博士(理学)清水収司 学位論文題名
Studies on the IVIeso‑ B Scale Structures and Features of Precipitationin the Baiu Fronta,l Zones
( 梅 雨 前 線 帯 に お け る 降 雨 の メ ソpス ケ ー ル の 構 造 と 特 徴 に 関 す る 研 究 )
学位論文内容の要旨
毎年6月中 旬か ら7月 中旬 にか けて 、日 本列 島は 梅雨 期に 入り 、日本から中国にか け て 、 北 緯30度 か ら40度 の 間 に 東 西 に 伸び る梅 雨前 線 によ り、 多量 の降 雨が もた らさ れ る。 この 梅雨 前 線帯 にお ける 降雨 のメ ソロ スケ ール の構 造、 及び特徴を明らかに す る ため に、1990年 、1991年 の梅 雨期 につ いて 、滋 賀県 信楽 町で 、北海道大学理学部 の 気 象用X−bandド ップ ラー レー ダー と京 都大学超高層電波研究センターのMUレーダー 、 及 びそ の他 の観測機器を用い て、集中連続観測を行った。本論文は、この期間中に観 測 さ れた6例の 事例 解析 中の8っの 降水 シス テム につ いて 解析 を行 い、それぞれの降雨 の メ ソロ スケ ールの詳細な構造 と特徴、及びその降雨の梅雨前線での多重スケールの階 層 構造の位 置付けに関する研究についてまとめたものである。
高層 デー タを 用 いた 総観 スケ ール 及びメソaスケールの解析から、信楽付近で多量 の 降 雨が もた らさ れ ると きに は、 以下 のような特徴をあげ ることができる。まず第1に 観 測点上空 で50kg ‑ m‑2を超えるような可降水量が観測されること、第2に高層天気図上で、
中 層(900〜700hPa)にお いて 南西 から の湿 った 暖気 移 流が 存在 する こと であ る。 さら に水蒸気収支解析において、下層で4.Og. day―l.cm―2以上の収束と上層で発散が存在す る こと であ る。 こ の結 果は 過去 に行 われたメソaスケールの解析的研究の結果を支持 す るものと なった。
各事 例解 析に お いて 様々 な型 の前 線を解析した。ケー ス1では、温暖前線の接近に 伴 う 連続 的な 降雨が観測された 。この温暖前線は下層の南東風と上層の西風との間のシ ア ー ライ ンと して、この事例を 通して解析された。さらにこの事例の前半では、両層の 問 に 乾い た弱 い南風が入り込む ことによる上層の前線が観測され、後半では薄い南西風 層 の 存在 によ る鉛直シアーライ ンが解析された。前半の上層の前線が降水量を抑える役 割 を 果た して いたのに対し、後 半ではシアーラインの上でのメソロスケールの収束と上 昇 流 によ って 、連 続 的な 強い 層状 性の 降雨がもたらされた 。ケース6では、温暖前線及 び 寒 冷前 線の 通過による降雨が 観測された。温暖前線面に相当する鉛直シアーラインが 下 層 の南 西風 と上空の西風との 間に解析され、この前線面は階段状構造をしていた。こ れ に 伴い 、層 状性の降雨が観測 され、前線面の勾配の急な時間にその降雨は強くなった 。 メ ソロ スケ ールの収束、及び 上昇流はこの前線面の急勾配のところで強くなっていた 。 一 方、 寒冷 前線の通過に伴い 、湿った暖気が南西風として下層に入り込んでいた。こ れ により対 流不安定が形成され、対流的な非常に強い降雨がもたら された。ケース3では、
低 気圧 の暖 域内で強い降雨が 観測された。南西風による非常に暖かく湿った空気が、 短 時 間 に 高 度3km付近 に入 り込 んで いる のが 解析 され た 。こ の南 西風 によ る強 い収 束、
