博 士 ( 農 学 ) エ ム デ イ ト フ ァザ ル イス ラ ム
学位論文題名
Ecochemical Interactions between Plants and Zoospores of the PhytopathogeniCOOmyCete/4 ウカの刀〇刀砂C ¢SC 〇C カff 〇f ガ¢S ( 植物 病原 性 卵菌 4p カ 伽 D 刎 c ピ sc 〇 c カ′ あ Z 出 s の遊走子 と 植物の生態化学的相互作用)
学位論文内容の要旨
卵 菌類 のPhytophthora属、Pythium属、Aphanomyces属菌には、植物 、陸上動物、魚類などに甚 大な 被害 を与 える 病原 菌が含まれる。植物病原性の卵菌は、遺伝的に 多様性を有し、化学薬剤に よる制御も容易ではない。Aphanomyces cochlioidesは、サトウダイコン やホウレンソウその他の アカザ科やヒユ科の植物に被害をもたらす。A.cochlioidesの遊走子は、走化性によって宿主植物 に到達し、根の組織に侵入する前に形態変化 (被嚢化、発芽、付着器形成)を示す。卵菌類の宿主 認識や宿主、非宿主植物との生態化学的相互 作用に関する知見は極めて乏しい。本研究では、A. cochlioidesの遊 走子と宿主及ぴ非宿主植物との植物二次代謝産物を介し た相互作用の実態解明を 目 的 に 、8つ の 独 立 し た 、 し か し 関 連 性 の あ る 実 験 を 実 施 し 、以 下 に示 した 新知 見を 得た 。 1)遊走子の形 態と宿主植物との相互作用の様式
遊 走子 の形 態特 性及 ぴホウレシソウ根への感染過程を光学ならぴに 電子顕微鏡で可視化した。
腎臓型卵形をした遊走子、は、腹面の溝から 出た2本のそれそれは特徴の ある毛状体で飾られた不 均等 な鞭 毛を 持つ 。遊 走子は根に接近すると遊泳を停止し、前方の鞭 毛を自分の体に巻き付け、
後方の鞭毛で、宿主の表面に接触し遊走子本 体を徐々に宿主表面に弓|き寄せて、腹面の溝の部分 が宿 主表 面側 に来 るよ うに正確に付着し、粘着性物質を分泌して自身 を固定する様子が観察され た。この事実は、A. cochlioidesの遊走子が宿主の表面にうまく付着するために、後方鞭毛を使つ てい るこ とを 示唆 して いる。接着した遊走子は、鞭毛を失い球状とな り、急激に、回りを滑らか な面 で覆 われ た大 型の 被嚢体となり、時間の経過とともに表面に皺の 寄った小型の被嚢胞子に変 化し た。 それ らは やが て、接着した側の決まった部位から発芽管を出 し、付着器を形成して根の 組織に侵入した。これらの過程は、50ー60 minで進行した。
2) 宿 主 特 異 的 誘 弓1物 質cochliophilinA(1)に よ る 遊 走 子 の 形 態 分 化 の 誘 導 被 検物 質を 塗布 した 珪藻土粒子を遊走子懸濁液に加えてその効果を 検定する担体法を、遊走子 の分 化に 対す るcochliophilinA(1)の効果 が見られるように工夫し、1が遊走子を誘引する最低濃 度を3/1010M程 度胆 体に 塗布 する 溶液 の濃 度で 、担体1個にはその4 nlが付着しているX被嚢化濃 度は1/108 ‑ 1/106Mと決定した。被嚢化胞子 は、担体の表面に付着し、30 ‑ 35 minで発芽した。
発芽 管は1を含 む担 体に対し走化性を示し た。希薄な濃度で誘弓1され 、根の表面近くの高い濃度 で被 嚢化 、胞 子発 芽を 起こすことは感染生理からしても極めて合理的 である。走査電顕での観察 によ り、1によ って 誘導 され る遊 走子 の分 化は 、ホウレンソウの根の 表面でのものと同じである こと が確 認さ れた 。宿 主特 異的 誘 引物 質1が、 ホウレンソウ根圏で見 られる程度の濃度で、ホウ
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レンソウの根 と同様に遊走子の誘弓f、被 嚢化、発芽を誘導することの観察は、1が真に機能を負っ た宿主特異的 誘弓f物質であり、遊走子が 宿主の根に定位、付着し、被嚢化、発芽する過程に、必 須の役割を果たしていることを示している。
3)卵菌類遊走子のG‑タンバク質共役型情報伝達系について
