博 士 ( 医 学 ) 橋 田 秀 明
学位論文題名
Fusion of HIV‑1 Tat protein transduction domain to poly‑lysine asanew DNAdelivery tool
(HIV‑1 Tat 夕ンパクのタンパク導入領域とりジン重合体の 融 合 ポ り ベ プ チ ド に よ る 新 し い 遺 伝 子 導 入 法 )
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
目 的
今日 ,癌 の遺伝 子治 療が提唱され,いくっかの臨床試験が試みられている,治療遺伝子 の 有用 な担 い手と して 様々なウイルス由来のべクターが開発されつっあるが,臨床的に投 与 され るウ イルス には 克服されるべき課題が多く残されている,そのーっが抗原性の低い べ クタ ーの 開発で ある ,抗原性を抑えたウイルスベク夕一の開発はこれまでに数多く報告 さ れて いる が,ウ イル ス自体が複数の大きなタンパクで構成されていることが原因で,そ の 調製 は非 常に困 難で あった.そこで,低分子ポリペプチドを用いた新しい遺伝子導入方 法 を構 築す ること を目 的と して ,本 研究 を行 った .
材料と方法
合 成 ポ リ ベ プ チ ド :3種 のpK融 合 ポ り ペ プ チ ド (TATpK,RGD‑pK,GGG‑pK)とpK 配列 をも たな いTATペプ チド はHokkaido System Science社にてsolid phase法を用いて合 成された.
DNA/ベ プ チド 複 合 体 の ア ガ 口 ース ゲル 電気 泳動 :0.5 pLgのDNA (lambda DNA/Hind III digest)とポリペプチドを混合し室温に10分間おいた後,0.5. yg/mlエチジウムブ口マイド を 含 ん だ1% ア ガ 口 ー ス ゲ ル とTBEパ ッ フ ァ ー に て100Vの 電 圧 で30分 間 電 気 泳 動を 行 った.
培養 細胞 株へ の遺 伝子導 入:2x104.̲1x105個の 細胞 株を プレート上で培養し,6時間後,
DNA/ペ プ チ ド 複 合 体 をFCS非 添 加 培 養 液 中 で 加 え た.8時 間 後10%FCS添 加 培 養 液を 加 え,さらに48時間培養後に遺伝子発現を検討した.
ル シ フ ェ ラ ー ゼ ア ッ セ イ と 紫 外 線 顕 微 鏡 に よ るEGFP発 現 の 解 析 : ル シ フ ウ ラ ー ゼ アッセイはLuciferase Assay System (Promega社)を用いて施行され,発光強度はMini Lumat LB 9506 (BERTHOLD社 ) を 用 い て 測 定 さ れ た .EGFP発 現 は 螢 光 顕 微 鏡(Olympus社 ) ‑ 431―
に て 検 討 した . ペプ チ ド によ る 細 胞毒 性 の検 討 :2x 104個 の細 胞 を 様々 な 濃度 の ペ プ チ ド を 含 んだ 培 養液 で72時 間 培 養し た 後,10pLlのWST8( 和光 純 薬 社) を 加 え4時 間 反 応 さ せ た 後 マ イ ク 口 プ レ ー ト リ ー ダ ー を 用 い て 490nmの 吸 光 度 を 計 測 し た . Flow cytometry解 析 :FITCで ラ ベ ル し たDNAフラ グ ヌ ント と 各ポ リ ペ プチ ド を 様々 な 濃 度 で 混 合 し た 後 ,HEK293細 胞 に 暴 露 し た . 暴 露 後 , 細 胞 を2mM EDTA入 り のPBSで 37℃,5分間処理した後,Becton Dickinson FACScan analyzer (Becton Dickinson社)を用い て解析を行った.