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及び上昇流によって強い層状性降雨がもたらされた。その後、上空に寒気が西風として 入り込んでくることによって、層状性降雨は対流性に急激に変化し、非常に強い降雨と なった。このとき天気図からは解析されなかった寒冷前線の通過が解析された。ただし その前線面は暖気側に傾いていた。このケースでは、信楽を含めた5点の高層観測点の データによる水蒸気収支解析から、南西領域における下層での強い南西風、及び収束に よって、多量の水蒸気が上空に運ぱれ、それが発散し、北側の領域に輸送、収束するこ とによって、信楽付近に強い降水をもたらしたことがわかった。ケース4では、停滞前 線によって断続的に長く続いた降雨が観測された。この降雨は弱いものであったが、信 楽上空の可降水量の値は前述の3ケースと同様に大きなものであった。このケースでは シアーラインは解析されず、水平風の鉛直プロファイルには大きな変化は見られなかっ た。
以上の事例解析から、梅雨前線帯においてメソロスケールで強い降雨となるための主 要な要因として考えられるのは、第1にほば飽和した成層状態にあること、第2に飽和 相当温位が340Kを超えるような南西からの湿った暖気移流が、降水域の下層または中 層に存在すること、第3にメソ8スケールでlxl0‑4s−1を超えるような強い収束が、連 続的に対流不安定層に存在していることである。この収束は西風と南西風の合流によっ てもたらされた。
層状性降雨、及び対流性降雨のそれぞれについて事例解析を比較することによって、
連続的な強い降雨と短時間の激しい降雨の詳細な特徴を明らかにした。連続的な降雨で は、次のような特徴を挙げることができる。対流的に中立な成層状態にあり、前線面上 での温度コン卜ラストが弱いとき、その前線面の傾きが急なところ、もしくはその上空 における強い収束、及び上昇流によって多量の降雨がもたらされる。これに対し前線面 での温度コン卜ラストが強いときは、前線面上空の収束、及び上昇流によって長時間に わたって多量の降雨がもたらされる。一方短時間での激しい降雨では、南西風による湿 った暖気の流入が重要になるが、それが高度2kmより上の中層に流入するときには、
下層が強い安定となり、中層より上での対流により、強い層状性降雨がもたらされる。
これに対し、高度2kmより下の下層に流入するときには、その上層で相対的に寒気が 存 在 す る こ と に な り 、 気 柱 の 転 倒 に よ る 強 い 対 流 性 降 雨 が も た ら さ れ る 。 以上の事例解析で解析されたような水平風の鉛直シアーラインの存在、及び中層にお けるメソロスケールの収束は、熱帯のクラウドクラスターの層状性領域において強い降 水をもたらす際にも、同様に重要な役割を果たしている。
メソロスケールに注目して行った全事例解析を、梅雨前線上のメソnスケールの低気 圧内での位置付けを行うことによって、連続的な層状性降雨はその温暖前線に、短時間 の対流性降雨は寒冷前線、及び暖域内で起こっていることがわかった。この様相は総観 規模スケールの低気圧の様相と似ているが、そのシステムによる降水量やその降り方は、
メソロスケールの収束や南西風の流入の高さによって大きく変化していることを明ら かにした。
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学位 論文審査の要旨 主 査
教 授
菊 地 勝 弘 副 査
教 授
金 成 誠 一 副 査
助教 授
上田
博 副 査
講 師
遊 馬 芳 雄
学 位 論 文 題 名
Studies on the IVIeso‑ 8 Scale Structures and Features of Precipitationin the Baiu Frontal Zones
( 梅 雨 前 線 帯 に お け る 降 雨 の メ ソpス ケ ー ル の 構 造 と 特 徴 に 関 す る 研 究 )
日 本 列 島 の 南 西 部 は 毎 年6〜7月 に か け て 梅 雨 前線 によ る大 雨 や集 中豪 雨に よる 被害 を 受 けて いる 。こ れ らの 大雨 や梅 雨前 線帯 の構 造に つい ての 研究 は、 今日 ま で主 として総観 規 模 ス ケ ー ル や レ ー ダ ー の 反 射 強 度 と の 対 応 に つ い て の も の が 多 か っ た 。 本論 文は 、梅 雨 前線 帯に おけ る降 雨の メソ 声ス ケー ルの 構造 及び その 特 徴を 明らかにす る た め に 、1990、1991年 の 梅 雨 期 に 滋 賀 県 信 楽 町 で 行 っ たX― バ ン ド ド ッ プ ラ ー レ ー ダ ー とMUレ ー ダ ー に よ る 集 中 連 続 観 測 の 解 析か ら得 られ た 新た な知 見を まと めた も の であ る。