Mastoparanは 、ス ズメ バチの毒液に由来する陽イオ ン性の両親媒性ペプチドで14個のアミノ酸 からなり、広 く動物のへテロトリメリックなGTP‑結合性制御夕ンパク 質(G‑protein)を活性化させ る 。こ のmastoparanは、 遊走子の分化を誘導し、その 作用がphospholipaseCの阻害剤やカルシウ ム 二 価 イ オ ン の転 流を 制御 する 物質 で抑 制さ れた 。上 記ベ プチ ド の合 成ア ナロ ーグ で、6位 の leucineがlysineで置換され脂質膜部で両 親媒性を示すへりヅクス構造をとれないMas17は、遊走子 に 対す る作 用性 は全 くな かった。結果を合わせて考え ると、遊走子は宿主のシグナルをG‑夕ンバ ク共役型のレ セプターで受容し、その刺激がりン酸化イノシトール類‑Caz゛シグナリングカスケー ドを経て、走化性や分化の応答へと転化されていることが示唆された。
4) 非 宿 主 植 物 は 卵 菌 類 遊 走 子 を 防 ぐ た め の 防 御 物 質 ( イ 匕 学 兵 器 ) を 備 え て い る 非感 受性 の植 物は 病原 菌 に対 する 防御 物質 を含 むとの仮説を立て、約200種の非宿主植物抽出 物 にっ き担 体法 によ るス クリーニング試験を行った。 約半数で、遊走子の運動性や生存に影響が 見られた。そ のうち3種の植物、忌避作用 を示すマメ科Dalbergia odorifera、遊走子の遊泳停止と 細胞溶解作用 を示すウルシ科Lannea coromandelica、遊走子を誘弓fして遊泳を停止させるヒユ科 Amaranthus gangeticusに つ い て 、 活 性 物 質 胆 体 法 に よ る 評 価 ) の 同 定 を 試 み た 。 (A)D.odoriferaから、(土)‑medicarpin(2;100 ppm溶液で忌避活性X(ー)‑claussequinonep;150 ppmで興奮作用)及ぴformononetin (4; 50 ppmで誘弓Iと興奮作用)を単離同定した。これら3種の混 合物(1:1:1)は50 ppmで忌避活性を示した。
(B)工 .coromandelicaの活性本体は、MALDI‑TOF‑MSの手法を用いて、活性本体がアンギュラ一 型 ポリ フラ ボノ イド 館合 ) 夕ン ニン であ るこ とを 明らかにした。市販の工業用縮 合夕ンニン2種
( ミ モ ザ お よ ぴ ケ ブ ラ コ タ ン ニ ン ) も 、 遊走 子の 遊泳 を停 止さ せそ の後 細胞 を溶 解さ せた 。 (qA.gangeticusの遊走子誘引と遊泳停 止作用は、N‑trans‑feruloyl‑4‑O‑methyldopamine (5)と nicotinamide (6)の共存によると判明した。化合物5は遊走子を誘弓Iするが阻害的作用は示さず、
化 合物6は、 急激 に遊 泳を 停止 させ 被嚢 化さ せた 。し か し化 合物6で 誘起 され る被嚢体は発芽は せ ず、 再度 遊走 子を 与え た 。化 合物5と6が共 存す ると 被嚢 体を 形成 、成 熟し た被嚢胞子を経て 30 ‑ 35 min後に、cochliophilinA(1)存在下と同様に発芽した。A.gangeticusの根を遊走子懸濁液 に 入れ ると 、遊 走子 は根 端 部で 遊泳 を停 止し 被嚢 して、3時間ぐらい後に遊走子を再生した。こ の 事実 は、A. gangeticusの根 端か らnicotinamide (6)が 滲出 して いる こと を示唆しているふ (D)哺乳動物のエストロジェン17p‑estradiol (7)やestrone (8)が、卵菌の遊走子に顕著な忌避活性 を 示す こと を発 見し た。 高 活性 発現 には 、A環の 芳香 環 化、 ステ ロイ ド構 造のC‑3位に遊離の水 酸 基 が 必 須 で 、 遊 走 子 忌 避 活 性 と エ ス ト ロ ジ ェ ン 活 性 の 間 に は 、 正 の 相 関 が あ っ た 。 以上、本研 究により植物病原性卵菌A. cochlioidesの遊走子の構造や機能、遊走子と宿主あるい は 非宿 主植 物と の生 態化 学的相互作用に関して、大変 興味深い多くの新知見が得られた。病原性 卵菌の生理生 態を制御するcochliophilineA(1)やnicotinamide (6)のアゴニストやアンタゴニスト、
