博士(理学)清野 肇 学位論文題名
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( 気体電子回折と液晶溶媒を用いたlH・NMRによる2−,3―およぴ4−ピリジンカルボン酸 メ チルエ ステル の分子 構造の 研究)
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学 位論文 内容の 要旨
ピ リジ ン 環に1個 の置 換基を持 つ分 子 では、環 の窒素原 子の位置によって 3種の 構 造異 性 体 が存 在する。 このよ う な異性体 の結合距 離や角度を精密に 測 定し、異 性体間で の構造を比較、検 討 すること は、化学 結合の性質を理解 す る上で興 味深い。 しかしこのような 分 子の気相 での構造 決定の例は非常に 少 なく、ピ リジンの 場合は皆無と言っ てよぃ。本研究の目的は2・、3.およぴ
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H H 図 左か ら イ ソニ コ チン 酸 メ チル 、 ニコチ ン酸 メ チル 、 ピ コリ ン 酸メ チ ル
4.ピリ ジンカル ボン酸メチルエステル(図)を対象にその分子構造を実験的に明らかに す る こ と で あ る 。 以 下 で は 図 に 示 し た よ う に そ れ ぞ れ の 慣 用 名 を 用 い る 。 ニ コ チ ン酸 メ チ ル、 ピ コリ ン 酸 メチ ル はピ リ ジ ンとメト キシカル ボニル基を 結ぷC
―C結 合を 軸 と した 内部 回転によ って2種類 のコンホ マーの存 在が考え られる。ニ コチ ン酸メチルについては、過去に分子軌道法計算や双極子モーメントの測定からコンホメー ション に関する 研究が報 告されて いるが、 結合距離や結合角に関する研究はなぃ。また 他 の2種 の 分 子 に つ い て は 、 分 子 構 造 に 関 す る 研 究 は 報 告 さ れ て い な い 。 本研究 ではまず 気体電子 回折によ り各構造 異性体の分子構造を精密に決定し、コンホ マ ーの 存 在 比を 求 めた 。回折実 験では、 ノズルと 試料を50〜90℃に加熱 し回折写真 の 撮影に 十分な試 料の蒸気 圧を得た 。これら3種の分子 では、原子 対の数が 多く、対称性 が低い ので、電 子回折の 実験だけ ではすべ ての構造パラメータを独立に求められなぃ。
こ のた め ま ずピ ル ジン 環と置換 基の骨格 構造はそ れぞれ平 面である と仮定した 。次に ab initio計算(RHF/6‑31G*)を 行い、類 似の構造 パラメー 夕間の差 を計算か ら得た値に 等 しい と 仮 定し た 。ま たab initio計算(RHF/4‑21G)で カの定数 を求め、 そのカの 定数 を実測 の振動数 を再現す るように スケーリ ングし、解析に必要な平均振幅と短縮補正値 を計算した。ニコチン酸メチル、ピコリン酸メチ´レでは、s‑trans体(図に示したコンホ
マ ー ) とs‑cis体 の コ ン ホ マ ー が 存 在 す る の で 、 そ れ ぞれ 両 者 の 存 在 比 を 求め た。
解 析の 結果 から 以下 のこ とが 明ら かに なった。3分子とも平衡状態では、骨格構造は 平面 であ る。 これはピリジン環と置換基の間に共役が存在することを示している。ニコ チン酸メチルとピコリン酸メチルについては、s‑trans体の方がより安定であり、その存 在比はそれぞれ75土25%、77土23%である。これはab initio計算で求めた存在比、それ ぞ れ60% 、92%と 実験 誤差 内で 一致 する。3種 の分 子の ピリ ジン 環部分 の構 造は 誤差 内で 一致 する 。ピリジン環と置換基を結ぶC―C単結合距離はニコチン酸メチル(1.4 80 A) だ け が 、 イ ソ ニ コ チ ン 酸 メ チ ル (1.499A) 、 ピ コ リン 酸 メ チ ル (1.497A) と比 較す ると 短く 、3種の 構造異 性体 の間 で異 なることを見いだした。これはニコチン酸メ チル では 他の2種 の分 子と比 較し て 電子 がより非局在化していることを示している。