本 論 文 は6章 か ら 構 成 さ れ て い る 。 第1章 は 序 文で あり 、今 日 まで の梅 雨前 線に 伴う 降 雨 の研 究の 概略 を 述べ 、特 に、 この 研究 で対 象と した 、メ ソロ スケ ール の 気流 系を含めた 三 次 元 的 な 構 造 や 特 徴に つい ての 研 究の 不足 を指 摘し てい る。 第2章 は、 観測 及び 解析 方 法 で あ り 、 特 に こ の 研 究 で 主 要 な 役 割 を 果 し たMUレ ー ダ ー とX− バ ン ド ド ッ プラ ーレ ー ダ ー に よ る 水 平 風 の 鉛 直 プ ロ フ ァ イ ル の 比 較 観 測 の 結 果 に つ い て も 述 べ て い る 。 第3章 は 観 測 期 間 全 体の 降雨 と水 蒸気 量の 変動 につ いて の、 メ ソロ スケ ール の水 蒸気 収 支 解析 の結 果を 示 して いる 。す なわ ち、 観測 点付 近で の多 量の 降雨 は、 上 空で の可降水量 の 増 加 と 、 中 層 に お け る 南 西 か ら の 暖 湿 気 移 流 で あ る こ と を 明 ら か に し た 。 第4章 は 観 測 期 間 中 の 事 例 解 析 の 結 果 で あ る 。 すな わち 、(1)連 続的 な強 い層 状性 の 降 雨は 、温 暖前 線 面と 上層 の前 面、 及び 鉛直 シア ーラ イン 上で のメ ソロ ス ケー ルの収束と そ れ に 伴 う 上 昇 流 に よる もの 、(2)対 流性 の強 い降 雨は 、階 段 状構 造を 持つ 温暖 前線 面 に 相当 する 鉛直 シ アー ライ ンの 勾配 が急 にな った 時の メソ ロス ケー ルの 収 束、 上昇流によ る も の 、 (3) 低 気 圧 に伴 う暖 域内 の強 い降 雨は ,南 西か ら暖 気 の中 層へ の短 時間 の流 入 に よ る も の 、(4)大 き な 可 降 水 量 が 存 在 し て も , 水 平 風 の 鉛 直 プ ロ フ ァ イ ル にほ とん ど
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変化がない時は,大雨にならないことなどを明らかにした。っまり、梅雨前線帯において、
メソロスケールの強い降雨となるための要因として、ほぼ飽和した成層状態、南西からの 暖気移流が降水域の下層、または中層にあること、そして、メソロスケールの強い収束の 存在であることを明らかにした。
第5章は、第4章で得られたそれぞれの降雨の特徴に対して、熱帯域、特にパプァ・ニ ユーギニア、マヌス島付近のクラウドクラス夕―の層状性降雨に対しても、水平風の鉛直
,シアーラインの存在と、中層のメソロスケールの収束が重要であることを明らかにした。
さらに、この研究観測で得られたメソ口スケ―ルの特徴を、梅雨前線上のメソロスケール の低気圧内での位置づけを行った。得られた結果は、メソaスケ―ルの低気圧の様相と類 似していたが、そのシステムとしての降雨量や、その降り方は、メソロスケールの収束や 上 昇 流 、 南 西 風 の 移 流 の 高 さ に よ っ て 変 化 し て い る こ と を 明 ら か に し た 。 第6章はこの研究で得られた結果を総括し、今後の研究の展望について述べている。
このように、著者は梅雨前線帯の降雨をMUレーダーとX―バンドドップラーレーダー の併用といった新しい手法を用い、メソロスケールの構造や、その特徴を明らかにした点 は 、 メ ソ 気 象 学 、 レ ー ダ ー 気 象 学 の 分 野 に 貢 献 す る と こ ろ 大 なる も の が あ る 。 よって著者は、北海道大学博士(理学)の学位を授与される資格あるものと認める。