結 果
電 気 泳 動 度 の 変 化 に よ る ポ リ ペ プ チ ド とDNAの 結 合 の 検 討 : 全 て の ポ り ペ プ チ ド に お い てI対DNA重 量 比 が1以 上 に な っ た と こ ろ で , 混 合 物Iま 泳 動 さ れ な く な っ た , ポ リ ペ プ チ ド に よ るEGFP, ル シ フ ウ ラ ー ゼ 遺 伝 子 導 入 :TAT‑pK/pcDNA‑EGFPで 処 理 さ れ たHEK293細 胞 にお い て ,約5% の 細胞 でEGFPの 発現 が 認め ら れ た. 一 方 ,GGG− pK,RGD‑pK/pcDNA‑EGFPで 処 理 さ れ た 細 胞 に お い て は ,EGFPの 発 現 は1% 未 満の 細 胞 で の み確 認 され た . ルシ フ ウラ ー ゼ アッセイ では,pKに よる遺伝子 導入がペ プチドの 濃 度 に 依存 し て増 加 し てい た .TAT‑pKにおい ては低濃 度のべプ チドにおい ても高い 遺伝子 導 入 効 率 が 認 め ら れ た ,pK配 列 を も た な いTATによ る 遺 伝子 導 入効 率 は ,pKと比 較 し て 低 値で あ った .
Flow cytometry解 析 :GGG‑pKとRGDーpKに よ るDNAの 細 胞 膜 接 着 は ほ と んど み ら れな か っ たが ,TAI: pKにおい ては60分の 暴露でほ とんどの 細胞への 接着が確認 された.TAT‑
pK/DNA複 合 体 暴 露 後 1時 間 で , 核 に お い て も FITCの 螢 光 が 認 め ら れ た . 細 胞 毒性 の 検討 : 高 濃度 の べプ チ ド に暴露で 細胞毒性 を認めたが ,遺伝子 導入に用 いる 濃 度 での 細 胞毒 性 | ま認 め られ な か った ,
遺 伝 子導 入 の機 序 の 解析 : TpKに よ る 遺伝 子 導入 効 率 は塩 化 アンモ ニウム, ク口口 キ ン の濃 度 に依 存 し て増 幅 され た .
各 種 細 胞 株 に 対 す るTAT‑pKの 遺 伝 子 導 入 :TAT‑pKに よ る 遺 伝 子 導 入 効 率は り ポフ ェ ク シ ョ ン 法 と 比 較 し て , 12種 の 癌 細 胞 株 中 11株 に お い て 良 好 で あ っ た ,
考 察
86ア ミ ノ 酸 か ら な る HIV‑1のTat夕 ン パ ク の 47‑57番 目 の ア ミ ノ 酸 配 列 (YGRKKRRQRRR)を 他の タ ン ノヾ ク と融 合 さ せる と ,そ の タ ンノ ヾ クを細胞内 に能動的 に 移送す ることが可 能とぬる ことが報 告されて いる.一 方,ポリ アルギニンやポリリジンな ど の, 正 に帯 電 し たア ミ ノ酸 重 合 体は , 負に 帯 電 して い るDNAと 結合する ことが知 られ て い る . こ れ ら を 融 合 さ せ た ポ リ ペ ブ チ ドTAT‑pKがDNAと 結 合し , 細 胞内 に 効率 よ く 遺伝子 を導入する ことが確 認され, その機序 はエンド サイトー シスによるものと考えられ た. ―432―
学 位 論 文 審 査 の 要 旨
学位論文題名
Fusion of HIV‑1 Tat protein transduction domain to poly‑lysine asanew DNAdelivery tool
(HIV‑1 Tat 夕ンパクのタンパク導入領域とりジン重合体の 融 合 ポ り ベ プ チ ド に よ る 新 し い 遺 伝 子 導 入 法 )
