博 士 ( 理 学 ) 近 藤 朋 子
学位論文題名
Molecular and cellular biological analyses of the formation of maturation‑promoting faCtorinZebra
丘
ShOOCyteS(ゼブラフイッシュ卵母細胞における
卵 成 熟 促 進 因 子 形 成 機 構 の 分 子 細 胞 生 物 学 的 解 析 )
学位論文内容の要旨
魚 類を合 む多 くの 脊椎 動物 の卵 母細 胞は 第一 前期 で減 数分 裂を停 止している。卵 巣内 には卵 黄形 成前 の卵 母細 胞か ら卵 黄形 成を 完了 した もの まで、 さまざまな成長 段階 の卵母 細胞 が存 在す るが 、こ れら は全 て、 受精 能を 持た ない未 成熟卵である。
これ らのう ち、 卵黄 形成 を終 えた 卵母 細胞 のみ が、 ホル モン 刺激に 反応して減数分 裂を 再開し 、第二中期に到達して成熟卵とナょる。この過程は卵成熟と呼ぱれ、脳下 垂 体か ら 分 泌 さ れ る生 殖腺 刺激 ホル モン (GTH)、 濾胞 細胞 から 分泌 され る卵成 熟 誘 起ホ ル モ ン (MIH)、 卵母 細胞 内で 形成 され る卵 成熟 促進 因子 (MPF)が 順次作 用 す る こ と で 誘 起 さ れ る 。MPFはcdc2と サ イ ク リ ンBの 複 合 体 で あ る 。 魚 類 の 未 成 熟 卵 内 で はcdc2は 単 量 体 で 存 在 し、 サ イ ク リ ンB蛋 白 質 は 存 在し な い 。MIH( 魚 類の場合、17a,20f3‑ジヒド口キシ‑4‐プレグネン‑3‐オン、17a,20p‐DP)の刺激に よ り 、 サ イ ク リ ンB mRNAの 翻 訳 が 開 始 さ れ る 。 合 成 さ れ た サイ ク リ ンB蛋 白 質 は 既 存 のcdc2と す ぐ に 結 合 し 、 さら に こ の 複 合 体 はcdk7/サ イク リ ンHの 作 用 で 即 座 に り ン 酸 化 さ れ 、MPFと な る 。 こ の よ う に 形 成 さ れ たMPFの 作 用 でMIH刺 激 を 受け た 未 成 熟 卵 は 卵 核 胞 崩 壊 (GVBD) な ど の形 態変 化を 経て 、受 精可 能な成 熟 卵 とな る 。 し か し 、MIH刺 激 か らMPFの 形 成 に 至る 分子 経路 の詳 細は 不明 である 。 本研 究 で は 、 卵 成熟 にお けるMPFの 形成 機構 の解 明を 目的 に、 ゼブ ラフ イッシ ュ (Dロ ヵめrerio)を 用い て分 子細 胞生物 学的解析を行った。ゼブラフイッシュは一定 飼育 条件下 で一 年中 良質 の卵 を得 るこ とが でき 、生 殖発 生生 物学研 究に有用な実験 材料である。
第1章 ゼ ブ ラ フ イ ッ シ ュ 卵 形 成 過 程 に お け る 卵 成 熟 誘 起 機 構 の 成 立 17a,20f3‑ DP刺激 で卵 成熟 を起 こす のは 卵黄 形成 を終 えた 卵母細胞で、それ以前 の 卵母 細 胞 は成 熟し ない 。っ まり 、MPF形成 機構 は卵 形成 途中 の卵 母細 胞で は完 成 し てい な い と考 えら れる 。第1章で は、 ゼブ ラフ イッ シュ 卵形 成に おけ る卵 成熟 誘 起機 構の成 立過 程の 解明 を目 的に 研究 を行 った 。ま ず、 卵形 成過程におけるcdc2と cdk7の蛋白 質定 量を 行い 、こ れら 蛋白 質の 濃度 は卵 形成 過程 で変化しないことを示 し た。 次 に 、卵 形成 過程 の種 々の 卵母 細胞 にMPF形成 に必 要な 要素 が備 わっ てい る の かを 、 サ イク リンB蛋 白質を 直接 卵母 細胞 に注 射す るこ とで 調べ た。 その 結果 、
卵黄形成以前のものも含むすべての成長段階の卵母細胞で、サイクリンB蛋白質の 注 射 によ りMPFの 形成 とGVBDが起 こ るこ と がわ かった。こ のことは、MPF形成 に必要なサイクリンB蛋白質以外の因子は、卵黄形成以前の卵母細胞からすでに備 わっていることを示す。また、ゼブラフイッシュサイクリンB cDNA断片をクロー ニングし、これをプローブにしたノーザンブロヅテイングの結果から、卵黄形成以 前の卵母細胞でも完全に成長した卵母細胞と同程度のサイクリンB mRNAが存在す る事が判明した。さらに、試験管内で合成したサイクリンB mRNAを未成熟卵に注 射 すると、サ イクリンBの合成 とGVBDが起こったことから、卵母細胞内のサイク リ ンBmRNAは翻 訳抑制状態 にあり、MIH刺激でそ の抑制が解 除されると考えられ た。これらの結果から卵黄形成過程の卵母細胞が17a,20p‑ DPで処理されても卵成 熟 を 起こ さ な いの は 、MIH刺 激 から サ イク リ ンBmRNAの 翻訳開始ヘ 至る過程、