非宿主植物か ら単離された二次代謝産物などを用いて卵菌の生活環展 開の機構を解明することは、
病 原 性 卵 菌 類 を 制 御 す る 新 た ナ ょ 方 法 へ の 手 掛 り を 与 え て く れ る も の と 期 待 さ れ る 。
―125―
H
く ザ ℃ 蝣 。
H1: cochliophilin A 2: (+)‑medicarpin 3: (‑)‑claussequinone
4: formononetin
5:N‑trans‑feruloyl‑4‑O‑methyldopamine 6:nicotuiamide
‑ 126―
CH3
tlH
HHO 丶 グ 丶 /
7: 17[3‑estradiol 8: estrone
学位 論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 助教授 講師
田 原 哲 士 吉 原 照 彦 橋 床 泰 之 福 士 幸 治
学位論 文題 名
Ecochemical 工 nteractions between Plants and Zoospores of the Phytopathogenic Oomycete ノゆカ口刀〇刀グC ¢SC 〇C カZ あぬたS
(植物病原性卵菌Aphanomyces cochlioides の遊走子と 植物の生態化学的相互作用)
本 論 文 は 、 英 文272頁 、 図 類43、 表18、13章 か ら 顔 り 、 参 考 論 文9編 が あ る 。 Phytophthora; 属、Pythium属 、Aphanomyces属 菌 など の植 物病 原性 卵菌は、遺伝的に多様 性を有し、化学薬剤によ る制御も容易ではない。Aphanomyces cochlioidesは、サトウダイコ ンやホウレンソウその他 のアカザ科やヒユ科の植物に被害をもたらす。A cochlioidesの遊走 子は、走化性によって宿 主植物に到達し、根の組織に侵入する前に形態変化(被嚢化、発芽、
付 着器 形成 )を 示す。卵菌類の宿主認識や宿主 、非宿主植物との生態化学的相互作用に関す る知見が乏しいため本研 究では、A cochlioidesの遊 走子と宿主及び非宿主植物との植物二次 代 謝産 物を 介し た相互作用の実態解明を目的に 研究を展開し、以下に示した新知見を得てい る。
1)遊走子の形態と宿主植 物との相互作用の様式について
遊 走子 の形 態特陸及びホウレンソウ根への感 染過程を光学ならびに電子顕微鏡で可視化し た。鞭毛を含めた遊走子の微細構造を経時的に観察し 、A cochlioidesの遊走子が宿主表面に うま く付 着す るのに、後方鞭毛を使ってぃるこ とを初めて指摘した。遊走子は、鞭毛を失い 球状 に変 化、 急激に、回りを滑らかな面で覆わ れた大型の被嚢体となり、徐々に表面に皺の 寄っ た小 型の 被嚢胞子に成熟、やがて接着した 側の決まった部位から発芽管を出し、付着器 を 形 成 し て 根 の 組 織 に 侵 入 し た 。 こ れ ら の 過 程 は 、50 ‑ 60 minで 進 行 し た 。
2) 宿 主 特 異 的 誘 引 物 質cochliophmnA(1冫 に よ る 遊 走 子 の 形 態 分 化 の 誘 導 に つ い て 被 検物 質を塗布 した珪藻土粒子を遊走子懸濁液に加えてその効果を検定 する担体法を、遊 走子 の分 化に 対す るcocMophmnA(1冫 の効果が見られるように工夫し、1が遊走子を誘弓Iす
る 最 低 濃 度 を3/10 ̄ 。M程 度 ( 担 体 に 塗 布 す る 溶 液 の 濃 度 で 、 担 体1個 に は そ の4nlが 付 着 し て い る ) 、 被 嚢 化 濃 度 は1/108‐ i/106Mと 決 定 し た 。 被 嚢 化 胞 子 は 、 担 体 の 表 面に 付I着 し 、30‑ 35 minで 発 芽 し た 。 発 芽 管 は1を 含 む 担 体 に 対 し 走 イ ヒ 性 を 示 し た 。 そ の 他 の 結 果 も 併 せ て 、1が 真 に 機 能 を 負 っ た 宿 主 特 異 的 誘 引 物 質 で あ り 、 遊 走 子 が 宿 主 の 根 に定 位 、 付 着 し 、 被 嚢 化 、 発 芽 す る 過 程 に 、 必 須 の 役 割 を 果 た し て い る こ と を 示 し た 。