今 日 、遺 伝 子 治療 に お いて 臨 床的 に 投 与さ れるウイ ルスには 克服され るべき課 題のー っが抗 原性の低 いベクター の開発で ある.抗 原性を抑 えた低分 子ポリベ プチドを用いた新 し い 遺 伝 子 導 入 方 法 を 構 築 す る こ と を 目 的 と し て , 本 研 究 を 行 っ た . HIVの 構 成 蛋 白 質 で あ るTATの47番 目 か ら57番 目 の11ア ミ ノ 酸 (YGRKKRRQRRR) は細胞膜を通過することが知られ、protein transduction domainC以下、TAT‑ PTD)と呼ばれて いる。 アミノ酸 のうちpositive chargeを有 するLysineがDNAと 結合する ため、TAT一PTDと Lysineのポリ マーであ るpolyLysine(以下、pK)との融合蛋白質、TAT‑ pKが、新しい遺伝子 導入法として有用であるかについて検討した。
使 用 した 合 成 ポリ ペ プ チド は4種 類で 、TAT‑pKの ほ か、 コ ン ト口 ー ルと して 、アデノ ウ ィ ル ス 由 来 のRGD配 列 とpKと の 合 成 ポ り ペ プ チ ド に つ い て も あ わ せ て 検 討 し た 。 各 種 ポり ペ プ チド とDNAを混 合 し電 気 泳 動を 行 った と こ ろ、 い づれ の ポ リペプチ ドに お いて も 、ポ リ ペプチ ドの比が 増加する にしたがっ て、電気 泳動の度 合いが低 下し、DNA と の 電 気 的 結 合 が 確 認 され た 。 各種 の ポり ペ プ チド とpcDNA‑EGFPと を 混合 し 、HEK293 細 胞 に 曝 露 し た あ とEGFPの 発現 を 螢光 顕 微 鏡に て 観 察し た とこ ろ 、pK単 独お よ びRGD‑
pKで は1% 程 度 の 発 現 で あ っ た の に 対 し 、TAT‑pKで は5% 程 度 の 細 胞 でEGFPの 発 現が 観 察さ れ た。 ま た 、ル シ フウ ラ ー ゼア ッ セ イでは、 低濃度のTAT‑pKにおいて も高い遺 伝 子 導入 効 率が 認 められ た。FITCにて 標識したDNAフラグメン トとポリ ペプチド を用いて 、 ポ リ ベ プ チ ド/DNA複 合 体 の 細 胞 膜 へ の 接 着 をFACScanにて 検 討し た 結 果pK単独 お よ び RGD‑pKに よ るDNAの 細 胞膜 へ の接 着 は ほと ん どみら れなかった のに対し 、T、AT−pKで は 曝 露後60分 で ほ とん ど の 細胞 へ の接 着 が 確認 された。W`T・p剛DNA複 合体が細 胞膜を通
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寛 俊
之
雅 弘
紘
村 田
藤
今 秋
加
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
過する機序として、従来TAT‑ PTDは細胞膜を直接貫通し細胞内にとりこまれると報告さ れているのに対し、今回の検討では、エンドサイ卜一シスによる機序も関与していると推 測された。またTAT‑pKによる細胞毒性は遺伝子導入に用いる濃度での細胞毒性は認めら れなかった。またク口口キンとの併用により,12種類の癌細胞株のうち11株でりポフェ クタミンに比べより良好な導入効率が得られた。以上よりTA.pKは新しい非ウィルスベ ク夕一として有用である可能性が示唆された。
口頭発表において、秋田教授より、他の種類の細胞株(浮遊系細胞など)での検討の有 無、今回の研究からえられた至適条件、inviv0での検討の有無・可能性などについて質問 があった。ついで加藤教授から、ウィルスベクターとの導入効率の比較、細胞間での遺伝 子導入効率の差、遺伝子導入のTargetingについて、実験の最もユ二一クな点についての 質問があった。最後に、今村教授から、細胞毒性の機序、細胞膜を通過する機序、幹細胞 を使った遺伝子導入の可能性について質問があったが申請者はおおむね妥当な回答をした.
新しい非ウィルスベクター、Wmpolyりsineは遺伝子導入効率、遺伝子導入の機序、細 胞毒性について検討し、.新しい非ウィルスベクターとして有用である可能性を示唆した本 研究の意義は大きく、審査員一同協議の結果、本論文は博士(医学)の学位授与に値する ものと判定した.