(O )C−O単結 合距 離は、 共役 構造 を持 たない酢酸メチル(1.360A)と比較するとァ クリ ル酸 メチ ル(1.349A) は短 く、 イソ ニコ゛チン酸メチル(1.3 31A)、ニコチン酸 メ チ ル (1.3 31A) ピ コ リ ン 酸 メ チ ル (1.325A)の3種 の分 子で は共通 して さら に短 いこ とを 見い だし た。 これ はピ リジ ン環 が存 在す ること によ って 、置 換基のO‑C―O部 分で電子がより非局在化しているためと考えられる。
次 にNMR法 によ って 液晶溶 媒中 での 骨格 の平面性を検討し、イソニコチン酸メチルで は ピ リ ジ ン 環 中の 水素 の位 置を 、他 の2種 の分 子で はコ ンホ マー の存在 比を 求め た。
実験 ではZLI 1167を溶 媒と して 、各 異性 体の1H‑NMRを測 定し た。 得ら れたスベクトル を解 析し 、直 接結合定数Dijを求めた。Dijを解析することにより溶質分子のコンホマー の存 在比 およ び配 向度 を求 めた 。骨 格構 造は電子回折で得た気相の構造を仮定しDijに 対す る振 動補 正を行った。予備的な解析において分子の回転が内部回転に独立であると 仮定 する と計 算値 は実 測値 を良 く再 現す るこ とが できな かっ た。 この ため回転と内部 回 転 と の 相 関 を考 慮し たモ デル(ELSモデル )を 用い て解 析し た。 その 結果Dijの 計算 値は 実測 値と 良く一致した。3種の分子でtよ、平衡状態で骨格は平面が安定である。ニ コチ ン酸 メチ ル、 ピコ リン 酸メ チル ではs‑trans体の存在比はそれぞれ64土1%、68土1
%と なり 電子 回折から求めた気相での結果と一致する。またイソニコチン酸メチルでは ピル ジン 環内 の水 素の 位置 を決 定で き、 気相で求めた位置と誤差内で一致する。他の2 種 の 分 子 で は 、 気 相 と 液 晶 中 で の 水 素 の 位 置 に 有 意 な 違 い は 見 ら れ な い 。 以 上を まと める と、3異性 体は いず れも 分子骨格が気相でもZLI 1167中でも平面であ り 、 ピ リ ジ ン 環と 置換 基を 結ぷC−C結合距 離は ニコ チン 酸メ チル だけ が他 の2種 の分 子と比較して短いことを見いだした。また置換基の(O ̄)C−O単結合の距離は、ピリジン 環を 持た なぃ 他の 分子 と比 べる と、 共通 して 短い 。ZLI 1167中に おい て、イソニコチ ン酸 メチ ルで はピリジン環内の水素の位置は電子回折で求めた位置と誤差内で一致し、
ニコ チン 酸メ チルとピコリン酸メチルでも直接結合定数は気相中の分子構造データで説 明で きる 。ま たニコチン酸メチルとピコリン酸メチルでは、安定なコンホマーは気相と 同じs‑trans体である。
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 教授
小中 佐々 木 稲辺 井 J‖
学 位 論 文 題 名
重 弘 不 可止 保 駿 一
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(気体電子回折と液晶溶媒を用いたlH.NMRによる2ー,3―および4―ピリジンカルボン酸 メチルエステルの分子構造の研究)
ピリ ジ ンの1置換 体 には 位 置異 陸 に より3種の 異陸 体の存在が 考えられる 。こ のよ うな異I生体の分子 構造を精密 に測定し、その結果を比較、検討することは、