1: cochliophilin A
H
H H
3: (‑)‑claussequinone
O‑methyldopamine
H
3) 卵 菌 類 遊 走 子 のG‑蛋 白 質 共 役 型 情 報 伝 達 系 に つ い て
ス ズ メ バ チ の 毒 液 に 由 来 し 、GrIP̲結 合 性 制 御 蛋 白 質 を 活 性 化 さ せ るmastoparanが 、 遊 走 子 の 分 化 を 誘 導 し 、 そ の 作 用 がphosph01ipaseCの 阻 害 剤 や カ ル シ ウ ム イ オ ン の 転 流 を 制 御 す る 物 質 で 抑 制 さ れ る こ と を 明 ら か に し た 。 こ の 事 実 は 、 遊 走 子 が 宿 主 の シ グ ナ ル をG‐ 蛋 白 共 役 型 の レ セ プ タ ー で 受 容 し 、 そ の 刺 激 が り ン酸 化 イ ノ シト ー ル 類 ‐Ca2+ シ グ ナル 伝 達 系 を 経 て 、 走 化 性 や 彡 Mヒ の 応 答 入 と 転 化 さ れ る こ と を 示 唆 し て い る 。
4) 非 宿 主 植 物 が 備 え て い る 卵 菌 類 遊 走 子 を 防 ぐ た め の 防 御 物 質 く イ 匕 学 兵 器 ) に つ い て 非 感 受 性 の 植 物 は 病 原 菌 に 対 す る 防 御 物 質 を 含 む と の 仮 説 を 立 て 、 約200種 の 非 宿 主 植 物 抽 出 物 に っ き 担 体 法 に よ る ス ク リ ー ニ ン グ 試 験 を 行 っ た 。 約 半 数 で 、 遊 走 子 の 運動 性 や 生 存に影 響が見 られた 。(A)忌避 作用を 示すマ メ科Dalbergia odoriferaから、(土冫Imedicarpin(2; 100 ppm溶液 で忌避 活恟、 (ー)‑ clausseq価none(3)及ぴfonuononeth1(4)を単離同定、(B冫遊走 子 の遊 泳 停Iヒ と 細胞 溶 解 作 用を 示 す ウ ルシ 科 工 弸 織卿 .D′ 打 弸 ぬ 轟餾 の 活 性 本体 は 、MAIDI‐ 1DF―MSの 手 法に よ り 、 アン ギ ュ ラ 一型 ポ リ フ ラポ ノ イ ド 型( 縮 合 、 )夕ン ニンで あるこ と、(q A朋 rロnmHsgロngefをMs成 分 の 遊 走 子 誘 引 と 遊 泳 停 止 作 用 は 、 誘 弓 | 物 質 で あ るM鮑 p 馴oy14‐ 〇 ―memyldopanlm( の と 被 劃 ヒ を 誘 導 す るmaコ 血a血de@ の 共 存 に よ る こ と、p) 天 然 エ ス ト ロ ジ ェ ン お よ び 合 成エ ス ト ロ ジェ ン ア ナ ロー ー グ 、 植物 エ ス ト ロジ ェ ン 、 ピス フ ェ ノ ー ル な ど の エ ス ト ロ ジ ェ ン 作 用 を 示 す 生 体 異 物 を 遊 走 子 カ 極 め て 敏 感 に 忌 避 す こ と、 な ど を 見いだ した。
以 上 、 本 研 究 に よ り 植 物 病 原 性 卵 菌Aの め め ぬ の 遊 走 子 の 構 造 や 機 能 、 遊 走 子 と 宿 主 あ る い は 非 宿 主 植 物 と の 生 態 化 学 的 相 互 作 用 に 関 し て 、 大 変 興 味 深 い 多 くの 新 知 見 が得 ら れ た 。 病 原 性 卵 菌 の 生理 生 態 を 帯啣 す るcochliophmneA(1)やnicothlarnide(Dの ア ゴニ ス ト や ア ン タ ゴ ニ ス ト 、 非 宿 主 植 物 か ら 単 離 さ れ た 二 次 代 謝 産 物 な ど を 用 い て 卵菌 の 生 活 環展 開 の
機障を解明することは、病原性卵菌類を制御する新たナょ方法への手掛りを与えてくれるもの と期待される。
よって、審査員一同は、McL ToaZZa]Is1珊が博士(農学)の学位を受けるのに十分な資格 を有するものと認めた,