全 長3390bpで 722ア ミ ノ 酸 を コ ー ド し て お り 、 蛋 白 質 か ら 決 定 さ れ たN末 端 ア ミ ノ 酸 配

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列を含み、ー回の膜貫通領域を有する新規膜蛋白質であることを明らか にした。さらに、細胞内ドメインにチロシンリン酸化を介するシグナル 伝達に働くと考えられる複数のモチーフ構造が存在することを発見した。

そ の第 ーのモチーフ構造は、哺乳類由来の抗原レセプターに特徴的な Antigen Recognition Activation Motif (ARAM) であ り、 脊椎動 物 以 外 の免 疫担 当細 胞で のARAM モチ ーフ 含有 分子の 存在 を初 めて明 ら か に した 。第 二の モチ ーフ構 造は 、一 っの SH3 ドメ イン結 合配 列と 2 っ の SH2 ド メ イ ン 結 合 配 列 で あ り 、 SH2 / SH3 ド メ イ ン を 持 つ シ グ ナ ル 分 子 がこ れ ら の SH2 / SH3 ド メ イ ン結 合 配 列 に 結 合 し て シ グ ナルを下流に伝えるというスキームを提起した。第三のモチーフ構造は、

接着分子間の相互作用を介するシグナル伝達に関与すると考えられる、

2 っ の TTT モチ ーフ であ り、接 着因 子と して 機能し てい ると 考えら れ る A74 蛋白 質を 介す るシ グナル 伝達 にこ のモチーフも重要な役割をは たしているという考えを提案した。

   ( 4 ) A74 抗 体 を 用 い た 免疫 沈 降 実 験か ら、 A74 蛋白 質が 細胞膜 近 傍で複数の蛋白質と複合体を形成していることを明らかにした。そして、

その免疫沈降物を用いた抗ホスホチロシン抗体によるウエスタンブロツ ト 解 析か ら、 A74 蛋白 質お よび それと 複合 体を 形成 する分 子量 90K と 75K の蛋白質がチロシンリン酸化されることを明らかにした。さらに、血 球凝集に伴う蛋白質のチロシンリン酸化を解析し、凝集刺激の初期にA 74 蛋白 質がチロシンリン酸化され、その後、90K 蛋白質と75K 蛋白質が チロシンリン酸化されることを明らかにした。

   (5 )A74 蛋白質は、細胞外からのシグナルを受容する細胞外ドメイ ンとシグナルを内部に伝える細胞内ドメインがーつの分子と.して合体し た形をとっており、両者が機能分化している脊椎動物の抗原レセプター への進化に伴って抗原特異性と多様性を獲得したという仮説を提案した。

   以上の新知見およびそれを得るために用いた新研究技法は、原索動物

の生体防御システムの理解にとどまらず、脊椎動物の免疫システムの進

化 の 道 筋 を 理 解 す る 上 で 重 要 な 寄 与 を な す も の で あ る 。

   審査員一同このことを高く評価し、本論文提出者が博士(薬学)の称号

を受けるにふさわしいものと一致して判断した。

参照

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