っ ま り17a,20f3‑ DPの受容体や サイクリンBmRNA翻訳開 始機構が不 完全なため と結論された。
第2章 ゼブ ラ フイ ッシュ 卵成熟にお けるサイク リンB mRNA翻訳開始 機構の解析 卵 成熟 の 進 行には17a,20p‑ DPの刺激下で 開始される サイクリンBmRNAの翻 訳が重要であることを第1章で明らかにした。一般的に、翻訳調節にはRNA結合蛋 白質 やmRNAのボ リA鎖伸張が関 与すること が知られて いるが、17a,20p‑ DPに よるサイク リンB mRNAの翻訳 開始機構については全くわかっていない。第2章で は翻訳制御機構についての細胞生物学的情報を得るため、ゼブラフイヅシュサイク リンB mRNAの 卵 母細 胞 内で の 局在 とmRNAの翻 訳 開始との関 わりを調べ た。卵 黄形成を完了した未成熟卵ではサイクリンB mRNAは動物極側の細胞質に局在し、
凝集体を形成していた。一方、MIH刺激を受けて卵成熟を進行中の卵母細胞では、
サイクリンB mRNAの凝集体は、その翻訳直前に分散した。また、卵成熟過程で細 胞質内の微小繊維の分散も認められた。そこで、細胞骨格とサイクリンB mRNAと の関係を調べるため、種々の細胞骨格阻害剤のサイクリンB mRNAへの影響を調べ たところ、サイトカラシンBが顕著な効果を示すことがわかり、サイクリンBmRNA の凝集体形成と細胞内局在に微小繊維の関与が示唆された。高濃度(10 Vg/ml)の サイ ト カラ シ ンBで 処 理す る と、17a,20[3‑ DP処理と同様 にサイクリ ンBmRNA の凝集体は 完全に分散 し、17a,20(3‑ DP刺激なしでGVBDが起こった。低濃度(1 鵬/ml) の サ イト カ ラシ ンBで 処 理す る と、 サ イクリンBmRNAの凝集 体の局在 が乱され、17a,20[3‑ DPで誘起されるGVBDも阻害された。これらのことから、MIH 刺激によるm RNAの存在様式の変化(動物極に局在する凝集体がその位置で分散す ること)が、サイクリンBの翻訳開始に重要であると結諭された。これは、翻訳制 御 にm RNAの 存 在 様 式 そ の も の が 関 わ る こ と を 示 す 初 め て の 報 告 で あ る。
以上、本研究は魚類卵成熟開始機構を分子細胞生物学的に解析したもので、生殖 発生生物学に多大な貢献をなすものと考える。
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 助教授 助教授
山下 高橋 清水 田中
正兼 孝行 隆 実
学位論文題名
Molecular and cellular biological analyses of the formation of maturation‑promoting factor in zebrafish oocytes
( ゼ ブ ラ フ イ ッ シ ュ 卵 母 細 胞 に お け る 卵成熟促進因子形成機構の分子細胞生物学的解析)
多細胞生物の一生は卵の受精から始まる。受精可能となるためには、卵 母細胞は卵巣内で成長し、成熟しなければならない。卵巣内の卵母細胞は 第一前期で減数分裂を停止した未成熟卵である。卵母細胞を取り囲む濾胞 細胞か ら分泌される卵成 熟誘起ホルモン
(MIH)の刺激を受けると、卵母 細胞内 で卵成熟促進因子
(MPF)が形成され、この作用で未成熟卵は減数 分裂を 再開し、卵核胞崩 壊
(GVBD)等の形態変 化を経て、受精可能な成 熟卵となる。この未成熟卵から成熟卵となる過程を卵成熟と呼ぷ。近年、
卵成熟の誘起機構についてさまざまな生物種で盛んに解析が行われている が、そ の最終誘起因子で ある
MPFの形成機 構については未だ 不明の点が 多 い。 本 研究 は魚 類 の卵 成熟 において
MPF形成機構の根幹を なす
MIH刺 激によ るサイクリン
B (MPFの調節サブュニット)の翻訳開始機構の解明 を目的に行われた。