分子 の幾何構造 を支配する 因子を知り 、化学結合 の性質を理 解する上で意義があ る。 しかしこの ような分子 の気相での 構造決定の 例は非常に 少なく、ピリジンの 場 合 は皆 無 と言 っ てよい。申 請者は2‑,3‑お よび4. ピ1Jジンカル ボン酸メチ ル エス テルの気相 および液晶 中の分子構 造を実験的 に明らかに した。以下ではそれ ぞれ 、ピコリン酸メチル、ニコチン酸メチル、イソニコチン酸メチルと´隕用名で 記すことにする。
申 請 者は ま ず気 体 電子 回 折に よ り構 造 決定 を 行っ た。いず れの分子も 間隔の異 なる 原子対の数 が多く、電 子回折だけ で構造を決 定すること はできない。このた め に まず ピ リジ ン 環と 置 換基 の 骨格 構 造は そ れぞ れ平面で あると仮定 し、次に abinitio計 算ゆ /6,31のを 行い、類似 の構造パラ メー夕間の 差を計算値 に等し い と 仮定 し た。 さ らに実測の 振動数を再 現する2次のカの定 数を求めそ れから解 析 に 必要 な 平均 振 幅と短縮補 正値を計算 した。解析 の結果、3分子とも 骨格構造 は平 面であり、 これからピ リジン環と 置換基の間 に共役が存 在すると結論した。
ニ コ チン 酸 メチ ル とピ コ リン 酸 メチ ル につ い ては 、二つの コンホマー のうち、
s・trans体がより安定であり、存在比はそれぞれ75土25、77土23%である。.ピリジ
ン環 部分 の構 造はい ずれ の分 子も 誤差内 で一 致し たが、環と置換基を結ぶC‑C単 結 合 距離 はニ コチ ン酸 メチル だけ が、 他と比 較す ると 約O.02A短 いこ とを 見い 出した。申請者はニコチン酸メチルでは電子カミ最もヨE局在化しうることを示し、
こ の 結合 距離 の短 縮を 説明し た。 申請 者はさ らに(めC‑O単 結合距 離が 共役 構造 を持 たな い酢 酸メチ ルの1.360Aと比 較し てアク リル 酸メチルは約0.OlA短く、
標 題 分 子 で はさ ら に 約0.02A短 い こ と を見い 出し 、こ の理 由はピ リジ ン環 の存 在によって置換基の〔間・O部分で電子がより非局在化しているためと考察した。
次 にNMRに よっ て 液 晶 溶 媒 中 で の 溶 質 分 子の 構 造 解 析 を 行 っ た 。 実 験で はZLI 1167を溶 媒と して各 異陸 体の1H ‑NMRを測 定し、 得ら れたスベクトルから直接結 合定 数を 求め 、振動 補正をした。骨格構造は気相の構造を仮定し、内部回転と回 転 と の相 関を 考慮 した モデル 邨モ デル )に基 づく 解析 を行 った。 いず れの 分子 骨格 も平 面で あるこ とを明らかにし、ニコチン酸メチ・ル、ピコリン酸メチルの s‑ trans体の 存在 比を それぞ れ64土1、68土1%と 精度 よく 決定し た。 また ピリ ジ ン 環 の 水 素 位 置 に つ い て も 気 相 の 位 置 と 比 較 検 討 を 行 っ た 。 以 上 、申 請者 はピ リジ ンカル ボン 酸メ チルエ ステ ルの 気相 および 液晶 溶媒 中で の分 子構 造と 立体配 座を 電子 回折 とNMRに よって 詳細 に研究し、他の方法では得 難い 精密 で信 頼度の 高い 結果 を得 た。特 にピ リジ ンの ,p,ア位に同じ置換基 を持 つ3異陸 体の 気体 分子の 構造 を精 密に 決定し 、結 合距離の相違を明らかにし たことは、その合理的な解釈と合わせて高く評価される。
業 績 論 文3編は い ず れ も 国 外 の 権 威 あ る学術 雑誌 に発 表さ れたも ので ある 。以 上の 所見 に基 づき、 審査員一同は申請者が博士(理学)の学位を受けるのに十分 な資格があるものと認定した。